【改訂版】異世界で淫魔師ハレム【コミカライズ作品】 作:ドン・ドナシアン
野宿をしている夜闇に炎が浮かんでいる。
焚火は馬車のそばで熾しており、そこからいい匂いが立ち込めてきた。
「ロウ様、もうすぐできますよ」
土鍋をかき回しながらエリカが振り向いた。
「匂いだけで腹が鳴りそうだ」
一郎は笑って応じた。
入っている食材は、最初の里で手に入れた野菜と新鮮な肉だろう。
女物の小物と衣類を渡す代わりに、幾らかの食糧をもらったのだ。
行商人に扮して、ジーロップ山に向かう旅の一日目だ──。
今朝早く王都を出て、昼過ぎに街道沿いに近い小さな山里に立ち寄り、さらに、その里を夕方前に出発して、いまこの山中で野宿をしようとしているところだった。
目的のジーロップ山までは、まだ距離がある。
馬車の移動で、あと丸一日というところだろう。
一郎が座っているのは、馬車の馭者台だ。
手持ち無沙汰に夜風を受けている。
馬車を曳いていた一頭のウマは、いまは姿がない。 馬具を外して自由にさせておけば、草を食べ、水を飲み、朝までには戻ってくるという話だった。
また、その少し離れた石の上には、シャングリアが腰を下ろしていた。
焚火の明かりを避けるようにして、所在なげに黙って座っている。 無言で剣を脇に置き、こちらに加わろうとする気配もない。
また、警戒については、夜目に利くエリカが魔道の結界を張ってくれている。エリカの魔道により、焚火も馬車も隠し、不審者や獣を寄せつけない。だから寝ずの番も要らないのだ。
「ウマの姿が本当になくなったな……」
一郎は姿を確認できなくなったウマについて訊ねてみた。
「ロウ様、あの子は逃げませんよ。心配しなくても」
エリカが笑った。
「まあ、俺よりよほど野宿に慣れてるか……」
一郎は肩をすくめる。
だが、そういえば、結界を張っているが、ウマはどうなるのだろうかと思った。
それで訊ねてみた。
「ご主人様、それについても結界は万全です。エリカが広めに張ったので、ウマも逃げません」
コゼが鍋をかき回しながら言った。
なら、安心だな、と一郎は安堵した。
「……でも、さすがエリカだな。ウマも安全に動けるし、俺たちも寝ずの番をせずに済むのはありがたいよ」
一郎は目を細めた。
従って、一郎にしても、シャングリアにしても、特にすることもなく、それぞれにぼんやりと時間を潰していた。
一方で、エリカとコゼは、ふたりで協力しながら、夕食の支度を続けている。
「徒歩での野宿に比べれば楽ですね。馬車があると違います」
コゼが肩越しに笑った。
一郎も頷く。
実のところ、野宿は嫌いではない。
エリカたちの野外料理が楽しめるからだ。
本当は、治安が悪いどころか、治安が存在してない野宿など危険極まりないのだろうが、エリカとコゼがいれば、天候さえ問題なければ、キャンプのようなものだ。
悪くはない。
そんなことを考えながら、一郎は今日立ち寄った里のことを思い返した。
立ち寄った里では、一郎たちが積んできた女物の小物や衣類が喜ばれた。
城郭から離れた里などでは、王都で流行っている小物や衣類が入ってくることはないらしい。
里長に許可をもらい、一郎たちが行商人を装って売りに出すと、たくさんの女たちが集まってきた。
「だけど、思ったよりも、女物がよく売れたな。冒険者をやめて、行商でもやっていけそうだ。商売人もああやって、情報を集めながら、なにが売れるかを見極めて、物を運ぶんだろうな」
一郎は思い出しながら軽口を言う。
「ほんと、女って噂好きですね。聞いてもないのに盗賊の話まで出てきましたよ……。まあ、あたしも女ですけど」
コゼが茶化すように言った。
「おかげで助かったよ。男の俺ひとりで訊き出すより、余程に情報が集められた」
「あまり情報はありませんでしたけどね」
コゼだ。
「それも立派な情報だ」
一郎は言った。
確かに、今日立ち寄った里は、ジーロップ山からまだ遠く、有益な情報は少なかったかもしれない。
だが、確かに半年ほど前から小さな盗賊団が巣食っているらしい。
大陸街道沿いに出没するので行商人たちは難儀しているが、幾らかの金を払えば命までは奪わない。
女たちはそう話していた。
「命まで狙わぬ盗賊ねえ……。ずいぶん甘いものね」
エリカが小さく呟く。
ジーロップ山の盗賊団を退治するという話をギルドに持ち込んだのは、シャングリアの大伯父である武門派の大物の伯爵だ。
実の父親ではないが、育ての親でもある伯爵は、シャングリアに盗賊団を退治させ、功績に箔をつけてやりたいと考えたようだ。
だが、あまりに危険すぎる相手では、彼女にもしものことがある。かといって、簡単すぎる相手では、功績にはならない。
そこで適度な相手としてジーロップ山の盗賊団に目をつけたのだろう。
この辺りは国王の直轄領のはずだが、王都からは遠い。
二日かけて遠征して討伐するほど目立つ存在でもなく、まだ放置されている。
だが、主街道の安全は領域の治安を維持するための要であり、大きな脅威でなくとも討ち果たせば、それなりの手柄にはなるはずだ。
うってつけの対象かもしれない。
一郎も納得した。
「ロウ様、もう少しでできあがります。待っていてくださいね」
「ご主人様の好きな米も入れましたよ」
焚火の前で素焼きの土鍋をかき回しながら、エリカとコゼが声をかけてきた。
ふたりとも意外なほど料理の腕が立つ。
エリカは狩猟族として、故郷の里で仕込まれている。獲物の解体や野草・香草の見分け方は、日常の技として身についている。
一方のコゼは、前の主人に仕えていた時代、暗殺の技を磨かされる傍らで厨房の手伝いもさせられていた。
その経験から自然に料理を覚えたのだという。
一郎はそんなふたりと旅をするようになってから、料理というものを自分で作ったことがない。
この世界の調理器具の扱い方さえ覚束ないし、異世界人の自分だが「独創的な料理で大儲け」などという発想も縁遠い。
ただ、こうして出来あがっていく匂いを嗅いでいると、本当にこのふたりがいてよかったと思うばかりだ。
そして何より嬉しいのは、この大陸に「米文化」が根づいているという事実だ。
一郎が米好きであることを知っているエリカとコゼは、こうした野外料理の機会には、必ず米を取り入れてくれる。
「ふふ……やっぱり米はいい。匂いだけで腹が落ち着かない」
一郎は思わず口に出した。
もっとも、この大陸で稲作が盛んなのは南方ではなく、北方のエルニア王国──古くは自らを恵月国と称していた国だという。
ハロンドール王国やローム三公国といった南側は本来が小麦粉文化で、主食はパンやパスタだが、近年になって、北側の国から稲作が伝わり、主要な城郭では米も流通するようになってきたそうだ。
ただし、北側の国で代表的なのは、恵月国、あるいは、エルニア国であるのだが、その国はきわめて閉鎖的な気質を持ち、移民を受け入れず、エルフやドワフといった亜人種を賤民扱いするらしい。
大陸の大多数が信じるクロノス神信仰とも異なり、独自の信仰を持っているという。国境も閉ざされ、近年は鎖国状態にあり、その実態を外に知る者は少ない。
一郎がこれまでに耳にした限りの印象では、元の世界の「日本」に近い気がしてならない。
できることなら、一度は足を踏み入れてみたいものだと心のどこかで思っていた。
「ロウ様──。食事の準備ができましたよ」
焚火の前で土鍋をかき回していたエリカが、一郎を呼んだ。
鍋からは、湯気とともに食欲をそそる匂いが漂ってくる。
馬車の馭者台から鍋の前に移動してきた一郎は、少し離れた石の上に座っているシャングリアに声をかけた。
「シャングリア、食事らしいぞ──。こっちに来いよ」
シャングリアは昨日のような王軍騎士団の鎧ではなく、灰色の布衣に革鎧を重ねた傭兵めいた姿だった。
白銀の髪は後ろで無造作に束ねているが、やはり美貌のせいか、そんな格好でさえ華やかに見える。
「不要だ──。わたしは遠征用の乾燥パンを携行している。お前たちの世話にはならん」
夜闇の中から不機嫌そうな声が返ってきた。
一郎は息を吐き、シャングリアのもとへ歩いていく。
なるほど、彼女は平らで大きなビスケットのような乾燥パンを、ちまちまとかじっていた。
「ちょっと、それを食べさせてくれ」
一郎はそう言い、返事を待たずにその乾燥パンを手に取った。
「な、なにをするか──」
シャングリアが血相を変えて声をあげるが、一郎は軽く手を振って制し、端を折って口に入れる。
お世辞にも美味いとはいえない。
「こんなもの、うまくもなんともないじゃないか。しまっておけ。それよりも一緒に鍋を食べるんだ。あんたの分の食器も、エリカたちは用意してくれてる」
一郎は乾燥パンを返しながら言った。
「お前たちの世話にはならん。わたしはこれで十分だ。この仕事のあいだに必要な食事の分は携行している」
「だけど、うまくないだろう。エリカとコゼの鍋はうまい。一緒に食べてくれ」
「食事にうまい不味いなど、どうでもいい──。女が気にすることだ。この乾燥パンは栄養もあるし、空腹も満たせる。放っておけ」
シャングリアは言い切った。
だが、焚火の鍋から漂う香りは強い。
一郎は、彼女がちらちらと焚火の方に視線を送っているのを見逃してない。興味がないはずがないのだ。
そこで一郎はもう一度、乾燥パンをさっと取りあげる。
「ま、また──。いい加減にしろ、返せ──」
シャングリアが怒鳴って立ち上がった。
「頼むから一緒に食事をしてくれ。明日には二つ目の里に立ち寄ることになる。今日の里では大した情報は得られなかったが、明日の里はジーロップ山の麓だ。なにか有益なことがわかるはずだ。それについて食事をしながら話し合いたい。リーダーがいてくれないと、話にならない」
一郎は言った。
気位の高い女騎士は、冒険者である自分たちを見下し、声をかけてもろくに返事もしない。
事実上の指揮を執っているのは一郎だが、彼女をリーダー扱いしないと機嫌を損ねる。本当に面倒な相手だった。
「ふん──。なにが情報だ。そんなものはどうでもいい。里になど寄らず、真っ直ぐにジーロップ山に行けばいいのだ。そして盗賊団を残らず退治する。それで十分だ」
「そんな闇雲に向かっても、隠れ処を探すだけで大変だろう。どんな連中かもわからないのに、仕掛けるのは危険すぎる。情報は集めなきゃならん」
「だからお前たちは着いてくるだけでいいと言っているだろう──。討伐はわたしひとりで十分だ」
無鉄砲な言葉に、一郎は呆れてしまった。
そのとき、焚火の方から声がした。
「ご主人様──。早くおいでください──。シャングリアも来たければ来れば」
コゼだ。
「そんなわからずや、放っておけばいいですよ。こっちで食べましょう、ロウ様」
エリカの声も続いた。
コゼはともかく、エリカは一日のうちに、シャングリアの態度をすっかり嫌ってしまったらしい。
放っておけば喧嘩になりそうな二人の間で、なだめ役に回るのはいつも一郎だ。
一郎は嘆息した。
そして、ものの言い方を変えてみることにした。
「あんたの言い分はもっともかもしれないが、俺たちとしてもその麓の里で情報を取るつもりで、行商人に成りすますために積み荷を仕入れたんだ。積み荷を見ただろう?」
「まあ……沢山積み込んでいるな……」
「だから、売り切ってしまわないと大損だ。儲けるわけにはいかないが、元手くらいは取り返さないとならない。だから、里には寄りたい。頼むから寄ってくれ。それに、情報はあって困るものではないはずだ」
「金に汚い冒険者らしい物言いだな……。まあいい、認めてやる。その代わり、それを返せ」
シャングリアが乾燥パンを取り戻そうと手を伸ばす。
一郎はさっと避け、口元に笑みを浮かべた。
「いや──これは俺にくれ。一度、軍人用の携行糧食というものを味わってみたかった。これは後で俺がもらう。その代わり、鍋料理を食べてくれ」
「なに? つまり交換か? ……まあいい。それが欲しいならやる。確かに冒険者ふぜいには珍しいものだろうからな。その代わり、お前たちの食事をもらうぞ。これは交換だ」
「それでいい。来てくれ」
一郎は焚火の方へシャングリアを促した。
本当に面倒な女だ。
「あら、来たの?」
焚火の前に並べた石席にシャングリアが歩み寄ると、エリカが嫌味を飛ばした。
シャングリアがむっとして睨む。
「やめないか、エリカ」
一郎は声をあげて割って入る。
エリカも最初は打ち解けようとしたが、返ってくるのは辛辣な言葉か無視ばかりで、すっかり態度を硬くしてしまっていた。
とにかく、両者の間に割って入るのは一郎の役目になりつつある。
コゼはといえば、もともと人見知りが強く、シャングリアに進んで話しかけようともしない。そのぶん、衝突もなかった。
焚火の周りには石を並べ、きちんと四人分の食器も用意されていた。
一郎はシャングリアを座らせ、自分も腰を下ろす。
四人で火を囲む形になる。
「ご主人様、どうぞ」
コゼが一郎に椀を差し出した。肉と野菜と米を香草で煮込んだ鍋料理。鼻をくすぐる香りが漂う。
「あんたも、ほら」
エリカがシャングリアに椀を渡す。
「これは物々交換しただけだ。軍人用の乾燥パンを渡したのだ。恵んでもらうわけではないぞ」
「ずいぶんと長い“ありがとう”ね」
エリカの皮肉に、シャングリアは鼻を鳴らす。
だが、椀は素直に受け取り、料理に口をつけた。
次の瞬間──。
「お、美味しい……。これは美味しいぞ」
シャングリアが大きな声をあげた。
あまりにも素直な賛辞に、一郎は少し驚く。
だが、彼女は顔をほころばせ、夢中で椀の中身をかき込んでいた。
見ているだけで気持ちがいいほどの食べっぷりだ。
「これは美味しい──。わたしはお前たちを軽く見ていた。こんな料理を作れるとは……大いに感心した」
普段の高飛車な態度からは考えられないほどの素直さに、一郎も呆れ、同時に驚く。
頑なに見えていた態度も、ただ正直すぎるだけなのかもしれない──そう思わせられるほどだった。
「そ、そりゃあ……どうも……」
エリカが当惑して返す。
シャングリアは椀をあっという間に空にし、二杯目を求め、また黙々と食べ尽くした。
やがて鍋は空になり、コゼが食器を集めて小川へ洗いに行く。
「……この闇の中をひとりでか?」
シャングリアが驚いたように呟く。照明も持たずに去っていくコゼの背を見ていた。
「コゼは夜目が利くんだ。エルフ族のエリカも同じだ。俺が歩けない闇でも平気で走る」
一郎は笑った。
「そうなのか……。すごいな。本当に走れるのか、エリカ?」
「え、ええ。このくらいなら明るいくらいよ」
エリカは戸惑いながら答えた。
おそらく、シャングリアから初めてまともに話しかけられたのだろう。
食事で気持ちがほぐれたのか、彼女も少し柔らかく見える。
「そうか……。昨日の練兵場でも見事だったし、さっきの料理も一流だ。わたしはお前たちを低く見ていたのかもしれない。謝っておく」
そう言ってシャングリアは、なんとエリカに頭を下げた。
一郎も驚いたが、当のエリカはもっと驚き、目を白黒させている。
やはり、この女騎士の本質は素直さなのだと一郎は思う。
高慢に見える態度の裏には、良いものを良いと認める真っ直ぐさがあるのだろう。
しかし──目線が一郎に向くと、その表情が一変して、冷たい視線になる。
「……だが、エリカとコゼが女傑であることは認めるが、お前は平凡だ、ロウ……。今日一日見ていたが、弱いし夜目も利かない。料理もできず、ウマの扱いもふたりに任せていたな。確かに歳は上だがそれだけだ……。なぜエリカとコゼはお前に従っている?」
シャングリアが一郎に鋭い視線を向ける。
一郎は苦笑するしかなかった。
女傑ふたりを性の力で縛っているなど、口が裂けても言えない。
「ロウ様を悪く言うと怒るわよ、シャングリア。ロウ様は頭がいいわ。洞察力に優れていて、間違った決断はなさらない」
エリカがむっとした声で言い返す。
しかし、一郎自身は自分を洞察力に優れているとも、頭が切れるとも思っていない。
エリカやコゼには遠く及ばぬ平凡な人間──それが一郎の実感だった。
だからこそ、彼女の誉め言葉も皮肉のようにしか聞こえない。
もっとも、一郎には「魔眼保持者」としての力がある。
相手の能力を瞬時に見抜く眼と、付随する勘の鋭さ。
それが、エリカには洞察力として映っているのかもしれなかった。
「そうか……。まあ、エリカがそう言うならそうなのかもしれん……。ところで、ずっと気になっていたのだが、訊いていいか、ロウ?」
シャングリアが真面目な顔で口を開いた。
「なんでも訊いてくれ」
一郎は頷いた。
やっと彼女が自分たちと打ち解けてもいいと思いはじめたのかもしれない。
そう思うと一郎もほっとした。
「お前をご主人様と呼ぶあのコゼ、そして、このエリカ──。随分と親密な感じがするのだが、もしかしてどちらかがお前の愛人か? それとも、実際にはそんな関係ではないのか?」
突拍子もない質問に、一郎は面食らった。
答えに窮していると、エリカがあっさり口を開く。
「ふたりともそうよ。ロウ様は、わたしもコゼも同じように愛してくださるわ」
隠す理由もないという口ぶりだった。
シャングリアは目を丸くした。
「お、お前たちほどのふたりが、この平凡な男を揃って受け入れているのか? 信じられん」
正直すぎる反応に、一郎は苦笑するしかない。
「いい加減にしなさいよ、シャングリア。さっきからロウ様をばかにするような言葉ばかり……。いくらロウ様のご命令でも、そろそろわたしも切れるわよ」
エリカがむっとして言った。
「いいさ、エリカ。俺が平凡な能力……というか、普通以下の能力しかないことは確かだ。お前たちふたりがいなければ、野垂れ死ぬだけの男だ。それは自覚しているから、いちいち怒らなくていい」
一郎は笑いながら言った。だがエリカは首を横に振り、憤然とした顔を見せた。
「ロウ様はすごい能力を持っておられます。もっと自信を持っていいはずです」
断言するような口調だった。
一郎は思わず苦笑する。自分はどう見ても平凡な人間だ。
もっとも──「魔眼保持者」としての力だけは別だろう。
相手の能力を瞬時に見抜く眼と、付随する勘の鋭さ。それをエリカは洞察力と受け取っているのかもしれない。
「すごい能力というのは……これか?」
しかし、一郎は軽口を言うことにした。
一郎は右手をひらりと差し出し、空中で股間を愛撫するように指を動かしてみせる。
焚火の明かりに映えるエリカの顔が、一気に真っ赤に染まる。
「ち、違います──。そ、それもすごいけど……でも、わたしが言っているのは他人を見抜く力とか、正確な判断力とか……。前回だって、その前だって、全部ロウ様の策でクエストを成功させたのです。わたしもコゼも従って動いただけ。ロウ様には冒険者パーティのリーダーとしての素晴らしい素質があります。これは絶対です──。このわたしが保証します」
エリカが力強く言い切った。
一郎は胸の奥が少し熱くなるのを感じる。彼女の言葉を話半分に受け取るべきだとわかってはいるが、それでも嬉しくないはずがなかった。
「い、いまのロウの手付きはどういう意味だ? まさか、お前たちはこの男と身体の関係もあるのか?」
シャングリアが声を上げた。心なしか、その声音はわずかに上ずっているようにも聞こえた。
「反応するのはそこ? あるわよ。ロウ様はわたしもコゼも同じように愛してくださるって言ったでしょう。それについて、ほかにどんな意味があるのよ」
エリカが呆れたように言う。
「つ、つまり……お前たちはこの男に抱かれているのか? しかも、ほかの女をこいつが抱くのも許していると……?」
シャングリアはさらに問いただす。
「なに、あんた? ヤハフ教徒?」
エリカが皮肉混じりに返した。