【改訂版】異世界で淫魔師ハレム【コミカライズ作品】 作:ドン・ドナシアン
王宮中枢の太陽宮の朝議の間である──。
主宰席には王妃アネルザが座し、その左右に王族席が設えられている。
ただし、いつものように国王ルードルフの席は空席であり、ほかにはキシダインがいるだけだ。
下段には、王国宰相、財務卿、軍務卿、法務卿、神殿連絡官、王都衛兵隊長、王宮魔道顧問、ならびに主要諸侯の代表が列席していた。
今日の議題の中心は冒険者ギルドである。
だが、ギルドからの列席者はいない。いまは、あくまで王宮としての姿勢を話し合う場であるからだ。
その王族席に立つキシダインの演説が続いている。
「……故に、冒険者ギルドには、定期的な査察を義務づける必要がある──」
キシダインは、そう断じてから、朝議の列席者たちを見渡した。
「今回の騒乱を引き起こしたクライドは、確かに冒険者ではなかったかもしれない。しかし、王都へ突如侵入した、所属不明の凶漢には間違いなかった。だが、その凶漢を前にして、冒険者ギルドはその場で事態を収束させることができなかったのだ」
声を荒らげることはない。だが、言葉は一つひとつ区切られ、逃げ道を与えない調子だった。
「ギルドは襲撃を受け、その場で制圧できなかった。結果として、騒乱はギルド前広場へ拡大し、市民と衛兵に多数の死傷者を出した──。衛兵は全く役には立たなかったがな」
キシダインが軍官僚に視線を向ける。
軍務卿が口元を引き締め、王都衛兵隊長が視線を伏せたのが見えた。
「冒険者ギルドは、実力によって脅威を抑制する組織だ。だからこそ、国家は長年にわたり広範な自治を認めてきた」
キシダインは、朝議の列を見渡す。
「しかし、その前提は崩れた。王都の中心で凶漢を抑えきれず、混乱を拡大させた以上、抑制力が十分に機能しているとは言えない」
記録係の官吏のペンの音がせわしなく部屋に響いている。
もともと、冒険者ギルドは、市民寄りの組織であり、貴族の横暴に一定に抑制力を働かせる役割がある。
列席する貴族たちの多くは、キシダインの言葉に静かに頷いていた。
「これは個々の冒険者の力量の問題ではない。組織としての統制、即応判断、責任体系の不備だ」
キシダインが続ける。
「これまで、冒険者ギルドは実力集団として国家の管理外に置かれてきた。しかし、民が死に、衛兵が倒れ、王都の治安が揺らいだ以上、そのままにしておく理由はない」
口調には自信がこもっている。
自分の演説が場を支配している自信があるのだろう。
「……故に、国家として、冒険者ギルドを管理する必要がある。定期的な査察を行い、組織運営と抑制体制を把握する。これは干渉ではない。安全保障だ」
宰相が小さく頷き、財務卿は無言のまま指を組む。ただ、その視線はキシダインではなく、アネルザに向けている。
この冒険者ギルドへの王宮関与の施策について、アネルザは意見を口にしていない。
だから、アネルザの意思がどこにあるのか、慎重に図っているのだ。
宰相も、財務卿も、キシダインではなく主宰席を見ていた。
この場の最終決定が、誰によって決まるのかは、誰もが承知している。
「……冒険者ギルドは今後も必要だ。だからこそ、放置はできない。管理と監督を制度として組み込み、再発を防ぐ。それが王宮の責務である──。王妃陛下のご意見を伺いたい」
キシダインはそう言い切って席に座る。そして、主宰席のアネルザに視線を向けた。
朝議の間に短い沈黙が落ちる。
アネルザは顔をあげた。
「悪くはないね。筋は通っている……。だけど、簡単にあの連中が受け入れるかねえ? 国の関与なしにずっとやってきた連中だ。今更、定期的な監査とか言っても、抵抗するんじゃないかい?」
「従わせるのです──。王宮としての断固とした姿勢を見せれば、所詮は平民組織。従うしかない」
キシダインは、力強く机を叩く。
そのときだった。
扉が開き、足音が響く。
護衛のシャーラを伴い、第三王女イザベラが入ってきたのだ。
列席者たちの視線が、一斉にそちらへ向くとともに、驚いている。
なにしろ、これまで、このイザベラは政務には関与しておらず、朝議になど一度も参加をしてないからだ。
とにかく、いいタイミングで入ってくるものだ──アネルザは苦笑した。
イザベラは周囲の戸惑いを気に留める様子もなく、王族席の一つに腰を下ろす。
「朝議の連絡が、小離宮にはなかったのでな。遅れて申し訳ない」
堂々とした態度で、列席者たちを見渡す。
威圧するような視線だ。
アネルザの目には、別のものが映っている。
姿勢は崩れていないが、膝がわずかに震えているのだ。
緊張しているが、精一杯の虚勢か……。
「……王女殿下、政務などに、全く興味もないのに、興味がある振りなどしなくてもよいのですよ」
キシダインが冷ややかに告げた。
「わたしは王族として成人している。政務に加わるのは権利ではない。義務だ、キシダイン卿」
イザベラは即座に視線を返す。
声は強く、言葉ははっきりとしている。
「なら、はっきり言ってやる。これまで一度も朝議に顔を出さなかった者が、今さら何の用だ──?」
「黙れ──。はき違えるな──」
イザベラの一喝に場が張り詰める。
「はき違える? それはあなたでは?」
だが、キシダインには、イザベラの怒鳴りなど、毛ほどにも堪えてないようだ。
嫌味たっぷりの口調で返した。
「いや、お前だな。どうやら、キシダイン卿は、タリオ出身で、ハロンドール家の血を引いてないので、王家の仕来りには疎いようだ。わたしは、まだ王太子ではないが、第一王位継承者だ。礼儀を尽くせ、第二継承者殿」
「な、なんだと──」
キシダインが激昂して顔を真っ赤にする。
「やめないかい、ふたりとも──」
アネルザは嘆息した。
そして、場にまだ戸惑いの様子があるのを感じながら、イザベラに視線を向ける。
「わかった。お前の言うとおりだ、イザベラ。お前も成人王族だ……。朝議への参加は……認める」
アネルザの言葉に加わっている参加者からは、いささかのどよめきのような声が響く。
しかし、さすがに、不満を口にする者はいない。
キシダインも不機嫌そうだが、黙り込んでいる。
「……そのことだが、王妃陛下。ひとつだけ、申しておきたいことがある」
イザベラだ。
「なんだい?」
「わたしの小離宮に、これまで朝議の連絡が一度も届かなかったことだ。これは明らかに官吏の怠慢だろう。わたしが成人になったのは、昨日や今日ではない──。関係する官吏の責任も問われるべきだろう」
官吏たちに視線が向けられる。
数名が、はっきりと身を強ばらせた。
「いい加減にしな──」
しかし、アネルザの声がすぐに場を割る。
「これまで一度も政務に関わる姿勢を見せなかったのは事実なんだ。官吏が忖度をして、連絡をしなかったのは仕方ないだろう。お前のこれまでの姿勢がそれをさせたんだ」
「なら、これからは、積極的に政務にも関与するつもりだ。ここで宣言までしている。記録係も筆記したようだしな。これからは、連絡も資料も、小離宮に確実に来るものと期待する」
イザベラはそれだけを言って、口を閉ざす。
「なら、今後はいくらでも処分しな。だが、今回連絡がなかったのは、お前が悪い。それは覚えておきな──。それと、お前たち──」
アネルザは、視線を大臣や官吏たちに向ける。
「……王族を軽んじたまま同じことを繰り返すなら、そのときは処分する。いいね──」
官吏たちが、一斉に頭を下げる。
「まあ、座っているだけなら、邪魔にはならんだろう……。しかし、世間知らずの筋違いな発言ばかりするなら邪魔でしかない。それについて、わきまえてくれればよい……。これは、同じ王族としての忠告だ」
だが、キシダインの表情は露骨に曇っていた。
また、わざわざ、”同じ王族”ということを強く発音した。さっき、イザベラに王家の血を引いてないと言われたのが、余程に腹がたったのだろう。
その言い方に随分と感情が滲んでいた。
すると、イザベラが再び口を開いた。
「……ところで、いまは、なにを議題にしているのだ?」
イザベラが宰相を見る。
「冒険者ギルドに対し、定期的な査察を受けることを義務づける施策の是非についてです。すなわち……」
宰相が説明を続ける。
記録係のペンが走る音だけが間を埋めている。
「……二度手間だな」
キシダインが嫌味のように口を挟んだ。
宰相の説明が終わる。すると、イザベラがすぐに口を開く。
「なら、丁度よかったな、わたしが参加することにしてよかったようだ」
イザベラの発言に、朝議参加者の視線が集まる。
「わたしがこの場にいなければ、その話は、わたしの知らぬところで決まっていたことになる」
「それの何が問題だ──。参加していない者の不在まで配慮する義務はない」
キシダインは即座に言った。
「いや、今回に限り、それは違う。配慮の必要がある……。いや、配慮じゃなくて、手続きの問題か?」
イザベラがきっぱりと言った。
「なにを言っている?」
キシダインがばかにしたように鼻を鳴らした。
「わたしは、名目だけとはいえ、冒険者ギルドの長だ」
イザベラの言葉に、わずかなざわめきが走る。
王族が代々の冒険者ギルド長に名を貸しているが、名目だけの肩書きだと受け取っていた者が多いのだ。
「名目だけだろう。実務にも関わらず、責任も取らぬ肩書きに、発言権があると思うか」
キシダインが吐き捨てる。
「あるな──。冒険者ギルドは、つまりは、王族の管理する組織だ。その長を外して、監査の話を進めるのは手続きとしておかしい」
「形式だけの話だろう」
「いや、王族への越権行為だ」
イザベラは言い切った。
「越権行為だと──?」
キシダインが言い返す。
「そうだ。王宮ではないぞ。これは王族の管轄だ。それに踏み込むというなら、場を改めろ。貴族議会を開け。この場で既成事実にする話じゃない」
キシダインだけじゃない。この場の参加者の全員が面食らった表情になった。
アネルザは嘆息した。
「越権行為だなんて、大袈裟なことを言うんじゃないよ、イザベラ」
アネルザは言った。
「王妃陛下、わたしは正論の話をしてるのだ」
「じゃあ、わたしも言ってやろう──。正論だけじゃ足りない。それが朝議だ──。そもそもの問題認識をなんだと思っているんだ、お前は?」
アネルザはイザベラを睨んだ。
イザベラはわずかに首を傾げた。
「……冒険者ギルドの抑制が十分に働かなかった……。それが問題認識だと。先程の宰相の説明ではそうだった」
イザベラは応じた。
「表向きにはね。だが、それは本質じゃない」
「……どういうことなのだ、王妃陛下?」
「冒険者ギルドは組織としては強すぎる。王族を長とすることで、逆に王宮の手が届かない組織として成り立っている。それこそが問題認識だ」
「逆に……か?」
「そうだ。だから弱める……。今回の騒乱なんか切っ掛けだ。名目はどうでもいい。ギルドの独立性を抑えていく。そのための施策だ……。記録係──、このわたしの発言は記録するな──」
「は、はい──」
アネルザの大声に、記録係の緊張した返事が響き、次いで、紙を破る音が響く。
すると、一瞬、場を包んだ沈黙をイザベラの吐息が切った。
「……監察を受け入れさせることは無理だろう。そもそも、不手際など冒険者ギルドは認めないと思うぞ……。あのクライドを始末したのは、最終的には冒険者ギルドだ」
イザベラが静かに言った。
「あれだけの人が死んでいながらか?」
キシダインが不満そうに口を挟んだ。
「あれほどの人が死んでいようともだ」
イザベラは言い切った。
アネルザは大袈裟に、肩を竦めて見せた。
「わかった。まどろっこしい議論はやめだ。どうやら、ギルドから入れ知恵されてきたね? まさか、なにも受けいない、知りませんで終われないことはわかってるんだろう? 代案があるんだろう。それを言いな」
アネルザの言葉に、またもやざわめきが拡がる。
しかし、イザベラがにっこりと微笑んだ。
「……ギルドとしては、定期監察は受け入れられない。しかし、人の受け入れについて応じるそうだ。王宮からの出向として、二名をギルド幹部として受け入れる。これで手を打ってほしい……そうだ」
「……ふうん……。定期的な監察でずっと監視されるのは嫌だが、その代わりに、こっちの息のかかっている者を受け入れるのはいいということかい……。まあ、悪くないね……。キシダイン、どうする?」
アネルザがキシダインを見る。
「……まあ、確かに、悪くはないですな……。人選は私がしてもよろしいですな?」
「文句はあるまいよ。ギルド長の発言だ──。記録係、こっちはしっかりと書いておきな。ギルド長が応じたとね」
アネルザが大笑いした。
小離宮の雰囲気は、太陽宮よりも、王妃宮よりも居心地がいい。
自分の暮らす場所でもないのに、そう感じてしまうのがアネルザには可笑しかったが、おそらく、完全に周りが身内に囲まれてしまうからだろう。
ここにいる者たちは、例外なく、全員がロウに精を刻まれ、同じ男に支配されている。
その事実が、妙な安心感をアネルザに与えていた。
前を行く侍女二人──リノとミレイユが、迷いのない足取りで奥の扉の前に立つ。
「こちらでございます、王妃陛下」
扉が静かに開かれる。
小ぶりな客間。灯されたランプの淡い光を受け、掛けられた薄布が、ゆるやかに揺れている。
外はすでに夜だ。小離宮に入る直前には、敷石を渡る風の音が、遠く微かに響いていた。
イザベラが、簡素な椅子に腰を掛けていた。いつものシャーラはいない。
その代わりに、イザベラの少し後ろ──壁際の椅子に、どっしりと腰を据えた小柄な女がいる。
ミランダだ。
ドワフ族で背は低いが、あの荒くれ者たちの冒険者ギルドを完全に牛耳る女傑だ。存在感は重い。
腕を組み、こちらを値踏みするような目で見ている。
アネルザは一瞬だけ眉を上げ、それから、口角をほんの少し緩めた。
「久しいね、ミランダ。まあ、先日のろくでもない性宴以来だね」
「ご機嫌麗しゅう、王妃陛下……とでも、言ったほうがいいかい? ついでに、立ちあがって腰を屈めてね」
ミランダが立ち上がらずに微笑む。
「必要ないよ。わたしと、お前の仲だろう」
アネルザは笑って、イザベラと向かい合う場所に腰掛ける。
「それほどに、久しい仲という気はしないけどね」
ミランダがちょっとばかり面食らった表情になる。
「まあ、これまではね。でも──同じ立場になってからは、初めてだろう? なにしろ、ここにいる者たちは、全員、同じ言葉で呼ばれる姉妹じゃないかい」
「姉妹?」
ミランダが怪訝そうな表情になる。
「
アネルザは声をあげて笑った。
ミランダは顔を真っ赤にして、軽く眉を動かし、視線を逸らした。イザベラはきょとんとなっている。イザベラは、多分、意味がわからないのだろう。そんな感じだ。
「それよりも、三人で話をしよう。お前たちは、席を外しな」
そう言って、侍女たちに目を向ける。
リノは一瞬だけ目を伏せた。
返答よりも先に、ミレイユがやんわりと微笑む。
「申し訳ございませんわ、王妃陛下。それは……できません」
口調は柔らかい。だが拒絶は曖昧ではない。
「人払いなど、いらないぞ、王妃」
イザベラも静かに続ける。
アネルザは軽く肩を竦めるとともに、小さく息を吐き、肩の力を抜く。
「……そうだったね。お前のところは絶対に裏切らない口の堅い女ばかりだったよ……。忘れていたよ。羨ましいものさ」
アネルザは言った。
そして、顔を引き締め直すと、アネルザは椅子に深く腰を預け、軽く息を吐いた。
「ミランダ。イザベラから、もう話は聞いたかい?」
「一応ね」
「とりあえず──キシダインの息のかかった者を二名。冒険者ギルドに幹部として受け入れさせる。これで手を打ったよ。失態には違いないからね。お咎めなしというわけにはいかない。そこは呑みな」
ミランダは鼻で笑った。
「それくらいなら、どうにでもなるさ。息がかかっていると、はっきりわかっている連中ほど扱いやすい。せいぜい、飼い殺しにしてやるよ。問題ない」
「ならいい……。一応は、わたしはまだお前たちの敵という立場だ。王宮の中で、あからさまに庇うわけにもいかない。今回守ってやれるのも、あれが限界だ」
「十分だよ。感謝するよ。借りということでいいかい?」
ミランダは腕を組んだまま、静かに言った。
「じゃあ、貸しひとつだね。そのうち、かたちのあるもので返しな」
アネルザは笑った。そして、椅子の背にもたれ、静かにイザベラを見る。
「しかし──今日は見事だったよ、イザベラ。朝議の演説は立派なものさ。あれでもう、お前を見くびる者も、ほとんどいなくなるだろう」
イザベラは、わずかに目を伏せる。
「王妃が立ち振る舞いを教えてくれたからな……。事前に語るべき言葉の選び方も教えてくれたし……。感謝している」
「机の下の脚が震えてたけどね。まあ、気付いたのは、わたしくらいだ。自信を持ちな」
アネルザが笑うと、イザベラは顔を赤らめ、視線をそらした。
「し、仕方ないであろう。生まれて初めての朝議だったのだ……」
「いずれにしても、あの小離宮のサロンはいいじゃないかい。盛況だという評判だ。サロンに参加すると儲け話が見つかる──そんな評判が生まれつつある。マアが露骨な利益誘導をしているようだしね」
「わたしは、言われたままやっているだけだ。王妃のようにはいかん」
「お前の武器は、後ろ盾の人材が揃っていることだと言っただろう。それもお前の力のうちだ……。なあ、ミランダ?」
「そうだね。全部、自分ひとりで出来る奴なんていない。その点、姫様は素直に、受け入れる度量がある。だから、協力できる」
ミランダは短く笑った。
「……だが、その協力も、ロウの号令ではないか」
イザベラがぽつりと呟く。
「そのロウを強引に引き込んだのお前だろう? 運がいいのか、勘がいいのか……」
アネルザは、皮肉ではなく、本気の声音で言った
「ところで、イザベラ。わざわざ、ここに呼び出したのはなんだったんだい? 特別な話でもあるのかい? それとも、ミランダとの顔合わせをさせたかったのかい?」
アネルザは、軽く問いかけた。
実のところ、アネルザは、政務が終わったら小離宮に立ち寄るように──そういう伝言をイザベラから受け取っていた。
刻限は指定されておらず、だから、政務をすべて終え、侍女を下げさせたあとで、ひとり、この小離宮まで足を運んだのだ。
しかし、向かいに座るイザベラは、首を傾げた。
「えっ? わたしは……呼び出してはいないが? むしろ、王妃殿から、ここに来ると伝言を受けたので、待っていたのだ」
「なんだって? どういうことだい?」
アネルザが眉を寄せる。
「あたしのところにも来たよ? 姫様のご指示ってことでね」
ミランダも驚いたように目を丸くした。
当然、アネルザたちの視線が自然と、事実上の侍女長のミレイユに向かう。
すると、ミレイユが一歩前へ出た。
「お三方をお呼びしたのは──わたしです」
静かな声だった。
「なに?」
アネルザは、ぽかんと口を開ける。
「どういうことだ、ミレイユ?」
イザベラも唖然となった。
ミランダは言葉を失っている。
「……つまりは、こういうことだ」
すると、部屋の扉がノックもなく開いた。
入ってきたのは、ロウだった。
ロウは軽く笑い、三人の女を順に見渡した。
アネルザは呆然となった。
「イザベラはともかくとして……アネルザも、ミランダも、最近はなかなか相手をしてやれてないからな。今夜は──お前たちの“特別な調整”の時間だ……。おい、入ってこい──、やれっ」
その声を合図のように、扉の外から、侍女たちが歓声をあげながら次々と姿を現す。
きゃあきゃあという愉しそうな声──。
笑い声──。
「うわっ、なんだい──」
アネルザは、思わず肩をすくめた。
しかし、侍女数名に群がられて、腕を掴まれて、あっという間に手錠で後手に拘束されてしまう。
ミランダやイザベラも同じだ。さすがに抵抗することはできずに、侍女たちの拘束を受けている。
しかも、群がられて服を脱がされていく。
「うわっ、ちょっと──」
「ロウ、なにをするつもりなんだい──」
「わっ、わっ、なんだ、お前たちは──やめんか──」
アネルザも、ミランダも、イザベラも、ただただ、たじろいで声をあげる。
すると、いつの間にか、侍女たちは小壺を取り出し、その中の油剤を指に取り──どこかに塗りつけるような、妙にくすぐったい感触が伝わってきた。
さすがに、三人とも短い悲鳴をあげてしまう。
「大人しくしろ。心配いらないぞ。二度と忘れられない、特別な夜にしてやるから」
ロウが、さっきまでアネルザが腰掛けていた椅子にどっかりと身を預ける。
どうやら──長い夜が始まるらしい。
アネルザは、そこでようやく悟った。これが、抗うだけ無駄な流れであることを……。
小さく息を吐き、もう、イザベラの侍女たちのするがままに身を委ねた。
【作者より】
今年の投稿はこれで終わりです。来年中に完結まで行くのが目標ですが、難しいでしょうか。
みなさま、よいお年を!
投稿のモチベーションになりますので、感想、評価をお願いします。