【改訂版】異世界で淫魔師ハレム【コミカライズ作品】 作:ドン・ドナシアン
岩壁をなぞりながら歩き回るうちに、呼吸はどんどん荒くなっていった。
荷もなく、服もなく、裸身のまま閉ざされた洞窟に囚われている。焚火の赤い残り火だけが、全身をあからさまに照らしている。羞恥と焦燥が重なって、胸の奥は焼けるようだった。
しかし──それ以上に、身体そのものがおかしい。
肌が熱を帯び、乳首が擦れただけで甘い疼きに変わる。息を抑えようとしても喉が熱く震え、股間から蜜が勝手に垂れていくのを感じてしまう。
なにもしていない。なのに、女の身体はいやらしく反応していた。
「……エリカ、あんた……もしかして、身体……おかしくない?」
背後でコゼが荒い声を漏らした。
振り返ると、同じように裸身を火照らせ、額に汗を浮かべている。
「ちょっとね……。変ね……。熱くて、苦しい……。あんたは?」
「おかしい……。とてもね……」
コゼが小さく息を吐く。その呼吸に甘い熱のようなものが混ざっている。乳首は勃ち、全身が火照り汗で濡れている。股間からはねっとりとした蜜も……。
それはエリカも同じだ。
明らかに、異常だ。
エリカは唇を噛み、ふと頭に浮かぶ言葉を否応なく思い出す。
──苗床にして、淫気を搾る。
ロウの偽者が叫んでいた声──。
また、淫魔師であるロウが、力の根源にしている“淫気”──。
もしかして……。
「ねえ、コゼ……。もしかして、ここは囚われの洞窟であると同時に、あいつが淫気を集めるための檻なのかも……」
エリカは言った。
「どういうこと……?」
コゼが怪訝そうに眼を細める。
「……わたしたち、ただ閉じ込められてるだけじゃないのかも……。ここに囚われて、力を吸われてるのよ」
「なにを……言ってるのよ、エリカ?」
コゼが戸惑った顔をする。
「淫気っていうの……。性愛の熱から生まれる力……。魔族や淫魔はそれを糧にするの……。ちなみに、ロウ様もね。いまのこの疼き……多分、全部、あいつのせいよ」
言いながら、蜜の雫が腿を伝う感触に頬がさらに熱くなる。
そのとき、不意にエリカの足の甲が固いものに触れた。
からん、と乾いた音──。
土の上を転がったのは、小さな砂時計だった。
「あれ、これ……三タルザンの……」
思わずしゃがみ込み、拾い上げる。さっき、ロウとコゼが自分を責め立てるときに使われていた砂時計だ。
上下の砂は半分ずつで止まり、ぴくりとも落ちていない。
「どうして、これが?」
コゼが怪訝に首を傾げる。
だが、エリカは、砂時計を眺めていて、あることに気がついた。
「これ、全然、砂が落ちてないじゃないの。……あんた、また細工をしてたの?」
エリカは、不満を込めて吐き出した。
思い出す。
得体の知れない魔物に囚われる前──、この三タルザンの砂時計を使って、ロウとコゼに責められていたことを……。
本来なら、砂が落ちきるまで耐え抜けば交代という約束だった。コゼと三タルザンで順番に責め合うはずだったのに、あのときは一方的に無効にされ、気がつけば勝手に取り決めが変わっていた。
「三タルザン以上、耐えられたら交代」と──。
無茶苦茶だと抗議しても聞き入れられず、ふたり掛かりでの連続絶頂責めに喘がされ、交代の約束も果たされぬまま、身を捩りながら、絶頂のたびに蜜を搾り取られ、全身を痙攣させられていった。そして、その痙攣の余韻さえ許されず、次の責めに重ねられた……。
羞恥と屈辱と、身体の奥から止まらない快楽──。
そのときの熱と痺れを、砂時計を見た途端に思い出してしまい、腹の底にじりじりと不満が湧き上がる。
「……あのときも、ずるかったわ。最初は三タルザンで交代って言ってたくせに、結局、無理矢理に延ばされて……。ふたり掛かりで、何度も絶頂させられて……。しかも、これ動いてないじゃないのよ」
エリカは顔を赤らめながら、吐き捨てるように言った。
「いまは、そんなこと言っている場合じゃないでしょう」
コゼが呆れ顔で返した。
だが、そのコゼの表情がふと、真顔になる。
「いや、おかしいわよ、これ……」
コゼが砂時計を訝しげに受け取り、じっと見つめる。
「そりゃあ、おかしいわね。動かないもの」
エリカは吐き捨てた。
だが、コゼは首を小さく横に振る。
「……ううん、動いてるわ……」
「ええ? 落ちてないでしょう?」
「落ちてるのよ……。でもほんの少しずつね……。かすかに」
「ええ?」
目を凝らす。
すると、確かに砂は一粒ずつ、気が遠くなるほど緩慢に落ちていた。
思わず声が荒くなった
「ああっ──やっぱり、あんた、インチキを──」
「違うわよ。幻術よ。時間がほとんど動いてない。あたしたちは、時間の進まない場所に囚われているのよ」
コゼが声をあげる。
「はあ?」
思わず声が荒くなった
エリカの背筋に冷たいものが走る。
だが、コゼは冗談を口にしている気配はない。
もしかして、本当に?
「……でも、完全に囚われているんじゃない……。現実とどこかで繋がっている……。その証が、この砂時計ね」
コゼは呟いた。
そして、砂時計をそっと地に置くと、黙って腹這いになり、地面に頬を押しつけた。
まるで獣のように這いながら、岩の間を進んでいく。焚火の赤が濡れた背を照らし、尻の丸みを強調している。
「どうしたのよ?」
エリカはコゼに問いかけも。でも、返事はない。
ただ、息を殺して、なにかを探るように進んでいく。
しばらく、コゼを見守った。
やがて、コゼは岩壁の前で立ち上がり、掌を当てた。
「……ご主人様の気配がする」
「え……?」
エリカも触れてみるが、ただの冷たい岩だ。
「エリカ。ありったけの魔道波を叩き込んでみて。時間が動いてないことを考えてね。可能な限り長くよ。それでも、多分、魔力は空にはならないわ。惑わされて途中でやめないで」
「わかった……」
真剣な眼差しにうなずき、掌底を押し当てる。魔道の力を解き放った。
最初はなにも起きない。
だが、しばらく続ける。
すると、ある瞬間、岩壁がゆらりと揺れ、ざらついた感触が霧散し始めた。
「いいわ──。エリカ、頑張って──」
コゼが声をあげた。
エリカは魔道を打ち続ける。これだけ長い時間魔道波を続けたことなどない。だが、あの砂時計の砂の動きを考えると、それでも実際には、ほんの刹那でしかないのだろう。その証拠に、エリカの魔道は途切れる様子もなく、掌底から放たれ続けている。
そして──。
突然に岩肌が霧散した。
祠が姿を現す──。
それだけでない。
洞窟の地面に、散乱する荷物。背負い袋。剣。外套。すべてが戻ってきている。
「ああ、やっと……」
エリカはほっとして脱力した。
「ご主人様──」
すると、コゼが声を張りあげ、祠へ駆け寄った。
視界が赤黒く染まり、一郎の理性は焼き切れかけていた。
無数の触手が壁から生え出し、一郎の手首と足首を吊り上げ、胸や腰をぐるぐると縛り上げる。冷たさと灼熱を交互に流し込まれ、体温はめちゃくちゃにかき乱されていく。
「くっ……離せ……」
声は掠れ、抵抗も虚しい。
太腿を裂くように走る触手の感触が下腹を直撃する。
尖った吸盤が乳首に吸いつき、舌で舐め回すように捻じり上げる。胸から背筋まで、ぞくりと痺れるような快感が駆け上がり、一郎は呻き声を押し殺した。
そこへイフリートが顔を寄せる。紅い瞳が至近で光り、唇が耳朶に触れた。
「ほら、もう硬くなっている……坊や」
白い指が男根を握り、ゆるやかに上下する。
熱を孕んだ掌は柔らかく、爪の先が敏感な亀頭を引っかいた瞬間、全身がびくんと震えた。
「ち、違う……これは……っ」
「違わないわ。感じているでしょう」
甘い吐息とともに囁かれ、耳殻を舐め上げられる。舌のぬめりに背筋が反り返り、触手が締め上げた腰が勝手に前へ突き出されてしまう。
いつのまにか、イフリートの声は甘い女の声の口調に変化していた。
そして、胸を吸う触手は乳首を弄び、じわじわと熱を送り込む。
背中からは氷のような冷気を這わせられ、熱と冷たさの落差で感覚はさらに鋭敏になる。
膝裏を撫でる細い触手は、まるで媚薬のような痺れを染み込ませ、脚力を奪っていく。
「ん……く……やめろ……っ」
吐き捨てても、指は律動を強める。
根元をしごき上げ、包皮を剥き取り、亀頭をむき出しにした。
そこへ息を吹きかけられただけで、腰が跳ねた。
「もう零れそうね……先走りがこんなに」
イフリートは舌先で透明な滴を掬い、わざと目の前で舐めて見せた。
赤い舌に吸い取られる様子に、一郎は羞恥で顔を歪めた。
「やめろ……そんなの……」
「ふふ……人間の男なんて、触れただけで崩れるもの」
吐息混じりの声とともに、白い指はさらに強く握り、腰を縛る触手までが男根を擦り立ててくる。
前後から二重に嬲られ、全身の血が股間へ集まっていく感覚に、必死に歯を食いしばった。
「く……くうっ……だ、だめだ……」
イフリートは胸を押しつけ、肌と肌を擦り合わせる。
火照った乳房の柔らかさと、芯に潜む灼熱の熱さ。甘い香と硫黄めいた匂いが入り混じり、理性は薄氷のように溶かされていく。
「我慢できるものなら、我慢してごらん。射精をした途端に、わたしに取り込まれるわよ。だから、一生懸命に我慢してね」
イフリートが艶やかな声とともに、爪先で亀頭の縁をなぞる。
その瞬間、一郎は喉を詰まらせた。
視界が一気に白く弾け、下腹の奥から熱が逆流する。
「う……ああ……だめだ……っ」
耐えようと思ったが耐えられない。
ついに、痙攣とともに白濁が迸り、触手とイフリートの指にぶちまけられた。
「はぁ……はぁ……」
全身から力が抜け、肩で荒い息をつく。腰はがくがくと痙攣し、なおも精を搾り取られるように収縮を繰り返した。
イフリートは指に絡んだ白濁を舐め取り、紅の瞳を細めた。
「ふふ……案外あっけなかったわね」
だが──次の瞬間、彼女の表情が揺らぐ。
舌に絡んだ味を確かめるように、もう一度舐め、そして凍りついた。
「なに……これは……? なんだあ?」
触手がわずかに震え、拘束の力が弱まる。
また、目の前のイフリートの身体が痙攣し、燃えるような紅の瞳に初めて怯えの色が浮かんだ。
イフリートは舌を震わせ、まるで毒でも飲んだかのように顔を歪めた。
「ち、違う……こんなはずは……なぜ……わしの中に……」
紅の瞳が見開かれ、背筋をのけ反らせる。
口調が再び、男のものに戻った。
そして、触手の動きは急速に乱れ、絡めていた力がほどけ始めた。
一郎の腕も脚も解放され、縛めが解けていく。
イフリートの肌は赤黒く脈打ち、まるで内側から何かに喰われているように震えている。
「やめろ……やめろ……わしを引き裂くな……」
先ほどまで妖艶に嗤っていた女の顔に、はっきりとした恐怖の影が走った。
一郎は力の抜けた身体をよろめかせながら、それを見下ろす。
「な、なんだよ……俺は……なにも……」
腰の奥にまだ痺れるような熱が残り、頭は混乱でぐらぐらしていた。
だが、目の前でのたうつイフリートの様子は、どう見ても主導権を失っていた。
紅の瞳が揺れ、一郎に縋りつくように伸ばされた。
「わしを……わしを置いていくな……。このままでは……祠の封印に……飲まれて……」
そのときだった──。
イフリートの苦悶の叫びをかき消すように、外から声が響いたのだ。
「ご主人様──」
コゼの鋭い声。
次いで、必死に呼びかけるエリカの声が重なる。
「ロウ様──」
木の壁の一角がぐらりと揺れ、光に透けて崩れた。
穴の向こうから覗いたのは、巨大に見えるコゼとエリカの顔。必死にこちらを探している。
「助けてくれ……」
一郎は思わず叫んだ。
その声に応じるように、穴の向こうから二人の手が差し伸べられる。
「待て……わしも連れていけ……」
痙攣しながらうずくまっていたイフリートが、最後の力を振り絞って立ち上がり、一郎へ飛びかかろうとする。
その顔はもはや妖艶ではなく、怯えと渇望に歪んだものだった。
「お前は来るな……。ここで一生いろ」
一郎は怒鳴った。
巨大なコゼとエリカの手が同時に伸び、一郎の身体を掴み取った。
次の瞬間、イフリートの悲痛な悲鳴が轟いた。
視界が白光に包まれる。
音も匂いも、すべてがかき消される。
気がつけば、三人は外に立っていた。
昨夜は雨が降り続き、洞窟に避難するしかなかったはずだ。濡れた草を踏みしめて入った暗がりと、焚火の残り火、そして祠──。あれらはどこへ消えたのか。
朝の風が頬を撫でた。夜の湿り気を含んだ草の匂いが漂い、雨に洗われた空は雲ひとつなく、青く澄み切っている。草葉には露が残り、陽光を受けてきらめいていた。
「……洞窟は、どこ?」
エリカが震える声を漏らした。裸身に外套を掛けながら、きょろきょろと周囲を見回す。
確かにそこには洞窟があったはずなのに、いま目に映るのはただの岩壁だ。出入口も亀裂もない。
「祠は……?」
コゼも呟く。
あれほど生々しく視界を支配していた祠の姿は影も形もない。
コゼが腕を組み、険しい顔で壁を睨みつけた。
「……どこにも……なにもありません。……なにもないです……」
やがて、コゼが小さな声で言った。
確かに、まるでなにもなかったかのように、目の前にはただの岩肌があるだけ……。祠どころか、洞窟の痕跡すら消滅していた。
「なにもわからないな……。まるで洞窟なんて最初から存在していなかったみたいだ……」
一郎は呟いた。
「そんな……」
エリカが小さく首を振る。彼女の濡れた髪の隙間から、陽光を受けた露が滴った。
とにかく、確かなのは、荷物は戻ってきているということだった。
背負い袋も、剣も、水筒も、昨夜消えたものすべてが岩壁の下に散らばるように置かれている。
あれは、幻だったのだろうか……。それとも、現実だったのか──。一郎には判断できなかった。
結局わかるのは、幻術の檻から抜け出したという事実だけ……。
そんな中、コゼがふいに口元を歪めて笑った。
「……でも、ご主人様。こんなことより大事な問題がありますよ」
「んっ、なにがだ?」
一郎は思わず振り返る。
コゼは顎をしゃくり、隣に立つエリカを指した。
エリカは、コゼに視線を向けられて困惑の表情になった。
「な、なによ……」
エリカは怪訝そうにした。
「この娘、覚えてますか? 偽のご主人様に、身体を許しかけたんです。奴隷としては致命的な失態ですよね」
「なっ──、そ、それは……」
エリカが慌てたように真っ赤になった。
「なに、ばらしちゃうのよ──。いえ、違うんです、ロウ様……。だって、幻術だったし……わからなかったし……。決して、裏切りとか、そんなんじゃなくて。ええっと……」
「言い訳ね。奴隷がご主人様を間違えるなんて失格だわ」
コゼの声音は冷ややかで、しかしどこか愉快そうでもあった。
「なにか、あったのか?」
一郎は首を傾げた。
「ありましたとも──。ねえ、ご主人様──。これは、やっぱり罰が必要じゃありませんか」
コゼが元気に言う。
一郎は腕を組んで黙っていたが、ふと、幻術の中でのやり取りを思い出した。
イフリートの艶やかな声──。
『エルフの娘はちょろかったが』
あの一言が、やけに耳に残っている。
ちらりと視線を向けると、エリカはうつむき、頬を真っ赤にしていた。
「……思い出したな……。お前、ちょろかったらしいな」
軽く口にすると、エリカはぎょっと顔を上げ、赦しを乞うような眼で一郎を見つめた。
「ち、違うの……。あれは幻術で……。ねえ、ロウ様、許して……」
一郎はしばし彼女の必死な顔を見つめ、それからにっこりと微笑んだ。
「なら、罰だな。そうだよな、コゼ?」
「もちろんです」
陽気な声でコゼが応じる。唇の端に笑みを浮かべ、エリカを横目に見やった。
「ううう……。わ、わかりました……。罰は受けます……。でも、恥ずかしいのと、痛いのは……」
エリカは完全に項垂れてしまった。
「ご主人様、エリカは、恥ずかしいのと、痛いのが望みだそうです」
コゼが茶化して口を挟む。
「ち、違うわよ。それは嫌って言ったのよ」
エリカが真っ赤な顔で声をあげた。
「まあ、痛いのはなしでいい。でも、恥ずかしいのは仕方ないか」
一郎は笑った。
雨上がりの空は、どこまでも青かった。
エリカは顔を真っ赤にし、コゼは勝ち誇ったように笑っている。
一郎はふたりを見比べ、肩で小さく息を吐いた。
さて……エリカには、なにをしてもらおうかな……。
そんな思いが胸に浮かび、自然と口元に笑みがこぼれた。
第7話『封印の祠と囚われの魔人』終わり──
第8話『歌姫と幼馴染』に続く──