※この作品はR-18です。

【改訂版】異世界で淫魔師ハレム【コミカライズ作品】   作:ドン・ドナシアン

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036 厠女の反逆

「あがああああ──」

 

 後手縛りで逆さ吊りされているエルフ娘の身体がのたうちまわった。

 エルフ娘の股に装着させている貞操帯の内側で肛門に挿し入れている棒状の淫具から、魔道で電撃を発生させたのだ。

 尻に強い電撃を浴びせられたエルフ娘は、あまりの苦痛に雄叫びをあげて、全身を痙攣させている。

 

 マニエルは椅子の手摺りに載せている指を軽くあげて合図をした。

 魔道具を操作している部下の調教師がエルフ娘に加えている電撃を止めた。

 貞操帯だけを身につけている脂汗びっしょりのエルフ娘の裸身ががっくりと脱力する。

 

「どうだ? ここにいる男たちの珍棒を口で咥える気になったか? ここには、俺を含めて十人の男がいる。その全員の珍棒から精を出し終えたら、逆さ吊りから解放してやろうと言っておるだろう」

 

 マニエルは、逆さ吊りのエルフ娘の正面に置かせた椅子に深く腰掛けたまま言った。

 すると、エルフ娘が険しい形相でマニエルを睨みつけた。

 長時間の逆さ吊りで、もう意識を保つのも大変だと思うのだが、まだまだ気力は保っている。

 

「ふ、ふざけるんじゃないわよ。わたしの口の中に汚らしいものを入れてごらんなさい──。どれもこれも、噛み千切ってやるからね──」

 

 そして、エルフ娘の口から唾が飛んできた。

 さすがに、もうここまで唾を飛ばす力もないようだが、それでもそんな悪態をつく力は残っているらしい。

 

「わっ、こいつ、また……」

 

 エルフ娘の調教を手伝わせるために集まっている十人ほどの部下のうち、スラというマニエルの護衛頭が血相を変えた

 直接調教をしているふたりの調教係と、椅子に腰かけているマニエル以外の全員が、手持ち無沙汰の様子で床に座っていたのだが、そのスラがすっくと立ちあがった。

 しかも、エルフ娘を殴り掛からんばかりの表情だ。

 マニエルは慌てた。

 

「待たんか、スラ──。それは売り物だぞ。傷をつけるな──」

 

 マニエルは怒鳴った。

 スラがエルフ娘に歩み寄りかけた足をとめて、面白くなさそうに再び元の位置に戻って座り込む。

 

「だけど、マニエル様、こんな小生意気なエルフ娘なんて、ちょっとばかり痛い目に遭わせてやれば、すぐにいうことをききますよ。こんなまどろっこしいことしてないで、殴りつけてやればいいじゃないですか」

 

 スラが吠えるように言った。

 忠実で頼りになる護衛頭だが、血の気の多いのが玉に傷だ。

 それに、スラには尻穴に電撃を浴びせられるのが、どんなに残酷な拷問であるのか想像ができないようだ。

 殴ったり蹴ったりして屈服するくらいなら、電撃でとうの昔に落ちている。

 

 だが、こうやって逆さ吊りの態勢にしてから、もう二ノスは経つだろう。エルフ娘は屈伏の気配すらない。

 マニエルを主人として奴隷の支配を刻ませた奴隷の首輪は、すでに装着させていた。だが、エルフ娘の心は奴隷の首輪に支配された形跡がない。

 

 これはどういうことだろう?

 マニエルは初めてのことで当惑してしまっていた。

 この絶世の美女であるエルフ娘を国境警備団長のゼッケルから買い取ってこの屋敷の調教部屋に連れてきたのは、昼過ぎのことだ。

 すぐに、いつものように奴隷の首輪を嵌めさせ、まだ薬剤で頭が朦朧としている状態のときに、催眠の魔道で奴隷になるとはっきりと口にさせた。

 自覚があろうとなかろうと、言の葉として口に出せば、それで奴隷の首輪の支配はしっかりと刻まれてしまう──。

 

 そうなるはずだった。

 

 これまでもそうだったし、例外はなかった。

 しかし、このエルフ娘については、首輪の支配が効かないいのだ。

 本来であれば、首輪の支配を利用して、ここに集めた男たちの性器を舐めさせ、首輪の支配だけでなく、はっきりと奴隷の心を刻み込んでやるつもりだった。

 

 だが、このエルフ娘は頑強に抵抗し続けている。

 もちろん、後ろ手に縄で縛っている両手の手首には、魔道封じの腕輪をさせているが、それがなければ、いまにも魔道でも、剣でも、死ぬまで抵抗し続けるような気配だ。

 

 とにかく大変に気の強い娘であり、国境警備団の検査で示したマゾ気質とは違う側面に接して、マニエルは少し意表を突かれていた。

 

 まあ、こんなに気の強い娘が、ひとたび性的嗜虐を加えれば、たちまちに屈服してしまうというのにたまらない魅力を感じる愛好家は大勢いると思う。

 間違いなく大金になる素質はあるのだが、ただ奴隷として支配できないというのでは売り物にならない。

 マニエルは困ってしまっていた。

 

「ねえ、少し、俺に任せてくれませんか? 俺がちょっとばかり、痛めつけてやりますよ。怪我は魔道で治療してやればいいでしょう。こんな女、びんたの数発ですぐに落ちます。全員の珍棒を舐めることを承知させてやりますから」

 

 スラが壁に背をつけたまま大きな声で言った。

 

「な、殴るんなら殴りなさい──。その手でも足でも、思い切り噛みついてやるからね──」

 

 エルフ娘が怒鳴った。

 マニエルは感嘆した。

 これは大変な娘だ……。

 

「な、なんだと──」

 

 スラの顔がまた真っ赤になった。

 マニエルは溜息をついた。

 

「やめんか、スラ──。暴力で屈するなら電撃で屈する。調教が進むまで黙っておれないなら、いいから出ていくがいい──。いや、今夜は無理かもしれんな……。しばらくは、俺と調教師だけでよい──。ほかの者は出ていけ」

 

 マニエルは言った。

 もともと、エルフ娘の調教は、見知らぬ大勢の男たちの性器を舐めさせるところから始めるつもりだった。

 だから、調教師ではないマニエルの部下たちを集めたのだ。

 だが、首輪の支配の効果がなく、心の屈伏から始めなければならないのであれば話は別だ。

 調教師以外の者は邪魔でしかない。

 

「ちぇっ。面白くねえなあ──。今夜は、(かわや)女もいねえしな──」

 

 スラが舌打ちして立ちあがった。ほかの者も続く。

 厠女というのは、マニエルのもうひとりの用心棒であり、アサシンとしても使っている女奴隷のコゼだ。

 

 凄腕の殺し屋として便利に用いている若い女だが、スラをはじめ血の気の多い男の部下を慰めるための女としても、その身体を使わせている。

 スラが厠女と呼んだのは、男たちの溜まった精を抜くのに使う道具として、コゼが全員共用の抱き女のような立場にあるからだ。

 

 コゼは腕が立ち、スラたちよりも腕ははるかに上だ。

 だが、「主人」であるマニエルの命令により、スラたちには逆らわずに身体を提供するようにさせていた。

 そんなコゼをスラたちは厠女と呼んで蔑んでいるのだ。

 

「では、続けろ。もう一度、尻に電撃を流せ。今度は股間も同時にだ」

 

「ぎゃああああっ」

 

 乾いた叫び声が掠れ、もはや絶叫というより呻きに近かった。

 逆さ吊りの裸身は力なく震え、汗と涙で濡れた髪が床に散って揺れる。

 

 そのときだった──。

 不意に、戸が外側から開いた。

 

 入ってきたのはコゼだった。

 コゼには、このエルフ娘の連れの人間族の男を殺すように命じていたのだが、もう終わったに違いない。

 

 それにしても、このエルフ娘を調教したというその人間族の若い男は、どうやって、この娘を飼い馴らしたのだろうか……?

 あっさりと殺す前に、それを聞いておくべきだったかもしれない。

 マニエルはちょっと後悔した。

 

「おう、厠女──。ちょうどいい──。新しい奴隷女に抜かせるつもりだったのが当てが外れてな──。お前の股を使うから、ちょっと横になれ」

 

 スラがコゼを掴んで怒鳴っている。

 マニエルは苦笑して、視線をエルフ娘に戻した。

 

「ぐあっ」

 

 そのとき、突然に呻き声が部屋にとどろいた。

 マニエルは驚いて、もう一度振り返った。

 

 


 

 

 面白くなかった。

 

 スラは、苛つきをエルフ娘にぶつけ損なって、仕方なく座り込んだ。

 こんな女、スラのデカ珍を突っ込んで掻き回してやれば、ひいひい言って泣き喚き、あっという間に堕ちるに決まってる。

 マニエルがやるような、まどろっこしい「調教」なんて必要ないのだ。

 

「ねえ、少し、俺に任せてくれませんか? 俺がちょっとばかり、痛めつけてやりますよ。怪我は魔道で治療してやればいいでしょう。こんな女、びんたの数発ですぐに落ちます。全員の珍棒を舐めることを承知させてやりますから」

 

 だが、やっぱりスラは我慢できなくなり、マニエルに訴えた。

 

 とにかく、出したい。

 股でも、口でもどこでもいい。

 ぶちまけたい。

 

 今日はエルフ娘を犯せると聞いていたので、股間はいまや遅しと、その瞬間を待ち望んでいるのだ。

 たぎりたった性欲が沸騰しそうだ。

 

 予定では、もうすでに二、三発の精は放ち終わっている頃だ。

 入国検査でさらってきたこの性奴隷候補の首に「奴隷の首輪」を嵌め、マニエルの「命令」でエルフ娘にまずはここにいる全員の珍棒を舐めさせることになっていたのだ。

 だが、すっかりと当てが外れてしまった。

 

 なぜか、このエルフ娘にはマニエルが事前に施した「奴隷の首輪」の効果がないらしい。

 それで、マニエルは「調教」の手段として予定していた、マニエルの部下全員に舌奉仕をさせるのを取り止め、じっくりと屈服させるやり方に変更しそうな気配だ。

 

 だが、そんなことになったら、この珍棒はどうなる?

 溜まった精をどうやって処理すればいのだ。

 

 今夜は、いつもの厠女はいない。

 あのコゼは、マニエルに命じられて、なにかの仕事をしにいった雰囲気だ。

 

 それも、面白くない……。

 

 マニエルが、武芸の技については護衛頭のスラよりも、女奴隷のコゼを買っているのはよくわかる。

 護衛が一名しかつけられない状況のときは、スラでなく、コゼを使うし、スラに教えることのない特命をコゼに与えたりする。

 本当に苛つくことばかりだ。

 

「な、殴るんなら殴りなさい──。その手でも足でも、思い切り噛みついてやるからね──」

 

 すると、いきなりエルフ娘が怒鳴ってきた。

 スラはかっとした。

 

「な、なんだと──」

 

 スラは今度こそ、生意気なエルフ娘を蹴り飛ばしてやろうと思った。

 逆さ吊りになっているエルフ娘の顔はちょうどスラの腰の高さだ。

 二、三発蹴りあげるのにちょうどいい。

 スラは再び腰をあげかけた。

 棒切れのように蹴り揺らしてやる。

 

「やめんか、スラ──。暴力で屈するなら電撃で屈する。調教が進むまで黙っておれないなら、いいから出ていくがいい──。いや、今夜は無理かもしれんな……。しばらくは、俺と調教師だけでよい──。ほかの者は出ていけ」

 

 しかし、マニエルに大声でたしなめられた。

 一応は、スラの雇い主だ。

 スラはこれ見よがしに舌打ちをした。

 

 だが、それはエルフ娘のけたたましい悲鳴にかき消された。マニエルがエルフ娘の股間と尻の穴に魔道具で電撃を流したのだ。

 もう、マニエルはスラを見ていない……。

 

 スラも、今夜はエルフ娘に精を放つことは不可能だと知るしかなかった。

 仕方なく、ほかの男たちを促して立ちあがった。

 

 とにかく、出したい。

 なんでもいい。

 

 誰でもいい……。

 犯したい。

 女に精を放ちたい──。

 

 心の中で罵りながら扉に向かうと、不意に、この地下の拷問部屋に入る扉が外から開いた。

 入ってきたのは厠女のコゼだ。

 スラは嬉しくて声をあげていた。

 

「おう、厠女──。ちょうどいい──。新しい奴隷女に抜かせるつもりだったのが当てが外れてな──。お前の股を使うから、ちょっと横になれ」

 

 スラは言った。

 

 このコゼを初めて犯してやったのは七年くらい前だった。

 コゼが十三くらいで、まだまだ童女の面影を十分に残していた頃だ。

 スラがマニエルに雇われる前であり、その腕を試すということでマニエルの奴隷のコゼと木剣で戦わされたのだ。

 

 結果はスラの完膚無き敗けだった。

 スラはたった十三歳の少女に、剣の腕で歯が立たなかったのだ。

 結果的にマニエルは、スラを雇ってくれることになったが、スラは負けたことが面白くなかった。

 それで、その日の夜に、数名を誘って、小娘のコゼを襲おうとした。

 そのときもスラは、逆にコゼに倒されてしまった。

 しかも、コゼは持っていた小さなナイフでスラの喉を掻き切ろうとしたのだ。

 

 あのときの恐怖はいまでも、頭に焼きついている。

 人を殺すことにほんの欠片の躊躇いもない……。

 そんな眼だった。

 

 もしも、その場にマニエルが駆けつけてくれなかったら、一瞬後にはコゼは間違いなくスラを殺していたと思う。

 

 だが、マニエルはコゼを止めた。

 コゼはマニエルを「主人」とする奴隷の首輪を首につけられている。

 一切の命令には逆らえない。

 命拾いした瞬間だった。

 

 しかし、そのときマニエルは意外な反応を示した。

 勝手に奴隷のコゼを襲ったスラを咎めるかと思えば、こんな童女で満足するなら、自由に使っていいと言ったのだ。

 つまり、マニエルはスラたちにコゼを犯すことを許可したのだ。

 ただし、身体を傷つけないことが条件だ。

 そして、マニエルはコゼに、これ以降、スラに逆らうことを禁止した。

 

 スラは呆気にとられた。

 そして、狂喜した。

 殺されると思った少女を思う存分に凌辱できるのだ。

 

 スラはコゼを犯した。

 まだ、処女だったが、その日からコゼはスラたち全員の厠女になった。

 

 そして、七年──。

 

 あのときには、まだ子供っぽかったコゼも、いまでは奮い起つようないい女に成長した。

 ただ、いまだにスラたちの厠女であることは変わりない。

 どっちにでも、性欲の苛立ちを鎮めるには、目の前の厠女を犯すのがちょうどいい……。

 

「早く、服を脱いで、けつをこっちに向けな、コゼ──。命令だ。また、おれのデカ珍で、ひいひい泣かしてやるぜ」

 

 スラはズボンをおろしながら言った。

 エルフ娘に精を出し損った一物はすでに勃起状態だ。

 コゼが無表情のまま、腰からなにかを抜いて、さっと手を払った。

 なにが起きたかわからなかったが、気がつくと股間から血が噴き出している。

 股から性器がなくなっていた。

 スラは絶叫した。

 

「ひとつだけ言っておくよ……」

 

 その場に跪いてしまったスラの喉にぴたりとコゼの持つ刃物が当たった。

 

「……あんたに犯されて、ひいひいなんて泣いたことはないね……。その方がさっさと終わるから、そう言っていただけよ……」

 

 コゼが刃物を横に払った。

 それがスラの最後の知覚になった。

 

 


 

 

 騒然となった。

 

 一郎は扉の外から、コゼが大男を惨殺するのを目の当たりにして茫然としてしまった。

 

 一郎に犯されて、可愛らしくよがり狂った女の姿はそこにはない。

 ただ、冷酷に人を殺すアサシンとしての姿があるだけだ。

 

 一郎も淫魔術がなければ、股間と喉を斬り裂かれた男と同じ運命を辿っていたのだろう。

 改めて、ぞっとした。

 

 だが、考えている暇はない。

 一郎も部屋に雪崩れ込む。

 

 必撃の剣でとりあえず前にいた男を斬った。

 死んだのか、怪我をしただけかはわからないが、血飛沫をあげてそいつが倒れた。

 

 急いで剣を収める。

 一度剣を振ったら、すぐに収めて抜く。

 それしか、一郎には戦いようもない。

 

 そのあいだに斬りかかられれば終わりだが、その心配はなさそうだった。

 コゼがしっかりと一郎をガードするように前を防ぎながら、両手に持った短剣で、踊るように周りの男たちの喉を斬り裂いて回っている。

 

 それが凄まじい。

 

 ほとんどひと振りで確実に相手を仕留めている。

 コゼは両手に短剣を握っているので、一瞬ごとにふたりいなくなる計算だ。

 一郎がもう一度剣を抜いたときには、抵抗する者はいなくなり、数名が尻餅をついて震えているだけになっていた。

 

 一郎はエリカを探した。

 この部屋にいることは部屋に入る前からわかっている。

 

 いた──。

 

「エリカ──」

 

 叫んだ。

 エリカは革の貞操帯一枚の裸で逆さ吊りになっていた。

 両手は背中側に縄で縛られてもいて、拷問を受けていたらしく、かなり衰弱している感じだ。

 しかも、朦朧としている。

 

「なんだ、なんだ、お前たちは──?」

 

 エリカの横にいる太った男が金切り声で叫んだ。

 一郎の魔眼に、“マニエル”という名が映った。

 さらに、商人と奴隷商のふたつのジョブも見える。

 こいつが主犯か……。

 一郎は剣を持ったまま、歩み寄った。

 

 一方で、戦闘はすでに終わっている。

 一郎がひとりを斬った以外はすべてコゼが倒していた。

 残りはマニエルを含めて三人──。

 三人とも武器を持っていないし、戦士のジョブもない。

 

「マニエル以外は皆殺しにしろ、コゼ……。ひとりも逃がすな」

 

 一郎は言った。

 ひとりでも逃がせば、一郎たちがマニエルの屋敷を襲ったのが発覚する。

 マニエルには国境監視団がついている。

 訴えられて、一郎たちの顔と名が割れれば、うまく逃げおおせても、その日からお尋ね者だ。

 

 可哀想だが全員に死んでもらうしかない。

 この屋敷には、ほかにも家人がいることはわかっているが、マニエルがやっていた闇奴隷商売を隠すために、この誘拐奴隷の監禁場所は屋敷とは隔離された場所にしていたようだ。

 それが幸いし、おかげで、ここまでうまく誰にも会わずに忍び込めた。

 帰りもコゼの手引きがあれば、うまい具合にこっそり逃亡できると思う。

 

 ただ、国境監視団がエリカを引き渡した夜に起こったマニエルたちの惨殺だ。

 逃亡したとしても、若いエルフ女と人間のふたりのことを思い出し、それと関連づけて、一郎たちに結びつく可能性はある。

 

 しかし、それはコゼが否定した。

 コゼは国境監視団長のこともよく知っていて、マニエルが死ねば、肩代わりしてもらっていた借金を返さなくてよくなり喜ぶだけで、犯人を探して追いかけようとする男ではないというのだ。

 むしろ、怖いのはマニエルの息のかかった者たちであり、それは主人を殺されたことを根に持ち、復讐を企てる可能性はあるそうだ。

 従って、この場にいる誰も逃がしてはならない──。

 それが結論だ。

 

「かしこまりました、ご主人様……」

 

 コゼが壁に張りついて怯えている男ふたりに歩いていった。

 一郎の魔眼には、ふたりのジョブは「調教師」とある。

 コゼがふたりの前で短剣を動かした。

 ふたりの悲鳴がかき消え、一郎の頭の中からふたりのステータスが消滅した。

 

「ロ、ロウ様……」

 

 逆さ吊りのエリカが一郎を認めて、ぼろぼろと涙をこぼし出した。

 

「な、なんだ、お前たちは──。コゼ、こいつを殺せ──。命令だ──。お前の主人の俺の命令だ──」

 

 マニエルが悲鳴をあげた。

 

「新しいご主人様……。この男もあたしが殺していいですか……? この男は一度もあたしを人間扱いしませんでした……。あたしはずっとこいつを殺したいと思っていたんです……」

 

 コゼが血だらけの短剣を両手で握ったままやって来る。

 マニエルがひきつったような声をあげた。

 

「欲張るなよ、コゼ……」

 

 一郎は剣を抜いて、そのマニエルに刃先を突きつける。

 

「俺はエリカのご主人様だ……。エリカをおろせ……」

 

 自分でも信じられないくらいに冷静だった。

 一郎はいまからこのマニエルを殺すつもりだ……。

 だが、驚くほどに躊躇いがない。

 

 苦しそうなエリカの姿に接すると、エリカがどんなに酷い目に遭ったかというのは想像して余りある。

 エリカをそんな風に扱っていいのは一郎だけだ。

 一郎のはらわたは煮え返っていた。

 

「わかった……。おろす……。おろすから……」

 

 マニエルが床を這い進み出す。

 どうやら、腰が抜けてしまったようだ。

 マニエルが壁にある操作具に取りついた。

 エリカの身体がさがり、床に横倒しなる。

 

「俺のものに手を出した酬いをくれてやる。それから、コゼはもらっていく。お前には勿体ない女だ……」

 

 一郎は剣を構えた。

 最初のひと太刀目までなら、殺し損なうことはない……。

 まだ、ひと太刀目だ。

 

「か、金なら……」

 

 それがマニエルの最後の言葉になった。

 一郎の剣は見事にマニエルの心臓を貫いた。

 

 一度目の殺人は、あのエルフの里でイライジャを助けるためにやった。そのときは手の震えがしばらく収まらなかった……。

 二度目の人殺しには、まったくの動揺もない。

 死んで当然の男を殺した……。

 思ったのはそれだけだ……。

 

「エリカ……」

 

 一郎は剣を収めてエリカに振り向いた。

 エリカは嗚咽をして、泣きべそをかいている。

 一郎はまだ縛られたままのエリカを抱きかかえた。

 

「ロウ様……、大丈夫ですか……? お怪我は……?」

 

 エリカが泣きながらそう言った。

 一郎は苦笑した。

 この状況で、まず最初に一郎の心配をするなど、いかにもエリカらしい。

 

「俺は大丈夫だよ……。それよりも、俺以外の者に嗜虐されやがって……。それで気持ちよくよがったか、このマゾ女? お仕置きするからな……」

 

 一郎はエリカの縄を解きながらうそぶいた。

 

「気持ちよくなんかありません──。ロウ様以外なんか、気持ち悪いだけです──」

 

 エリカが憤慨して怒鳴った。

 

「わかった、わかった……」

 

 一郎は笑った。

 

「あ、あのう、ご主人様……。これはエリカ様の足枷の鍵です……。殺した調教師が持っていました……。ただ、はかされているものを外す鍵がないんです。探したんですが、ご主人様も……いえ、マニエルも調教師のふたりも持っていませんでした……」

 

 コゼが鍵を差し出しながら困ったように言った。

 コゼはエリカを前にして緊張しているようだ。

 一郎は鍵を受け取り、まずは枷を外す。

 これで逃げられる。

 

 まあ、貞操帯の鍵がないらしいが、どうにでもなるだろう。

 エリカの身体が快復すれば、エリカ自身でも外せる……。

 しかし、拷問を受けて弱っているいまは無理だろうが……。

 

「このまま、エリカは連れていく。逃げさえすれば、外すのはどうということもない。逃げるのが先だ……」

 

 一郎はそう告げてから、コゼをエリカの視線の前に導いた。

 

「……ところで、エリカ──。新しい旅の仲間だ。コゼという。お前を助けるために成り行きで性奴隷にした。一緒に連れていく……。よろしく頼むな」

 

「そう……。わたしはエリカよ。よろしく……」

 

 エリカはにっこりと微笑んだ。

 

「よ、よろしくお願いします、奥様──。奴隷のコゼです──。そ、それと、ご主人様のお情けをもらってしまいました。申し訳ありません」

 

 すると、なにを思ったのか、いきなり、コゼが短剣をその場に置いて、がばりと床にひれ伏した。

 一郎はびっくりした。

 だが、エリカは噴き出した。

 

「馬鹿ねえ……。わたしも性奴隷よ。ロウ様のね……。あなたもロウ様の性奴隷になったんでしょう? 仲良くしましょう」

 

 エリカは言った。

 

「えっ?」

 

 コゼが当惑した声をあげる。

 

「とにかく、話は後だ──。エリカの荷はもう把握している。杖も手形も無事だ。もう逃げるだけだ。そら、おぶされ、エリカ」

 

「で、でも……」

 

 少しだけエリカが躊躇いの声をあげた。

 

「いいから」

 

 一郎は怒鳴った。

 

 エリカが少し照れたような表情になった。

 そして、一郎の首に手を回してぎゅっと抱きつくと、嬉しそうに背中に身体を預けてきた。

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