【改訂版】異世界で淫魔師ハレム【コミカライズ作品】 作:ドン・ドナシアン
騎士シャングリアという女は、大したものだと一郎は思った。
銀色のプレートアーマーに身を包んだ六人の騎士が、馬上で模擬戦を繰り広げている。
練兵場の一角には大小の岩が無造作に並べられ、山岳地での戦闘を想定しているらしい。
赤と白に分かれた面覆いが敵味方の印であり、三騎ずつの騎士たちは木製の棒を槍に見立ててぶつかり合っていた。
その中で、シャングリアがどれかはすぐにわかった。
一騎だけ小柄な騎士がいる。
だが、その小柄な騎士こそ、もっとも冴えた動きを見せていた。
わずかな手綱の操作で馬を縫うように走らせ、敵の横合いや背後へと滑り込んでいく。
その突きの鋭さは凄まじく、もしも、棒でなく鋼の穂先ならば、相手は即死していたに違いない。
六騎は二組に分かれ、当初は三騎ずつで連係し合って動いていた。
だが、シャングリアは待ちきれぬようにさっと突出する。
味方との呼吸を意に介さず、己の速さと技量だけで敵陣を切り裂いていっているように見えた。
相手の三騎は彼女を囲もうとしたが、シャングリアにあっさりと包囲を抜けられ、背後を取られる。そして棒を突き込まれた一騎が落馬した。
「なかなかのものですね」
柵に寄りかかりながら、エリカが感心したように声を洩らす。
ここは王都郊外の練兵場だ──。
一郎は今回のクエスト──『ジーロップ山の盗賊退治』を遂行するため、モーリア伯爵家出身の女騎士であるシャングリアに会いに来ていた。
依頼の条件は、彼女とともに盗賊退治をすることである。
最初は、騎士の詰所を訪ねたが、練兵場にいると聞いて足を運んだ。王宮に隣接する騎士団詰所とは違い、この練兵場には外壁に近く警護の者もいない。
咎められることもなく、こうして柵越しに見物している。
柵を前にして一郎が真ん中に立ち、両隣をエリカとコゼが固めるかたちだ。
一方で、シャングリアはすでに二騎目を落馬させ、残るは一騎となった。
味方の二騎は、シャングリアの動きを追いきれず、遠巻きに彼女の戦いを見守るだけになっている。
シャングリアと残りの騎士の一騎討ち──。
馳せ違った瞬間に轟音のような音が響き、最後の一人も馬から転げ落ちた。
「凄いねえ。ひとりでやっつけたよ。しかも、あの突きはなんだよ」
一郎は素直に感嘆の声を洩らした。
世間でいう美人で男勝りのお転婆という評判は確かに的を射ている。
相手の騎士たちも決して弱くはないのだろうが、シャングリアが強すぎるのだろう。
「きちんと訓練を受けた、正統派の武術ですね」
コゼが冷静に言った。
「でも、お前なら勝てるんじゃないか、コゼ?」
「こっそり寝首をかけと命じられれば、できます」
にっこりと笑うコゼに、一郎は肩をすくめた。
「じゃあ、堂々と立ち合えと言われたら?」
「逃げます。逃げ足には自信があります」
その物言いに一郎は笑った。
「だけど、俺は駄目だな。馬に乗れない。逃げても追いつかれて終わりだ」
「ロウ様のことは、わたしが守ります。心配いりません」
エリカが真剣な眼差しでそう言った。
そのとき、練兵が終わったのか、騎士たちは銀の仮面を外し始める。
シャングリアも仮面を外し、白銀の長い髪を露わにした。
確かに美しい。気の強さが顔立ちにそのまま出ているが、笑みひとつ浮かべず、馬上で他の者たちと淡々と会話を交わしていた。
やがて、五騎が散り、シャングリアを残して練兵場を後にする。
ただ、シャングリアだけが、こちらへ馬を進めてきた。
どうやら最初から一郎たちに気づいていたらしい。
「こっちに入って来い」
声が届く距離になると、シャングリアが大声をあげた。
柵は立て杭を二本の横材で繋いであるだけで、隙間から身体を入れるのは容易だ。
一郎たち三人は、その指示に従って練兵場の中へ足を踏み入れた。
「お前たちが大伯父の言っていた冒険者か。わたしの従者として、ジーロップの盗賊退治に同行する者たちで間違いないな?」
馬上のまま近づいてきたシャングリアが言った。
ただ、いきなり“従者”と決めつけられたことには、一郎も面食らった。
「大伯父という人のことは知らない。俺たちは冒険者ギルドから、あなたと共に盗賊退治をする依頼を受けただけだ。従者の指示を受けてないけど?」
一郎がそう答えた瞬間、目の前のシャングリアが棒をさっと動かした気配がした。
「ロウ様──」
「ご主人様──」
エリカとコゼの叫びが重なる。
次の瞬間、左肩に衝撃が走り、一郎の身体は宙を舞っていた。
青空が視界に広がり、身体が宙に浮かんだ。
馬上のシャングリアに突き倒されたのだとわかったのは、頭と背中を地面に叩きつけられた後だ。
「な、なにすんのよ、お前──」
エリカが倒れている一郎の前に立ちはだかり、すでに細剣を抜いていた。
「だ、大丈夫ですか?」
一方で、コゼが屈みこんで、一郎の頭を抱き起こす。
「お前とはなんだ、エルフ女──」
シャングリアはエリカを鋭く睨んだが、すぐに一郎へ視線を戻した。
「まあいい。それよりも、男──。従者でなくて、なんなのだ? 一人前に戦うなどと生意気を言うから試してみたが、弱すぎる。話にならん」
「はあ、なに言ってんよ、お前──」
エリカが怒鳴った。
しかし、シャングリアは無視して、一郎に視線を向けたまま。
「だが、従者なら連れて行ってやる。ジーロップまでは二日かかる。火おこしや食糧運びをする者は必要だ。だが、冒険者ごときと肩を並べて戦おうとは思わん。盗賊団など、わたしひとりで十分だ」
シャングリアは、口元に小馬鹿にした笑みを浮かべている。
さすがに一郎も腹立たしさを覚える。
とりあえず、コゼに支えられながら上体だけ起こす。
「冗談じゃないわよ。ロウ様に謝りなさい──」
エリカが剣をすっと動かした。
まずい──。エリカは本気だ。
一郎には、怒りに震える彼女が今にも飛びかかろうとしているのがわかった。
「ま、待て、エリカ──。やめろ。俺は大丈夫だ」
一郎は慌てて声をあげ、心配そうなコゼの手をどけて立ちあがった。
身体に刻まれた“ユグドラの癒し”のおかげで、肩の痛みはすでに癒えている。
「でも、ロウ様……」
憤然とした表情のエリカが振り返る。
「いいんだ……。コゼ、柵の外に落ちている小枝を拾ってきてくれ」
一郎はエリカを制し、前へ出ながら言った。
コゼは一瞬戸惑ったが、すぐに頷いて柵の外へ出ていく。低木から落ちた枝が地面に散らばっていた。
「ほう、一応は手加減はしたが、丸一日は肩が上がらんと思ったがな……。打たれ強いではないか」
相変わらず小馬鹿にしたような笑みを浮かべて、シャングリアが口元を綻ばせている。
ちょっと泣かしてやるか……。
一郎は魔眼で彼女を見据えた。
“シャングリア(モーリア=シャンデリカ)
人間族、女
騎士
年齢22歳
ジョブ
戦士(レベル15)
生命力:60
攻撃力:300(模擬槍)
経験人数:なし
淫乱レベル:A
快感値:100/100(通常)”
「シャンデリカ? あんた、シャンデリカというのか」
思わず口にしてしまった。
魔眼で得た情報を軽々しく言葉にしたのは失敗だったと気づいた時には、もう遅い。
シャングリアの顔が羞恥と怒りに赤く染まる。
それはともかく、平素の快感値が〈100〉だ。これはエリカと同じで、かなり感じやすい身体ということだ……。
「な、なんで……。わ、わたしは騎士シャングリアだ。“シャンデリカ”なんて、女めいた名は捨てた──」
銀髪の騎士シャングリアが震える声で怒鳴る。
だがその姿は、気丈さの裏に女としての弱さを隠しきれていなかった。
シャンデリカ”に比べて、“シャングリア”が男っぽいということはないだろうが、シャンデリカというのは、一郎の知識では“光り輝く”という意味だ。
耳で聞く言葉については、この異世界も、元の世界も変わりはないことを一郎は知っている。
シャングリアの様子から予想すると、シャングリアの本名は、その銀色の髪に相応しく、光り輝く“シャンデリカ”というのだろう。
しかし、それを嫌って、騎士としては、“シャングリア”と名乗っているということのようだ。
「これでいいですか、ご主人様? でも、なにに使うんです?」
コゼが拾ってきた小枝を差し出す。
一郎はその中から、乗馬鞭ほどの長さで、よくしなるものを一本選んで手に取った。
その枝の十分に細くて、固さも丁度いい。
「まあ、見てろ、コゼ」
エリカとコゼを背後に下げると、一郎はにやりと笑い、シャングリアに向き直った。
「じゃあ、果し合いをしよう。俺が勝ったら、従者でなく、一緒に盗賊退治に行く相手として認めてもらおう」
「わたしと果し合い? ばかか──」
信じられないものを聞いたように、シャングリアが目を見開いた。
「なにを言っているんです、ロウ様──。そんなことはさせられません。懲らしめるなら、わたしが……」
エリカが声を荒げる。
「懲らしめるとはなんだ──。生意気を言うな、エルフ女」
シャングリアが怒鳴った。
しかし一郎は両手を軽く上げてふたりを宥め、堂々と彼女の馬の前に立った。
「まあまあ、シャングリア……」
「わたしを呼び捨てにするな──」
「じゃあ、俺が勝ったら仲間として呼び捨てにする。いいだろう、シャングリア様」
一郎の挑発に、女騎士の瞳が怒りで燃える。
「ふざけるな。武芸の心得もないお前に、わたしが負けるものか」
「心得はないさ。だが、それでも負けたら、俺を認めろよ」
シャングリアが唇を噛み、馬から降りようとした瞬間、一郎は小枝で馬の鼻先を強く叩いた。
驚いた馬が嘶き、前脚を高く振り上げる。
「きゃあああ──」
鞍から弾き飛ばされたシャングリアは、背中から地面に叩きつけられ、鎧の隙間から苦鳴を洩らした。
その上にすかさず一郎がのしかかる。
「誰か、“始め”の合図をしてくれ」
「始め──」
小枝の先をシャングリアの鎧の継ぎ目に差し込みながら言うと、エリカが即座に声を張った。
一郎の視界には、魔眼が映す薄い赤色の靄──シャングリアの性感帯が鮮やかに浮かんでいた。
そこを小枝でくすぐり上げる。
「ひゃあっ……な、なにを……」
シャングリアの顔がみるみる赤く染まり、声が上ずる。
重いプレートアーマーが彼女の身体を縛りつけ、必死にもがいても立ち上がれない。
一郎はわざと耳元で低く囁いた。
「卑怯? 敵は盗賊だ。卑怯でもなんでも勝った者が生き残る。強がるなよ、シャンデリカ」
「や、やめろ──っ、ひゃはは……くすぐった……く、くすぐったいのは──」
必死に押し返そうとする腕を一郎が押さえ込み、小枝を脇の下に差し入れると、女騎士の身体から力が一気に抜けた。
鎧の下衣に守られているはずなのに、魔眼の導きに従って敏感な箇所を突かれるたび、彼女は笑いと悲鳴の入り混じった声を洩らす。
「ひやあ、ひゃはは──や、やめろ──く、くすぐったい──やめえ──」
シャングリアが一郎のくすぐり責めに笑い続ける。
一郎には、シャングリアがとても感じやすい性質であり、脇の下が弱いことがわかる。
どこをどのくらいの刺激なら苦しいのかというのも瞬時に思いつくし、考えることなしに行動に移せる。
シャングリアほどの女傑を押さえられるのは我ながら不思議だが、これも淫魔師のジョブが一郎を補強しているのかもしれない。
淫魔術で覗かれて、全身の急所を徹底的に刺激されて、シャングリアの力は完全に抜けた。
一郎は片手でシャングリアの腕を押さえて、さらに小枝でくすぐる。
単純な力だけなら、男である一郎が上だ。
そのうえに、シャングリアは重い金属の鎧を身に着けているのだ。
一郎のくすぐりで力の入らないシャングリアは、逃げられないでいる。
「コゼ、小枝を全部寄越せ」
命じられ、投げられた小枝を受け取ると、一郎は両脚で彼女の腕を押さえつけ、両脇を同時にくすぐりたてた。
「ひゃっ、ひひゃああっ……や、やめ……くすぐった……っ、あ、あはははっ……」
シャングリアの美貌が涙に濡れ、乱れた銀髪が地面に散る。
騎士としての誇りも、強がりも、快感にかき乱されて崩れていく。
最後には痙攣するように身を震わせ、ぐったりと力尽きた。
「いつまでも続けるぞ……。参ったと言え」
一郎はくすぐりを続けながら言った。
シャングリアは、苦しそうに笑いながらも、しばらくは頑張ったが、やがて、諦めたようにぐったりとなった。
「ま、参った……」
やっと、かすれ声がシャングリアの口から漏れる。
「よし、勝負あったな」
一郎は笑みを浮かべ、小枝を引き抜いてシャングリアの脇をくすぐるのをやめた。
馬乗りになっていた身体をどかそうとした瞬間、自由になった彼女の腕が一郎の脚をがっしと掴む。
「うわっ──」
次の瞬間、またしても、一郎の身体は宙を舞い、地面に叩きつけられていた。
「ゆ、許さん……こ、殺してやる……。卑怯な真似を……」
シャングリアは羞恥と怒りに頬を真っ赤に染め、馬へ駆け寄る。
そして、鞍に結わえられていた剣を抜き放つと、上段に構えた刃が陽光を反射してぎらりと光った。
まずい……完全に怒っている。
怒りで全身が震えているのが遠目にも伝わる。
一郎も腰の必撃の剣に手を伸ばしたが、すぐに躊躇した。
あれは攻撃しかできない魔剣。抜けば必ず相手を斬ることになる。
しかも、剣を構えたシャングリアの攻撃力は〈400〉に跳ね上がっていた。
必撃の剣を持つ自分より上──。真正面からの戦いは分が悪すぎる。
……逃げるしかないな。
そう腹を決めたときには、もう彼女が迫ってきていた。
「ま、待て。正当な勝負だろう──」
尻餅をついたまま叫ぶが、返ってきたのは容赦ない罵声だった。
「なにが正当だ、この卑怯者──」
振り下ろされようとした刃──。
だが、寸前でシャングリアの身体が後ろに跳ねる。
矢が地面に突き刺さっていた。
顔を向けると、険しい表情で弓を引き絞るエリカの姿がある。
「それ以上動いてみなさい、シャングリア。脳天に矢を突き射すわよ」
鋭い声が練兵場に響く。
さらに、一郎の前には風のようにコゼが割り込み、両手の短剣を構えていた。
「な……なんなんだお前たちは……。見ていただろう、あいつは卑怯な手を……」
「なにが卑怯な手よ。あんたの負けよ」
エリカが弓を構えたまあ声をあげる。
「わ、わかった。もういい。その代わり、もう一度だ。もう一度勝負をしろ」
剣を構えたままシャングリアが叫ぶ。
だが、二人の武器に狙われて、さすがに冷静さを取り戻したのか、やがて刃を下ろした。
一郎は息を吐き、立ちあがりながら土を払う。
「冗談言うな。もう一度やれば、今度はお前が勝つに決まってる。だがな、もしこれが実戦なら──お前はもう俺に捕らわれて命を落としているんだ」
「もう一度だ──」
「やめなさい、シャングリア──。しつこいわよ」
エリカが矢をつがえたまま、きっぱりと言い放つ。
「ロウ様の言う通りよ。さっきのが本当なら、あんたは捕らわれて殺されていた。卑怯だなんて罵っても、死んだら負けよ。死人に言葉の権利はないわ」
射抜くような視線を受け、シャングリアは荒い息を吐きながら立ち尽くす。
一郎が魔眼を覗く……。
“シャングリア(モーリア=シャンデリカ)
人間族、女
騎士
年齢22歳
ジョブ
戦士(レベル15)
生命力:60
攻撃力:400(剣)
経験人数:なし
淫乱レベル:A
快感値:35/100↓”
……なるほど。
怒りの理由はこれか。
つい先ほどまで平常だった数値が、一気に半分以上も落ちている。わずかなくすぐりで、ここまで反応してしまうほど敏感な身体なのだ……。
男勝りを気取る彼女が、女としての弱さを暴かれた……。
その自覚が、いまの羞恥と怒りを倍加させているのだ。
「感じやすい女」だと、俺に見抜かれたこと──それこそが、彼女にとって最大の屈辱なのだろう。
一郎は口元にかすかな笑みを浮かべた。
「ふたりとも構えを解け。もうシャングリアはかかってこない」
声に従って、ようやくエリカとコゼが武器を下ろす。
「とにかく、明日の朝に出発しよう、シャングリア。ジーロップ山に向かうには行商人を装うのがいい。俺たちで荷を積んだ馬車を用意する。街道沿いの村で売れそうな小物や衣類を積んでな。二、三の里に寄りつつ情報を集めながら進もう」
「行商人だと?」
「そうだ。うまくいけば、奴らが俺たちを襲ってくれる。あんたは俺たち行商人に雇われた用心棒という役回りだ。あんまり強そうな格好はやめてくれよ。間違っても王軍騎士団の鎧はなしだ。女たらしの俺に雇われた美人用心棒、ってとこがいい」
「お前の指図は受けん。それに女の格好などするものか」
激昂したシャングリアが、またもや、剣を振り上げかける。
それに呼応するように、エリカとコゼの手も、再び武器に伸びた。
「やめろって、三人とも」
一郎は三人をなだめる。
「……とにかく、シャングリア、格好なんてどうでもいい。あんたが歩いてるだけで、十分に美人にしか見えないさ」
「お前の指示は受けないと言っているだろう──。リーダーはわたしだ──」
「わかった。……だったら、あんたがリーダーでいい、シャングリア。なあ、リーダー、俺の提案でいいか?」
「……それでいい」
真っ赤な顔のまま、シャングリアは一郎を睨みつけて答えた。