【改訂版】異世界で淫魔師ハレム【コミカライズ作品】 作:ドン・ドナシアン
音もなく、部屋の扉が開いた。
入ってきたのは、黒いフード付きのマントで身を包んだ小柄な人影だった。部屋は闇に沈んでいたが、そろそろ目が慣れていた一郎には、その姿がはっきりと映った。
人影の右手には、銀色の小さな刃物がしっかりと握られている。
その視線は、はっきりと寝台に横たわって小さな寝息をたてている“人”の膨らみに注がれていた。
だが、その小柄な人物の動きがはっとしたように静止した。
違和感を覚えたに違いない。
だが、そのときには、もう遅い。
扉の影に隠れていた一郎は、入ってきた人影の背中を思い切り押してやった。
「きゃあ──」
体勢を崩した人影がその場に倒れる。
だが、すでに両脚はしっかりと床に密着している。
両手を床についた人影は、そのまま四肢を粘着に奪われ、四つん這いの格好で身動きできなくなった。
「うわっ」
人影が驚いている。
「クグルス、灯りをつけろ。もういいぞ」
一郎は言った。
「アイアイサー」
寝台にうずくまったように見せかけていた荷の塊りの横で、一郎のかく寝息をまねた音を出していた魔妖精のクグルスが陽気な声をあげて宙に浮かぶと、卓の上の燭台に指を伸ばした。
蝋燭の火が灯る。
部屋の中がぱっと明るくなった。
「なによ、これ──?」
捕らわれたアサシンが驚いている。
アサシンが見たのは、自分の身体を床に貼りつけるために、床一面に拡げられた粘着性のあるトリモチだろう。
クグルスの魔道でさらに強化して、一度貼りついたら、絶対にひとりでは離れることができないようにさせている。
一郎は素早く、そいつが持っていたナイフを取りあげた。
「な、なんで?」
やってきた刺客は、あまりのことに呆然としている様子だ。
一郎はそいつの被っていたフードを剥ぎ取った。
中から現れたのは、可愛らしい顔をした小柄で若い人間族の女の顔だ。
一郎は魔眼を凝らし、捕えたアサシンの正体を改めて覗き込む。
“コゼ
人間族、女
奴隷
年齢20歳
ジョブ
アサシン(レベル10)
戦士(レベル10)
シーフ(レベル10)
生命力:50
攻撃力:5↓(拘束中)
魔道力:0
経験人数:男25
淫乱レベル:D
快感値:700(通常)
状態
マニエルの奴隷(首輪)”
アサシン……か……。
すなわち、殺し屋だ。
それがずっと一郎の周りをうろついたのはわかっていた。
向こうとしては、気配を殺して接近していたつもりだったかもしれないが、魔眼保持者の一郎に対して、それは不可能だ。
アサシンというジョブを持つ者がずっと付きまとっていることはすぐに気がついた。
そのアサシンはなんとなく、一郎がひとりになるのをずっと待っていた気配だった。
怪我で満足に動けないことになっている一郎には、レジーナかヤンが交代でついていてくれていたので、なかなかその機会がなかったようなのだ。
それで、真夜中になる前にレジーナとヤンを追い返し、ひとりになる状態を作ってやったというわけだ。
すると、案の定、そのアサシンは部屋にこっそりと忍び込んできた。
あとは、どうということはない。
一郎は事前に、床の上に強い粘着性のあるトリモチをクグルスに命じて敷き詰めさせ、さらに、クグルスに頼んで、一郎の気配を消す魔道をかけてもらった。
あとは、のこのこと部屋に入ってきたそのアサシンの背中を一郎はただ思い切り押しただけだ。
まだ、二十歳……。
若い……。
それでジョブレベルが〈レベル10〉というのは、大したものだと思う。
一郎も、この城郭にやってきて改めて知ったのだが、どんなジョブであろうと大抵は、〈レベル5〉以上になるのはまれだ。
〈レベル2〉から〈レベル4〉まで……。
それが常人のレベルのようだ。
〈レベル10〉などというのは、ほとんど見かけることもない。
だから、それが凄いものだというのはわかる。
それを考えると、エリカの戦士レベルは、目の前のコゼというアサシンを上回る〈レベル20〉だ。
エリカもまた図抜けた戦士だというのが、改めてわかる。
いずれにしても、この女がエリカの居場所を知っているのは明らかだ。
エリカをさらったものが、そのエリカの連れである一郎をさっさと始末するために、こいつを送り込んだに決まっているのだ。
「コゼっていう名なんだな? さあ、どういうことか、白状してもらうぞ。なぜ、ここに忍び込んだ? 大かた、エリカをさらった者と関係があるな……。さあ、喋るんだ──」
一郎は、コゼの鼻先に取りあげたばかりのナイフを突きつけた。
「ふっ……。殺しなよ……。あたしとしたことがとんだへまだよ……。なんで、あたしの名を知っているのかわからないけど……。まあいいや……。大して未練のない命だし、さっさと殺しな……。あたしは、あんたを殺しに来た殺し屋だよ。喋れることはそれだけさ」
コゼが無表情で言った。
「俺がこの刃物を使わないとでも思っているのか……? 言っておくが、俺は大事な連れをさらわれて激怒しているんだ……。情報を掴むためにどんなことでもするぞ。その顔を切り刻まれたいか──」
一郎は精一杯の脅し文句を言った。
こういうことは苦手なんだが、そんなことは言っていられない。
しかし、コゼは眉ひとつ動かさなかった。
「顔でもなんでも切り刻みな──。最後にはしっかりと心の臓を抉ってくれるとありがたいね。この首輪のおかげで自殺もできないんだ。あたしをついに殺してくれる者が現れたなんて、なんて今日はいい日なんだろうねえ」
コゼの顔がかすかに自嘲気味に笑った気がした。
駄目だ……。
まったく脅しは効いてないようだ。
一郎はもう一度、ステータスを覗く。
マニエルの奴隷(首輪)
確かに、このコゼの首には、銀色の金属の細い首輪がある。
これが奴隷の首環というものか……。
一郎がこの世界にやってきたときに、最初にアスカに嵌められたものに似ている。
この首輪によって、このコゼは奴隷状態になっているに違いない。
「……お前を送り込んだのはマニエル──。間違いないな?」
一郎は言った。
そのマニエルというのが何者かは知らないが、一郎の推理が正しければ、エリカをさらったのは、そのマニエルだと思った。
そして、そのマニエルは、自分の奴隷であるアサシンのコゼに命じて、一郎を殺させようとしたのだろう。
「へえ……。あたしの名も知っていたし、何者なんだい、あんた? まあいいや……。だったら、あたしに質問なんてしなくてもいいだろう。さっさと殺しなよ。もう覚悟はできてるんだ。それに、拷問なんかしても無駄だよ。首輪の力で口封じをされている。喋ろうとしても喋れない。無駄なことはやめて、あたしを殺しておくれ」
「エリカを連れていったのは、お前の主人のマニエルだな?」
一郎はかまをかけた。
「喋れないと言っているだろう……」
コゼは呆れたという表情で小さく鼻を鳴らした。
すると、一郎とコゼを見守っていたクグルスが大きな声で笑った。
「ご主人様、だったら、さっさと身体に聞けばいいよ。ご主人様の奴隷にしちゃいなよ。そうしたら、今度は逆に命じたことをなんでも喋らざるを得なくなるからさ」
クグルスが笑いながら、コゼを捕えるために床一面に拡げていたトリモチを消滅させた。
もちろん、コゼの手足を密着させている部分についてはそのままだ。
コゼが初めて、ぎょっとした顔になった。
「な、なんだい、こいつ? これはなによ?」
コゼがクグルスを見て目を見開いた。
ずっと無表情だった顔が初めて反応したという感じだ。
「魔妖精で淫魔のクグルスだよ──。ご主人様の正しもべだ」
「魔妖精──? 妖魔……つまり、魔族ということ? な、なに? あんた、何者? 魔族を操っているの?」
コゼが声をあげた。
しかし、一郎は無視した。
それよりも、クグルスの言ったことを考えていた。
このコゼが奴隷としての主人であるマニエルに口封じの命令をされているというのは事実だと思う。
だとすれば、いくら訊問しても、このコゼからは情報は取れない。
しかし、一郎の性奴隷にしてしまえばどうなのだろう……?
すでに、他の者の奴隷状態にある者を一郎の奴隷状態することができるのかどうかはわからないが、やってみる価値はある気がした。
いま、こうしているあいだも、エリカがどんな目に遭っているかはわからないのだ。
「ねえ、どうする、ご主人様? ぼくがこいつの身体に入っちゃう? ぼくの淫魔級は〈20〉だからね……。それに対して、こいつは十だ。エリカよりも低い。だから簡単だ。ぼくよりも、級の低い相手の身体はわけなく乗っ取れるよ」
クグルスが言った。
一郎は少し驚いた。
「お前にも、ジョブレベルがわかるのか?」
クグルスが“級”と称したのは、一郎の魔眼に映っている“ジョブレベル”のことだろう。
一郎は、魔妖精のクグルスもまた、レベルを読み取る力があるのは知らなかった。
「ジョブレベル? 能力級のこと? わかるよ。ぼくたち淫魔にとっては、取り込む相手の力を見極めるのは大事なことだからね。それができない淫魔なんていないよ。ご主人様の能力ももうわかるよ」
「本当か?」
「うん、最初はわかんなかったけどね。いまはわかる。淫魔師級は〈60〉だ。そんな凄い級には出逢ったことないよ。そんな淫魔師に仕えているなんて、ぼく淫魔仲間の中では鼻が高いんだ」
クグルスが朗らかに言った。
だが、いまの説明には、少し腑に落ちないことがあった。
淫魔が身体を乗っ取れるのが、能力級、すなわち、ジョブレベルの上下に関わりがあるのなら、淫魔師〈レベル60〉の一郎を〈レベル20〉のクグルスは乗っ取れなかったはずだ。
しかし、一番最初、このクグルスは一郎の身体に入り込んで一郎を女にしかけた。それはよく覚えている。
それについて聞いた。
しかし、クグルスは笑って首を横に振った。
「あれは、実際には乗っ取ったんじゃなくて、吸い込まれたんだよ。いまではそれがわかる。淫魔は淫魔師の能力だけは外からではわからないんだ。あらゆる力が淫魔師には無効になるからね。だから、ぼくはご主人様を能力級が〈1〉だとしか思わなかったんだ。まあ、いまにして思うと、運がよかったよね」
クグルスは笑って言った。
「い、淫魔師……? 淫魔? ほ、本当に、お前たちは何者?」
会話を聞いていたコゼがびっくりしている。
「……それで、どうする? ご主人様……? ぼくが入る?」
クグルスがもう一度訪ねた。
だが、一郎は首を横に振った。
「不要だ」
コゼの背後に回る。
ナイフを横に置いて、コゼの身に着けていたマントをまくり上げ、さらにズボンと下着を引き下ろした。
「なに? 殺す前に犯すのかい……? まあ、当然か……。どうぞ……。つまらない身体らしいけど、それでもよければね」
コゼが少しほっとしたような口調になった。
犯されるとわかり、安心したような態度になったのはおかしなことだと思ったが、そんな反応だった。
犯され慣れている……?
一瞬、そんな感覚がよぎった。
そういえば、コゼの経験数は、〈男25〉となっている。
この世界の常識にはまだ慣れないが、二十歳の女としては、異常な数の多さだろう。
それは、コゼが奴隷だということに関係があるのだろうか……?
一郎はコゼのズボンと下着を床に張りついている膝までおろして、下半身を剥き出しにした。
そして、後ろから股間の桃色のもやの部分をすっと撫ぜる。
これまで接した女の中でもっとも薄いもやだ。
ほとんど白に近い。
しかも、大抵の女には、あちこちにもやが見えたが、いまのコゼには、ほとんどそれがない。
「はんっ」
とたんに、コゼが四つん這いの背中をのけ反らせた。
一瞬にして、コゼの身体に愉悦が走ったのがわかった。コゼの全身にぱっと股間にあったのと同じような桃色のもやが浮びあがったのだ。
それは剥き出しに下半身であろうと、服を着ている上体であろうと、あちこちにある。
こうなれば、容易い。
一郎は股間をまさぐりつつ、そのもやのある部分を次々に手で刺激を加えていった。
コゼがあっという間に喘ぎだすとともに、快感値がゆっくりと下がり始める。
それは、薄い桃色のもやが、次第に色を濃くして拡がるにつれて、どんどんと加速度的に降下していく。
「な、なに、これ? なにが起きているのよ──、あ、ああっ、わ、わからない……。ああ、くうっ、はああ──」
コゼがこっちまでびっくりするような反応をし始めた。
一郎は慌てて、クグルスにこの部屋から声が廊下に漏れ出るのを防ぐ結界を張らせた。
意外なほどの初心な反応だと思った。
まるで、生まれて初めての快感を味わっているような感じだ。
もしかしたら、これまでの性交では、コゼは自分が気持ちよくなるということを体験したことがないのか?
一郎は背後からコゼの股間に顔をつけ、下側から舌を伸ばした。
「うふうっ」
コゼの身体が激しく震えた。
そのまま、赤いもやの部分を舌で追いかけ回すようにする。
コゼはもう耐えきれない様子だった。一郎の舌先が花弁の裏を這うたびに、腰を左右に震わせ、必死に快感を逃がそうとする。
「な、なにこれ──? な、なに? なに……?」
コゼが喚いている。
「なによ、お前──? いままで男とやったことないの?」
クグルスがからかっているが、もはやコゼには聞こえていないかのようだ。
だが、一郎もそう思った。
それにも関わらず、コゼはたくさんの男との性交の経験がある。
やはり……。
一郎は確信した。
このコゼは、これまで一方的に犯されるような性交しかしてこなかったのだ。
だから、初めて燃えあがろうとしている自分の身体に当惑をしているということのようだ。
一郎には、これまでにコゼを抱いた男たちが、どれだけ冷たくコゼを扱っていたかということがそれだけでわかった。
「だ、だめ……。な、なにか変……。なにか変よ……。あ、ああっ……こ、こんなの……ああっ……変……へんよ……あ、ああ……」
コゼは急激に襲いかかり続ける苛烈な快感に、興奮と歓喜を隠せないようになっている。
すでに股間は愛液でびっしょりだ。
快感値は、〈20/700〉──。
そろそろいいだろう……。
一郎はコゼから顔を離すと、自分の股間を剥き出しにして、ゆっくりとコゼの股間を突いていった。
しかも、膣の中の真っ赤なもやに染まった部分を突き押すように擦っていく。
「ああっ──」
いきなりだった。
コゼが頂上を極めたような声を放ったかと思うと、一気に快感値が〈0〉になり、膣を貫いている一郎の怒張が噴き出した蜜でべっとりとまとわった。
「ふふ……あっという間だね……。なあんだ──。こんなこと平気だよなんて、顔してたから、どうなるのかなあって思っていたけど、やっぱり、ご主人様の手管からは逃げられなかったね」
クグルスがコゼの顔の周りを舞いながら笑った。
だが、コゼはそれどころではないようだ。
一郎の愛撫と抽送は続いている。
しかも、一郎は、一度達したコゼの身体を解放することなく、赤もやを使って、次々に新たな強い刺激を送り続けている。
コゼの快感値は、〈5〉から〈3〉のあいだを前後している状態で維持させた。
快楽の極みをずっと彷徨いつづけさせられている状態だろう。
一郎はコゼを責め続けた。
そのコゼに一郎が精を放ったのは、コゼが二度目の絶頂をしたときだ。
コゼの心を鷲づかみにした感覚が襲う……。
孕ませるも、性奴隷にするも自在だ。
それが一郎にはわかる。
孕ませない……。
性奴隷にする……。
一郎は念じた。
コゼが一郎の支配に陥ったのがわかった。
そのときだった……。
突然に、コゼの首にあった奴隷の首環が音をたててふたつに割れてその場に落ちた。
「わっ、ご主人様の支配力が勝った──。奴隷の首環の支配よりも、ご主人様の支配力が遥かに強かったから首輪が外れたんだ──。こうなると思ったんだ──。やっぱり、ぼくのご主人様はすごいよ」
クグルスが陽気な声をあげた。
一郎はコゼから怒張を抜いた。
すると、コゼが身体を震わせて、しくしくと泣き始めた。
一郎は驚いてしまった。
「あ、ありがとうございます……。ありがとうございます……。ありがとう……」
しかも、小さな声で繰り返し礼を述べている。一郎はどうにも理解できず、戸惑いを覚えた。
「クグルス、もういい。トリモチを外せ」
とりあえず、一郎はコゼの拘束を取り去ることにした。
すぐに、コゼの手足を床に貼りつけていたトリモチが消滅して、コゼが自由になる。
コゼは支えるものがなくなって力尽きたかのように、横倒しに床に尻もちをついた。そして、いまだに泣きながら、ありがとうと繰り返してる。
「こいつ、どうしちゃったの? なんで、お礼言ってんの?」
クグルスがコゼの周りを舞いながら呆れたように笑った。
それは、一郎にもわからない。
犯されて泣くというのはわかるが、礼を言われるというのは理解の外だ。
「ねえ、ねえ、お前、なんでお礼を言ってんの? そんなに気持ちよかったの?」
クグルスがからかうように、コゼに言った。
「う、うん……。気持ちよかった……。こんなの初めて……。な、なんかわからないけど……お礼を言いたくなって……」
すると、コゼが素直に頷いた。
一郎はコゼの可愛い反応に、思わずにんまりしてしまった。
「とにかく、服を直せ、コゼ」
一郎は荷から布を取り出してコゼに放った。コゼはまだ、ズボンと下着を膝まで下げたままの状態だ。
「あっ、はい……」
しかし、布を受け取ったコゼは、それを持ったまま困惑したような表情になっている。
「なにをしている。さっさとやれ」
一郎は呆然としている様子のコゼに言った。
「あ、は、はい……。で、でも、こんなにきれいな布を使っていいのですか……?」
「きれい?」
一郎が渡したのは普通の布だ。洗濯はしているが、きれいというほどのものじゃない。
「は、はい……。あ、あたしみたいな女が使うのは雑巾じゃないといけないと……」
「雑巾? なにを言っているかわからないが、とにかく、それで股を拭いて、服を着ろ。訊ねたいことがある。マニエルという男の居場所を教えろ」
一郎は言った。
コゼが慌てたように動き始める。
だが、布で股間をぬぐうのかと思ったら、膝立ちになって、自分の股間の真下に布を拡げ、指で自分の股間に手を入れて中の精を掻きだすようにし始めた。
少しだけ一郎は驚いてしまった。
それで気がついたが、コゼの股間には一本の恥毛もない。まるで童女の股間のように亀裂があるだけだ。
やがて、指で始末が終わったのか、やっと布を持った。だが、困ったように手を止め、結局、その布の隅の方で遠慮がちに股間を拭いた。
そして、下着とズボンを身に着けた。
「いつも、そんな風にやっているのか?」
コゼが服を整えるのを待ち、一郎は訊ねた。
なんとなく、そんな感じだった。
「い、いえ……。犯されたときは、いつも指で掻き出すだけで……。それから、井戸水と酢で自分で洗います。子種が残らないようにそうするように命じられてるんです……。あたしはアサシンですから……。孕めば仕事ができません……」
コゼがつぶやくように言った。
声が小さいのは、自分の心境の変化に当惑しているという感じだ。
無理もない。
たったいままで、コゼは奴隷の首環のために、マニエルという主人の支配にあった。
それが、一瞬にして、見知らぬ一郎の奴隷状態になったのだ。
心もそう陥っているはずだ。だが、頭がそれに追いつけずに、困惑状態にあるのだろう。
それにしても、孕んだら困るというのはわかるが、この世界にはサビナ草という絶対の避妊薬がある。それを使わないのかと訊ねた。
しかし、コゼはびっくりしたように首を横に振った。
「あたしは奴隷です。そんな高価なもの……」
これには、一郎の方が驚いた。
サビナ草は二束三文で買えるほど安価なものだ。一郎も市場で見かけた。だからこそ、コゼが“高価”と言ったことに驚かされた。
それを高価というのだから、このコゼは余程にひどい扱いを普段から受けているのだろうか……?
「あ、あの……。あたし、どうしてしまったんでしょう……。なんで首輪が……」
コゼは、ふたつに割れて壊れた首輪を茫然と見ている。
「お前は、ご主人様の奴隷になったんだよ。性奴隷にね」
クグルスが言った。
「奴隷……? 新しいご主人様ということ……? で、でも、なんで首輪が……。それに、首輪がなくて、どうやって……」
コゼがクグルスに視線を向けた。
「ご主人様は首輪なんてものは使わないんだよ。ご主人様が使うのは、ご自身の精だ。それで、お前は支配されたんだ」
「あ、ああ……。そういえば、淫魔師だとか……。つまり、あたしは呪術に捉われたということなんですね? それで首輪が弾けてしまったと……」
「まあ、そういうことだ。不本意だろうが、こうなったら覚悟を決めろ。お前は俺の囚われになったんだ。嫌でも俺に従ってもらうからな」
一郎は横から言った。
「い、いえ……。全然……。不本意だとか、嫌だとかはまったく……。ただ、驚いただけです……。あ、あの、よろしくお願いします……。……というか……あたしを飼ってくれるんですか?」
コゼが一郎に顔を向けた。
しかし、一郎は戸惑ってしまった。
エリカの居場所を吐かせるために、このコゼを奴隷状態にしたのだが、よく考えれば、奴隷にするということは、一緒に連れていくということになるのかもしれない。
解放するという手もあるが、エリカもそうだったが、一度支配してしまうと、今度はそれをなくすのは、むしろずっと難しいのだ。
まあいい……。
それは後で考えることにしよう。
それよりも、エリカのことだ……。
一郎が訊ねると、コゼはエリカの居場所をあっさりと口にした。
マニエルというのは、この城郭で金貸しをしている分限者だった。
だが、金貸しの商売の傍ら、最近ではもっぱら闇奴隷の売買もやっているということのようだ。
ゼッケルという国境監視団長と組んで、入国希望の旅人から、美貌で係累のないような若い女を見つけると、誘拐して奴隷の首輪を嵌めて闇奴隷として売り飛ばすという商売をしているらしい。
レジーナがこの街には、奴隷商はいないと言っていたが、それは事実だったようだ。
ただし、闇奴隷商はいた。
もしかしたら、レジーナはマニエルのことを知っていたのかもしれない。
なにかを隠している素振りを感じたのは、そのせいだったのだろう。
しかし、教えると、怪我をしていると思い込んでいる一郎がそこに行くと思って、心配して隠したのだと思う。
いずれにしても、エリカは、その闇奴隷商のマニエルに捕らわれてしまったのだ。
居場所もわかった。
分限者の屋敷に、さらった女を調教する場所があり、そこに監禁されているようだ。
コゼ自身もエリカを運ぶのを手伝っていて、それは確からしい。
ただ、分限者には、コゼのような腕の立つ用心棒が大勢いて、簡単に助け出すということにもいかないようだ。
一郎は思案した。
そして、壊れた奴隷の首輪にふと目をやった。
「クグルス、その首輪を直せるか? 装着されたものを支配する機能は壊れたままでいい。ただ、コゼの首輪を元通りに嵌めさせたいんだ」
「そんなの簡単にできるよ……。でも、どうするの?」
クグルスが一郎を見る。
「コゼに手引きさせて屋敷に侵入する。ただ、首輪がなくなっていては、コゼがマニエルの支配から逃れてしまったのが、ばれてしまう」
「わかった。コゼ、首輪を首にあてて、両手で押さえてよ」
クグルスがコゼに言った。
「こう?」
コゼが素直に割れた首輪を拾って、両手で持って首に嵌める。
クグルスが手を振った。
首輪は元の通りにコゼの首に収まった。あっという間だ。
「なにも変わらない……。ご主人様はこの方……。それは変化ない……。よかった……」
コゼが一郎に視線を向けた。
心の底からほっとしている様子だ。
でも、マニエルという男の隷属からは外れたが、今度は新たに、一郎の奴隷になっただけなのだが……。
「当たり前だよ。能力級〈60〉の淫魔師様だよ──。その支配から逃れられるわけないよ。名前はロウ様だ。覚えておきな。一所懸命に仕えるんだよ」
クグルスが偉そうに言う。
一郎は笑ってしまった。
「そ、それはもちろん……。だけど……」
コゼがすっと一郎から視線を外すように下を向く。
「だけど、なんだ?」
一郎はコゼを見た。
なんだか赤い顔をしている。
「そ、その……。あなたの……ご主人様の奴隷になったら……。そ、その……また、あの気持ちよさを与えてくれるんでしょうか。時々でいいんです……。でも……できれば……あのお情けを、もう一度……」
コゼがもじもじしながら言った。
一郎は思わず頬が緩むのを感じた。
「なに言ってんだよ、コゼ──。それが性奴隷の仕事だよ。このロウ様というご主人様は絶倫だからね──。いままではエリカひとりだけだったから、エリカも大変だったけど、これからはお前もいるから、少しはましになるだろう」
「エリカ様……。わかりました」
コゼが真剣な表情で頷いている。
「とにかく、毎日、エリカと一緒にご主人様と性を交わすんだ。それがお前たち性奴隷の仕事だ。大変だけど頑張るんだ」
「そ、それは、大変なんかじゃ……。むしろ嬉しいというか……」
コゼが口の中でごにょごにょと言った。
それにしても、クグルスの物言いは大袈裟だと思った。
「クグルス、俺はそんなに絶倫でもなければ、色狂いでもないぞ。まあ、確かに淫魔師に覚醒してから好色になってるのはわかるけど……」
一郎は苦笑した。
「ええっ──? ご主人様、自覚ないの? 体力のあるエリカだから、もってるんだよ。普通だったら、エリカみたいに相手するのは無理なんだよ」
すると、今度はクグルスが驚いた声をあげた。