【改訂版】異世界で淫魔師ハレム【コミカライズ作品】 作:ドン・ドナシアン
221 二人の刺客
血の匂いがした。
水辺に近い街道沿いであり、湿った草と土の匂いの上に、生温い鉄の臭気が重なっている。
視界に入ったのは、倒れた人影だった。
数が多い。
道沿いに、ばらばらに転がっている。
近づく前から、異様さは明らかだった。
斬られている。
だが、急所を断つための刃ではない。
脚だけを切断された死体がある。
腕を落とされ、出血したまま放置された痕も見える。
致命傷を与えられず、苦しんだ末に死んだのだと、一目でわかる。
「クライドめ……」
低く呟いた瞬間、怒りが一気に込み上げた。
任務外の殺しで、しかも、抑えもなく、なによりも、殺人を愉しむようなやり方──あいつの仕業に決まっている。
血の匂いと馬車の轍が、山街道から逸れた水辺の方向に続いていた。
それを追って、奥に入っていく。
二台の馬車はすぐに見つかった。
荷台に積まれた箱や袋は開けられている。
だが、持ち去られた様子はない。
中身を確かめただけで、金や商品は取り出してはなさそうだ。
王都ハロルドへ向かう途中の旅の行商人というところか。馬車が二台も揃えられるのだから、それなりに繁盛もしていたのかもしれない。
そして、ここで襲われてしまったのか……。
馬車の横には、ふたりの女を含めた、さらに六人の死体があった。
殺し方が残虐なのは道ばたの死体と同じだったが、女については、肩を貫かれたまま地面に縫い止められていた。
女ふたりは武装をしているが、わざわざ武装を剥がして、下半身を露出させており、局部に剣を突き刺した痕があった。
殺すために必要な行為ではない。
串刺しに使っているのはクライドの剣ではないので、おそらく、女から剣を奪い、その剣で肩を地面に串刺しにして動けなくする。
そのうえで、わざわざ、股間を剣で抉ったのだ。
クライドは、童女性愛サディストだ。
ボニーもクライドも、アスカに召喚された外界人であるが、クライドは召喚前には、連続童女強姦の罪により終身刑を受けて服役中だったはずである。
女を性的に虐待する玩具のようにしか考えないのは、いかにもクライドらしい。
ボニーの怒りはさらに増幅していく。
戦いではない。
見せつけるための殺しだ。
愉しみを伴った残虐。
胸の奥に、嫌な確信が生まれる。
周りの死体の服装に目を向ける。
革鎧と盾を持つ者が四人。女ふたりを含めて、護衛の冒険者に違いない。
残りは、武装らしい武装をしていない。商人の手代だろう。
護衛がいても、意味を成していない。
力でねじ伏せ、順番に壊していった痕跡が残っている。
ボニーは、歯を食いしばった。
ここは、クライドに「待て」と命じた場所なのだ。
これほどの手口──。
この歪み──。
クライド以外に、考えられない。
そのときだった。
水辺に近い、樹木の影の奥から、微かな音がした。
呻き声だ。
風に紛れそうなほど小さいが、確かに聞こえた。
まだ、誰か生きている。
そう判断した瞬間、ボニーは足を踏み出していた。
枝を払い、草を掻き分け、音のした方向へ急ぐ。
遅れれば、またひとつ、無駄な死が増える。
その予感だけが、頭を支配していた。
ボニーは、血の匂いの濃くなる方向を辿って茂みを割って進んでいく。
そして、歩きながら、首に嵌められている首環に触れた。
これさえなければ、と考えずにはいられなかった。
任務は、実行しなければならないものだった。
そう考える以前に、首元に嵌められた隷属の首環が、それを前提として刻み込んでいる。
命令に逆らうという発想すら浮かばない。
ボニーとクライドは、アスカから派遣された刺客だ。
その命令は、アスカ城の少年侍従パリスを通じて伝えられた。
ハロンドール王国の王都ハロルドで、冒険者として活動しているロウとエリカを殺害せよ──と。
ふたりは裏切り者だと説明された。
首環がある以上、任務を遂行することに迷いはない。
それでも、殺す必要のない者まで殺したくはない。
任務と無関係な人間を巻き込み、苦しめることは求められていないのだ。
そして、クライドには、もうひとつの命令が隷属の首環を通じて、与えられていた。
実行役は任せるが、判断はボニーに従え、というものだ。
クライドは、もともと乱暴で粗雑な男だった。
そのため、制御役として自分が組まされたのだと理解していた。
王都が近づいたため、ボニーは近くの里へ向かった。
食料の補給と情報収集を行う必要があったからだ。
そのあいだ、クライドにはこの場所で待つよう、命令として、しっかりと伝えたと思った。
首環があるかぎり、命令は通るものだと信じていた。
だから、疑うことはなかった。
それにもかかわらず、命令は破られた。
なぜ従わなかったのか、その理由はわからない。
首環の効力が弱まっているのだろうか……。
あるいは、自分の命令の出し方が甘かったのかもしれない。
なにしろ、召喚される前、自分はただの主婦だったのだ。
夫がいて、幼い娘がいて、人を使って殺しを伴う仕事をする人生ではなかった。
だから、命令の仕方を間違った可能性もある。
ボニーは唇を噛んだ。
「ひっ」
出くわしたのは、さらに残虐に殺されている男の死骸だ。
全裸にされていて、四肢はすべて切断されていた。
探せば手足も見つかるかもしれないが、目の前には頭と胴体だけがある。
なによりも、惨たらしいのは、男の顔だ。
両眼には細い枝が突き立てられている。
鼻と口には土が詰め込まれ、喉の奥まで押し込まれた痕があった。
そして、口元には、異物が突き出ている。切断された男根だ。
土に押し込まれたそれが、口を塞ぐ形で固定されている。
しかも、即死ではない。
呼吸を奪われ、もがき、苦しんだ末に死んだのは明らかだった。
ボニーは、歯を食いしばった。
意味も目的もない。ただ玩弄しただけだ。
そのときだった。
先ほどよりも、はっきりした音が聞こえた。
呻き声──。
今度は、確実に生きている人のものだ。しかも、女──。
ボニーは顔を上げ、音のした方向に向かって、迷わず走り出す。
ボニーは足を速めた。
呻き声が、はっきりと聞き取れる距離になっている。
それに、別の音が混じった。
低く、濁った笑い声だ。
茂みを押し分けると、視界が開けた。
水辺に近い、草の薄い場所だった。
クライドがいた。
笑いながら、小柄な童女を組み伏せている。
乳房はまだなく、身体の大きさと顔立ちから、十歳くらいに見える。
だから、選ばれたのだろう。
クライドの嗜好に合致している。
童女は仰向けに押さえつけられていた。彼女が身につけていたらしい衣服は、周りにびりびりに破かれて散乱していた。
童女の眼は虚ろで、焦点が合っていない。
生気が抜け落ち、抵抗の意思も見えなかった。
童女の股間から、かなりの血が流れているのが見えた。
クライドの腰と水辺の土に染みが広がっている。
あれは。破瓜の血だけはないだろう。小さな陰部にクライドの大きな性器を無理矢理に押しこんだためか、性器が少し裂けたのだと思う。
ボニーの内側で、なにかが切れた。
「クライド、なにをしているの。やめなさい。これは命令よ──」
声を張り上げた。
喉が焼けるようだった。
「おう、ボニーか。食料調達、ご苦労さん。だけど、必要なかったな。通りがかった馬車があったから、襲っておいたぜ」
クライドは一瞬だけこちらを見た。
それだけだった。
すぐに視線を戻し、童女に向き直る。
態勢を整え、彼女を犯す態勢に戻った。
ボニーの怒りが、さらに膨れ上がったのは、その横にある光景のせいだった。
もうひとり、若い女がいたのだ。こっちは成人女性だ。
腹を裂かれ、血に濡れたまま横たわっている。
即死ではない。
まだ、生きていた。
顔立ちが似ている。
おそらく、童女の母親だろうと直感した。
女は必死に手を伸ばしている。
呻き声をあげながら、這うように近づこうとしていた。
さっきから聞こえていた呻き声は、娘を守ろうとしている女の必死に哀願の声だったのだ。
「クライド、やめるのよ。命令よ──」
ボニーは、もう一度叫んだ。
今度は、反応がない。
クライドは、完全に無視している。
ボニーは歯を喰いしばった。
怒りと焦燥で、視界が狭くなる。
髪を留めていた装身具に手を伸ばすと、固定を外して指に握り込んだ。
母親だと思う女に近づきながら、ボニーは、髪留めの芯を握り直した。
装身具として使っているが、この芯の部分には猛毒が仕込んであり、それが自分の唯一の武器だった。
母親だと思う女の横にしゃがむ。
女は腹を裂かれ、血を流し尽くしかけている。
呼吸は浅く、視線も定まっていない。
助からない。
一目で、そう判断できた。
ボニーは、もともとは、ただの主婦だ。
クライドのような身体の大きな男とは違い、武器を振るう力もなく、人を制圧する術も持たない。
しかし、召喚されてから、何度も人を殺すことを覚えさせられた。
逃げることは許されず、隷属の首環を使った命令により、拒むこともできなかった。
その手段として選ばされたのが、この毒だった。
女の目が、かすかにこちらを向く。
なにも言葉は交わさない。
そのとき、ボニーは、ふと召喚されたときに残してきた娘のことを思い出した。
召喚されたのはかなり前だけど、もうかなり大きくなっているはずだ。
クライドに犯されている少女ほどにはなってないだろうが、成長しているはずの自分の娘の記憶が。その少女に重なった。
「……ごめん……。娘さんは、なんとか、助けるから……」
芯の針を首元に突き刺した。
内側に仕込まれた魔道の毒が、体内に流れ込む。
女の身体が、わずかに震えた。
それで終わりだ。
女が、これ以上、苦しむことはなくなった。
ボニーは立ち上がった。
少女を組み伏せたまま律動を続けるクライドの背後に回る。
髪留めの芯を、しっかりと握った。
さきほど、母親を看取ったばかりの針だ。
ボニーは、その先端をクライドの首筋に突きつけた。
ようやく、動きが止まった。
クライドの腰が、ぴたりと静止する。
「すぐに、離れなさい。これは絶対の命令よ。従いなさい。さもないと──」
ボニーは、針の先をほんのわずかだけ押し込んだ。
皮膚が切れ、血がにじむ。
まだ、深くは入れていない。
毒液は流れていない。
だが、このまま力を入れれば、自動的に致死量の毒液が流れ込んで即死する。
「……もう少しで、射精できそうなんだよ。せめて最後までさせろよ」
ボニーは歯を噛みしめた。
「命令を理解できないの? まだ毒液は残っているわ。あんたを十回殺すくらいにはね」
「へっ、俺を殺して、どうすんだよ。ロウって男を殺さねえと、任務が終わらなくて、お前も死ぬんだぜ。お互いに、そんな糞てえな呪術をかけられたじゃねえか」
ボニーは、声を落とさずに続けた。
「ロウを殺す命令は与えられているわ。でも、あんたを殺すなという命令はない。いつでも殺せるのよ……。抵抗することを禁止する。すぐに、娘から離れなさい」
「面倒だなあ。お互い、こんな糞みてえな世界に召喚された被害者同士だろ。仲良くしようぜ」
「離れなさいと、命令しているのよ」
ボニーの声が、鋭くなる。
それでも、クライドは動かない。
背中に、冷たいものが流れた。
やっぱり、命令が通じていない?
「召喚されたときに受け継いだ異能、お前は魅了だったよな」
クライドの声が、低くなる。
「……そうよ」
ボニーは、短く答えた。
召喚されたとき、異界の壁を越える代償として、外界人と呼ばれる者たちは異能を授かるそうだ。
それが、この世界の召喚術の仕組みだと、後から教えられた。
ボニーが与えられたのは、「魅了」だった。
身体を操る力ではない。
意識を直接ねじ伏せる術でもない。
相手の欲求や判断を、わずかに傾ける。
敵意を和らげ、疑念を鈍らせ、選択肢の重みを変える。
その結果として、相手が「そうしたい」と思う方向へ導く力だ。
命令を刻み込む支配ではない。
逆らう余地は残る。
意思の強い相手には、効かないこともある。
だが、その分、魔道の痕跡は薄い。
操心や強制の術のように、後から見破られることはほとんどない。
だからこそ、工作や暗殺の補助として使えと教え込まれた。
ボニー自身の意思とは関係なく。
「それで、俺の二つ名を知っているか」
ボニーは、一瞬、息を詰めた。
「……不死身のクライド……」
クライドの異能について、ボニーが教えられていたことはひとつだけだった。
あらゆる攻撃が効かず、死なない。
だが、そんな話を、ボニーは本気では信じていなかった。
どれほど異界の壁を越える代償が大きくとも、死なない人間など存在しない。
それは、理屈ではなく、感覚として受け入れられなかった。
致命傷を負っても動き続ける。
殺し切ることができない。
その程度の誇張だろうと、考えていた。
でも、この距離なら殺せる。
「そうだ。なにをされても死なねえ。それが俺の異能だ」
次の瞬間だった。
クライドの首が、思い切り後ろに反れたのだ。
芯の針が、首筋に深く突き刺さった。
「きゃあああ」
同時に、顔面に強い衝撃が走る。
突き飛ばされたボニーの身体が宙を舞い、地面に叩きつけられた。
尻もちをつき、息が詰まる。
鼻を押さえる。
クライドの後頭部が当たった感触が、まだ顔に残っている。
足音が近づいたのが、わかった。
地面を踏む重さが、すぐそばまで来ている。
ボニーは、慌てて顔を上げた。
「痒いぜ」
クライドが首の後ろに突き刺さったままだった髪飾りの芯を引き抜く。
それを、足元に放り捨てた。
「……どう……して……?」
声がうまく出なかった。
芯は深く刺さっていた。
毒はすでに流れ込んでいるはずだ。
それなのに、クライドは平然としている。
「本当に……不死身なの……?」
言葉にならない感情が、喉につかえたまま、落ちていく。
「んごおおっ」
次の瞬間、腹に強烈な衝撃が走った。
息が一気に抜け、身体が宙に浮く。
背後の樹木に叩きつけられ、肺から空気が漏れた。
胃の奥が反転し、酸っぱい液体が喉まで込み上げる。
腹を蹴られたのだと、遅れて理解する。
「まったく、理解力のねえ女だなあ」
クライドが、頭を掻きながら、さらに近づいてくる。ついさっきまで、娘を犯していたので下半身は露出したままだ。
その姿に頭の中が白くなった。
「いや……来ないで……」
声が裏返る。
「止まれ……止まれ──命令よ……」
必死に叫ぶが、やっぱり「命令」が届かない。
すると、クライドは、地面に転がっていた剣を拾い上げた。
次の瞬間、髪を強く掴まれ、頭を無理やり引き上げられる。
「いやああ」
悲鳴が、完全に女の声になる。
刃が走った。
髪留めを外して解けていた長い髪が、途中から断ち切られる。
切り落とされた髪がばさりと地面に落ちた。
「ははは。これで、髪留めをする髪もなくなったな」
またもや、容赦なく腹を蹴られて、ボニーは再び地面に倒れ込む。
視界の端で、クライドが背を向けたのが見えた。
下半身を露出したまま、元の場所へ戻っていく。
──やめて。
声にならない叫びが、胸の奥で弾ける。
童女は、全裸のまま、まだ虚ろな表情で横たわっている。
なにをされるのか、理解する力すら残っていないように見えた。
「待って……」
ボニーは、必死に声を振り絞る。
「ああ? まだ、懲りねえのか?」
「こっちを向いて……向きなさい、クライド……」
振り返った、その瞬間。
ボニーは、残っているすべてを叩きつけた。
魅了──。
理屈も制御もない必死な放出だ。
「……そ、そんな娘に、手を出すのはやめなさい……」
声が震える。
「あんたは、その娘に興味がなくなる……。すべての興味が、消失する……」
言葉を重ねながら、術を注ぎ込み続ける。
限界など、とっくに超えていた。
クライドが、首を傾げた。
そして──にやりと笑った。
「効かねえぜ。そんな術……。好きなだけかけな」
クライドが、せせら笑った。
水辺に童女を倒したまま、男はゆっくりとこちらへ戻ってくる。足取りは軽く、愉しげだった。
ボニーは、跪いた姿勢のまま顔を上げる。
視界の端に、童女が横たわっているのが見えた。虚ろなまま、動かない。
「ひっ」
そのとき、振りかぶられた平手が、視界いっぱいに広がる。
「み、魅了──」
必死に叫んだ。
念じるよりも、言葉にしたほうが術は強くなる。そう教え込まれていた。
次の瞬間、頬が焼けた。
炎を浴びたと錯覚するほどの衝撃が走り、頭が横に弾かれる。
「俺のことは、これからクライド様と呼べ。主従ごっこは終わりだ。これからは俺がご主人様だ」
「な、なにを言って……。あ、あたしたちは……アスカ様のご命令で……」
胸ぐらを掴まれ、無理やり引き上げられる。
「クライド様だ」
乾いた音が響いた。
続けざまに、さらに一発。
三度目で、口の中が切れた。
鉄の味が広がり、血が地面に落ちる。
四度目が来ると悟り、ボニーは叫んだ。
「ク……クライド様」
その声に、ようやく手が止まった。
掴まれていた胸ぐらが放され、身体が前に崩れる。
「いい心がけだ。用が済んだら、飯を食う。準備しておけ。逆らえば、殺すぞ」
睨まれ、言葉が喉に詰まる。
「……ど、どうして……?」
地面に伏したまま、ボニーは顔を上げた。
隷属の首輪が、きしりと重く感じられる。
命令も、魅了も、通じない。
水辺には、裸の童女が倒れたまま残されている。
その存在が視界に入るたび、胸の奥が締めつけられた。
「ほごおおっ」
喉の奥から、意味にならない音が漏れた。
腹を蹴られ、ボニーはその場に蹲った。
息が詰まり、視界が揺れる。
間を置かず、横腹を蹴られた。
身体が横倒しになり、地面を転がる。
「仕方ねえなあ。ちゃんと言って聞かせねえと、わけがわかんねえのか」
金属音が鳴り、顔の前に環が放り捨てられた。
隷属の首輪だ。
朦朧としたまま顔を上げる。
その瞬間、気づいた。
クライドの首には――首環がない。
「な、なんで、外れるの……?」
「んぶうっ」
平手が飛んだ。
「奴隷ごっこは終わりなんだよ。俺は不死身のクライドだぜ。効かねえのは剣や毒だけじゃあねえ。お前の術も、アスカの隷属も、まとめて効かねえんだ」
言葉が頭に入らない。
首環が外れるなど、想像もしていなかった。
「……ど、どうして……?」
「最初から効いてねえよ。面倒だから効いてる振りをしてただけだ。従ってりゃ飯も食えるし、好き勝手もできたからな」
クライドが高笑いする。
「は……外れるの……? なんで……。だ、だったら……外して……。いえ……あたしも外してくださいっ」
必死に声を絞る。
首環がなければ、逃げられる。
命令も、殺しも……。
「なんで、お前の面倒を見なきゃならん」
冷えた声が落ちた。
「お、お願いします──なんでもします──」
必死で頭をさげる。
「まあ、だが……ロウという外来人とエリカっていうエルフ女を殺さねえと、お前は死ぬんだよな。ちゃんと殺してやるよ。その代わり、荷物持ちと飯炊き係をしろ」
クライドが、背後の方へ向き直る気配がする。
「待って……。彼女に手を出すのはやめて……。あたしが相手をする……。いえ、相手をします、クライド様……」
「ほう。お前がか? 同じ召喚奴隷でも、お前は上級扱い。俺は素行が悪いって下級扱いだ。そのお前が、俺の相手をするってのか」
「します……。だから……あの娘は許してあげて……。いえ、許してあげてください……」
「わかった。じゃあ、その場で服を脱いで裸になれ」
ボニーは、震える指で服に触れた。
躊躇は一瞬だけだった。
上着を脱ぎ、地面に置く。
次に下衣。
最後に、下着を外す。
冷えた外気が、むき出しになった肌を撫でた。
ボニーは、その場に座り込み、両腕で胸と腹を抱えるようにして身体を隠す。
「……脱ぎました」
声はかすれていた。
「ああ、そうだな……」
次の瞬間だった。
水音がした。
じょろじょろと、はっきりした音だ。
ボニーは顔を上げる。
クライドが大笑いしながら、地面に置かれた服に向かって放尿をしていた。
「な、なにするのよ──」
驚いて、怒鳴り返した。
「やかましい──」
頭に衝撃が来た。
身体が後ろへ弾かれる。
背後の樹木に、後頭部を強く打ちつけた。
視界が歪む。
倒れたままの顔に、クライドの放尿が降りかかる。
熱と臭気だけが、はっきりと残った。
「抱いてほしければ、十歳は若返りな。ああ、あと、毛があるのも興醒めするんだ。それもなくせ」
遠くで、クライドの嘲笑が聞こえる。
「お前は荷物持ちと飯炊きだ。それ以上でも、それ以下でもねえ」
もう一度、蹴られた。
頭に鈍い衝撃が走る。血が流れ出したのがわかった。
意識が、今度こそ遠ざかっていく。
視界の端で、血が地面に滲んでいるのが見えた。
失神する直前、最後に映ったのは──笑いながら、再び童女に跨り、腰を動かすクライドの姿だった。
そこで、闇が落ちた。