【改訂版】異世界で淫魔師ハレム【コミカライズ作品】 作:ドン・ドナシアン
051 酒場の歌姫
美しい歌声だった。
なによりも声が素晴らしい。
少女の面影を残す可憐な歌い手の声は、大の男が怒鳴るよりも力強く響きながら、耳には不思議なほど心地よかった。
ひとりの娘の声とは思えない。
清らかな少女の声にも、妖艶な女の声にも、時には男の声にさえ聞こえる。
しかし、すべては若いその娘の声なのだ。
さっきまで騒がしかった宿屋の酒場は静まり返り、酔客たちは唄に酔いしれ、笑みを浮かべる者、涙をこぼす者と、反応はさまざまだった。
一郎もまた、その声に心を奪われていた。
マイムという城郭の小さな宿屋だった。
目的のハロンドールの都までは、もう徒歩で一日足らずの距離であり、マイムの城郭はハロンドールの西の入口という感じだ。
市民や行商人で賑わうばかりではなく、国王直属の王国軍も駐屯していて、城郭は活気に溢れている印象だった。
一郎たち三人は、このマイムの城郭の外れにある小さな宿屋で宿泊していて、いまは酒場になっている一階で夕食をとっているところだ。
一階の酒場で食事や酒を飲んでいるのは、一郎たちのような泊り客ばかりではないようだ。
近所の住民たちも集まっているようであり、席は混雑していた。
一郎は、彼らが集まっている目的が、あの可憐な歌い手の唄を聴くことだということを悟った。
ニーナの唄が終わる──。
束の間の静寂ののち、大歓声が一斉に起こった。
ニーナ──。
酔客たちが大声でその名を叫んでいる。
あの歌い手はニーナという名のようだ。
まだ、二十になっているかどうかだろう。
それにしても素晴らしい唄だ。
客たちの拍手は鳴りやまず、もう一曲を求める声が方々からあがっている。
「あんっ」
すると、向かいの席に座っているエリカが不意に小さな悲鳴をあげて、がたりと身体を動かした。
エリカは手で自分の口を押えて、懸命に歯を食い縛っている。もう片方の手はなにかを我慢するように、しっかりとスカートの上から股間を押さえている。
一郎は思わず微笑んでしまった。
「ほら、変な声出さないで、エリカ……。おかしな注目を浴びちゃうわよ」
コゼが嗜虐的な笑みを浮かべて、エリカの顔に口元を近づけてささやくのが聞こえた。
「……だ、だって……コ、コゼ……、い、意地悪しないで……」
エリカが真っ赤な顔をしてすがるような視線をコゼに向けている。
「意地悪は当然でしょう……。今夜はエリカへの罰なんだもの……。じゃあ、お尻はどう?」
コゼが服の下に隠していた操作具を取り出して、卓の下で操作したのがわかった。
「はうっ」
一瞬だけエリカが背伸びをするように、ぐんと身体を伸ばす。
そして、すぐに身体を丸めるように前屈みになった。
手は必死になって口を押さえて、込みあがる悲鳴を耐えているようであり、また、身体全体がぶるぶると震えていて、服の下の乳房が揺れている、椅子に座っている短いスカートから出る両腿は小刻みに動いていた。
仕掛けは単純だ。
エリカの股間と肛門には、一郎が魔妖精クグルスに作らせたリモコン式のローターが埋め込まれている。それをコゼが卓の下で操作していたのだ。
クグルスには淫気を材料に淫具を形づくる力があり、この世界には存在しない道具でも、一郎の記憶をもとに再現できる。元の世界で電池を使っていたものが、いまは淫気で動く。それだけの違いで、機能はまったく同じだ。しかも無音で、外には一切気づかれない。
だから、声を押し殺しているかぎり、赤面して悶えているこのエルフ娘が股間にそんなものを仕込まれていると、周囲には気づかれない。
酒場に降りる前、コゼはエリカに淫具を挿し込み、たっぷりと媚薬を塗り込んでいた。いまや爛れた局部と尻穴を振動で苛まれる彼女が、堪え難い感覚に追い詰められているのは当然だった。
一郎が見ている前で、エリカがいよいよ絶頂に向かって身体を反応させた。
マゾっ子のエリカは、このまま大勢の客でひしめいている酒場の真ん中で達してしまいそうな勢いだ。
もっとも、客たちが注目しているのは、前側で歌っているニーナという若い歌い女の唄だ。
ちょうど反対側の一番後ろの席にいる一郎たちに注目している者など皆無だろう。
エリカが派手に嬌声でもあげなければ別だろうが……。
コゼが旅に加わってから、すでに一箇月ほどが過ぎていた。
国境の街ドロボークで仲間になった女アサシンは、いまではすっかり淫行仲間として溶け込んでいる。最初こそ遠慮がちだったが、垣根が取り払われると、意外なほど愉快で魅力的な女に変わった。
さらに、洞窟の祠で幻術に囚われ、エリカが偽の一郎に気づかず身体を許しそうになった事件以来、夜の遊びの前には「罰」を受けるのが恒例となった。いまの責めも、その延長にすぎない。
一郎の倒錯にすっかり嵌まったコゼは、自ら進んで関わるようになり、とくに嗜虐側に回るのを好む。こうしてエリカを苛めて悦に浸る姿は、もはや立派な女調教師だ。
もっとも、その隠れた性癖を仲間に剥き出しにさせているのは一郎の淫魔術によるもので、解放がなければ、コゼの悪戯好きな一面は生涯隠れたままだっただろう。
いずれにしても、責められているのはエリカだけではない。責めているはずのコゼも、同じように欲情しているのは確かだった。
その証拠に、コゼの「快感値」も〈60/300〉から〈50/300〉へと下がっている。
〈100〉を切れば顕著な興奮状態、〈30〉で挿入可能なほどに濡れ、〈0〉になれば絶頂──。
つまり、コゼもすでにかなりの興奮に追い込まれているのだ。
「……お、お願い……い、一度……止めて……コゼ……こ、このままじゃ……あっ、あっ……」
エリカの眼が虚ろになり、声がだんだん大きくなる。
そろそろ耐えるのも限界だろうと一郎が思った頃合いを見計らったように、コゼが操作具の振動を止めた。
耐久度数は〈10〉を割り込み、がくりと脱力したエリカが恨めしげに睨む。
「……もう、ひどいわよ……。あの洞窟の罰だって、そろそろ許してくれてもいいじゃない……」
抗議の声に、コゼは肩をすくめて笑った。
「それを決めるのはあたしじゃないわ。ご主人様にお願いすることね」
そう言って再び操作具を弄り、隠された淫具が唸りを上げた。
エリカの身体がびくりと反り返り、必死に口を押さえる。
「ああ……もう、意地悪ばかり……。たまにはあんたが責められる番にしてよ……」
涙目で訴えるエリカに、コゼは愉快そうに笑う。
「罰を受けるのはエリカだけ。あたしは責める側なんだから」
冷ややかに言い放つと、さらに強めに操作具を押し込んだ。
椅子ががたりと鳴り、エリカは耐えきれず一郎へ縋るような視線を送る。
だが一郎はただ微笑み、応じようとはしなかった。
実際にはもう罰は十分だとわかっていたが、必死に堪えるその姿があまりに愛らしく、もう少しこのまま眺めていたかった。
酒場全体が、静かな唄に酔いしれていた。
酔客たちは盃を置き、息をひそめるように耳を傾け、遠い朝焼けに心を遊ばせている。笑みを浮かべる者、涙をそっと拭う者──、誰もが歌姫の声に囚われていた。
だが、そのただ中で、ひとりエリカだけが罰に喘いでいた。
小さな椅子の上で、必死に声を殺し、真っ赤な顔で悶えるその姿は、歌に浸る聴衆からすればまるで存在しないかのようだ。
神聖さすら漂う唄声と、淫具に苛まれて身を震わせるエルフ娘──。その対比が、かえって一郎の胸をくすぐり、苦笑を誘った。
そして、今度もエリカが絶頂寸前で止まった。
コゼは唄のあいだ、淫具のスイッチを入れたり、止めたりとするのを繰り返していた。
唄はもう一曲続き、そして、ニーナは奥に引っ込んでいった。
割れるような拍手がしばらく続いた。
ニーナの唄はこれで終わりなのだろう。
店では、それを目当てでやってきていた何人かの客たちが酒代を置いて帰り始めた。もちろん、まだ残って酒や料理を愉しむ者たちもいる。
唄のあいだは、給仕が止まっていたので、注文の料理や酒があちこちの席に忙しく運び込まれだした。
「お待ちどうさま──」
一郎たちの席に、大皿の肉料理と三杯のビールが運ばれた。
ビールといっても、そんなにアルコールは強くない。
一郎でも問題なく飲めるくらいだ。
こんな下町では、不衛生な水よりもむしろ酒の方が身体にはいいのだ。ビールくらいの酒なら、この異世界では子供でも飲む。
運んできたのは、この宿屋の女主人の息子だ。
一郎は、素早く魔眼でステータスを観察する。
トーイ
人間族、男
年齢20歳
ジョブ
町人(レベル2)
生命力:30
攻撃力:40”
どこにでもいる普通の市民という感じだ。
小さな宿屋であり、普段はこのトーイと母親であり女主人のマニラのふたりで切り盛りしている宿屋と酒場のようだ。
ただ、今夜はニーナの唄目当ての客たちが集まりすぎて、てんてこ舞いという感じだった。
「遅くなってごめん。ゆっくりしてくださいね。追加があれば、遠慮なく言ってください」
トーイが元気よく言った。
人当たりのいい気持のいい笑顔だ。
「問題ないですよ。素晴らしい唄だったし、退屈凌ぎもありましたしね……」
一郎は微笑んだ。
退屈凌ぎとは、エリカとコゼだ。
すっかりと淫具で追い詰められているエリカは真っ赤な顔で荒い息をしている。
コゼはにやにやと素知らぬ顔だ。
「そうでしょう──。ニーナの唄は最高さ。本当はこんな場末の酒場で歌ってくれるような歌い手じゃないんだけど、幼馴染の縁でああやって、わざわざ都からやってきてくれて、時々歌ってくれるんです」
トーイが嬉しそうに言った。
“素晴らしい唄”だと一郎が評したのに心をよくしたらしい。
まるで自分のことを褒められたみたいに嬉しそうだ。
「じゃあ、あの歌い手さんは、この城郭じゃなくて都の人?」
一郎は訊ねた。
「そうさ。ハロンドールの都ハロルドの歌姫ニーナといえば、いまじゃ、かなりの売れっ子の歌い手だよ。都じゃあ、毎晩、もっと大きな舞台や国王も出席するようなパーティで歌うんだ。そのニーナの唄が聴けるというので、こんなに人が集まるのさ」
「幼馴染って?」
「俺とニーナがね……。まあ、昔の話です。いまや、ニーナは立派な歌い手さんだしね……」
トーイが複雑そうな笑みを浮かべて、立ち去りかけた。
そのとき、わっという声が一部で沸き起こった。
一郎は、目をやった。
ニーナだ──。
さっきまで美しい歌声を披露していたニーナが、今度は大きなエプロンをつけて、給女をやっている。
「ニーナ──。なにをしているんだ。そんなことは、やらなくていいんだ。引っ込んでいなよ」
トーイが驚いたように叫んでいる。
「なに言ってんのよ、トーイ。どうせ、今夜はここに泊まりだもの……。それに、こんなにお客さんがいちゃあ、てんてこ舞いなんでしょう。わたしも手伝うわよ。お母さんの許可はもらったわ」
「でも、お前は……都でも有名な歌い手で……」
「ここじゃあ、ただのあんたの昔馴染みよ。それよりも、さぼってないで動いて、動いて」
ニーナが酒や料理を配りながら陽気に返した。そして、すぐに給女を再開した。彼女の行くところ、あちこちで歓声のようなものがあがった。
トーイの話によれば、成功した唄歌いの芸人ということだったが、かなり気さくな性質のようだ。
この酒場の酔客にも馴染んでいて、うまく客もあしらっている。
さっきまでは神々しいまでに素晴らしい歌い手だと思ったが、いまは、ずっとここで働いている宿屋の娘にも見える。
不思議な女性だ。
トーイが卓の前から去った。
「はああっ」
エリカが短い悲鳴をあげた。
またコゼが操作具を弄ったのだ。
一郎は苦笑しながら、その操作具をコゼの手から奪い取る。
そして淫魔師の術で、コゼの性感をエリカと同調させた。エリカが感じるすべてが、そのままコゼの身体にも流れ込むように仕組んだのだ。
操作具を動かし、振動をお尻だけに集中させる。
「あっ、あんっ……」
今度はコゼが真っ赤になって小さな声を洩らす。
このところ徹底的に肛門を責めているせいで、コゼの尻穴はエリカ以上に敏感に育ってきていた。証拠に、同じ刺激を与えても、コゼの方が大きく悶えている。
「ふたりとも、早く食え。今夜は上で続きだ……。精をたっぷり注いでやる。エリカは前、コゼは後ろだ」
一郎は顔を近づけて囁き、大皿の肉をふたりに取り分けた。
エリカもコゼも、真っ赤に染まった顔を俯かせ、震える手でフォークを持ちながら料理を口に運んでいく。
押しつけられている快感による苦悶の表情を浮かべて……。