【改訂版】異世界で淫魔師ハレム【コミカライズ作品】 作:ドン・ドナシアン
058 ある晴れた昼下がり
昼下がりに、城郭の中心街にある高級宿を出ても、ニーナの胸中は騒いだままだった。
頭の中を占めているのは、トーイが襲撃を受けた一件である。毒に倒れ、苦悶する姿を思い返すだけで胸が締め付けられる。
向かう先は、マニラとトーイが営む宿屋だ。
そこにはあの冒険者たちが調査に出ており、まもなく戻ってくるはずだった。報告を受け、真相を確かめなければならない──そればかりを思っていた。
また、ニーナに同行している護衛のふたりはステファン卿の厳命によるのだ。
どんな時も決して離れるな──。それが、この城郭にニーナが滞在するための条件だった。
だが、その矢先、一台の豪奢な馬車が通りを塞ぐように滑り込んできた。
扉が音を立てて開き、目つきの鋭い女がひとり降り立ち、片手を差し出して進路を遮った。
不審に思い、ニーナは馬車の奥を覗き込む。
だが、扉の奥を覗いた瞬間、ニーナは血の気が引いた。
そこにいたのは、ほかならぬドルニカ伯爵夫人だった。
深紅のドレスを纏い、肩口や胸元には惜しげもなく宝石を散らしている。白い肌は年齢を感じさせないほど張りがあり、切れ長の双眸は、見据えるだけで人を屈服させるほど鋭い。涼やかな美貌でありながら、笑みには容赦のなさが滲んでいる。
その冷たい視線に晒された瞬間、ニーナの胸中に過去の記憶が呼び覚まされた。
夫人の性対象は、常に自分と同じ女だった。
しかも、嗜虐を好み、愛撫よりもまず命令と拘束。鞭を振るう手はためらいを知らず、その跡は自らの肌にも残っていた。
思い返せば、何度も館でそういう夜を過ごした。
歌姫として後援を約束された代償は、夫人の望むまま、時には夫人の友人たちに抱かれることだった。
背中を打ち据えられ、声を奪われるような扱いを受けたこともある。道具を使って辱められ、涙をこぼすほど激しい交わりも日常茶飯事だ。
しかし、それが終われば、ただひとり夫人が抱き寄せ、耳元で「愛している」と囁いてくれる。
ニーナは、その優しさを“自分は大事にされている”証だと信じようとしていた。
だが、あの甘さの裏にある容赦のなさを、身体は嫌というほど知っている。
──どうして……?
ステファン卿は王都に戻ったはず。出立の前に、事情を記した手紙を夫人に託した。だからしばらくは顔を合わせずに済むはずだった。
それなのに、なぜここに……。
「ふふふ……可愛いニーナ。いいのよ、大変だったのでしょう。唄会の件は気にしなくていいわ。ステファンがあれこれ処置をしているから」
夫人はゆるやかな声音で言いながら、口元に笑みを湛えた。
だが、その瞳は冷ややかに光り、拒絶を許さぬ鋭さを宿している。
「それよりもね、わたしの大切な女友達が王都からわざわざ来てくださっているの。あなたの噂を耳にして、ぜひ会いたいと仰ったのよ。だからこうして、このマイムまで直接迎えに来たの。──さあ、乗りなさい。あなたのお話をゆっくり聞かせてもらうわ」
その声は甘やかに響きながら、蛇の舌のようにぞっとする圧を孕んでいた。
胸の奥が凍りつく感覚に、ニーナは唇を震わせる。
「あ、あの……でも、これから、トーイのところへ……」
勇気を振り絞って口を開いた。
だが言い終わる前に、夫人の双眸が射抜くように光る。
「いいから乗りなさい」
低く鋭い声──。
その響きは、かつて幾度となく命令を強いられた夜を思い出させ、抗う気力を奪っていく。
「でも……」
「王都に戻れとは言っていないの……。この城郭にあるわたしの別宅で十分よ。──さあ」
蛇に睨まれた蛙のように、ニーナの身体は竦んだ。
そこへ、扉から降り立っていた女が無造作に腕を掴んだ。ごつごつとした指が食い込み、ぞっとするような冷たさが伝わってくる。
女の顔は彫りが浅く、どこか掠れた影のようだった。
痩せぎすの体躯に比して、異様に大きな眼がぎらついている。肌は蝋細工のように青白く、唇の色は血の気を失った紫。吐息にかすかな薬臭が混じり、近づくだけで胸の奥に嫌なざらつきを覚える。
袖の隙間から覗く腕には、無数の細かい火傷の痕があり、ただならぬ気配を漂わせていた。
ただ握られただけなのに、じりじりと痺れるような感覚が走る。
まるで触れられた部分から毒気が滲み込んでいくようで、背筋に冷たいものが這い上がった。
「さあ、お嬢さん……」
女は短くそう告げ、ぐいとニーナを引き寄せる。
「待ってください、我々も──。ステファン様から絶対に離れるなと……」
護衛のふたりが慌てて駆け寄る。
しかし次の瞬間、ふたりの身体は糸が切れた人形のように崩れ落ちた。
「きゃあ──。ど、どうしたの……」
ニーナの悲鳴が、狭い街路に虚しく響く。
女が肩をすくめ、口元を歪めてくすくすと笑った。
「さあ、どうしたのかしら……。急に眠くなっただけじゃない?」
「ブルド、ニーナを中へ」
夫人の冷然とした命令。
女──ブルドと呼ばれたその不気味な女は、無言で頷き、ぐいとニーナの背を押す。
ニーナは抗う間もなく、暗い馬車の奥へと追い込まれた。
扉が閉まる。
暗い車内に、夫人と三人の貴婦人の視線が突き刺さる。まだ馬車は動き出していない。
座席は全部が埋まっていて、ニーナの席は空けてもらえない。ニーナは四人の夫人に囲まれるように、座席と座席のあいだに立たされた。
「あ、あの……夫人……どうかお聞きください……。わたしは……トーイのところへ……」
必死に声を絞り出した。
胸の奥で、これまでの経緯が一気に蘇る。
──これまで、何度も訴えてきた。
歌姫をやめてもいい。ただ、トーイと結婚させて欲しいと……。
冷たく笑われても、取り合ってもらえなくても、しつこく訴え続けた。
そして、ようやく夫人は告げてくれたのだ。
もしトーイがあなたを受け入れ、しかも、ニーナの調教された傷だらけの身体を見て、なお彼がニーナを受け入れるのなら……そのときは認めてあげましょう。歌姫の座を降りても構わない……、と。
だから望みに縋った。
だが、あの夜……トーイは、首を振った。
受け入れてくれず、声を殺して泣いた、あの朝の胸の痛みはいまも消えない。
──それでも……。
トーイに抱かれた瞬間に確信した。
夫人の与える愉悦よりも、何十倍、何百倍も深い歓びがそこにあった。
心も身体も、すでにトーイのもとにある。
「……どうか……夫人……。わたしはもう、彼とともに生きたいのです……。歌姫をやめても……構いません……」
涙をにじませて告げた。
だが返ってきたのは、冷酷な眼差しだけだった。
「いいから乗ったのなら黙りなさい。唄のことは許すわ……だが義務を放棄させるつもりはないわ」
ドルニカ夫人の言葉に三人の貴婦人が小さく笑い、ニーナの背筋は凍りつく。
「義務」……。つまり、夫人の友人たちに抱かせるための“性奴隷”の務めだ。それをやめることは、決して許さないということ……。
香水と絹の衣擦れが入り混じった甘ったるい匂いが狭い空間に淀んでいる。
四人の視線が、獲物を囲む猛禽のように一斉に注がれ、息が詰まりそうだった。
やがて鞭を打つような音が響き、馬車が軋みを上げて走り出した。
通りの石畳を踏むたびに、車体は大きく揺れる。座席に座れないニーナは、夫人たちの膝と膝の間に立たされていたため、片足を踏み直すたびに姿勢を崩した。
──危ない……。
身体がぐらりと傾いた、その瞬間だった。
四人の貴婦人の手が一斉に伸び、ニーナの腰や腕、肩口を掴んで支えた。だが、それは決して優しい手つきではない。
「まぁ……震えているわね」
「有名な歌姫をこんなに近くで見られるなんて」
「ふふ、不安そうなお顔……。可愛いこと……」
耳元にかかる声は、どれも愉悦を滲ませていた。
柔らかな絹の手袋越しに撫でられるたび、支えているはずの手がいやらしく這い、逃げ場のない密着感を強めていく。
揺れる馬車のなか、まるで獲物を弄ぶように絡みつく四人の手。
ニーナは必死に背筋を伸ばすが、視線と指先に絡め取られ、息苦しさがさらに強まっていった。
馬車はニーナを立たせたまま石畳の大通りを進み続ける。馬車が大きく揺れるたび、ニーナはよろけ、夫人たちの膝と膝の間に不安定に立たされていた。
その姿を愉しむかのように、貴婦人のひとりがにやりと唇を吊り上げる。
「まぁ……このワンピース、生地も仕立てもとても上等ね。けれど、下にどんなものを隠しているのかしら」
甘やかな声で囁きながら、彼女の指が裾をするりと持ち上げる。
「ちょ、ちょっと……」
さすがに抵抗しようとするが、立っているだけで必死なので、夫人たちに手を払えない。
それをいいことに、夫人たちは無遠慮にスカートをたくしあげてしまった。
布の陰から覗いたのは、白く滑らかな肌──しかしそこには淡い痣や鞭打ちの跡がまだ点々と残っていた。
「いやっ」
慌てて片手で押さえる。
「あら……こんなところにも……。綺麗な脚なのに、痛々しい痕がいっぱいなのね」
「もっと上まで見せてごらん。どこまで続いているの?」
裾は太腿の付け根にまで迫る勢いで捲られていく。
羞恥と恐怖に顔を真っ赤にし、ニーナは思わず両手でそれを思い切り払いのけた。
「や、やめてくださいっ……。お願いですから……」
必死に布を押さえる指は震え、今にも涙がこぼれそうだった。
その様子を、正面のドルニカ夫人は微笑みながらじっと見つめていた。
はっとして、ニーナの身体が竦む。
「……邪魔な手ね」
そして、だが次の瞬間、ドルニカ夫人の冷えた声が落ちた。
次いで、ドルニカ夫人が懐から小さな手錠を取り出した……。
「拘束してしまいましょう。余計な真似をされては困るもの」
夫人の瞳は容赦なく細められ、命令が響く。
すぐさま両脇から腕を掴まれる。
「いやっ、放して──」
必死に身を捩るが、力でねじ伏せられ、腕は背へと捻られる。
冷たい金属の輪が肌に触れ、乾いた音を立てて閉じられた。
背後で手錠が音を立てて閉じられた瞬間、ニーナは自分の運命が決して逆らえないものへ傾いたと悟った。
冷たい金属に縛られた腕は、もはや衣服を守ることさえできない。
「……いい生地ね。でも、もう必要ないわ」
ドルニカ夫人を除く三人の夫人が小刀を取り出した。それを躊躇いもなくニーナのワンピースに突き立てる。
「ああ、いやっ」
布が裂ける鋭い音が響き、切り開かれた隙間から白い肌が覗いた。
「ああっ……やめ──て……」
身をよじっても、四人の手が肩や腰をがっちりと押さえている。しかも、後手に拘束されており、抵抗の手段はない。
裂かれた布切れはそのまま掴まれ、ひらひらと窓から投げ捨てられた。
通りに落ちていく衣装を見て、ニーナの胸に焼けるような羞恥が走る。
「まぁ……こんなに痕が。やっぱり、愛されてきた証ね」
切り裂かれた隙間から覗く肌を、女たちの指先がなぞる。
乳房の下、腹部、太腿の側面──どこを見ても淡く赤黒い線が刻まれている。
それは、夫人の鞭が幾度も打ち込まれた跡。
治りきらぬ痕が浮かぶその肌を、女たちは面白がるように撫で、つつき、検分していく。
敏感な場所を指でくすぐられ、ニーナの口から知らず喘ぎ声がとまらなくなっていた。
「さすが歌姫さんね……。悶える声も綺麗だわ……」
「調教の甲斐もあるわ……。こんな身体に仕上げられて──」
くすくすと笑う声が四方から降り注ぐ。
やがて小刀はさらに下へと進み、ワンピースの裾から腿を裂いていった。
布はばさりと開かれ、足先に溜まった端切れは無情に剥ぎ取られ、また窓から捨てられる。
「やめて……お願いです……」
涙声の訴えは嘲笑にかき消されるだけだった。
下着にかけられた刃が、次の瞬間には音を立てて切り裂いた。
白布が裂け落ち、脚のあいだからも無造作に引き剥がされて、外へと放り出される。
「あら……やっぱり無毛なのね。綺麗に仕上げてもらっているじゃない」
「ふふ……しかも、こんなに濡らして」
指先が秘所をなぞった瞬間、ぬらりと艶を帯びた蜜が指に絡みついた。
女たちの笑いがどっと広がる。
「いやっ……ちがう……これは……っ」
ニーナは首を振り、必死に否定する。
しかし、身体は無惨にも夫人の調教で条件づけられ、触れられただけで反応してしまう。
羞恥と絶望が胸を締めつけ、逃げ場のない涙が頬を伝った。
裸にされた身体を四方から注がれる視線が舐める。
どこを隠そうにも、背後に回された手は縛られたまま……。
切り裂かれた布切れはもう外に捨てられてしまい、ニーナを覆うものは何ひとつ残っていない。
「まぁ……素晴らしいわ。鞭の痕と白い肌が織りなす模様……芸術的ね」
「見て、この胸の下……まだ赤く残ってる。随分と打たれたのでしょう?」
「傷の数だけ、躾けられてきたってこと。……ほら、乳首だって」
ひとりが指で乳房を押し上げ、もうひとりが先端を摘まんだ。
冷たい指が触れただけで、敏感な突端は裏切るように硬くなる。
「いやぁっ……ちが……っ」
必死に首を振るが、笑い声が返ってくるだけ。
指は無遠慮に肌を這い、くすぐるように、探るようにあらゆる場所へ伸びていく。
「このお腹も……震えている。ここを撫でられるのが好きなのね?」
「それに……この無毛の秘所。まるで小娘のように仕立てられて……」
股のあいだに手が伸び、秘所をなぞる。
蜜が指に絡みつき、糸を引いて滴った。
「あぁ……いやぁ……」
声は哀願にも似ていたが、指先に反応して腰が震えてしまう。
調教で刷り込まれた身体は、拒絶の心とは裏腹に快楽を拾い上げてしまうのだ。
「ふふ……見て。もう溢れてる。本人は否定しても、身体は素直ね」
「可愛い歌姫が、こんなにいやらしく躾けられて……。ほんとにご褒美だわ」
四人の指が競うように胸や腰、尻や腿の内側を撫で回し、検分するかのように確かめていく。
嗤い声、囁き、香水のむせかえる匂い……。
全身を囲まれた圧迫感に、ニーナは声もなく涙を零した。
──逃げられない。すべてを見られ、弄ばれて……。
羞恥と絶望が心を呑み込んでいく。