【改訂版】異世界で淫魔師ハレム【コミカライズ作品】 作:ドン・ドナシアン
「……ロウ様……」
「……ご主人様……」
「ロウ……」
掠れた声……。
泣きそうな声……。必死に呼ぶ声が闇に重なっていた。
岩の冷たさが肌に貼りつく。息苦しさに目を見開くと、一郎は薄暗い洞窟の床に押しつけられるように横たわっていた。
「ああ、ロウ様──」
「よかった、ご主人様──」
耳に届いたのはエリカとコゼの声だ。ただ、四方から鉄の匂いが漂っている。
「ロウ……。とりあえず、無事なのだな──」
シャングリアの声も混じった。
「みんな……無事か……?」
一郎は身体を起こそうとして──。
「危ない──」
警告と同時に、頭を鉄格子に強打した。
「い、たっ……」
頭に衝撃が走る。目を凝らすと、そこは立ち上がることはおろか、座ることすら許されぬほど低い檻の天井だった。
肩を伸ばす余地もなく、頭をわずかに上げただけで鉄に打ち当たる。
横になることしかできない。
しかも裸身のままだ──。
もっとも、冷たい石の感触が肌を這い、羞恥よりも先に無防備さが背筋を凍らせた。
四隅の燭台が揺れ、檻は床の片隅に無造作に置かれている。
幸いにも、あの粘性生物ウーズの気配はない。
「ロウ様、大丈夫ですか?」
隣の檻に閉じ込められた裸のエリカが声をかけてくる。
反対側にはコゼだ。横たわったままだが、ふたりともしっかりと意識はあるようだ。
「シャングリアは、どこだ……?」
「わたしはここだ……」
顔をあげると、反対側の壁に鉄格子をはめ込んだ牢があった。
その中にシャングリアがいた。
こちらと違い、立てるだけの広さはある。やはり、全裸であり、両手で裸身を隠し、心配そうにこっちに視線を送っている。
「少なくとも、生きてはいるようだな……」
一郎は息を吐いた。魔眼を開くと、三人とも怪我は見当たらない。
ただ、エリカだけが魔道を封じられている。
とにかく、助かったのだ……。
あのウーズに顔を覆われたとき、死を覚悟したのに。
「すまない……。すべてはわたしのせいだ……」
牢の中のシャングリアが声を震わせた。
「止められたのに洞窟に入り、罠に嵌まった……。お前たちは助けようとして追って来てくれたのだな……。オーヌからそう聞かされた。本当に申し訳ない……」
意気消沈した声音は、いつもの剛胆な彼女からは想像できないほど弱々しかった。
「オーヌって……誰だ?」
一郎が低く訊ねる。
「あのウーズを操って、わたしたちを捕えた男です。さっき現れて……。シャングリアの昔の知り合いみたいです」
すると、すぐ隣のエリカが早口で答えた。
「ああ……、思い出した……」
そういえば、粘性体に包まれる直前に、声だけが洞窟に響き、オーヌと名乗っていた。
シャングリアに恨みを抱いているとも……。
「……つまり、あいつは……わたしが昔、こっぴどく振った魔道遣いなのだ……」
牢の中で、シャングリアが語り始めた。
「……オーヌは……かつて王軍でも将来を嘱望された魔道師だった……と思う……。騎士団に入ったばかりのわたしに言い寄り続けて……。だが、この気性だ。容赦なく振った」
彼女の声音には苦い響きがあった。
「……想像できるな」
一郎は苦笑した。
「それを恨んだオーヌは、王都から姿を消した。そして……禁忌の術に手を出したのだ。自分の肉体に“瘴気溜まり”を憑依させ、異界から魔族を呼び出す力を得ようとした。普通の魔道師は魔族に触れることすらできない。だが瘴気溜まりを宿せば、その存在と繋がりを持てる。代わりに人としての境界を失い、もはや人間ではなくなる」
言葉は低く、重かった。
「人間が魔瘴石を身体に呑み込む? そんなことできるの?」
エリカだ。とても驚いている気配である。
一郎にはわからないが、とんでもないことなのだろう。
「……できたんだろう。おそらく、あいつは“魔瘴石”を自分の身体に取り込んだのだ。瘴気溜まりの核とも言える禁忌の結晶だ。その結果、人間から外れ、“瘴気体”と呼ばれる存在に変わり果てたのだと思う」
「……瘴気体か」
一郎は息を呑んだ。
「そうだ。魔族と人の狭間にある忌むべき変質者。生き延びるために瘴気を纏い、周囲の生命を歪ませる。オーヌはその身で魔獣を呼び出し、ついにウーズという粘性生物を従える術を手に入れた。あれはただの魔獣ではない。魔族に近い存在だ」
シャングリアは顔を上げ、一郎をまっすぐに見た。
話はそこから盗賊団へと移る。
シャングリアがジーロップ山に向かうと聞きつけ、オーヌは数日前に盗賊団を乗っ取り、待ち伏せていたという。
片腕を失った男はそのとき逃げ出した盗賊のようだ。残った者たちは従うか、ウーズの餌になるかしかなかったということか……。
だが確かに辻褄は合う。ここ数日、里で家畜を襲っていた正体も、やはりオーヌのウーズだったのだろう。
シャングリアの説明と、さらに一郎が気を失っていた間に訪れたというオーヌの言葉を、エリカが補足する。
そのとき──。
奥から、誰かが近づいてくる気配がした。
まだ、姿は見えないが、魔眼による鑑定はできた。一郎は頭に浮かんだものを確認する。
オーヌ
瘴気体、男
年齢:30歳
ジョブ
魔道遣い(レベル15)
魔獣遣い(レベル1)
生命力:90
攻撃力:120(必撃の剣)
魔道力:200
所有物
ウーズ(魔生物)
瘴気体か……。
一郎の魔眼にはそう記されていた。
シャングリアの説明によれば、オーヌは禁忌の魔道により、自らの肉体に瘴気溜まりを憑依させたという。
それは先の任務で封じた“魔瘴石”と同じ類のものだろう。己に取り込むことで、もはや人ではなく、「瘴気体」と呼ばれる異形へと変じたのか……。
そう思案していると、当の本人が姿を現した。
全身をケープで覆い、腰には一郎から奪った魔剣を下げている。
背後には怯えきった盗賊が五人。武器を握りしめているが、そのうちのひとりは腰に鍵束を吊っていた。表情と体つきから見ても、かつての頭領だったのかもしれない。
いずれにせよ、盗賊たちについては大した脅威ではない。
エリカもコゼも、もちろんシャングリアも、裸でなければ容易に制せるだろう。
だがいまは素っ裸で檻に閉じ込められ、武器もない。
どうにもならない状況に、胸の奥が焦燥で焼けつく。
かすかな望みがあるとすれば、オーヌが瘴気溜まりを憑依させ、魔獣遣いとなったのはごく最近だということ。
ステータスが示すとおり、魔獣遣いのレベルはわずかに〈レベル1〉……。
つまり、あのウーズを自在に操れるほど熟達してはいないはずだ。
付け入る隙はそこにしかない。
それに、わざわざ殺さず捕らえたのも理由があるはずだ。オーヌには、いまは一郎たちを生かしておく意図がある。
「ほう、男もやっと目を覚ましたか。──ではシャングリア、返事を聞かせてもらおう」
オーヌが低く笑った。
「わかっている……。だが、オーヌ、神にかけて誓え。本当にわたしがお前を主人とする隷属の首輪を受け入れれば、ロウたち三人を解放するのだな。その保障をしろ」
シャングリアの叫びに、一郎は眉をひそめる。
隷属の首輪──?
オーヌはケープの内から金属の輪を取り出し、牢の隙間へ差し込んだ。
「神に誓えだと? 瘴気溜まりを宿したこの俺に、いまさら神の掟など通じん。だが構わん。欲しいのはお前だけだ。首環をはめ、俺に謝罪し、奴隷になると誓え。それで三人は解放してやる」
一郎は目を見張った。
それは“隷属の首輪”──。
かつてコゼを長年縛り続けていた忌まわしい支配の道具と同じだ。
ただ嵌めるだけでは意味はなく、本人の口から「奴隷になる」と言葉を発したとき、心に枷が刻まれる。
オーヌは一郎たちを人質に、シャングリアを屈服させようとしているのか──。
「……ロウ様がまだ意識を失っていたとき、オーヌは来て、同じことを言いました。シャングリアに奴隷になれと……」
隣の檻から、エリカが小声で囁いた。
「いかん──。やめろ、シャングリア。そんな必要はない」
一郎は鉄格子越しに叫んだ。
「ロウ……。これはすべて、わたしのせいだ。自分の始末は自分でつける……」
「なにを言う。俺たちは仲間だ。仲間を信じろ」
「……わたしを仲間と呼んでくれるのか。嬉しいな……。たとえ嘘でも」
「うるさい。簡単に諦めるな、この馬鹿女──」
一郎の叱咤に、シャングリアの頬が赤く染まった。
「わ、わたしを馬鹿女呼ばわりか……。許さんぞ、ロウ……」
一郎は口の端を吊り上げた。
──それでこそシャングリアだ。
「うるさい奴だな──。おい、お前たち、ちょうどいい。部屋の燭台の蝋燭を、こいつら三人の檻の上に置け」
オーヌが意地の悪い笑みを浮かべて命じる。
盗賊たち五人は弾かれたように動き出した。恐怖が骨身に染みついているのだろう。
岩壁から四つの蝋燭が外され、一郎たちの檻に運ばれてきた。 エリカとコゼの檻には一つずつ、一郎の檻には二つ。
「あ、熱い──。熱いって──」
垂れた蝋が肌に落ち、焼ける痛みが走る。
狭い檻の中では身を反らすことすらできない。横たわる身体に、灼熱の雫が容赦なく降り注いだ。
両隣からも悲鳴が響く。
「熱いっ」
「ひあっ──」
エリカもコゼも苦悶の声をあげている。
だが、一郎は悟った。
──やはり、この男は素人なのだ。
魔獣遣い……、特にウーズの扱いにまだ不慣れ。確信が胸に灯る。
「やめろオーヌ。わたしが首環を受け入れる。お前の奴隷になる。だから、やめてくれ。ロウたちは、わたしのせいで巻き込まれたのだ。恨むなら、わたしだけを恨め。折檻でもなんでも、わたしが甘んじて受ける──」
シャングリアが叫び、投げ入れられた首環を掴んで、自ら首に嵌めた。
「そんなことをする必要はないと言っただろう。この馬鹿女──。早まるな」
一郎は垂蝋の熱さに歯を食いしばりながら叫び、右手首に念を込めながら擦った。
魔道紋が浮かびあがり、クグルスのいる異界に繋がる。
「クグルス──」
一郎は叫んだ。
次の瞬間、檻の外にクグルスが現れる。
「じゃじゃじゃじゃあん──。クグルスだよ。ご主人様、お呼び出しありがとう。わおっ、三人で裸ん坊で檻の中? なにこれ、新しい遊び?」
クグルスが陽気な声をあげて笑う。
「呑気なこと言ってる場合か、クグルス。俺たちは殺されかけてる。助けろ。あのケープの男か、腰に鍵束を下げている盗賊の身体を乗っ取れ」
一郎は怒鳴った。
魔妖精クグルスの技のひとつは、能力の低い相手の肉体を奪い、本人の意思を無視して操ることだ。
初めて現れたときも、エルフの少女ユイナの身体を乗っ取り、大騒ぎを引き起こした。
そのことを一郎は思い出していた。
一瞬きょとんとした表情を浮かべたクグルスは、すぐに状況を把握したらしい。
「あの身体に魔瘴石を宿している男が敵だね……。でも無理。もう人間じゃない。ぼくが乗っ取れるのは人間種か亜人種だけ。魔族は対象外だよ」
そう告げると、五人の盗賊の中から鍵束を腰に下げている男の胸へ飛び込み、姿を消す。
「な、なんだ? 魔妖精だと……? お前も魔族を召喚できるのか」
オーヌが目を見開く。
直後、その背後にいた盗賊の股間が異様に膨れ上がった。
一郎は支配が成功したのを見抜く。男は剣を抜き放ち、オーヌへと振り下ろした。
「なに──?」
オーヌが身を翻して、その一撃をかわした。
転がりざまに必撃の剣を抜き、斬撃を浴びせる。
鋭い刃が操られた盗賊の腹を深々と裂き、血が飛び散った。
「あぐうっ」
男は血を吐きながらも最後の力で腰の鍵束を一郎たちの方へ放った。
転がった束は運よくエリカの檻の前に転がりついた。
「クグルス、お手柄よ──」
エリカがすばやく手を伸ばし、錠を開けて身を乗り出す。
「コゼ、ロウ様を──」
短く声を放つと、鍵束をコゼの檻に投げ入れ、全裸のまま、斃れた盗賊の剣を奪い取ろうと飛びかかる。
一方で、クグルスは、憑依していた盗賊の頭領の身体から抜け出し、別の盗賊の体内へ飛び込んだ。
新たな男の股間もまた不自然に膨れ上がり、剣を抜いてオーヌに身体を向ける。
「貴様──」
オーヌが憤怒の表情で怒鳴る。だが、すでに体勢を取り直している。
「お前、承知しないわよ。覚悟しなさい」
エリカも剣を手にしてオーヌに向き合った。
クグルスが憑依している盗賊の前にエリカが割り入る。だが、オーヌは慌てたように距離を取った。
エリカが距離を詰めるために前に出ようとする。
しかし、一郎は、エリカたちのいる場所の天井部分で不気味な動きがうごめいていることに気がついた。
「エリカ、下がれ──。蝋燭を取れ」
一郎の声に、素裸のエリカが後ろに跳躍した。
次の瞬間、彼女がいた場所にウーズの塊が落下する。間一髪でかわしたが、残りの盗賊たちは粘性体に呑み込まれていった。
「ご主人様──」
コゼが檻の鍵を開け、一郎を解放する。
エリカは檻の上の蝋燭を掴み、火を掲げた。
すると、粘性体が怯むように退がる。
「シャングリア、鍵よ──」
コゼは鍵束をシャングリアの牢に放った。
「コゼも蝋燭を手に取れ。ウーズの弱点は火だ。やつは炎を怖がっている」
一郎も檻を出て蝋燭を握る。
「火が弱点……? そんなことは知らんぞ」
オーヌの顔に動揺が走った。半ばを覆った粘性体が進軍を止めている。
「なぜ動かん……? 火など聞いていない……」
焦りの声が響く。やはりオーヌは新米の魔獣遣いで、弱点を知らなかったのだ。
しかし、一郎には確信があった。
最初に捕らわれたとき、魔眼は燭台の炎に青いもやを反応させていた。
あれがウーズの弱点の証だったのだ。
「ご主人様──。全部、死んじゃった」
クグルスが再び戻ってくる。
残る盗賊の身体はすでにウーズに呑み込まれていた。オーヌはクグルスに身体を奪われるのを避け、あえて、仲間を殺したのかもしれない。
「クグルス、火を起こせ。炎の壁だ。ウーズを防げる」
一郎は怒鳴る。
「わかった──。ぼくに任せて」
クグルスの声と同時に、床から炎の壁が噴き上がった。
天井まで伸びる炎に、粘性体は一気に後退する。
「ロウ、お前も魔族遣いだったのか……。あとで説明してもらうぞ」
牢から飛び出したシャングリアが剣を構えた。裸身の四人と魔妖精が、炎を隔ててオーヌと対峙する。
「説明する気はないね。見たものは忘れろ」
一郎はちらりとシャングリアの裸身に目をやり、視線を前へ戻す。
「クグルス、この部屋の奥にも炎の壁を作れ。ウーズを挟み込むんだ」
「あいあいさあっ──」
クグルスが高く舞い上がり、オーヌの背後にも炎が立ち上がる。
粘性体は前後を炎に閉ざされ、逃げ場を失った。
「狭めろ──」
一郎の叫びに応え、ふたつの炎の壁が縮まる。炎の壁の向こうで、煮え立つように粘性体が波打つのが見える。
オーヌの悲鳴が響く。
「やめろ──。助けろ……やめろお──」
制御を失ったウーズが狂乱し、オーヌの悲鳴がかき消される。
「エリカ、その剣をわたしに貸せ」
シャングリアが奪い取り、炎の向こうへ槍のように投じた。
「これでも喰らえ──」
剣はオーヌの胸を貫き、砕ける音が轟いた。
白光と破片が散り、一郎は咄嗟に身を盾にしたが、破片は無害に弾け散った。
肉体に宿していた“魔瘴石”が砕け散ったのだ。
維持の力を失い、封じられた瘴気が霧散していく。
「ご主人様、瘴気が消えていくよ」
クグルスの安堵の声が響く。
まだ、炎の壁のあいだでは、ウーズが暴れているが、確かに、力を失い小さくなっていっているように見えた。
「……一応、クエスト終了だな」
一郎は床に落ちた魔瘴石の破片を拾い上げた。封印の証拠となるはずだ。
盗賊団は壊滅したが、ことごとくウーズに呑み込まれてしまった。この魔瘴石の破片が証拠になるだろうか……。
「それにしても……」
一郎はいまだに暴れている炎の壁の向こうのウーズを恨めしげに眺めていた。
クグルスの言葉どおり、魔界との接触を失い、さらに操っていたオーヌもいなくなったことで、ウーズは完全に制御を失っている。
いまやオーヌの肉体すら粘性体に飲み込まれていた。
つまりは、オーヌが奪った一郎の剣もウーズの体内に沈んだということだ。
「今回の代償は高かったな……。あいつめ、俺の愛剣を持ったまま、ウーズに飲まれやがった……」
必撃の剣は戻らない。
溜息を吐いたその瞬間、不意に衝撃が走った。
素裸のシャングリアがどんと体当たりするように抱きついてきたのだ。
「ロ、ロウ──、お前、最高だ──」
叫ぶなり、彼女は一郎の唇を激しく奪った。
頬を火照らせ、昂ぶりを抑えきれぬまま、口づけを重ねる。
一郎は驚きつつもその熱に呑まれ、手を伸ばして彼女の首輪を外した。
「あ、ありがとう、ロウ……。お礼のしようもない。本当にお前は命の恩人だ……」
赤面したシャングリアが唇を離す。
だが裸身を押し当てられた一郎の下半身は硬く勃ち上がっていた。
「それはいいがな……。そんな格好で抱きつかれると、収まるものも、収まらなくなるぞ」
一郎が笑みを漏らす。
「えっ、うわっ」
一郎の股間は完全に勃起状態だ。お互いに全裸であり、一郎の怒張を目の当たりにしたシャングリアが顔を真っ赤にして、一郎から飛び退いた。
「……大丈夫です。魔剣がなくなっても、ロウ様には、わたしが剣技を基礎からお教えします。また、一緒に稽古をしましょう」
エリカがにこやかに告げる。
彼女は以前から魔剣に頼る一郎を快く思っていなかった。観念するしかないのかもしれない……。
「駄目だよ、エリカはご主人様に厳しすぎるからね。もっと優しく丁寧に教えられる人を探すのがいいよ」
クグルスが茶化す。確かにエリカの稽古は厳しすぎ、一郎は何度も音を上げていた。
「なに言ってんの、クグルス。武術に王道はないの。毎日の地道な努力──。これしか上達の方法はないの」
エリカが反論したとき、もじもじと両手で乳房と股間を隠したシャングリアが前に出た。
「あ、あのう……。わたしでは駄目か……?」
一郎が目を瞬かせると、シャングリアは恥じらいながら続けた。
「わたしは王軍騎士団で女兵に武術を教える役もしている。力に乏しい者に基本を教えるのは慣れている。よければ、お前に武術を教えたい。命を救ってもらった礼と詫びを込めて……」
「シャングリアがか?」
思わず笑いかけたが、彼女の真剣さに気圧される。
それに、もしかしたら、優しい指導なら続けられるかもしれないし……。
「そうだな、頼もうかな……」
「えっ、ええっ?」
エリカが不満を隠せず声を上げたが、シャングリアは破顔して頷いた。
「あ、ありがとう。じゃあ王都に戻ったら一生懸命に教える。よろしく頼む、ロウ……」
シャングリアが破顔した。
笑うとこんなに可愛い顔になるのかと驚くほど、屈託のない笑みだった。
思わず見とれていると、その笑みがふいに困惑したように歪む。
「だけど……少し隠してくれないか、ロウ……。その……目のやり場に困るのだ」
だが、そのシャングリアが顔どころか全身を真っ赤にして言う。
そういえば、一郎もまた裸のまま立っている。
気の強いシャングリアだが、さすがに男の全裸を目の当たりにしては、視線の置き場を失っているみたいだ。
そもそも、三人の全裸美女を前にして、いまだに勃起状態だし……。
エリカとコゼも、ちょっと困ったように顔を逸らしている。
「隠すと言ってもな……。俺たちの服は、みなウーズに溶かされた。馬車に戻れば売れ残りの衣と荷物があるが、そこまでは四人で素っ裸のまま歩くしかないな」
一郎は笑った。
「そういえばご主人様。この裸ん坊の女は誰──? 美人だし、淫乱そうな身体してるね。もしかして、新しい性奴隷?」
クグルスがぴょんと飛び出してきて、ずけずけと口にする。
「せ、性奴隷──?」
シャングリアの頬がさらに紅潮する。
「クグルス、余計なことを言うな」
一郎が叱りつけるが、魔妖精は気にも留めず、シャングリアの裸身のまわりをくるくる飛び回り、まるで検分でもするように眺めまわす。
「生娘だな。しかも、まだご主人様に女にしてもらってないみたいだ。だったら手をつけてもらえ。ご主人様は優しいからね。そうしたら、きっと性奴隷として仲間に迎えてくれるぞ」
あけすけな言葉がクグルスの口から次々に迸る。
シャングリアは困惑しきりだ。
「やめろって、クグルス──」
一郎が手を伸ばすと、ひらりとかわされる。
「いいじゃないか、ご主人様。絶倫のご主人様には、エリカとコゼだけじゃ足りない。なあ、エリカ、コゼ──?」
挑発するように笑い声をあげる。
「そ、そういうことじゃない──」
シャングリアの前でこれ以上喋られては、一郎が淫魔師であることも隠しようがない。
もっとも、もはや誤魔化しようがないかもしれないが……
「なあ、エリカ、コゼ、お前らもそう思うだろう。ふたりじゃあ、ご主人様の愛を全部受けとめるには無理だろう。ご主人様に我慢させてるんじゃないか?」
クグルスがエリカとコゼに向かって、すっと宙を移動した。
「一生懸命、やってるわよ」
エリカが怒鳴り返している。
コゼはちょっと困ったような表情で苦笑している。
「なあ、お前、ご主人様の性奴隷はいいぞ。本当に死ぬような快感を毎日くれるんだ。このふたりも性奴隷だけど、ご主人様はますます絶倫になるからね。だから、お前も加わればちょうどいい──。美人で、いい身体だし……うん、合格──」
クグルスは、またシャングリアの前に飛んでいった。
「クグルス、いい加減に戻って来い」
一郎はついに宙を舞う魔妖精を捕らえた。
「こいつ──」
折檻とばかりに、手の中でその身体をむやみに擦りたてる。
淫魔師に触れられるだけで絶頂の奔流に呑まれるクグルスが、たちまちに狂ったようによがりまくる。
「ひぐううう──。ひいいっ、ひあああっ」
クグルスは、絶息の叫びをあげ、のたうちながら身を震わせる。
快楽に灼かれ、悲鳴とも嬌声ともつかぬ声が洞窟に木霊した。