【改訂版】異世界で淫魔師ハレム【コミカライズ作品】 作:ドン・ドナシアン
唖然とした。
しかし、取り残されたかたちになった一郎が躊躇したのは一瞬だけだ。
すぐに二本の松明を掴んだまま、エルスラの駆けていった方向を追っていった。
月明かりの届かない生い茂った樹木の下だったが、エルスラも、それを追っていったグールの集団もどこにいったのかわからなくなっていたが、幸いにも一郎は、エルスラの存在が近くなれば、それを感じることができる。
──いた。
大樹を背に、短剣を振るっている。
だが、すでに胴体には切断したグールの腕が数本喰い込んでいて、その部分の皮膚が破れて血が流れている。
また、二匹から三匹のグールに身体を掴まれて、いまにも押し倒されようとしていた。
「エルスラ、大丈夫か──?」
一郎は我を忘れて叫んだ。
なにも考えていなかった。
エルスラが殺される。
その恐怖で頭が真っ白になっていた。
「な、なんで、来たのよ。逃げてって、言ったのに」
エルスラが一郎に気がついて、グールに押し倒されながら声をあげた。
一郎の持っている二本の松明に、エルスラを囲んでいたグールたちがひるんだように動きをとめる。
そのとき、一郎はグールたちの身体の一部に青いもやが灯ったような気がした。
それは、エルスラに見える性感帯が赤いもやに染まるのと同じような感じだったが、いま感じたのは青い光だ。
一郎は、半ば無意識のうちに、エルスラを押し倒して噛みつこうとしている二匹のグールに一目散に駆け寄ると、その青い光めがけて松明を押し当てた。
炎を押し当てられたグールが、空気が切り裂けるような声をあげて闇の中に溶けていく。
エルスラの正面のグールが消滅した。
「イ、イチ様? なんで──? 光魔道──?」
エルスラが目を丸くしている。
それは一郎も同じだったが、いまは考えている余裕はない。
手当たり次第に青い光のあるグールたちの腐肉の部分に炎を押し当てる。
次々にグールたちは消滅していき、闇の中に溶けるように消えていく。
それは切断されて分離した腕や脚だけのグールも同じだった。腐肉の一部に仄かに灯っている青い光があり、そこに炎を押し当てると、例外なくグールは消えていった。
やがて、一郎とエルスラの周囲からは、グールの気配が完全に消えた。
「大丈夫か、エルスラ……?」
一郎は樹木を背に倒れているエルスラに近づいた。
あちこちを擦りむいた傷があり、服もかなりの部分が裂けて、そこから肌も露出している。グールの爪が喰いこんでいた腕からは出血もしているが、死ぬほどの負傷ということはないだろう。
毒のようなものを受けた様子もない。
ほっとした。
「な、なんで……。どうやって……? グールを倒してしまうなんて、どうしてそんなことができたの……? な、なんで……? 浄化の魔道なの──?」
エルスラは呆然とした顔で一郎を眺めている。
どうして、そんなことができたのか一郎にもわからない。
ただ、青い光が見えたので、そこにグールの嫌がる炎を押し当てただけだ。
おそらく、あの青い光はグールの弱点であったのだろう。
ほとんど無意識のうちに、一郎はグールと戦う決意をした。
それで一郎の頭に、敵であるグールたちの弱点を青い光として感じることができたのかもしれない。
考えられることはそういうことだが、いまのことだけでは、実際にはなにが起きたのかはわからない。
ともかく、一郎は自分の感じた青い光のことを説明した。
エルスラは驚いて、言葉もない様子だ。
ただ、青い光のことは語ったが、エルスラと性交をするときの桃色の光のことは黙っていた。ステータスを読めることもだ。
あれは一郎の秘密だ。
「青い光? だけど、光魔道の遣い手でも難しい死霊体の核を正確に見抜けるなんて……」
エルスラは一郎に助け起こされながら、まだ判然としない様子で呟いた。
心なしかエルスラが一郎を見る眼に、畏敬の念が籠っている気がする。
ちょっと心地いい……。
「とにかく、傷の手当てを……。水のある場所に向かおう……。怪我の部分を洗わないと」
一郎はエルスラの腰を抱えるようにして歩かせた。
二本ある松明の一本をエルスラに持たせる。
とりあえず、グールの集団は消えたが、このルルドの森にはまだまだ邪悪なものの存在を感じる。
どこからそれらが襲ってくるかわからない。
「……水って……。こっちがそうなの?」
一郎に歩かされながらエルスラは言った。
それは一郎にもわからない。
しかし、水辺に向かいたいと考えたとき、なぜかこっち側に向かえば、それがあるという確信が不意に心に浮かんのだ。
果たして、一個の小さな泉のある場所に到着した。
水辺には大きな巨木が一本あり、その根元から大きな泉が拡がっていた。
「ほ、ほんとに泉が……」
エルスラは水辺を前にして声をあげた。
一郎も自分自身びっくりしている。
「この泉からは邪悪なものの存在は感じないわ……。風が澄んでいて瘴気も消えている」
エルスラが注意深く泉を観察してから言った。
それは一郎も同じことを思っていた。
さっきから森全体に感じたようなおぞましい存在の気配をここではまったく感じない。
「まあ、とにかく、傷の手当てをしよう……」
一郎は言った。
エルスラが小さくうなずき、水辺に身体を屈めて、手で水をすくって傷のある場所を洗い始める。
一郎はそれを眺めていて、ローブの内ポケットにエルスラから取りあげた下着を入れたままだったことを思い出した。
それで、傷の周りの汚れを拭くために下着を取り出し、水に浸した。
布らしいものはこれしかない。
だが、片手で松明を掲げながら水辺に屈んでいるエルスラを眺めると、急にむらむらと情欲が沸き起こってきた。
よくわからないが、欲情が身体にたぎって仕方がない。
横にいつでも手が出せる大美女がいると思うと、どうしても心の衝動がとまらないのだ。
これも淫魔師に覚醒した影響だろうか……?
こんな状況でと我ながら思ったが、気がつくと、エルスラの背後から腰に手をそっと伸ばして、スカートの下に手を入れていた。
下着を身に着けていないエルスラのスカートの下は剥き出しの股間だ。
一郎はわざとその股間に下から水を跳ねさせて当てる。
「ひゃん」
エルスラが身体をびくりと跳ねさせた。
「な、なにするのよ、イチ様。もう、こんなときに、なんなのよ……。こんなときに……。こんなときなのに……」
エルスラが振り向いて一郎を睨んだ。
松明の灯りだけではよくわからないが、エルスラの顔は真っ赤になっているようだ。
一郎はその様子に吹き出した。
悪戯をした瞬間、エルスラの「快感値」が〈100〉近い数値から、一気に〈30〉まで下がったのだ。
顔や口調では取り繕っているが、実際には一郎に悪戯されて満更でもない様子だ。
それがわかったのでおかしかったのだ。
しかし、次の瞬間、一郎は背後になにかの存在を感じた。
“ユグドラ
精霊、女
年齢 ****
精霊(レベル100)
経験人数:男:**、女**
淫乱レベル:C”
その文字列が、突然頭に浮かび上がった。
一郎は思わず振り返る。
だが、そこには誰もいなかった──ただ、巨大な樹木が一本立っているだけだ。
「きゃあああ」
急に、エルスラの絶叫が響いた。
一郎は驚いて振り返る。
エルスラが足首を浸けていた泉の水が、水の触手のようなかたちに変わり、エルスラの全身に絡みついている。
一郎は慌ててエルスラを水の外に引き出そうと腕をエルスラに伸ばした。
「水妖よ。来ちゃだめえっ」
エルスラが叫んだ。
だが、すでに全身を水の触手に絡みつけられたエルスラは、身体の半分以上を水中に引きこまれようとしている。
一郎はエルスラの片側の二の腕を掴むことに成功した。
しかし、水面から出現した新たな水の触手が、今度は一郎の身体を包み込んでくる。
くそう……。
さっきの青い光のようなものは……。
意識を集中させるが、なにも見えない。
そのあいだも、ずるずると水の中に引っ張られていく。
「イチ様──」
エルスラが叫んで、一郎を水の触手から解こうとする。
だが、エルスラ自体も新しい触手に腕を新たに巻きつかれて動けなくされた。
「ぐうっ」
「ああっ」
すごい力で締めつけられて、そのまま水の中に引きこまれてしまった。
そして、意識は闇の中へと沈んでいった。
頭が朦朧としている。
気がつくと、不思議な場所にいた。
はっとした。
そういえば、ルルドの森とエルスラが呼んだ、死霊の棲む森で、泉の中で怪しげな水の触手に引っ張られて……。
水の中……?
……では、ないようだ。
息もできるし、喋ることもできそうだ。
暗くもあり、明るくもあった。
暖かくもあり、冷たくもある。
そんな感覚が一郎を包んでいる。
そうだ……。
エルスラは……?
すると、水がぴちゃぴちゃと波立つ音が、離れた場所から聞こえてきた。
さらに、女の喘ぎ声も──
「エルスラ?」
一郎は叫んだ。
我に返ることで、このなにもない空間の中で、水の触手にすっかりと身体を包まれているエルスラを見つけたのだ。
エルスラは完全に素裸だった。
そのエルスラの全身を水の触手が余すことなく舐め回すように、いやらしくうごめき続けている。
喘ぎ声は、その刺激を受けているエルスラが洩らし続けているものだ。
「ああ……いい……はあ……うふう……い、いやあ……」
意識があるのか、ないのかわからないが、あったとしても半覚醒状態だろう。
エルスラの眼は閉ざされ、ただ甘い息とともに声をあげるエルスラの唇が動き続けている。
そのエルスラの手足を雁字搦めにしている水の触手と同じものが、エルスラの乳房と腰に群がり、さらに全身の肌を擦り回っている。
“エルスラ
快感値:7/100(↓:下降中)”
この文字が頭に浮かんだ。
「エルスラ──」
一郎はもう一度叫んだ。
そして、水の触手からエルスラを引き出そうとした。
エルスラがかなり追い詰められていることは明らかだ。
しかし、駆けだそうとした一郎の前に、急に透明の壁が立ちはだかった。
エルスラはその水の壁に遮られた。
そのとき、背後に、またもや何者かの気配を感じた。
“ユグドラ
精霊、女
年齢 ****
精霊(レベル100)
経験人数:男:、女:
淫乱レベル:C
快感値:1000(正常)”
その文字が急に頭に浮かんだ。
一郎が振り返ると、さっきまで一郎が横たわっていた場所の付近に、ひとりの女が立っていた。
腰の後ろまで伸びる緑色の髪をした美女だ。
一糸まとわぬ素裸だった。
その肌は白いというよりは、透けるような透明感がある……。
いや……
よく見れば、本当に透けている。
ユグドラはそこにいるようであり、あるいは、なにもいないかのようでもあった。
ただ、存在だけははっきりと感じる。
そして、ユグドラは面白がるような雰囲気で、一郎を微笑みながら見つめていた。
「エルスラを酷い目に遭わせているのは、あんたの仕業か? もう、やめてくれよ」
一郎は怒鳴った。
すると、笑みを浮かべたユグドラの眼が大きく見開いた。
「わたしの姿が見えるのかい?」
「見え……ますけど……」
身体が透明に近く不思議な存在ではあるが、一郎には目の前の美女の姿ははっきりと認識できる。
当惑しながら頷く。
「これは驚いたね。光魔道も遣うことなく死霊たちを呆気なく浄化して倒してしまった実力といい、お前は何者なんだい?」
「いや、間違ってきたというか……。通りすがりで……」
「ふうん……。面白そうな素材だから、とり殺す前に観察してやろうと思って、ここまで導いてやったんだが、これは驚いたよ。わたしの存在を見抜けるとはね」
ユグドラが感心したような声をあげた。
「あのう……。さっきも言いましたけど、俺もエルスラも、ただ間違って、この森に入ってきただけなんです」
一郎は言った。
「もちろん、そうだろうさ。この森に好んで入る者などいないよ。大抵の者は間違って入るものさ。なにしろ、生きとし生ける者とあれば、見境なく喰らい殺してしまう妖魎が棲んでいるんだからね」
ユグドラが声をあげて笑った。
だが、言葉とは裏腹に、目の前のユグドラからは危険なものは感じなかった。
もっとも、それはいつ豹変するかわからないような不安定なものだったが、とりあえず、いまこの瞬間は、ユグドラは一郎を殺そうとしていない……。
そんな感じだ。
根拠はない。
ただの勘だ。
しかし、確かに、そう思った。
「ユグドラさん、あなたはこの森の主の精霊ですか?」
なんとなく一郎は訊ねた。
そうではないかと思ったのだ。
一郎が感じるユグドラのレベルは、〈100〉だ。
怖ろしいほどの力を持っているとエルスラが説明したアスカの魔道遣いとしてのレベルが〈99〉だったことを考えると、この世界における「強さ」の最高値がそれくらいなのではないかと思う。
そうであれば、これほどの存在がこの森の一介の住人であるわけがない。
しかし、一郎の言葉に、ユグドラの笑みが完全に消滅して、その顔が驚愕に包まれた。
次いで、「床」から木の蔓のようなものが一斉に現れて、一郎の身体に先端を伸ばす。
このときはじめて、一郎は自分もまた素裸であることに気がついた。
「答えるんだよ。お前は何者だい──? なんで、わたしの名を知っている──? わたしの名がユグドラであることなんて、少なくとも三百年以上は誰にも教えていないよ。さあ、何者か言うのさ。さもないと、この蔓がお前の身体を一斉に貫くよ」
一郎の裸身に迫っている木の蔓は槍先のように尖っている。
それが十数本も間近にあった。
しかし、やはり一郎は恐怖心を感じなかった。
その理由はすぐにわかった。
眼の前の蔓には実体のようなものが伝わってこないのだ。
これは幻だ。
なぜか、一郎にはそれがすぐにわかった。
本物ではないと思うと、自分でも信じられないくらいに落ち着いていられた。
「とって喰らうと告げた者を殺すと脅すのですか? それはさすがに効果はないでしょう」
一郎は言った。
すると、今度は眼の前のユグドラが笑い出した。
迫っていた槍のような木の蔓が消滅する。
「面白い坊やだね。度胸があるのは嫌いじゃないさ。空威張りするだけの能無しには興味はないけど、行儀もいいようだ。いいさ……。それに免じて、命は助けてやってもいい。だけど、なんで、わたしの名を知っていたのか、それだけは教えてくれるかい」
ユグドラが相好を崩した。
「なんでわかるのか、俺にもわかりません。わかるとしか説明のしようがないのです。俺はあなたの姿を感じたとき、あなたが精霊であるということと、ユグドラという名であることが頭に浮かびました。言葉になって、文字として頭に浮かんだんです。感じたとしか……。それだけです」
一郎は正直に言った。
我ながら説明にもなっていないと思ったが、ユグドラの顔が驚愕に包まれた。
「なんとまあ……。お前は魔眼の持ち主なのかい?」
ユグドラが声をあげた。
「魔眼?」
今度は一郎が驚く番だった。
魔眼とはなんだろう?
「おやおや、お前は自分の能力の名も知らないのかい? 面白い坊やだねえ。だが、魔眼の能力を持っているとなれば、わたしの名がわかったのも合点がいくね。もしかして、外界人かい?」
「外界人……ああ、そうだと思います」
確か、アスカも、エルスラも、召還した一郎のような存在をそう呼んでいた。
「じゃあ、あの性悪のアスカに召喚でもされたのかい? 察すれば、あのエルフの小娘をそそのかして、アスカから逃亡してきたのかい?」
「まあ、早い話がそうで……」
「ははは、こりゃあ、ますます愉快な坊やだよ」
ユグドラが嬉しそうに言った。
「あ、あの魔女を知っているんですか?」
「ああ、知っているとも。そもそも、この森が瘴気で溢れているのも、あの性悪女が見境なく召喚を繰り返して、この世の力の平衡を乱しているのが理由だからね」
「この森の瘴気は召喚が原因?」
一郎は首を傾げた。
「まあ、それはいいさ……。ともかく、召喚された外界人といえば、幾つかの一部の能力の異常上昇が特徴だからね。もっとも、どんな能力が上昇するかは、召喚してみないとわからないんだが、お前は、魔眼を身に着けた外界人ということのようだね。これは凄いよ。数百年に一度の逸材ということになるじゃないかい」
ユグドラが興奮したように言った。
一郎は当惑してしまった。
召喚された人間がなにかしらの特殊な能力を保持するというのは、アスカも言っていた。
しかし、一郎のことを調べたアスカは、一郎がどんな能力も向上していない「無能力者」だと称した。
その「魔眼」というのが、ユグドラの言うとおりに、すごい能力なのだとして、一郎に覚醒したのがそれならば、なぜアスカはそれを発見しなかったのだろう。
もっとも、アスカは一郎が「淫魔師」としての能力を保持したことも見抜けなかった。
それは、その能力が取るに足らないものだからだろうと思っていたのだが……。
「魔眼というのは、そんなにすごい力なんですか?」
一郎は訊ねてみた。
すると、ユグドラが声をあげて笑った。
「当たり前だろう。他人の名や能力がある程度見えるんだろう。それだけじゃなくて、無意識のうちに、“正しい道”というのがわかるんじゃないのかい? 魔眼保持者は、凄まじく勘が鋭くもなるはずだよ……」
「勘が?」
驚いたが納得できるものがある。
そういえば、この泉に向かうときも、ユグドラに邪心がないと思ったのも、ただの勘だった。
「二百年前に出現した魔眼の能力を持った外界人はそんな力を持っていたよ。そういえば、その男は、確か、ど偉い王様とかになったんじゃなかったかねえ……。エルニアスっていったかねえ……? こりゃあ、ますます、殺すわけにはいかないね。もしかしたら、歴史に名を残す男になるかもしれないよ」
「でも、アスカという魔女は、俺が魔眼という能力があることを見抜けませんでしたよ? そんなすごい力だったら、なぜわからなかったんですか?」
「そりゃあ、そうかもしれないね。あの女はせいぜい、二百年しか生きていない女じゃなかったかねえ。このわたしでさえ、魔眼保持者に接したのは二百年以上も前のことだからね……。あの女は、そもそも、魔眼という能力に接したことがないから、わからなかったんじゃないのかねえ?」
ユグドラは愉快そうに言った。
「だったら……」
一郎は訊ねてみることにした。
「……淫魔師というのは、どんな存在なんですか?」
ユグドラが言うとおり、召喚によって一郎に備わったらしい「魔眼」という能力が非常に珍しいものだったという理由で、アスカの「調べ」に引っ掛からなかったとすれば、同じように、アスカには見抜けなかった「淫魔師」というジョブは、やはり、非常に珍しい存在ではないかと思ったのだ。
「淫魔師? まさか、お前が淫魔師というんじゃないだろうねえ? 淫魔師というのは、伝承では聞いているけど、実際には存在しないといわれているよ」
「……だったら、俺は、その淫魔師だと思います……」
一郎は言った。
ユグドラの言葉が正しく、一郎が「魔眼」という能力を持っているのであれば、その魔眼によって一郎が「淫魔師」と映ったのだから、一郎は淫魔師でもあるはずなのだ。
「自称淫魔師というのは珍しくはないんだけどね……。実際のところ、ただの操り術や媚薬の類いを駆使するだけの嘘っぱちさ。ただ寝るだけで呪術で女を虜にするなんて、わたしには信じられないね」
「間違いないと思います……。魔眼に映ったものを信じるならですけど。魔眼が正しければ、俺は淫魔師ということになります」
「ほう……。わたしの知る限り、本物の淫魔師はいままでひとりだけだ。もう数千年以上も前のことさ……。こりゃあ、すごいね」
ユグドラは肩を竦めた。
「もっとも、なったばかりの淫魔師ですよ……」
すると、ユグドラの様子が変わった。
「本当かい? もしも、それが本当なら素通りを許すわけにはいかないねえ。その淫魔師の能力でわたしを抱いてみな。それで、このわたしを満足させることができたら、それこそ、なんでも望みをかなえてやるよ。あのクロノスが保持していたという伝承の能力だ。それを試させてもらおうじゃないかい」
「じゃあ、俺たちを解放してください。それと、この首輪を外すことができますか?」
一郎は言った。
「そんなことかい。そりゃあ、アスカの使っている『支配の首環』の中でも、一番低級のものだね。それを外すのなんかわけないよ……」
「本当ですか……。だったら……」
「ただし、条件があるね」
「条件?」
「ああ……。でも、こりゃあ、愉しみになってきたねえ……。このわたしを女にしてくれる男が現れたのかい? まあ、偽者でない正真正銘の淫魔師の能力というのが、本当に伝承のとおりなら、話半分、いや、話十分の一でも満足さ……」
「ええっと……、どういう……」
「決まっているさ。さあ、わたしを抱いておくれ───。すべての女神がひれ伏したという伝承の技だ。その代わり、もしも、でまかせを言ったのなら、このわたしをからかった代償はしはらってもらうからね」
ユグドラがその場にしゃがみ込んで、大きく股を開いた。
一郎は唾を飲んだ。
そこは、一本の恥毛もないことを除けば、普通の人間の女性器とまったく同じだった。
満足させられなければ容赦しないという脅しよりも、いまは目の前の美女の精霊を抱きたいという淫情が遥かに上回っている。
今日一日でエルスラを相手に三度精を放っているが、それの影響はなさそうだ。恐ろしく絶倫でいられるのは淫魔師としての力なのだろう。
一郎の一物はすでに臨戦態勢だ。
「道具は立派だけど、平凡といえば平凡だねえ。さあ自称、淫魔師さん……。わたしを抱いておくれ」
ユグドラがそれに目をやって、妖艶に微笑んだ。
一郎は、ゆっくりとユグドラの身体に近づいていった。