【改訂版】異世界で淫魔師ハレム【コミカライズ作品】 作:ドン・ドナシアン
「あいつらです」
ステファンが小声で指し示したのは、平凡な顔立ちの若い男だった。
その隣には、ひとりの若いエルフの美女が寄り添っている。
ブルドは一瞬、思い出せずに目を細めた。
だがすぐにわかった。──ニーナをマイムの市から連れ出すとき、トーイと一緒にいた冒険者だ。
あの契約は伯爵ドルニカの命令で解除されたはずだが、トーイが改めてギルドを通じて雇い直したに違いない。
男はどうということもない顔だが、あのエルフ女は一度見れば忘れられないほどの美貌だった。
ここは王都でもメティス通りと呼ばれる界隈である。
王都を縦断するクロノス大通りに次ぐ大きな通りで、王立学問所や私塾が立ち並ぶせいか、若者の姿が多く賑わっていた。
陽はまだ西に傾きはじめたばかりの昼下がりだ。
あのステファンが、ドルニカ家の屋敷に現れたのは今朝のことだった。
執事でありながら、ニーナの屋敷と財産の処分を命じられた途端、姿を消して数日行方がわからなかった男である。
突然の来訪に、ブルドはまず、ステファンにこれまでどこに行っていたのかと質した。
だがステファンは、飲み歩いて娼館に泊まり続けていたのだと、悪びれもせずに答えたのだ。
そしてすぐ、「そんなことよりも──」と前置きして、ニーナを取り返そうとしている冒険者がいる、と告げてきた。
ブルドは直感した。
あの宿屋の息子トーイが雇った冒険者に違いない。
夫人のドルニカ女伯爵からは、冒険者の処分を命じられていたが、昨日の命令を受けてからまだ日も浅いこともあり、居場所や素性すら掴めていなかった。
もちろん、トーイ本人の足取りもだ。
手の者を走らせて探らせてはいたものの、有力な情報にはまだ辿り着いてなかった。
居場所くらいすぐにわかると思ったのだが、思いのほか捜索に難航しており、それだけに──ブルドは喜んだ。
とにかく、こうしてステファンの案内で、その冒険者たちを見つけることができたのである。
「間違いないわね……。あのふたり……特にエルフ女には見覚えがあるわ。トーイのことで、ニーナが最初に雇った冒険者ね」
ブルドは人混みに紛れながら、ステファンとともにふたりを尾行する。
すでに手の者も数人、周囲に散らしてあった。
自分の合図ひとつで、いつでも動けるように……。
ただ、ふたりは妙に密着したり、立ち止まったりと、落ち着かない歩き方をしていた。
警戒している様子はないが、あのエルフ女の歩調はぎこちない。
対して男の方は、からかうような笑みを女に向けている。さすがに、この距離では会話までは拾えない。
「トーイはニーナがもともと雇った冒険者を、指名で雇い直したのですよ……。あの男はロウ、女はエリカといいます。もうひとり仲間の女がいて、そいつの名はコゼです」
ステファンのささやきは、ブルドが掴んでいた情報と一致していた。
やはり確かだ──。
そう認めつつ、ブルドは歩みをゆるめ、自然に尾行を続ける。
ロウとエリカの歩みは妙に遅い。
自然に距離を保つには気を遣わされるが、ふたりとも警戒心は見えない。
むしろ、油断しきっているようにしか見えなかった。
「それにしても、トーイはまだニーナを婚約者と思いこんでいるらしいですよ。いなくなった婚約者を探して欲しいと依頼したんです。ずうずうしい奴です」
ステファンの声色には、憤りがにじんでいた。
「それで、依頼人のトーイはどこにいるの?」
ブルドは尋ねた。
夫人からの命は、冒険者は皆殺し──。だがトーイだけは生け捕りにしろというものだ。
ニーナとともに性奴隷として飼うつもりなのであり、だからこそ、トーイの居場所が確認できるまでは動けない。
「コゼという女と一緒のはずです。俺が泊まっていた娼館にいると思いますよ……。まあ、あとを追えばわかりますが」
ステファンの答えに、ブルドは頷いた。
「娼館? あんた、娼館に寝泊まりしているの?」
ブルドは呆れて言った。
屋敷に現れたときのステファンの最初の説明によれば──トーイや冒険者たちの所在を知ったのは、まったくの偶然だということだった。
宿泊している宿で寝入っていたところ、隣室にトーイと冒険者たちが潜んでいるのを見つけたということだった。
ステファンはトーイの顔も声も知っている。だから壁越しにこっそり会話を盗み聞きし、彼らがニーナを奪い返そうと企んでいるのを知ったというのだ。
そして今朝になって、すぐに夫人の屋敷を訪れ、ブルドへとその情報を持ち込んできたわけだ。
しかし、その宿というのは、娼館とは聞いてなかった。
「まあ、そうです。男ですからね。そういうところも使いますよ」
ステファンが白い歯を見せた。
ブルドは嘆息した。
「娼館に潜んでいたとはね……。どうりで、宿屋をいくら探しても見つからなかったはずだわ……。まさか、女連れで娼館に隠れるなんてねえ……」
ブルドは低く呟いた。
王都中の宿を調べさせても手掛かりがなかった理由が、ようやく腑に落ちる。
まさか娼館に潜んでいたとは思いもしなかった。
「……それよりも、俺の情報が役に立ったのなら、俺の願いを聞いてくれるように、ドルニカ様に口添えしてくださいよ。頼みます」
ステファンが思いつめた表情で言う。
「何度も言わなくてもわかっているわよ。大丈夫。夫人にもそれとなく仄めかしておいたけど、そろそろニーナの嗜虐にもひと工夫欲しいところだったみたいで、乗り気のようよ」
「本当ですか? 約束ですよ」
「ええ……。毎度の男奴隷との種付けも、慣れてしまって嫌がらなくなっているから刺激が欲しいんですって。かつての恋人を目の前で拷問するのも面白い、と言っていたけど、元部下に凌辱されるなんて、惨めでいいらしいわ──。奥様好みの鬼畜趣向よ」
ステファンが情報と引き換えに望んだのは、ニーナを自分も凌辱したい、という願いだった。
以前から目をつけ、いつか犯したいと密かに思っていたらしい。
「鬼畜か……。なら、俺にもっといい案がありますよ」
ステファンが言った。
「もっといい案?」
ブルドは、視線を前の冒険者ふたりから逸らさぬまま、短く返す。
「犬です」
「犬?」
思わずステファンを見やってしまい、慌てて視線を戻した。
「犬をどうするっていうのよ?」
「性交用の犬を用意できる見世物業の男に伝手があるんです。ニーナにけしかければいい。夫人に仕える前は、そういう遊びに耽る貴婦人の下にいて、犬を手配するのが俺の役目だったんですよ」
ステファンはくすくすと笑う。
「……それはまた……」
ブルドは内心、嫌な気分になった。
獣姦など下卑すぎる。だが──夫人なら喜ぶに違いない、とも思う。
「まあ、奥様には話しておくわ」
「頼みますよ、ブルド殿。その代わり、俺も調教係に加えてもらいます。獣姦用の犬を手配できるのは俺だけですから」
「わかったわよ」
それ以上は言わず、ブルドは歩を進めた。
一方で、ロウとエリカの歩調はさらに遅くなり、立ち止まるようになった。
通りもメティス通りを抜け、娼館の並ぶ界隈に変わっていく。
「……それにしても……なにをしているの、あのふたり?」
不自然な足取りに、ブルドは眉をひそめる。
止まったり進んだり、速度を上げたり落としたり。まさか尾行に気づいて、こちらの手の者を炙り出そうとしているのではないか──。
そんな疑念が頭をかすめた。
だが隣のステファンはくすくすと笑っている。
「よく見ればわかりますよ。あいつらはいちゃついているだけです。昨夜盗み聞きした話では、ああいう羞恥責めがロウの好みらしい。だから日課のように、エリカを連れ出しては悪戯しているんです」
「羞恥責め……?」
ブルドは思わず息を呑む。
証明するかのように、遠くのふたりは建物の壁に寄り添うように移動した。
ロウは体を盾にして周囲の視線を遮っていたが、ブルドの位置からは、男の手がエルフ女のスカートの中に潜り込み、股間をまさぐっているのが見えた。
エリカとかいう、エルフ女は、俯いて真っ赤な顔をしているが、抵抗はせず、されるままにしている。
白昼堂々とした破廉恥な行為に、ブルドは呆れ返った。
「おっ、いよいよ、本格的に始めそうですね──」
ステファンが愉しそうに小さな声で笑う。
呆気にとられて見ていると、男がさっとエルフ女のスカートから手を抜き、そのまま路地へと導いた。
そのとき、男が手に白い布のようなものを握っていた事に気はついた。
「くくく……、わかりましたか? あいつがなにを持っていたか?」
「いや……白い布のようなものだったと思ったけどね」
「あのエルフ女がはいていた下着ですよ。下着を脱がせたんです」
ステファンが喉を鳴らす。
白昼の淫行には呆れたが、意外なのは、真面目な性質だと思っていたステファンがあれを面白そうに愉しんでいることだ。
ステファンの意外な一面を知れた気がする。
「行きましょうか」
物陰に消えたふたりを追うように、ステファンが足を速めた。
ブルドも急いでついていく。
すでにふたりの姿は路地の奥へと消えていた。
見失うわけにはいかない。
ブルドは息を詰め、入り口まで駆け込んだ。
「あっ」
角を曲がった途端、声が洩れた。
そこには、ロウとエリカが待ち構えていたのだ。
つい先ほどまで白昼の通りで淫らな真似をしていた気配はどこにもない。
エリカは頬を上気させながらも、鋭い眼差しで杖をこちらに向けている。
男は腰の剣に手をかけ、柄をしっかりと握っていた。
しまった……。
尾行がばれていた──。
ブルドは心の中で舌打ちし、慌てて合図の口笛を放った。
「……無駄よ。周囲に潜ませていた手の者は、あたしがひとりずつ炙り出して始末したわ」
背後から声が飛んだ。
振り返ると、そこには黒髪の小柄な女が立っていた。
こいつも、見覚えのある顔だ。眼前の冒険者たちの仲間……。
コゼ──。
これも手練れだ。
背に汗が流れるのを感じた。
そして、口笛に応じて殺到するはずの手下が、まったく現れない。
本当に片付けられたのだと悟った。
あの男女がわざと速度を変えながら歩いていたのは、周囲に散らした手下を炙り出すためか……。
気づくべきだった。
だが、白昼堂々と破廉恥な行為を始めたかに見え、しかもステファンが羞恥責めなどと耳打ちしたせいで、警戒心を鈍らされてしまったのだ。
「ブルド殿、どうします……?」
ステファンが怯えたふうに近寄ってくる。
「邪魔よ──」
ブルドは怒鳴り、右手を手首の毒針に伸ばした。
だが次の瞬間、背中に凄まじい衝撃が走った。
「がっ……あ……が……」
なにが起きたのかわからない。
全身が痺れ、力が抜け、ブルドは地面に崩れ落ちた。
遅れて悟る。
──ステファンだった……。
なにかの魔道具で背中に電撃を流し込まれたのだ。
それをしたのはこの男だ。
いつの間にか魔道具を取り出して握りしめ、コゼの背後に逃げ込んでいる。
「凍りつけ──」
エリカの杖が閃き、光の帯が飛んだ。
魔道の縛りが全身に絡みつき、ブルドは一切身動きできなくなる。
コゼがブルドの腹を蹴り飛ばし、路地の奥へと転がされた。
抵抗などできるはずもない。
冷たい石畳に叩きつけられ、視界が揺れる。
「気をつけろ──。あちこちに毒針を隠しているぞ。まずは右手首。左の手首にもある。それから右の足首……いや、靴の中だ。服の下にも仕込んでいる。内腿にもな。構わん、ここで全部脱がしてしまえ──。おや? 驚いたな。尻の穴にまで隠している。膣の奥にも毒を忍ばせているのか。全身が毒の武器だらけじゃないか」
ロウという男が苦笑混じりに言った。
次々と隠し場所を言い当てられ、ブルドは戦慄する。
誰にも見抜けないはずの暗器の数々を、一瞬で暴かれてしまっている。
なにかの鑑定術……?
いや、上級魔道であっても、これほどに正確には……。
「声を封じますね……。喉を凍らせます……。コゼ、服を脱がして。毒に気をつけてね」
エリカの杖から新たな魔道が走る。
喉が凍りつき、ブルドの口からは空気の漏れるような音しか出なくなった。
「はあ、毒に気をつけろって? 誰に向かって言ってるのよ、エリカ。あたしが毒に触れるなんてありえないわ。それに、ご主人様──膣の中にまで毒があるなら、犯すのは危険じゃない? こいつを淫魔の力で支配して、あの貴族女を捕まえるための性奴隷にするんでしょ?」
コゼが金縛りにされたブルドの衣服を剥ぎ取りながら言った。
また、その手際は鮮やかだ。
次々に暗器や毒の仕掛けを奪われていく。隠していた暗器を器用に外しながら、衣服を剥がすのに、ほとんど時間はかかってない。
すぐに、下着だけになり、さらにそれも奪われる。
冷たい風が肌を撫で、全裸に晒された羞恥に、ようやく恐怖が芽生える。
「性奴隷なんかにはしないさ。完全に洗脳して道具にするだけだ。命令に逆らえないようにするには、口から精を飲ませるだけで十分だよ……。コゼ、口を開けさせろ。口内には毒は仕込んでいないようだ」
ロウが淡々と言った。
なにをしようというのか──。
しかし、ブルドは眼を見開いた。
男が目の前で性器を露わにしたのだ。
「さあ、口を開けるのよ」
コゼに身体を起こされる。
得体の知れない恐怖に、口を固く閉ざそうとしたが、力が入らない。
顎を掴まれ、容易くこじ開けられた。
その口内へ、男の勃起したものが押し込まれる。
「愉しませてやる気はない。とっとと終わらせるぞ」
低く言い、数度しごくように動かしたかと思うと──次の瞬間、生温かいものが口腔に放たれた。
刹那──。
心の奥をなにかが縛った。
恐怖が奔る。
なんだこれは……?
自分の中に、別の自分が芽生えようとしている。
とてつもない力に支配される──。
なんだ……?
なんだ?
「一滴残らず、飲み干せよ……。命令だ……」
ロウの声が命じる。
「声と口の凍結を解きます……」
エリカの魔道が走り、首から上が解放された。
だが、自由になったのは肉体だけ。
意思は戻らない。
逃げよう、逆らおうという気持ちが湧かない。
ぞっとした。
支配されている……。
自分の意志が消えていく……。
証拠に、口の中の精を、舌が勝手に喉へと送り込んでいく。命令に応じるたび、支配が深まっていくのがわかる。
「抵抗心を持つな。沈んでしまえば、お前自身が潰れる。俺の淫魔力は強すぎる。抗えば廃人になるだけだ。抵抗せず、受け入れろ」
ロウ──いや、ご主人様の声が優しく響く。
抵抗してはならない……。その言葉に愉悦が走った。
「……抵抗しません……」
口にした瞬間、全身を快感が貫いた。
支配を受け入れることが、なぜか甘美で幸福なことのように思えた。
たった今まで恐怖していたのが信じられない。
どうして拒もうなどと考えたのか──。
「ブルド、もう一度、俺の精を飲め」
ご主人様が命じる。
股間には、すでに再び硬く勃ちあがったものがあった。
ご主人様の性器──。
口へ押し込まれると、ブルドは夢中で舐め吸い、愛おしむように咥え込む。
全身に快感が迸り、ぞくぞくと戦慄が走る。
かつて味わったことのない悦びだ。
しかし、またも呆気なく精が放たれた。失望が胸をよぎる。
せめてもの忠誠とばかりに、一滴残らず飲み干した。
「エリカ、もういい。金縛りを解け。完全に支配した」
ご主人様が言い、エリカが魔道を解放した。身体の拘束がほどける。
「ブルド。ドラクスの毒を知っているな。お前が調合したものだろう?」
ご主人様の問いに、心臓が跳ねた。
「はい──。ここにあります」
コゼに脱がされた服に手を伸ばし、隠しポケットから小瓶を取り出す。中にはドラクスの毒。ニーナを中毒に陥れた忌まわしい薬だ。夫人からも、トーイを捕らえる際に同じように使えと命じられていた。
「油剤だな。ちょうどいい。全部飲み干せ。いや、自分の股間に塗りたくれ──。尻にもな……。支配したお前の身体を通じて、俺もその成分を感じ取れる」
ご主人様の命令に血が凍る。
「そ、それは……。ドラクスの毒は一度塗れば一生中毒から逃れられない。定期的に塗らねば発狂するような苦痛を……」
これは服用するには危険な薬だ。
複雑な魔道力を練り込んであり、中毒症状の治療は、まずできない。
「聖女」と呼ばれる神殿の巫女でも、魔道治療は不可能だろう。
「知ったことか。お前たちはそれをニーナに与えたのだろう。ならば同じ道を辿れ。塗れ」
拒絶の言葉は喉の奥で霧散した。
──従いたい。ご主人様の言葉が甘美すぎて、抗えない。
ブルドの指は震えながらも瓶の栓を開け、股間にたっぷりと塗り込んでいく。
さらに、尻穴にも……。
「ああ……」
知っている。これがどうなるか。
けれど恐怖と同じくらい、陶酔が押し寄せていた。命じられて塗ることが、快感そのものになっていた。
許容量を超えているのはわかる。訴えても、ご主人様は「全部だ」と命じるだけ。
最後には、全部口にさせられた。
「……なるほど……わかってきた。苦しみが深まれば、さらに理解できる。これでドラクスの力も支配できる」
ご主人様の声が遠く、甘く響く。
すべてを塗り尽くすと、身体の芯が焼けつくように熱した。
「さて、どのくらいで苦しくなるか……。とりあえず隠れ家に行くぞ。袋に入れ。裸で歩きたいならそれでもいい」
麻袋が投げられる。
掴もうとしたが、もう手が震えて動かない。
全身が痺れるほどの火照りに呑まれ、快楽の渇きしか残らない。
苦しい……。
なのに、同時に甘い。
燃える股間が疼き、欲しくてたまらない。だが抗う気持ちはひと欠片もない。
「……ああ……ご主人様……」
心の奥が蕩けていく。
恐怖さえ愉悦に変わる。
命じられるまま従い、狂おしいほどの渇望に身を委ねることこそ、幸福なのだと悟らされる。
「苦しくなってきたな、ブルド? これで成分がさらにわかる。エリカ、声を封じろ。袋の中で股を弄り狂わせておけ。猿のように喘ぎながらな。屋敷に踏み込むのは夜だ。それまで好きに悶えろ。お前を抱いてやる者など、ここにはいない」
ご主人様の声が落ちてきた。
命令は、蜜よりも甘く、刃よりも鋭い。
声を封じられても構わない。呻きすら出なくてもいい。
──ご主人様の支配に溺れること。
それこそが、いまの自分にとって至上の悦びだった。
熱に浮かされ、心も身体も蕩け落ちていく。
胸は締めつけられるほど苦しく、全身は痙攣し、息さえうまくできない。
喉が焼けるように渇き、股間は灼けつくように疼き続ける。
本来なら死の恐怖に怯えるはずのその感覚を、ブルドは甘美な歓びだと錯覚していた。
耐えられない──。
袋のなかでブルドの指は狂ったように、自分の股間をまさぐっていた。
袋の闇に閉ざされながら、彼の支配に陥った幸福に震え続ける。
──こんなにも幸せを感じられるのなら、二度と元に戻れなくてもいい。