【改訂版】異世界で淫魔師ハレム【コミカライズ作品】 作:ドン・ドナシアン
身体が疼いていた。
コゼは、ロウとともにハロンドール王国の山中を進んでいた。
王国を縦断する大街道から外れた脇道のひとつで、山村と山村を繋ぐ細い山道である。路面は一応ならされてはいるが、幅は狭く、小さな荷車ならともかく馬車は通れない。
そんな道だから、行き交う旅人も限られていた。朝に出立してから、見かけた人影はほんの数人。それも村の近くに限られ、山道に入ってからは誰とも出会っていない。
日はすでに中天近くにあるが、両脇の木々が影を落としてくれて、暑さを感じることはなかった。
それにしても、こんな寂れた道でも整備が行き届いているのは、この地を治める領主の力が及んでいるからだろう。
峠を含むこの一帯の領主は誰だったか……伯爵か、侯爵か。それとも国王直轄地か……。
──考えても仕方がない。
いまコゼを悩ませているのは、別のことだ。
朝からまとわりついて離れない、不快な疼き……。
理由はわかっている。
昨夜はいつものようにロウに抱いてもらったが、絶頂には一度も達せず、寸止めばかりで放置された。
今朝もまた、出立前に同じように弄ばれたまま満たされず、こうして歩かされているのだ。
ロウは時折こうした悪戯をする。
大好きな人だが、嗜虐を愉しむ気質があり、ふたりきりの旅の相手であるコゼをわざと焦らし、苦しめてみせるのである。
だからコゼも、そんなロウに喜んでもらいたくて、自ら「マゾ」になった。
ロウに教えられた言葉──嗜虐されて欲情する性癖を指す、彼の国の言葉……。
それをいまでは大切なものとして胸に抱いている。
ロウのためなら、なんでもできる──。
なにしろ、彼は地獄のような生活から自分を救い出し、生きる意味を与えてくれた「神様」なのだから。
奴隷だったころのコゼは、「主人」の命令で部下たちの性欲を処理する「厠女」として扱われ、あるいは商売敵を密かに葬る暗殺者として命を繋いでいた。
──いや、生きてなどいなかった。
ただ存在していただけだ。
殺したくない相手を殺し、夜は「厠女」と蔑まれながら部下の慰み者にされる。
命令ひとつで善人の命も、その妻子の命さえ奪わされる。
酒の余興として獣と交わらされたこともあった。拒むことは許されなかった……。
それでも死ぬことすらできない。
奴隷であるコゼには自殺が禁じられていた。
主人にも部下にも逆らえず、命令に縛られてただ存在するだけの日々。
──死にたかった。
終わりにしたかった。
そんな地獄は、ある日突然、終わりを告げた。
主人の命令でロウを暗殺しに向かったそのとき、彼は瞬く間にコゼを無力化し、外れるはずのない奴隷の首輪を外してくれたのだ。
その後、ロウと共に元主人の屋敷に乗り込み、元の主人と部下たちを皆殺しにした。
かくして始まったふたりきりの旅……。
あれほどの地獄の日々も、いまでは思い返そうとしなければ霞むほど遠い記憶だ。
むしろ、ロウと出会うための布石だったのだと思えば、意味のある過去にさえ感じられる。
まだ始まったばかりだが、ロウと共に歩むこの時間は幸せすぎる。
行き先も定めぬ旅だが、とりあえず王都に向かい、そこで冒険者になるつもりらしい。
冒険者としてどうなるかは知らない。けれどコゼにとっては、ただロウについていくだけで十分だ。
暗殺者としての技もある。
奴隷時代から培った器用さもある。
冒険者としてロウを助ける自信はある。
ロウの役に立てる──。それだけで嬉しくてたまらない。
ロウ……。ご主人様……。
神様……。なにもかもが愛おしい。
死ななくてよかった。生きていてよかった。
ロウと共にある限り、生きていられる。もし共にいられないのなら、生きていたくない。
奴隷の首輪に縛られていたころと違い、ロウは隷属の魔道でコゼを縛ろうとはしなかった。
だからこそ、もしロウがいなくなったときには、自分の意志で死を選ぼうと思っている。
──それが嬉しい。
ご主人様……。大好きです……。
「しばらくは大丈夫だろう。じゃあ、コゼ、服を脱げ」
山道がくだりに差しかかったときだった。
歩みを進めるごとに次の里が近づいているのがわかる。山に入って山産物を採る者たちと出会ってもおかしくない頃合いだ。
──やっぱり、ロウは意地悪だ。
夕べからの仕掛けで、なにかを命じられるのは予想していた。
けれど、誰の目にも触れぬ奥深い場所ではなく、こうして里に近づいた道で仕掛けてくるなんて。
もちろん、拒むという選択肢はない。
首輪こそ外されているが、ロウの言葉はそれ以上に重い。
心を縛る鎖は、もう自分の内側にあるのだ。
「は、はい、ご主人様……」
立ち止まったコゼは、道の真ん中で身につけていたマントやズボン、次いで上衣を脱いでいく。
道から外れて、樹木の影で脱ぐことも許してもらえなかった。
言われたのは、ここで脱ぐことだ。
本当に、ロウは意地悪だ……。
コゼが脱いだものは、そのままロウが受け取っていく。
そして、おろしているロウが担いでいる背負い袋の中にしまっていく。
「どうした。全部だぞ」
ロウが声を掛けた。
身につけているものが胸を覆う布と、股間の下着だけになったとき、コゼがちょっととまってしまったからだ。
ありとあらゆる辱めを受けてきた奴隷時代のコゼだったが、野外で露出させられたことはなかった。
だから、まだ外で全裸になるのは格別の抵抗が残っている。ましてや、まだ真っ昼間なのだ。
「はい……」
胸を包む布を解いてロウに手渡す。
次いで、下着……。
完全な全裸になる。
真昼の光が木漏れ日となって肌を照らす。
羞恥の熱と相まって、血が全身を駆け巡るようだった。
「短剣の帯はしていい。それと、首を出すんだ」
コゼの得物は、両手で扱う二本の短剣だ。
それはいつも腰に巻く革帯で吊っている。
全裸にそれだけを身につけた。
そのあいだに、下着もロウが荷に入れ、逆に鎖のついた首輪をロウが取り出す。
それを首に装着された。
「じゃあ、行くぞ。人が来ても身体を隠すなよ。もしも、隠せばお仕置きだ」
ロウが笑って、鎖を引っ張って歩き出す。
緊張する。
さすがに、足がふらつくような気がした。
どうしても、身体を隠したくなるのを我慢して、しばらく黙って歩く。
あっという間に全身が汗で濡れてくる。
そして、乳首が痛い。
コゼの胸は大きくはないが、それでも隆起している膨らみの中心でつんと乳首が尖っているのがわかる。
内腿も濡れてきた……。
やっぱり、夕べからの寸止めの玩弄がコゼをおかしてしているのだ。
「こんな酷いことしているのに、興奮しているのか?」
やがて、前を進んでいたロウが不意に立ち止まり、コゼの首にある首輪に繋がった鎖を思いきり引っ張った。
「あんっ」
無理矢理に首を引っ張れて、前につんのめる。
当然にコゼは身体を振り返っているロウにぶつけるかたちになる。
辛うじて、脚を踏ん張って耐える。
「くくっ濡れているな……。やっぱり、コゼはマゾだな」
すると、ロウが嬉しそうに、喉の奥を鳴らす。
「ご主人様だからです。あ、あたしはご主人様の性奴隷ですから……。ご主人様専用のまぞです」
コゼはロウに向かって微笑んだ。
そのときだった──。
「あっ、いやっ」
思わず声が出た。
コゼを抱き抱える体勢になったロウがコゼのお尻を掴み、さらに、その後ろ側からコゼの股間の亀裂を指でさすってきたのだ。
ずっと続けられていた中途半端な性愛がコゼの身体を底無しに敏感な状態に作り替えている。
声を我慢するのは不可能だ。
コゼは必死に歯を噛みしめて声を耐える。
「我慢するんだぞ……。許可なく絶頂するのは禁止だ。必死に耐えろ」
ロウが笑いながら、指で後ろから股間の愛撫を続けつつ、さらに空いている手で前からコゼのクリトリスを撫で回してきた。
「くっ、んんんっ、ああんっ、ご、ご主人様……。む、無理……、無理です……」
両膝がかくがくと震えてきて、腰を落としそうになる。
コゼは懸命に脚を踏ん張って耐えた。
すると、コゼの視線に、ロウの身体越しに山道を進んでくる旅人が映ったの。
男の二人連れだ。
まだ、遠くだがこっちに近づいてくる。
いまはコゼの小柄な身体がロウで隠れているが、通り過ぎるときには完全に痴態が見られてしまう。
「ひ、人が来ます。ご、ご主人様、向こうから人が……」
ロウの背中側になるので、気がついていないのだと思った。
コゼはロウに訴えた。
「知らんな。そのままにしていろ。見たければ見せてやれ」
ロウがくすくすと笑う。
そして、愛撫を強めてきた。
「ひあっ、あああっ」
強い戦慄が身体を貫き、コゼは身体を達しそうだった。
そのとき、背筋を氷の刃が走ったような感覚があった。
ぞわりと皮膚の裏を這いまわる違和感──。
次の瞬間、直感が叫んだ。これはロウではない。
「ちょっと──」
気がついたときには、目の前のロウを突き飛ばして、腰の短剣を抜いていた。
「えっ? どうした?」
ロウはコゼに押し倒されて地面に尻餅をついたまま唖然としている。
そして、コゼは不意に感じた違和感の正体がわかった。
愛撫だ……。
いつもの神がかり的な愛撫の気持ちよさとは違う。いや、それだけでないが本能のようなものだ。
とにかく違う──。
目の前にいるのはロウじゃない。
そうでないと考えた瞬間、たったいままでロウだと思っていたものが、まったく異なるものになった。
顔も声も、ロウのままだが、やはりロウではない。
それを悟った瞬間、コゼの中に憤怒が沸き起こる。
「誰よ、あんた──?」
コゼは冷たく言った。
ロウは……いや、ロウの姿をしたものはきょとんとしている。
「どうしたんだ、コゼ? なにを怒っている?」
「なにを怒っているかだって? 全部よ──」
コゼはいまだにロウが握っていた首輪の鎖を引っ張ってとりあげた。
その瞬間、突如として記憶が蘇る。
違う──。
こうやって、ロウとふたりで街道を歩いているという状況であるわけがないのだ。
いまは夜──。
エリカとロウと一緒に、偶然に見つけた洞窟で雨宿りをしていて……。
「エリカは──。いえ、ご主人様はどこよ──?」
叫んだ。
すると、目の前の「ロウ」が柔和に微笑む。
「コゼのご主人様は俺だろう……。コゼだけのご主人様だ……。コゼの心の底の希望にとおりにな……。好きだよ、コゼ。お前だけを愛している。お前は俺にとって唯一の女で……」
最後まで言わせなかった。
コゼは跳躍し、短剣で「ロウ」の喉を一瞬にして斬り割いた。
目の前の風景が変わる。
気がつくと、コゼは洞窟の中にいた。
幻術……?
たったいままで、ありもしない幻を見せられて、偽物の記憶の暗示を掛けられていた?
疑念はそのままだが、目の前の光景にはっとした。
洞窟の天井から両手を宙吊りにされているエリカが、いま、まさにロウに犯されようとしている状況だったのだ。しかも、エリカの両手首を吊っている鎖は洞窟の天井のどこにも触れてない。
途中で消えている──。
またしても幻術……。
「望みを叶えよう。そして、淫魔術で支配してやろう。俺の苗床になれ」
「は、はい、な、苗床に……」
はっとした。
目の前の「ロウ」とエリカだ。
エリカは酔ったような雰囲気でロウに身を任せる気配だが、このロウもまた、偽物だ──。
ふたりとも、コゼの存在には気がついていない……。
そして、とにかく、これもまたロウではない──。
理由などない。
コゼにはわかるのだ──。
ロウのことをコゼが間違うはずがない。
まさにエリカの股間に怒張を挿入しようとしていた「ロウ」の首根っこを掴んで、後ろから思い切り引っ張る。
「うわっ」
「きゃああ」
エリカから手を離した「ロウ」が声をあげて後ろにひっくり返る。
尻餅をついたその股間からは怒張が上を向いている。
やっぱりロウのものと同じだが、でも違うのだ。
コゼは、偽者のロウにも腹がたったが、そんなものに身体を許そうとしているエリカにも腹がたった。
「コゼか。どうした──?」
「コゼ、どうしたの? ロウ様になにをするのよ……。いえ、そもそも、あ、あんた、どこに?」
「ロウ」とエリカが当惑した声をあげた。
「どこにじゃない……。あんた、それでもご主人様の奴隷? 幻に騙されて身を任せるなんて──」
コゼはエリカに吐き捨てた。
「コゼ、どういうことだ──。なんで邪魔する──? 俺だぞ──。お前のことだけを愛している俺だぞ」
腰を地面につけたままの「ロウ」がまたもや当惑したように声をあげた。
白々しい……。
「あたしのことだけを愛するね……。でも、ご主人様はそんなことは言わないわ。たとえ、あたしが望んでもね」
コゼはまたしても、一瞬にして「ロウ」の首を引き裂いた。