【改訂版】異世界で淫魔師ハレム【コミカライズ作品】 作:ドン・ドナシアン
意識は、沈殿した泥の底から、ゆっくりと浮かび上がってきた。
最初に戻ってきたのは嗅覚だった。
鼻孔の奥に薬品の匂いが残っている。揮発しきらなかった刺激が、粘膜をじわりと刺す。強くはないが、不快に長く残る匂いだった。
次に音──。
遠くで反響しているだけだった声が、次第に輪郭を持ちはじめる。
呪文のように意味を持たなかった響きが、言葉として、文として、頭の中に入ってくる。
ボニーは、すぐには目を開かなかった。
身体の感覚を探る。
四肢は動く。縛られていない。衣服の感触もある。
捕らわれる直前、内側から火で炙られるように続いていた疼きは、いまはない。
頬と腹の下に、石床の冷たさがじかに触れていて、無造作にうつ伏せに転がされているのだと知れた。
時間がそれなりに経っているのだろう。
あれだけ、身体を疼かせた全身の火照りは鎮まっているからだ。
最後に聞こえた老人の声は、魔道の術を封じる薬物の副作用と言っていたので、疼きが消滅しているということは、魅了の術を使えるようにはなっているのだろうか……。
ボニーは、床に横たわったまま、眼を閉じ続けた。
起きていないふりを選んだのは反射だった。まず、情報だ。
部屋は、それなりに広いようだ。声の反射でそれがわかる。
「……いい身体だよな」
男の声。若くはない。酒で舌が重くなっている。
「女を拷問して大金がもらえる。こんな楽な仕事、そうそうねえぞ」
別の男が笑う。
食器がぶつかる音。肉を裂く音。酒の匂いが、彼らの呼吸に混じっている。
笑い声──。
会話をしているのは……男……ばかり……。三人……。いや、五人か……。
どの男にも緊張の色がない。
話している内容から考えて、集められた五人という感じだ。なにも知らされずに、ただ、女を拷問して犯す仕事と言われている……。
そんな会話を交わしている。
拷問……。陵辱……。
さすがに、ボニーの身体が強張る。
一体全体、誰に捕らわれたのか……。
いまのところ、それに通じる会話はない。
ボニーは、呼吸を浅く保ったまま、耳を澄ませ続ける。
ほかにわかるのは、床は石であること。外の音が聞こえず、声の反射から閉鎖された場所であることか……。
『お前ら、打ち上げには早いぞ』
突然、別の声が割り込んだ。
方向が違う。
天井の向こう側から響いてくる。部屋にいる声ではない。どこか別の空間から、声だけを届けている感じだ。
だが、それよりも、その声の持ち主が、捕獲される前に最後に耳にした老人の声だとわかった。
『……どうやら、女がお目覚めじゃぞ』
その老人の声が響く。
室内の温度が、急にあがった気がした。
「おい」
椅子が引かれる音がして、足音が近づく。
「……お前、起きたのかよ」
若い男の声だった。
しゃがみ込む気配がして、顔を覗き込む距離まで近づいてくる。
ボニーは、そこで眼を開いた。
視界いっぱいに、男の顔があった。
無防備な距離。油断した目。
その瞬間、ためらいはなかった。
ボニーは、魅了の術を注ぎ込んだ。
息を吐くのと同時に、意識の奥から、細く鋭い流れを送り出す。
視線を合わせ、焦点を固定する。
男の瞳が、わずかに揺れたのがわかった。
「立てよ」
腕を掴まれ、乱暴に引き起こされる。
足裏に石床の冷えが走り、視界が低い位置から跳ね上がった。
広い部屋だった。
床も壁も荒い石で組まれ、天井は高い。壁際には鞭や棒が無造作に掛けられ、縄束や留め具、用途の分からぬ金具が棚に積まれている。床にも道具が散乱していた。
天井からは丸太が一本、胸の高さに吊られている。鎖の付いた枷もあり、壁の一画には人を拘束する留め具が並んでいた。
拷問や訊問のための部屋であることは、見ただけで分かる。
窓はない。出入口は一箇所。厚い鉄の扉だ。
薄暗い室内に、魔道具の照明がひとつだけ灯っている。入口に近い壁際には木製のテーブルがあり、酒瓶と食べ物が散らかっていた。三人の男がまだ酒盛りを続けている。
さらに、ボニーが魅了を掛けた若い男と、いま腕を掴んでいる中年の男──。
合わせて五人。
年齢はばらばらで、清潔感の欠片もない。粗野な与太者の寄せ集めだ。
「じゃあ、さっそく毀れてもらおうぜ」
「若い女ひとり、毀して金がもらえる。いい仕事だ」
「だが、殺すなよ。殺したら全員皆殺しだ」
男たちが笑い、立ち上がる。
「まずは、服を脱がせるか」
酒と汗の混じった臭いが近づく。
「おう、眼が覚めてから服を脱がせた方がおもしれえと、言ったのはお前らだ。責任もって、裸にしな」
まだテーブルにいる男たちのひとりがそう言って、げらげら笑った。
ボニーは反射的に胸を抱いて後ずさる。だが背後にも、あの若い男がいる。完全に囲まれていた。
「わかっているよ……。じゃあ、とりあえず、素っ裸になりな」
正面の男が腰から警棒のような棒を抜き、先端を差してでスカートを持ち上げる仕草をした。
「やめて──なにするのよ。あなたたちは──」
言い終わる前に、腹部に衝撃が入った。
「んぐうっ」
鈍く、重い感触。
息が一気に押し出され、視界が白く弾ける。
警棒で殴られたのだと理解するより先に、膝が折れた。
続けざまに、別方向からもう一撃。
腹──。下腹──。
避ける余地はない。殴る位置も加減も、相手の気分次第だった。
「んぐっ。ぐっ……」
喉が潰れたような声が漏れ、石床に崩れ落ちる。
殴られた衝撃でしばらく動くどころか、息もできなかった。
いつの間にか、テーブルにいた三人もやってきていて、ボニーは五人の男に囲まれる。
「立たせろ」
一番背の高い男が怒鳴る。後から加わった三人のうちのひとりだ。
「俺に、命令すんなよ」
悪態を突く男と、若い男によって両側から抱えられ、無理やりに立たせられる。
だが、若い男は魅了がかかっている。心無しか、ボニーの腕を掴む手に躊躇いのようなものを感じた。
一番身体の大きな男から、棒を腹に正面から押し当てられる。
「脱げよ、お前」
ボニーは大男を睨みつけた。
視線を合わせ、焦点を固定する。
意識の奥に、細く鋭い魅了術の流れを刻む。
大男の表情が、一瞬だけ抜け落ちた。
押し当てられていた棒が、わずかに引かれていく。
「おい、早く脱げや、嬢ちゃん」
別の男が笑いながら、棒の先でまたスカートを持ち上げる。
「いやだって、言って──」
手で棒を払いのけた、その直後──。
背中に衝撃が叩き込まれた。
「あがあっ」
鈍い音とともに、肺の空気が一気に吐き出され、ボニーは前のめりに倒れ、石床に崩れ墜ちた。
「脱げって言っているだろうが──」
うつ伏せに床に倒れたボニーの横腹を力いっぱいに蹴りあげられた。
「ふぐうっ」
酸っぱいものが喉まで逆襲してくる。
またもや、強引に両脇を持たれて立たされる。
「服を脱いで素っ裸になるんだ──早くだっ」
怒声を繰り返しながら、男ふたりが乱暴に警棒の先で強く腹を繰り返し手突いてくる。
「や、やめてえっ、許して──」
必死に両手で腹を庇いながら、声を搾りだす。
しかし、その手を棒で突かれ、別の場所を棒で叩かれる。
「ひいっ」
跪きそうになるが、今度はそれも許されずに、両脇から手を伸ばして支えられる。
顔に凄まじい衝撃が襲う。
一瞬、視界が真っ白になった。
平手を打たれたとわかったのは、倒れそうになった身体を支えられて、真っ直ぐに戻されてからだ。
「まだ、服を脱ぐ気にならねえか?」
反対の頬を叩かれる。
「んぶうっ」
ひっくり返りにそうになるのを、また横から支えられて戻された。
「自分で脱ぐというまで、いくらでも叩いてやるぜ」
正面でまた男が平手を振りかぶった。
「いやあ、助けて──」
ボニーは思わず叫んだ。
眼をつぶって衝撃に耐えようとした。
しかし、平手がこない。
おそるおそる眼を開けると、あの大男が平手しようとした男の腕を掴んでいる。
「おい、なんだよ、お前?」
腕を掴まれた男がきょとんとしている。
「……まあ、ちょっと待てよ……。やり過ぎだろう。死んだらどうする?」
「ああ? 急にどうしたんだ、ばかか、お前──」
大男の手を正面の大男が振りほどく。
魅了の効果だ──。
ボニーは咄嗟に思った。
魅了は操りではなく、味方を増やしていく術だ。だんだんと、ボニーへの暴力に耐えられなくなったのだろう。
「ほぶうっ──」
だが、次の瞬間、突如として、大男が呻き声とともに、床に倒れ込んだ。
大きな身体が、前触れもなく崩れ落ちた。
重たい音が石床に響く。
ボニーは反射的に目を見開いた。
ついさっきまで立っていた男が仰向けに転がっている。
胸は動かない。喉も鳴らない。
近くで見ても、呼吸をしているようには見えなかった。
死んだ──?
そうとしか思えない。
周囲の男たちも固まっている。
笑い声も、罵声も消えた。
呆然となって誰ひとりとして動かない。
ボニーの身体を左右から掴んでいた男たちも、手を離している。
その沈黙を裂くように、鉄の扉が開いた。
軋む音とともに、女が入ってくる。
黒いズボンに黒いシャツ。動きやすさだけを考えた服装だ。
端正な顔立ちをした年は三十前後の女性だ。黒髪を後ろでまとめ、感情の読めない目をしている。
「ふふ、この女に殺されたみたいだね」
女が倒れている男を一瞥して言う。
すでに、ボニーの眼の前だ。
「えっ?」
男たちが一斉に、その女を見るのがわかった。
「だから、気をつけろって言われただろう。眼を合わせたら、術を掛けられるって」
男たちが、はっとしてボニーを見る。
だが、同時に慌てて視線を逸らした。
違う──。
しかし、ボニーは思わず口を開きかけた。
魅了は、言葉に従いやすくするだけの術だ。
相手を殺すことなど、できるはずがない。
「……しかし、ターシャさん……」
震えた声で呼びかけたのは、最初に魅了を掛けていた若い男だった。
ターシャ──?
それが、この女の名前なのか……。
そう思った瞬間だった。
若い男の膝が、がくりと折れた。
次の瞬間、身体ごと前に倒れ、動かなくなる。
「うわあ」
「まただ」
「なんだ、なんだよ」
残っている三人が悲鳴をあげる。
「あらあら……大した魔女だねえ。また殺しちまったよ」
ターシャが肩をすくめ、口元を歪める。
「ち、違うわ──あたしじゃない──」
ボニーは叫んだ。
「んごおおっ」
その言葉が終わる前に、下腹部に鋭い衝撃が走る。
棒が突きつけられていた。
そこから、一気に電流が流れ込んだのだ。
全身が跳ね、声にならない悲鳴が喉で潰れた。
ボニーは床に崩れてしまった。
筋肉が勝手に引き攣り、思考が真っ白になる。
「怯えるんじゃないよ、お前たち……」
ターシャの声がすぐ近くで響く。
「眼を合わせなきゃ、術にはかからないよ……。最初に言われていただろう。ばかかい、お前たち。とりあえず、さっさと集まるんだ」
怯えて後ずさった男たちが、当惑するように静止している気配を感じた。
だが、ボニーについては、浴びせられた電撃の強さに、痺れた身体をよじることもできなかった。
「お前もだよ……。無駄なことをやめて、命令に従いな。服を脱げと命令されてただろう。早く始めな」
棒が離れ、次の瞬間、後頭部に強い圧がかかる。
ターシャの足が、容赦なく踏みつけてきたのだ。
「あぐっ」
額と鼻に、焼けるような痛みが走る。
すると、後頭部を踏まれたまま、女の顔だけが近づいてきた。さらに圧は増え、ぐりぐりと鼻が床に擦りつけられる。
「……術を掛けようとしたって……意味はないんだよ。魅了の術を使っても、意味なくそいつが死ぬ……それだけだ……」
冷えた声だ。
耳元でささやかれた、ボニーにだけ聞こえる声で……。
一方で、死体を前にして、動けずにいた様子の三人のざわめきが耳に入る。
「……く、くそう……。報酬のときの話、本当だったんだな……」
「どうりで、報酬が高ぇんだよ。女ひとり毀すだけで、あれだけもらえるわけねえよな……」
「毀す相手は、魔女かよ……」
嘆息や舌打ちとともに、男たちが戻ってくるのがわかる。
「そのとおりだよ。高い手間賃は、その危険料だと思いな。それに、前金もお前たち使っただろう。もう、やるしかないよ──。わかったら、死体を廊下に放り出しな。そしたら、再開だ」
それだけ言って、ターシャがやっとボニーの頭から足をどかす。
ずるずると、男の死体を引きずる音が響き出す。
しばらくすると、鉄の扉が開き、閉まる音がした。
「いつまで横になってんだい──。立たないかい──」
「ぐほっ」
脇腹が思い切り蹴りあげられた。
ボニーは生き返ったかのように、全身を反応させる。
連続する暴力のおかげで、もう身体には力が入らなかったが、なんとかよろよろと立ちあがる。
男三人は、戻ってきている。しかし、距離を取って、ボニーになかなか近づかない。
視線を向けるが、互いに慌てたように視線をそむけ、ターシャと呼ばれた女だけを見ている。
「……手順さえ踏めばどうということはない作業だよ。魔女とはいえ、女ひとりだ、それを毀すだけだ。再開しな──」
ターシャが声をあげた。
だが、なかなか男たちが動かない。
誰かが、躊躇するように唾を飲み込む男がした。
「仕方ないねえ……。じゃあ、最初は見本を見せるよ。まずは、徹底的に弱らせるんだ。渡した警棒を電撃棒にしな」
ターシャの言葉に、三人の男が腰に差した棒を抜き、かちかちと手元を操作する音が響く。
だが、ボニーは「違う──」と叫びそうになった。
殺したのは、この女か、あるいは、声だけを響かせている老人だ。
いずれにしても、魅了を掛けたふたりが立て続けに死んだのは、偶然ではないだろう。
魅了を使えば、対象は死ぬ。
それは、男たちにではなく、むしろ、ボニーに対して与えられた警告なのだ。
「三人で囲みな。ちょっとでも顔をあげようとすれば、誰かが電撃を浴びせるんだ。協力して追い詰めな」
ターシャがテーブルにある椅子までさがっていく。
すると、それに入れ替わるように、男たちが警棒を持ってボニーを取り囲んだ。
「ち、畜生──俺を見るんじゃねえぞ──」
前から警棒が伸びて、腹に突き刺さる。
「ぎゃうん──」
電撃が貫き、身体が前に折れ曲がる。
「さっさと裸になりやがれ、魔女め──」
すると、後ろからお尻を棒が突かれて、電撃が浴びせられる。
「ひぎいっ」
痺れきっている身体が反射的に仰け反る。
すると、無防備な脚に電撃が襲う。
「ひいいっ」
がくりと身体が折れる。
「倒れたら、股ぐらに電撃を浴びせな。容赦するんじゃないよ」
ターシャが笑いながら声をあげる。テーブルに放置されている酒瓶を手に取っているような気配もあるが、ボニーはそれどころじゃない。
後ろから、横から、前から繰り返し交互に警棒を突かれて、電撃を浴びせられる。
「ひがあっ、許して──。許して──」
崩れそうになって、強引に背後から抱えられた。
姿勢を真っ直ぐにされる。
そこに、スカートに警棒を入れられて、電撃を流された。
「ふぐううううっ」
下着越しだが、股間に電撃がまともに貫いた。
「はがああああっ」
倒れたくても、後ろから羽交い締めにされている。
脚をばたつかせるが、警棒が離れていかず、しばらくのあいだ、股間に電撃が流しっぱなしになった。
股間に熱いものが流れるのを感じた。
「うわっ、こいつ、小便漏らしやがったぜ」
「なんてやつだ」
手が離された。
一度始まった放尿はすぐにはとまらない。身体を離されたボニーの身体は自分が垂れ流している尿の上に放り出される。
「ほら、お前、早く服を脱がないと、電撃責めが続くよ。さっさと脱いだ方がいいんじゃないかい」
ターシャが笑い声をあげる。
「ぬ、脱ぎますから──もう、電撃は許して──」
ボニーは手で上着の襟を掴む。
もう、この電撃責めから逃れたいということしか考えられなかった。
「座るんじゃねえ──。魔女め──」
身体を起こして無理矢理に立たされた。
必死に脚を踏ん張る。
しかし、すでにぶるぶると足腰は激しく震えていた。立っていられるのが不思議なくらいだ。
「手を止めたら、また電撃を浴びせな」
ターシャが酒を瓶ごと飲むような音とともに、指示を飛ばした。
三人の男たちが警棒を三方向から突きつけてくる。
ボニーはそれに怯えながら、懸命に上衣のボタンを外そうとした。でも、指が震えてうまく外れない。
「電撃だよ──」
途端に背後からスカートの中に警棒を入れられ、失禁で濡れた下着越しに電撃が流される。
「んぎゃああ」
ボニーは全身を突っ張らせて悲鳴をあげた。
新年おめでとうございます。
新年早々ですが、ボニーへの拷問と陵辱シーンが数話続く予定です。
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