【改訂版】異世界で淫魔師ハレム【コミカライズ作品】 作:ドン・ドナシアン
「……戻りました、ロウ様……」
エリカは扉の外から小さな声でささやいた。
冒険者ギルド本部は、夜更けの静けさに沈んでいる。だが、本部棟には泊まり込みの要員が相当数いるはずだ。この私室は奥まった位置にあるとはいえ、物音ひとつで誰かが様子を見に来てもおかしくはない。
エリカは気配を極限まで殺し、耳を澄ませた。
だが、室内からは男女の営みを思わせる音は聞こえない。
部屋の中は、不自然なほど静まり返っていた。
ややあって、室内からロウの低い声が返る。
エリカは振り向き、シャングリアとコゼに目配せして小さく頷いた。
三人は音を立てぬよう、慎重に扉を押し開ける。
「まあ……」
「うわあ……」
「あらあら」
三人の声が重なった。
室内は、ひと言でいえば惨状だった。
まず目に飛び込んできたのは、長椅子に横たわるミランダの姿だ。
衣服を失ったまま、脚を投げ出すようにして仰向けになっている。
胸は荒く上下し、かすかな寝息を立てているが、それは安らかな眠りというより、力を使い果たして意識を失ったと見るほうが近い。
肌は全身が赤く火照り、汗に濡れている。
脚の間には濡れた痕が広がり、長椅子の布地にまで染みをつくっていた。
部屋の中央に据えられた卓上には、拘束のために使われたであろう紐が乱雑に残されている。
その周囲にも、乾ききらぬ体液が飛び散っていた。
さらに床には、水をこぼしたような広い染みが残り、その上に雑巾が数枚、投げ置かれている。
応急処置だけは済ませた、という形跡だ。
「これ、おしっこか、ロウ?」
シャングリアがしゃがみ込み、鼻を近づけてから、顔を上げた。
「ミランダが失禁してな。俺もかけられてしまった。エリカ、魔道で乾かせるか?」
ロウは笑いながら言った。
そのロウはすでに衣服を整え終え、壁際の椅子に腰かけている。
髪も乱れはなく、息も落ち着いている。だが、上衣の裾だけがわずかに濡れていた。
「は、はい……。そのくらいの魔道であれば、いつでも……」
エリカは、浄化の魔道をまずロウへと向ける。
淡い光が上衣の裾を包み、湿りは瞬く間に消えた。布地は何事もなかったかのように乾き、色も質感も元に戻る。
続いて、雑巾が置かれた床に視線を向けた。
板張りの上に敷かれた薄い絨毯は、すでにかなり染み込んでいる様子だったが、エリカの魔道は静かにそれを吸い上げ、痕跡ごと消していく。湿った匂いも残らない。
そのあいだに、コゼとシャングリアは卓下に落ちている革紐や、ミランダに被せられていた袋を拾い上げていっている。
すると、コゼがふと顔をあげる。
「ご主人様、これ無理矢理に切断した感じですけど、まさか、ミランダって、これを引き千切りました?」
手にしているのは、両手首を縛っていた革紐だ。
裂け目は鋭く、引き裂かれた痕がはっきり残っている。
「おう、そうだ。おかげで抱き潰されて死ぬかと思った。俺は二度とミランダを正常位では抱かないよ。あるいは、ちゃんと金属の枷をするかだ……」
ロウは苦笑する。
エリカは視線を長椅子へ向けた。
脚を開いたまま、力を抜ききって横たわるミランダ。胸はゆっくり上下しているが、呼びかけても反応しそうにない。
本当に、力尽きたのだろう。
どれほどロウに昇天させられたのか。普段はきっちりとした副ギルド長であるだけに、あのだらしない姿との落差があまりに大きい。
それに、ミランダはもともと
長年、危険なクエストを渡り歩き、生き残ってきた女だ。危機には本能的に反応するはずの身体である。
それなのに、三人が部屋に入り、片づけを進め、声を交わしているというのに、目を開ける気配すらない。
余程に限界まで力を使い果たしたのだろう。
可哀想に……。
エリカは小さく息を吐き、とりあえず裸身を覆ってやろうと決めた。
奥の棚へ足を向け、掛け布を一枚取り出す。手触りの良い厚手の布だ。
戻ってくると、長椅子の横に膝をつき、ミランダの火照った肩にそっと布をかける。
肩から胸元へ、腹へ、脚へと、丁寧に覆っていく。
ミランダはわずかに眉を動かしたが、目は開かない。
布の下で、かすかな寝息だけが続いていた。
「ああ、毛布を掛けるのはちょっと待ってくれ。帰る前に、ミランダにはちょっとした置き土産をしていく」
すると、ロウが声を掛けた。
エリカは手を止めて、ロウに視線を向ける。
「置き土産って……。ねえ、ロウ様、もういい加減にミランダをからかうのはやめた方がいいんじゃないですか。それに、ミランダは、もう傷心なんかしてないと思いますけど……」
エリカは控えめにそう言った。
どうせ聞き入れられはしないが、黙って見ているのも後味が悪い。
「……いいんだよ。そもそも、ミランダは働き過ぎなんだよ。だから、明日の朝に目が覚めたら、俺のところの屋敷にやって来るしかない仕掛けをするんだ」
「仕掛け……ですか?」
「ああ、明日はミランダは休み──。別に一日や二日いなくても、ギルドは回る。ミランダは朝から夜まで、うちで愉しく過ごしてもらうことにしよう」
「はあ……そうですか……」
エリカは小さく繰り返した。
誰にとっての愉しさかは、言うまでもない。
一方で、ミランダは目を覚まさない。
長椅子の上で、毛布に包まれたまま、ただ静かに呼吸を続けている。
ここまで反応がないというのは、よほど消耗しているのだろう。
「コゼ、袋の中のものを出してくれ」
ロウの声に、コゼが袋を開く。
取り出したのは、ディルド付きの見覚えのある金属具だった。
ロウは“貞操帯”とも呼んでいるが、性欲を封印する貞操帯どころか、ディルドで刺激され性的に追い詰められるしかないという責め具だ。
「ご主人様のご指示どおり、外からの刺激を受けない仕様です。明日の朝は大変でしょうね」
コゼがくすくすと笑う。
本当に、この女は。
「……ミランダの覚醒と同時に、淫靡に振動する仕掛けにしておく。だが、絶頂なんかさせないぞ。それくらいの緩慢な動きに設定だ」
ロウが術を仕込む素振りをする。魔道遣いではないロウなのだが、淫魔術という力で、魔道と同じことができるのだ。もっとも、性的なことに限定ではあるが……。
見ていると、貞操帯の内側の大小のディルドがほんのりと蒼白く光った。
多分、ロウが口にした仕掛けが施されたのだろう。
「さらに、これだ」
ロウが収納術で、赤い色の丸い大きなあめ玉を取り出した。エリカははっとなった。
「うわっ……さっき、ミランダの口に仕込んだ、媚薬の飴だろう。まさか、それを挿入してから、股間を封じるのか?」
シャングリアが目を丸くしている。。
ようやく状況の全体像を理解したらしい。
「なにか問題があるのか、シャングリア?」
ロウは平然と、どこか愉しげに言った。
その声音に、エリカは小さく息を吐く。
副ギルド長の女傑は、いまや毛布の下で静かに眠るだけの存在になっている。
誇りも怪力も、いまは完全に沈黙していた。
ロウがまずは媚薬の飴をミランダの股間に指で押しこみだした。
さらに、潤滑油代わりなのか、ディルドの表面に得体の知れない粘性物を浮きあがらせ、ディルドを挿入していく。
文字通りに、ミランダは七転八倒することだろう。
「さて、これで終わりだ」
金属音が鳴り、ミランダの腰の後ろで、ついに貞操帯の施錠がされた。
ロウの仕掛けが終わっても、やはり、ミランダは目を覚まさない。
エリカは改めて、ミランダに毛布をかけ直す。
毛布に包まれ、だらしなく横たわるその姿は、あまりにも無防備だ。
エカは、もう一度だけ小さく息を吐いた。