【改訂版】異世界で淫魔師ハレム【コミカライズ作品】 作:ドン・ドナシアン
ミランダは、執務机の上に積まれた帳簿から視線を上げた。
いつもの執務中である。
冒険者時代と異なり、ギルドの責任者としての日常は地味なものだ。冒険者たちの報告書に目を通し、数字を確かめ、署名を入れるということの繰り返しである。だが、ギルドを回すには欠かせない仕事だ。
斧を振るっていた頃とは違うが、これもまた戦いの一部だと理解している。
しかし、冒険者ギルドのロビー側から物々しそうな気配が寄ったのだ。
随分と声が大きい。
また、揉め事だろうかと、舌打ちしながらペンを置く。
冒険者には、酒場の延長のような気分でギルドを利用する者も多い。言い争いの一つや二つ、珍しくもない。
だが、次の瞬間、喧噪が弾けた──。
怒号が一気に膨れ上がり、そこに悲鳴が重なる。
耳が意味を理解するより先に身体が反応した。
複数だ。しかも、質が違う。
そして、断末魔のような叫び──。
ミランダは立ち上がっていた。壁際の武具掛けから大斧を一本取り、肩に担ぐ。
さらに悲鳴が寄る。
廊下を踏み鳴らし、ロビーへ飛び出した。
視界に入ったのは、円の中心に立つひとりの大柄の人間族の男と、それを武器を抜いて囲む十数名の冒険者たちだった。
床には、動かない身体が二つ転がっている。
すでに死んでいると、血の量と倒れ方で判断がつく。
だが、熟練だ。
それでも、殺されている。
胸の奥が冷えた。
「お前、なにをしているのよ──」
ロビーに入る扉を出たところでミランダは叫ぶ。
しかし、喧噪で打ち消される。
「痒いぜ。さっき魔道を放ちやがったのは、その女だな?」
男の声は軽い。場違いなほどに──。
その正面で、受付嬢をしているマリーが後ずさっていた。普段は柔らかな笑みを浮かべているが、彼女は高位の魔道遣いだ。
本来なら並の相手に怯む必要はない。それでも、いまは顔を強張らせ、距離を取ろうとしていた。
ミランダは飛び出したが、間に合わない。
「マリー」
ミランダの声が走る。
男の剣が振り上がっていて、無造作に振り落とされる。
しかし、剣が当たる直前に、椅子が一脚、床を滑るように男の足元へ飛び込んだ。
ランだ。
男の足元に椅子を投げ滑らせたのだ。
「おおっと」
男の足が一瞬止まり、体勢がわずかに崩れる。
その逡巡で、マリーが間一髪で後ろに跳ぶのが間に合う──。たったいままでマリーがいたところに、遅れて男の剣が突き刺さっていた。
「邪魔すんじゃねえぜ──」
男が剣を向ける相手をランに変えた。
ランの顔が青褪めている。
「やめなさい──ここをどこだと思ってんのよ──」
その隙を逃さず、ミランダは前に出た。
知らない男だ──。
王都ギルドに、登録している冒険者ではない。
もっとも、余所者がやって来るのは、珍しいことじゃないから、他からやって来た者である可能性は捨てきれない。
ただ、斬られていた男ふたりの実力を考えると、相当の腕だろう。
誰だ──。必死に頭を巡らしながら、ランと男のあいだに割り込み。ランに振り下ろされる剣に、大斧を叩きつけた。
「なんだあ?」
男が驚く表情になった。
どこか余裕を持った顔──。
金属が噛み合い、火花が散る。
重い衝撃をし返しながら、至近で男の顔を見る。
笑っている。
軽く、楽しげだ。
「なんだ、子どもか? ちょっと股を見せてみな」
男が嬉しそうにミランダに手を伸ばした。
しかも、なにを考えているのか、ミランダのスカートに向かって──。
「ふざけるな──」
ミランダがその腕を大斧で一閃して肘から切断する。
しかし、一瞬だけ、男の姿が震えたかと思うと、視界から消える。
眼を見張ったときには、男にスカートの裾を掴まれていた。
背筋を、冷たいものが走った。
「くっ」
蹴り飛ばす──。
男が弾き跳ぶが、同時にスカートが引き破られていた。
「へえ、紐パンか? ガキのくせに、色っぽい下着をはいてやがるなあ?」
男はミランダの前半分のスカートを持ったまま破りとっていた。
一瞬だけ、自分の股間を見る。
ロウから、ほかの下着は禁止だと言われた、腰の横で結んで留める形式の小さな下着が露わになっていた。
「いいねえ。この冒険者ギルドというところじゃあ、子どもが大きな斧を振り回すのかよ」
男がげらげらと笑いながら、ミランダから奪ったスカートの布を捨てる。
「あたしは大人よ──。しかも、あんたよりも多分、年上のね──」
周りの冒険者たちの位置を確認しながら、男に向かって走る。
跳んだ──。
大斧で身体を切断した──。
そう思った瞬間、男の腕に後ろから服の襟を掴まれていた。
「うわっ」
身体を捩って、大斧を振り回しながら男を避ける。
布が引き裂かれる音がして、背中で上衣が完全に上から下まで破られていた。
速い──だけでなく、力も強い──。
ミランダは、生まれてはじめて、自分が戦闘でかなわないかもれないと思ってしまった。
斬ったと思ったのに、余裕を持って避けられている。
どうして、ミランダの攻撃が当たらないのか想像もつかない。
とにかく、破られた服が邪魔だ。
上衣を脱ごうとする。
しかし、そこに男が飛び掛かってきた。
脱衣をやめて、横に跳躍する。
「ミランダ──」
周りを取り巻いていた冒険者のひとりが、あいだに割り込む。
「遊んでんだよ──。邪魔すんじゃねえ──」
男の突進の速度が一瞬で変化して、男の身体がまたぶれた。
ミランダの眼が追いついたのは、男の剣がその冒険者の首に剣を払い終わったときだった。
首と胴体が分かれて、血が噴水のように巻かれながら床に転がる。
「ほら、ちょっと裸見せな──。乳房がでけえから、子どもじゃなさそうだが、それだけ、子どもに見えるなら問題ねえ──」
男が剣で斬りかかる。
また、途中で姿がぶれる。
斧を振るがすでに目の前──。
後ろに転がる。
血が飛んだ──。
腕にかすったのだ。
もともと、ミランダの得意は二本斧──。両方持ってくればよかったと思う。
「逃げんなよ──。股に毛があるのか、どうか知りてえだけだよ」
男が笑いながら、追いかけてくる。
身構える。
しかし、また男の姿が揺れる。
「くっ」
殺気を感じた場所に大斧を出す。
金属音がして、そこに男の剣がぶつかる。
眼を大きく見開いた男の姿が続いて現れた。
「おう、なかなかやるじゃねえかよ、ガキ」
男が意外なものを見たかのように声をあげて笑う。
ミランダはまた跳躍して距離をとった。
今度は追いかけてこない。
すでに、ミランダは息があがっていた。
ロビーにいるのは、十数名の冒険者たち──。マリーとランなどの従業員も混じっている。全員が遠巻きにして呆気にとられている。
だが、その隅で見たことのない童女が耳を押さえて、うずくまっているのが視界に映った。小柄な身体には不似合いな大きな荷を背負っている。
それに、身につけているのは、破った毛布のようだ。それを縄で縛って身体に巻いている。
ミランダは、男に意識を戻す。
「……お前は誰よ──? なんのために暴れているのよ──?」
用心深く大斧を構えながら男を見た。
やはり、記憶にはない。
これだけの腕だ。
一度でも会っていれば、忘れるわけがない。
「俺か? 俺は不死身のクライドだ……。ああ、忘れていたぜ。ロウとエリカに会いに来たんだった。居場所を教えるか、ここに呼び出しな」
「ロウとエリカ? あいつらに、なんの用よ?」
びっくりして叫ぶ。
「大した用事じゃねえよ。殺しとけって言われたから、殺しにきただけよ」
男──不死身のクライドが飛び出す。
おそらく、剣でかなわない──。
防御に専念すると決め、肌に悪意を感じた方向にただ大斧を出す。
剣を斧で弾けさせた。
身体を跳ね飛ばされた勢いで利用して、外に通じる扉から外に出る。
「クライドよ──。調べなさい──」
ギルドの外の広場に逃げながら叫ぶ。
視界に、ランが奥に走っていくのを確認する。
ギルドの外へ出る。
建物の中から漏れ出た騒ぎを嗅ぎつけ、すでに、野次馬が集まっているのがわかった。なにが起きているのか確かめようと足を止めている者、ただの好奇心で寄ってきた者などだ。
そこに、半裸のミランダが飛び出し、その背後から血に濡れた剣を提げたクライドが追いかけてきたことで、群衆が凍りつく。
悲鳴が爆発して、広場の外側方向に人の波が膨らんだ。
ミランダは、人の消えた広場の中心で足を止める。
クライドの剣が来る。
正面から──。
斧で払う。
男の姿がぶれる。
横から剣。これも弾く。
ぶれる。
背中か──?
振り向きざまに斧を振る。
喉を切った感触があった。
だが、手応えがない。
横に跳ぶ。
直後、布が裂ける音がした。
上衣が破け、胸当てが露出する。
すでに、破れた服の残骸が身体にまとわりついているだけになっていた。ほとんど下着姿だ。
こっちは、すでに息が切れるほどに真剣だが、向こうは服を少しずつ破り、ミランダをなぶることで、その反応を楽しんでいる。
その余裕に気づく。
「ミランダ、伏せて──」
マリーの叫び声が飛んだ。
視線の端で、複数の位置に冒険者の魔道遣いが散開しているのがわかる。
マリーも含め、魔道杖を構え、増強陣を展開している。発射態勢が整っていた。
ミランダは即座に身を伏せた。
直後、クライドに向けて四つ、いや五つの魔道が一斉に放たれる。
交差した魔道が誘発し、爆発するような轟音と衝撃が広場を揺らした。砂埃が巻き上がり、視界が白く塗りつぶされる。
ミランダは顔を上げ、煙の向こうを見た。
クライドの姿が、消えている。
やったか──?
そう思った、その瞬間。
周囲を取り巻いていた位置から、悲鳴が上がった。
「追いかけっこは飽きたぜ。じっとしてねえと、無関係の人間が死ぬぜ」
クライドが笑いながら、野次馬の中に出現して、剣を振るっている。
一閃ごとに、人間の首や腕が飛ぶ。
人々が我先にと散り、通路が開ける。転び、押し倒され、泣き叫びながら逃げ惑う。
「クライド、あたしはこっちよ──」
まとわりついていた布を脱ぎ払って、下着姿のまま叫ぶ。
だが、クライドは来ない。
野次馬を笑いながら追いかけている。
人がどんどんと死んでいく。
舌打ちをして、ミランダはクライドに駆けた。
一方で、ギルドから出てきていた冒険者たちも、雄叫びとともに、冒険者たちが飛び出している。
剣、槍、斧──。
装備も得意もばらばらだが、数はある。十人近い。
ギルドで修羅場をくぐってきた者たちだ。誰も逃げ腰ではない。
左右から挟む。
正面は盾役。
後方から戦闘支援の魔道の詠唱。
ほんの一瞬、陣形らしきものができた。
ミランダも追いつき、その陣形の後ろに立つ。
「行け──」
誰かが叫ぶ。
最初に踏み込んだ冒険者が、剣を振るった。
次の瞬間、その身体が止まる。
首がなかった。
剣を振り切った体勢のまま、胴体だけが前へ倒れる。
遅れて首が転がった。
血が噴き出した。周囲が一瞬、凍りついた。
クライドの姿が現れる。
盾役の男の横だ。
盾ごと、肩から胴まで斜めに裂けた。
悲鳴を上げる暇もなく、男が崩れ落ちる。
「下がりなさい──」
ミランダは叫んだ。
だが、もう遅い。
背後に回り込んだ気配を悟ったのか、女の魔道遣いが振り向く。
クライドの剣が振り返った口を横に払い、女魔道遣いの顔が横一閃に切断された。
「みんな、下がれ──」
ミランダは叫んで前に出る。
すでに、槍使いが突きをクライドに出している。
確かな手応えがあったはずだが、クライドの姿が消えたように動き、槍使いの胴体を切断した。
腰から上がずれ、腸が飛び出す。
上半身が前に倒れ、下半身が一拍遅れて崩れた。
「糞ったれがあ──」
クライドに体当たりするように身体を入れる。
しかし、そこにはクライドはいなかった。
また、少し離れた野次馬の前に現れる。
どういうことだ──。
移動術か、縮地術を使っているのか──?
「ほら、ほら、俺はこっちだぜ」
だが、はっとした。
クライドの眼の前にいるのは、幼い子供ふたりを連れた母親だ。
たまたま騒動に巻き込まれたのか、突き倒されて倒れていたのだ。
「やめなさい──」
叫びながら駆けた。
しかし、そのときには、母親とふたりの子供の首が胴体から離れて転がってしまった。
そして、いきなりクライドが目の前──。
思考することなく、大斧を振る──。
クライドの剣が切断されて飛ぶ。
「あれ?」
クラウドが呆気にとられたような声を出す。
そのときには、ミランダはクライドに斬撃を飛ばしていた。
今度こそ手応え──。
だが、乳房に衝撃が走り、ミランダは地面に転がっていた。
蹴り飛ばされたのだとわかったのは、離れた場所でミランダから奪った胸あての布をひらひらと動かしているクライドを見たときだ。
「最後の一枚だな。女? どうするんだ。かかってくるのか?」
クライドが大笑いしている。
しかし、すでに折れた剣しか持ってない。
ミランダは身構えた。
身につけているのは、すでに腰の小さな下着一枚──。だが、仕留めないと、もっと人死にが増える点。
「なにをしておる──」
「やめんか──」
そのとき、群衆の中から飛び出してきた五人ほどの衛兵が目の端に映った。
たまたま近くを巡回していて、騒乱に駆けつけたのだろう。
「おう、もしかして、衛兵か? ちょうどいい。剣を寄越せ」
クライドがにやにやしながら、衛兵たちに向かって歩いていく。
嫌な予感がした。
「あんたたち、逃げなさい。かなう相手じゃないわ──」
ミランダは絶叫した。
そのときには、速度を増したクライドが彼らに迫っていた。
そして、姿がぶれる。
衛兵たちから悲鳴があがり、ひとりの首が飛んでいた。
クライドだ。
すでに、その衛兵から剣を奪っていて、さらに剣を一閃した。
また、別の首が飛んだ。
「うわああっ」
「な、なんだあ、化け物か──」
ひとりから腕が飛び、またほかの衛兵の脚が切断される。
そして、首が落ちる。
血の匂いが、広場に濃く広がっていく。
あっという間に衛兵たちは皆殺しになっている。
「ロウと、エリカを呼んで来い──。さもないと、どんどんと人が死ぬことになるぜ──」
クライドが絶叫する。
「くそっ──」
そのとき、またもや、冒険者三人が叫びながら突進していた。
「退がれって、言ったでしょう──」
ミランダは怒鳴ったが、その冒険者の背中から横から剣先が跳びだした。
クライドがその冒険者を蹴り飛ばして、剣を抜く。
別の冒険者の前──。
クライドが剣を払う。
斬撃が冒険者に叩きつけられて、そのまま前のめりに倒れた。
十人いた冒険者は、もうほとんどやられた。
クライドは笑っている。
ミランダは歯を食いしばった。
止められない。
追いつけない。
どうやって、倒せばいいのかわからない……。
このままでは、全員死ぬしかない。
クライドがゆっくりと近づいてくる。
そして、立ち止まった。
「……お前、名前は?」
クライドが血のついた剣を肩に担いだ格好で笑う。
大股で十歩ほどの距離──。
ミランダは、すでに肩で息をしている。
「ミランダよ……」
「強えな、お前? でも、人間の子供じゃねえな?」
「あたしは大人よ。ドワフ族。あの冒険者ギルドの責任者よ……。ところで、ロウとエリカを殺すって、言っていたわよね……。どういうことなの?」
ミランダは用心深く言った。
少しでも時間を稼ぎ、少しでも情報を得る……。考えていたのはそれだけ……。
「……んっ? どういうことって、どういう意味だ? まあいいや……。お前がギルドの責任者なら丁度いいぜ。ロウとエリカを呼び出しな……。これは命令だ。ぐずぐずすんじゃねえぞ、ミランダ」
クラウドがにやりと微笑む。
ミランダは大きく息を吐いた。
「わかった……。呼ぶわ……。ただ、時間をちょうだい。すぐに連絡するから」
このあいだも、ランがギルドの資料を当たっているはずだ。
なにか情報を得られれば、打つ手も見つかるかもしれない……。
「ああ、いいぜ。ただし、条件がある?」
クライドが嘲笑のような笑い声をあげた。
不快な笑いだが、ミランダは我慢した。
「……条件とはなにを……?」
「待つあいだ、俺の相手をしろ。本物の童女じゃねえようだが、それだけ、子供に見えりゃあ、問題ねえだろう。ロウとやらが来るあいだ、俺の性欲の相手をしてくれれば、そのあいだだけは大人しくしてやるよ」
クライドが笑う。
ミランダはかっとなった。
「ふ、ふざけないでよ──」
「ふざけちゃねえよ──。俺はいつだって、真面目だぜ──」
次の瞬間、クライドの身体が二重になる。
眼で追えない──。
クライドの姿を一瞬、見失う──。
斧を払って、後ろに跳ぶ。
肩に痛撃──。
血が飛ぶ。
肩を斬られた。
肌に悪寒──。
また後ろに跳躍する。
そこにクライドの剣──。
地面に突き刺さるが、一瞬後には跳躍した距離がなくなり、目の前に追いつかれていた。
「くっ」
また跳ぶ。
反射的に大斧を払い、剣を弾く。
ミランダは跳躍を繰り返す。
また、大斧で剣を払う。
その連続。
「ちょこまかと、面倒だなあ──。また、無関係の者を死なせてえのかよ──?」
ミランダを追いかけるのをやめたクライドが、苛立ったように叫ぶ。
そのときだった。
「放て──」
離れた場所から命令が聞こえた。
雨のような矢がクライドに向かって飛んでいた。
ミランダは全速力でクライドから離れながら、眼の端に広場の周りを百人近い衛兵隊が囲んでいるのを捉えていた。
なにも考えない──。
衛兵隊の囲みの中を突き抜けて、彼らの後ろに跳び出した。
「ミランダ──」
「ミランダさん──」
マリーとランだ。
ランは毛布を持っていて、毛布でミランダの身体を隠した。
振り返る。
すでに喧噪は始まっている。
あれだけの矢だったが、クライドが矢を受けた気配はない。
衛兵隊のあちこちから悲鳴のような声があがっている。
「……なにかわかった、ラン?」
ミランダは裸身を毛布で隠しながら、ランを見た。
ランは申し訳なさそうな顔で首を振る。
「申し訳ありません……。なにも……。少なくともギルドの記録には……」
「わかった……」
ミランダは息を吐いた。
多分、冒険者ではないのだろう。だが、あのクライドの強さの秘密はなんだ?
まだ続いている戦いの音を聞きながら、ミランダは唇を噛んだ。
すると、マリーが出てきた。
「ミランダ、スクルズ様から、緊急の伝言球がギルドに届いたわ。第三神殿が襲撃されたようよ。多分、あいつね」
マリーが言った。
そのとき、目の前の空間が歪んだ。
身構えたが、現れたのはスクルズだった。
ミランダは眼を見張った。
「スクルズ──? あんた、どうして、ここに──? たったいま、第三神殿が襲撃されたと聞いたんだけど……」
ミランダはスクルズに声をあげた。
だが、同時に訝しんだ。
かなり、スクルズが疲れているように見えたのだ。
また、いつも飄々としているのに、いまはとても険しい表情をしている。それも珍しいと思った。
「本当です……。ところで、クライドという男がまだいるんですね……?」
スクルズが衛兵たちとクライドが起こしている争乱に視線を移して訊ねる。
「いるけど……。あれは一体全体、なんなのよ?」
ミランダは言った。
しかし、スクルズは視線をクライドのいるらしき方向に向けたまま、ミランダを見ない。
「……わかりません。でも、知っていることは、ロウ様の敵だということです……。行きますね」
スクルズが言った。
次の瞬間、そのスクルズの姿が消滅した。
「スクルズ──」
ミランダは叫んだ。