【改訂版】異世界で淫魔師ハレム【コミカライズ作品】 作:ドン・ドナシアン
「うーん、やっぱり難しいか」
王宮と神殿区画のあいだにある貴族街の大通りは、すでに夜に入っている。
石畳は広く、左右には石造りの屋敷が並び、門扉は閉じられていた。外灯が等間隔に灯り、三つの月の光が壁と鉄柵を白く浮かび上がらせる。
一郎たち四人が歩いているのは、ベルズのいる第二神殿の敷地外壁に沿った通りだ。
今度こそ、完璧に潜入するための下見だった。
前々回に冒険者ギルド本部のミランダを襲ったときから十日が経っていた。
そのあいだに、一郎は一度、第二神殿に踏み込んでいる。ただ、ベルズのところまでは辿り着いたものの、途中で警備魔道具が反応してしまい、ベルズが間に入って収束するという結果に終わっていた。
ベルズは呆れるとともに怒っていたし、一郎としても“レイプごっこ”が不完全に終わり不本意だった。
今度こそ完璧に夜這いレイプしてやろうと、みんなで隙を探しているのだ。
ただ、前回のベルズ襲撃のときとは異なり、神殿通りは少しひっそりとしている。
第二神殿は上級貴族向けの商家街沿いにあるのだが、まだ店じまいには早い時間にもかかわらず、いくつも扉を閉めている。
このところ品が入ってこないらしく、店を開けても売るものがないらしい。そのため、いまの宵の口であれば、まだ出入りのある通りなのだが、人の姿はほとんどない。
それに比べて、ここに来る前に通った下町の通りは、同じ時間でも人の出入りが途切れていなかった。
「ロウ、前回の潜入経路は潰されているな」
一郎の前を歩くシャングリアが神殿の外壁を見上げて肩を竦めた。
魔道遣いの集まっている神殿ともなれば、王宮並の魔道警備具が当然のように敷き詰められている。それでも、前回は粗はあったのだ。
ただ、前回は途中までとはいえ、一郎の潜入を許したことで、ベルズがその潜入経路もしっかりと警戒具を増加させていた。しかも、これ見よがしに配置している。
ベルズが前回のことを怒っている証拠だ。
一郎としては苦笑しかない。
「クライドの件もありましたからね。神殿の警戒度もかなりあがってました。それに加えて、前回のロウ様の悪戯でしたし」
エリカが続けた。エリカはシャングリアとともに前を歩いている。その後ろを一郎とコゼが進む態勢だ。
「外敵対策が完璧に見直されてるな。正面も裏も神殿兵を増員、魔道具も更新。侵入経路はない」
シャングリアがさらに言った。
「第三神殿の入りやすさに比べれば、雲泥の差ね」
一郎にぴったりと接しているコゼが小さく笑う。
「あそこも本来は厳しいぞ。ただ、スクルズがロウがいつでも夜這いできるように、移動術のポッドを設置しているだけだ。それなしにとなると、やはりきついな」
角になっているところを神殿沿いに曲がりながらシャングリアが言う。
そのとき、エリカが小さく咳払いした。
「ロウ様、外壁の内側の神殿兵が動く気配がします。一度離れましょう」
さらにささやく。
一郎もそれには、魔眼で気がついていた。
おそらく、神殿沿いにゆっくりと歩いている一郎たちが捕捉されて警戒されたのだろう。
「わかった」
一郎は小さく頷く。
自然なかたちで、神殿通りから離れる小径を曲がった。
「なかなか厳しそうだな」
一郎は小径を歩きながら肩を竦める。
「やっぱり、諦めた方がいいんじゃないですか?」
エリカだ。
「だめだ。今度こそ、ベルズを夜這いして驚かせるんだ」
一郎は短く返した。
「正攻法で潜入は無理かもしれませんね。昼間なら出入りも多いし、それに紛れるのが妥当かもしれません」
コゼが続ける。
「いっそのこと、ベルズ殿に事前に話をつけて、警戒を少し緩めてもらうというのはどうですか?」
エリカが口を挟んだ。
「それはなしだ」
一郎は明確に否定するとともに、立ち止まった、
神殿通りから一本離れた通りのすぐ手前だ。小径から見えるこちら側の通りでは、片側の灯りが途切れ、暗がりが続いていた。
すでに第二神殿は見えない。
魔眼で確認しているが、神殿兵も尾行まではしてこない。そこまで怪しいとは判断しなかったのだろう。
四人で立ち止まる形になる。
「どうしてですか?」
エリカが一郎を見る。
「面白くないからだ」
一郎は短く言い切る。
「でも、それが一番確実ですよ」
コゼが肩をすくめる。
「確実なのはいい。けど、それじゃ意味がない。これは遊びだ。大真面目のね」
ロウはそう言って、わずかに口元を歪めた。
エリカは一瞬だけ言葉を詰まらせたが、すぐに続ける。
「ですが、外からの侵入は、もう現実的ではありません。正面も裏も、さっきのとおりです」
「じゃあ、コゼ案で行くかな。まあ、検討しよう……。とにかく、前回は失敗だったから、今度こそ成功させる」
「ふふふ、中途半端はいや、ということですね?」
コゼが小さく笑った。
「そもそも、潜入レイプなんて、くだらないこと、どうしてやるんですか?」
エリカがぼそりと言った。
「くだらない?」
一郎はわざと顔をしかめてやる。
エリカが、はっとしたように顔色を変えて口をつぐんだ。
面白い。ちょっとからかってやるか。
さらに不機嫌な表情にする。
「もちろん、くだらないなんて思ってませんよ。ご主人様らしい親しみの表現だと思います」
コゼがすぐに言う。
調子のいい媚びだが、いかにもコゼらしい。
「なに言ってんだ、コゼ。エリカの言うとおりだ。とてもくだらないだろう、レイプごっこだぞ」
だが、シャングリアが肩をすくめて笑いだした。
慌てるようにエリカがシャングリアの脇腹を肘で突く。
だが遅い。
一郎は口元に笑みを浮かべた。
「よし、わかった。とりあえず、今夜の偵察は終わりだ。その代わりに、お前たちに実験台になってもらう。エリカとシャングリアだ」
一郎がふたりに視線を向ける。
「えっ、実験台?」
「あっ、どういうことだ?」
エリカは困惑、シャングリアは呆気にとられている感じだ。
「ただ、準備している魔道具は一個しかないからな、くじにするな」
一郎が両手を前に出す。
左右の拳を握る。
「右か左か、好きな方を選べ。俺の拳の中で粘性の汁を出している方が当たりだ」
一郎は言った。
拳はそのまま差し出されている。
「ええっ?」
「そんな」
エリカとシャングリアが顔をしかめた。
「うわあ、今夜はどんなことをするんですか、ご主人様?」
コゼが手を叩いて喜んでいる。
「あ、あんたねえ。自分が関係ないからって……」
エリカが顔を赤らめてコゼを睨む。
「当たったらどうなるんだ、ロウ?」
エリカの横のシャングリアは顔をしかめたままだ。
「どうということはない。クグルスとサキに開発させた魔具の首環をして散歩をしてもらうだけだ」
一郎はうそぶいた。
「クグルスと……サキ……ですか?」
エリカが怪訝そうになった。
魔妖精のクグルスと、妖魔将軍のサキは、一郎の女の中では魔族にあたるふたりだ。
当然に魔道には精通している。
一郎の淫魔師の恩恵のために、能力も桁あがりしているので、道具に込められる魔道もかなり複雑なことができる。
そのふたりにわざわざ作らせたと告げたのだ。エリカはとんでもない魔道具だと判断したのだろう。
その想像は間違ってない。
一郎はほくそ笑んだ。
「いいから、早く選べよ」
一郎はふたりに両拳をさらに差し出す。
エリカとシャングリアは、顔を見合わせたあと、シャングリアが右、エリカが左を選んだ。
一郎は、手のひらを上に向けて、両手を拡げる。
当たりは右──。
「シャングリアが当たりだな。首に装着しろ」
一郎は、亜空間に準備してあった首環をシャングリアに差し出す。
シャングリアが渋々という雰囲気で首環を受け取った。
「首環……というよりは、チョーカーですね」
コゼが横から覗き込みながら言った。
「……でも、帯びている魔力が凄まじいわ……。あと、ロウ様の淫気も大量に帯びているみたい」
エリカが付け加える。
「さ、さすがに怖いぞ──。ロウ、これを首に嵌めるとどうなるんだ。先に教えてくれ」
シャングリアが首環を手に持ったまま、ロウを縋るような視線を向ける。
「どうということはない。ちょうど、近くに酔客が集まるようなにぎやかな場所があったな。そこを散歩するだけだ」
一郎は言った。
シャングリアに諦めたように、首輪を自分の首に嵌める。
「ひあっ」
シャングリアが声をあげた。
次の瞬間、シャングリアが突然に崩れるように身体を前に倒して両手を道につけた。。
「な、なに?」
「うわあっ」
エリカとコゼが声をあげる。
四つん這いになったシャングリアが、真っ白い房毛の大きな白犬に変わったのだ。
ただし、いままでシャングリアの身に着けていた服を着ている。
一郎が求めていた効果の通りなのだが、身につけていた衣服までは姿を変えないようだ。
いまは、一郎の眼にも、服を着ている白い大きな犬にしか見えない。状況が理解できないのか、白犬姿のシャングリアが口を大きく開く。
「動くな。口を開くな、シロ──」
すかさず、一郎は叫んだ。
白犬姿のシャングリアの口が、その瞬間につぐんでしまう。
あいつらに作成させた「雌犬ごっこ」用の淫具の効果だ。一時的に「飼い主」の言葉に逆らえなくなるのだ。
「……じゃあ、お前たち、その白犬から人間の服を剥がせ。切り刻んで構わん。服を着ている犬なんて、おかしいしな」
一郎はくすくすと笑いながら言った。
シャングリアは慌てたように激しく首を左右に振っている。
だが、さっきの命令で口は開かないし、呻き声すら出せない。
「……心配するな、シロ……。声がすぐに出せるようにする。ところで、言われたことをすぐにしろ……。それとも、交代するか?」
一郎は言った。
エリカもコゼも一郎の言葉にぎょっとなる。
「ごめん、シャングリア」
「あたしは謝らないわ。頑張ってね、シャングリア」
エリカとコゼが、犬になったシャングリアから服を剥ぐために、小刀を左右から衣類に伸ばす。
動くなという命令で、シャングリアの変身した犬の四つ脚は、まるで彫刻にでもなったかのように動かない。
あっという間に着ている服を取り去られたシャングリアは、ただの白い体毛にしか見えなくなった。
「……さっきの命令は解除する、シロ。ただし、人間の言葉を喋った瞬間に魔道が解けて、お前は人間に見えるようになる」
一郎は告げた。
首環の効果により、白犬のシャングリアの硬直が解けた感じになった。
おそらく、喋れるようにもなっただろう。
だが、さすがに、シャングリアはひどく怯えている。それには理由があるのだが、四つん這いのまま、きょろきょろと自分の身体を見回している。
一郎はさらに口を開く。
「呻き声ひとつでも同じだ。そうなりたくなければ、絶対に声を出すな」
「ねえ、ご主人様、これは人間を犬に変える魔道具なんですか?」
コゼが訊ねてきた。
「ほとんど当たりだが、ちょっとだけ違う」
一郎は首を横に振る。
「どう違うんですか?」
エリカも訊ねてきた。
「それは人を犬にする魔道具じゃない。周りから犬に見えるだけだ。シャングリア自身は、自分は犬に見えてない。人間の姿のままだ……。そうだな、シロ?」
一郎は、シャングリアが変身した白犬のチョーカー型の首輪の前にある小さな金具に紐を繋げた。
白い犬が一郎の言葉に小さく縦に首を振る。
「えっ、どういう……?」
エリカが怪訝そうな顔になる。
「そして、この首輪をつけている限り、四つん這いは崩せないし、命令にも逆らえない。“呪いの雌犬の首輪”だ」
「えっ?」
「ほんと?」
エリカとコゼはびっくりしている。
「胸に触ってみろ、エリカ。コゼ……。そして、シロは抵抗するな」
ふたりが白い犬の胸にて下から手を伸ばす。
また、シャングリアの身体は、一郎の“命令”により再び硬直したかたちになっている。
コゼとエリカの手が、犬の胸に触れる。
「うわっ」
「おわ」
ふたりが同時に声を上げる。
一郎も手を伸ばしてみた。
「ほう、これはずごいな」
一郎も感心した。
見た目は房毛なのに、一郎に触れたのは、しっとりと汗をかいている柔らかい乳房の感触だ。
紛れもない女の胸である。
ちゃんと乳首もある。
指でこりこりとくすぐってやる。
「ひああっ」
白い犬姿のシャングリアがびくんと身体を跳ねさせるとともに、艶めかしい声をあげた。
人間の女の声だ──。
次の瞬間、白犬の姿が消える。
代わりに、素裸のまま四つん這いになっているシャングリアが現れる。
「うわっ」
シャングリアが悲鳴をあげた。
だが、起きあがらせようとした身体は、四つん這いのまま姿勢は崩せない。
首環の効果である。
「シャ、シャングリア?」
「こ、これは……?」
エリカとコゼが声をあげる。
「ははは、声を出すなと言っただろう。それとも、その格好で人前に行きたいのか? 犬の姿がましだろう?」
一郎は首環に触れ直して、淫魔力を込め直す。
シャングリアの裸身が消え、再び犬の姿に変わる。
「人間に戻りたければ、声を出すことだ。姿勢は崩せないけどな……、行くぞ。進め、シロ」
一郎は、首環の紐を引く。
シャングリア──白毛の大きな犬の身体が四つん這いで歩き始める。
四肢は前に出ている。
口は閉じたまま動かない。
しかし、怯えのためか、四つ脚の運びはかなり乱れている。
すぐに大通りに出た。
神殿通りと同じように、人通りが乏しいが皆無ではない。ちらほらと夜の街を歩いている人影にある。
進んでいる通りの先からは、さらにざわめきが近づいてくる。
一郎が紐を引くシャングリアの身体が小さく震えだした。
向かう先に人の声が混じり、灯りが増えている方向だとわかるのだろう。
視界の先が明るくなる。
「この先は王都広場だな。あそこは、夜でも人がいなくなることはない。そこを通って飲み屋街を散歩と行くか」
一郎はシャングリアの首環の紐を引きながら笑った。
【作者より】
しばらくこちらの投稿が止まってますが、最近は『鬼光堂』の別ペンネームで系統の異なる作品を投稿してます。よろしければ、お読みください。