※この作品はR-18です。

【改訂版】異世界で淫魔師ハレム【コミカライズ作品】   作:ドン・ドナシアン

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008 怒りの魔女

「イチ様、逃げてください──」

 

 エルスラが一郎の前に割り込んだ。

 その右手にはしっかりと短剣が握られている。

 

「エルスラ──。あんなにも可愛がってやったのに……、お前もまた、わたしを裏切るのかい──」

 

 アスカの怒声が森に響き渡った。

 顔から笑みも消えて、完全な怒りの表情になっている。

 

 お前も?

 

 一郎はなんとなく、その言葉が引っ掛かった。

 だが、すぐに我に返る。

 とにかく、そんなことよりも、いまの状況だ──。 

 

「あうっ」

 

 エルスラが悲鳴をあげた。

 なにが起きたのかわからなかったが、エルスラが手にしていた短剣を地面に落とし、苦しそうに身体を前に屈めた。

 だが、すぐにその身体が真っ直ぐに引き起こされ、さらに、 右脚が宙に浮いた。

 

 魔道だ。

 すぐにわかった。

 アスカがエルスラに魔道をかけて、身体を操っているのだ。

 しかし、一郎には、どうしようもない。

 ただ茫然とするしかない。

 

 そのあいだも、エルスラの右脚は完全に頭よりも上にあがった。

 当然に体勢を崩したエルスラは、その場に横倒しにひっくり返りそうになったが、身体そのものが宙に浮いて、エルスラが地面に倒れるのを防ぐ。

 このあいだも、さらに右脚が宙に浮き、やがてエルスラは完全に空中で逆立ちした体勢になり、エルスラの頭が地面から少し浮いたかたちになった。

 

「く……うぁ……あ、ああ……」

 

 エルスラの口から苦しそうな呻き声が漏れた。

 そして、逆さ吊りになったところで、やっとエルスラの右脚が止まる。

 エルスラの長い金色の髪は地面に垂れている。

だが、頭は三十センチくらいは浮いたままだ。

 

「あっ、ああ……お、お許しを……。と、とにかく、こ、この人はもう解放してあげてください……。お願いです……。じ、自由にしてあげて……ください……」

 

 右脚を吊られて逆さ吊りになったエルスラが、自由な左脚を懸命に右脚の腿に擦るように持ちあげつつ、さらに落ちてくるスカートを両手で押さえながら言った。

 その口調はさすがに苦しそうだ。

 

「雇われ傭兵の女兵の中から拾いあげて、目をかけてやったのに、飼い犬に噛まれたとはこのことだよ……。わたしがお前に裏切られて、どんなにはらわたが煮え返っているかわかるかい、エルスラ……」

 

 アスカがエルスラに杖を向けた。

 スカートを押さえていたエルスラの両手が強い力で捻じ曲げられるようにエルスラ自身の背中側で腕を横に重ねるように動いた。

また、左右の脚が大きく横に開いた。

 

「い、いたい……う、ううっ……」

 

 エルスラの両脚はほとんど地面に水平になるくらいまで開いて真っ直ぐに伸びている。

 すると、アスカがエルスラに歩み寄ると、スカートが垂れ落ちて剥き出しになっているエルスラの恥毛の下の亀裂にいきなり指を突っ込んだ。

 

「ひぎいい」

 

 エルスラが逆さ吊りの身体を跳ねさせた。

 ほとんど乾いているはずの膣になんの前戯もなく指を挿入されたのだ。

 一郎は女ではないが、それが激痛だということはわかる。

 しかし、アスカはエルスラの悲鳴を愉しむかのように、無造作に指を膣の中でかき回している。

 

 エルスラは悲鳴をあげ続けた。

 アスカは鼻を鳴らすと、やっと指を抜いて、それを自分の鼻先に持ってきた。

 

「やっぱり、わずかだけど男の精の匂いがするね。さしずめ、この男の調教を命じたときに乳繰り合ったね? それで情が移って、ふたりでわたしから逃げようとしたということかい」

 

「お、お慈悲を……ア、アスカ様……お願い……」

 

「とにかく、相応の酬いは受けてもらうからね……。お前は、今日から三百人はいる男兵の性便所だ。朝から晩まで犯されるだけの毎日を送るんだ。そのうち孕むだろうから、そのときは豚小屋に繋げてやるよ。いいね」

 

 アスカはエルスラの股間に手を伸ばした。

 なにをするのかと思ったら、水平になっている脚の中心にある金色の陰毛を掴んだのだ。

 そして、無造作に毛を引き千切った。

 

「うぎゃあああ」

 

 エルスラがけたたましい声をあげた。

 アスカの指には引き千切ったエルスラの陰毛の束があった。アスカはそれを地面に落とした。

 

「性便所の身分に落とした証として、ここの毛を全部なくしてやるよ。ただし、急場なんで、なんの道具もないからね。仕方ないから手でむしることにするよ。我慢しな」

 

 アスカが愉しそうに笑って、再びエルスラの股間に手を伸ばした。

 

「や、やめろ──」

 

 一郎は絶叫した。

 アスカはエルスラの股間に伸ばしかけていた手を止めて、虫でも見るような視線で一郎に顔を向けた。

 

「なんだい? お前の始末は後だよ。そこでじっとしてな……。おや? 首輪をどうしたんだい? まあいい……」

 

 アスカが今度は一郎に杖を向けた。

 

「うっ」

 

 突然に強い力が全身にかかった。

 太い透明の縄で全身を雁字搦めにされたような感じだ。

 気がつくと、一郎は直立不動の状態で動けなくなってしまっていた。

 

『いい加減にしなさい、アスカ』

 

 そのとき、突然に声が鳴り響いた。

 ユグドラの声だ。

 しかし、どこにもユグドラの姿もないし、気配もない。

 声は周囲の風そのものから響いている感じだ。

 

「なんだい。ルルドの女精かい……。お前の出る幕じゃないよ。引っ込んでな。これはわたしから逃亡した部下と奴隷だ。その罰を与えているところだ。お前には関係ないからどっかに行ってな。終われば帰るよ」

 

 アスカが面倒くさそうに言った。

 

『そうはいかないね。そのふたりはわたしの客人よ。手出しをするんじゃないよ』

 

 ユグドラの声がした。

 

「はっ。だったら、どうするんだい。このアスカにお前がなにかできるとでも思っているのかい。つべこべ言うと、この森を火の海にして焼き払うよ──」

 

『なんですって──?』

 

「前々から、わたしの城のすぐそばにあるこの妖魎の森は不快だったんだよ」

 

『この森はもとはと言えば、ルルドの森と呼ばれて、癒しの水のある神聖な場所だったのよ。その森をこんな風にしたのはお前じゃないの、アスカ』

 

「ほう、なにが言いたいんだい?」

 

『わたしは何度も使いをやって忠告したはずよ。異世界から人間を召喚するたびに、この世界の理力の平衡が崩れて魔界の瘴気が漏れ出るのよ。それをわかっているの?』

 

「ふん、だからなんだい?」

 

『その結果がこれだと言ってるのよ。この森の浄化がなくなれば、あんたの城だってただじゃおかない……。あっという間に死霊どもが雪崩込むことになる……。わたしはそれを防いでるんだよ』

 

「頼みもしないのにね……。好きで防いでいるんだろう? それに、溢れた瘴気はお前が浄化すればいいだろうが。まあ、せいぜい頑張りな」

 

 アスカの嘲笑するような声──。

 だが、一郎は、なんとなく、アスカの刹那的な感情のようなものを感じてしまった。

 

『はあ?』

 

「確かに、この泉の周辺だけは瘴気もなくて澄んでいるよ。それ以外は目も当てられない状況だけどね……。ルルドの女精がいまや、死霊の森の主だからねえ……。落ちぶれたものさ」

 

『お、お前、わかっていてやっているのね。そもそも、この十年、お前は狂ったように召喚を繰り返しているけど、怖ろしいことになるのよ』。

 

「ふん、どう怖ろしいんだい?」

 

『そんなに短い時間で繰り返せば、瘴気の洩れでは済まないわよ。このままじゃあ、あんた自身だって……』

 

「浄化なんて頼んでないだろうが。お前にできるのは、せいぜい浄化と癒しの術くらいしかないんだから、わたしが垂れ流す瘴気の毒をちまちまと掃除しな。百年もあれば、元の綺麗な森になるんじゃないかねえ」

 

 アスカは声をあげて笑った。

 一郎はふたりの会話に少し驚いていた。

 それによれば、本来、ユグドラはこの森にはびこっている死霊の主などではなく、それを浄化しようとしている森の精ということのようだ。

 

 それだけではなく、もともとはこの森は死霊など存在しない綺麗な森だったらしい。

 それがこうなったのは、アスカの召喚術の影響で「瘴気」というものが溢れているからであり、ユグドラはそれを懸命に浄化しようとしている存在ということのようだ。

 

 とにかく、この状況をなんとかしないと……。

 一郎は魔眼でアスカに集中した。

 

 

 

 “アスカの影

  魔道遣い(レベル70)

  生命力:0

  魔道力:5000(杖)”

 

 

 

 影?

 影とはなんだ?

 生命力も〈0〉だ。

 眼の前にいるのは、あのアスカではないのか?

 少なくとも、本物のアスカの魔道遣いとしてのジョブレベルは〈99〉に達していた。

 眼の前のアスカは、そこまでのレベルではないようだ。

 

 もっとも、一郎やエルスラからすれば、かないようもない能力であることには変わりないが……。

 

「まあいい……。終わりだよ、ルルドの女精。いまは、こいつらの始末だ。そこで黙って見てな。どうせ、癒しの術と幻影を見せるくらいの能力しかないんだろう。ほかにはなにもできないんだから……」

 

 アスカが一郎に向き直った。

 そして、歩み寄って身体に身に着けていたローブを剥ぎ取る。

 一郎はまたもや、アスカの前で素裸にされてしまった。

 

「ふうん……。この珍棒でエルスラをねえ……。それほどにご立派な道具には見えないけどね」

 

 アスカがまだ勃起していない一郎の性器をぐっと握った。

 しかし、身体は金縛りになっていて、身動きひとつできない。

 こうなったら、エルスラにやったことと同じことができないか……。

 一郎は股間を勃起させて、アスカの顔めがけて射精することを考えた。

 

「うぐうっ」

 

 しかし、なにかの圧迫感を男根の根元に感じた。

 アスカが手を離して、一郎から離れて再びエルスラに向かっていった。

 ふと視線を落とすと、一郎の性器の根元には細い革紐が喰い込んでいる。それが強い力で小さくなっている気がする。

 あっという間に、一郎の性器は青紫色になった。

 一郎はあまりの苦痛に呻いた。

 

 そのとき、身体が浮きあがるような感じになった。

 一郎の身体は、直立不動の態勢のまま地面を滑り動き、逆さ吊りになっているエルスラのすぐ正面に移動させられた。

 

「エルスラ、お前が連れて逃げた奴隷の罰を思いついたよ……。去勢だ。この男をこれから去勢するからね……。そこで、この男から性器が千切り落とされるのをじっと見てな」

 

 アスカが大股開きのエルスラの背後に回りながら大笑いした。

 

「そ、そんな。ぜ、全部、わたしの……せい……なんです……。わたしが……イチ様を……そそのかしました。この人に……罪はありません。罰するのは……、わたしだけにして……ください、アスカ様───」

 

 エルスラが悲痛な声で絶叫した。

 一郎をそそのかしたのがエルスラであるわけがない。支配された状態にあるとはいえ、そこまで一郎を庇ってくれようとするエルスラに感動のようなものを一郎は覚えた。

 いや、この生真面目さと真っ直ぐさは、このエルスラの天性のものなのだろう。

 

「お前が罰せられるのは、当たり前じゃないかい。これはこいつの罰さ……。そこで、目の前にこいつの珍棒が落ちてくるのを待ってな」

 

「お、お願いです……。こ、この人は無関係です……。わ、わたしがそそのかしました。この人はなにも悪くありません……。どうか……どうか……」

 

 エルスラはさらに声をあげた。

 すると、逆さ吊りのエルスラの身体の向こう側にいるアスカは、眉間をひそめて嘆息した。

 

「こりゃあ、どうなっているんだい? 本当にこいつに惚れちまったのかい? あの男嫌いのエルスラがねえ……」

 

「は、はい──。そうです。だから、わたしの罪です──。罰はわたしが……」

 

「はあ……。だったら、こうしてみるかい? これからお前の股を責めるけど、お前が気をやってしまうまでは革紐を縮めるのを止めてやるよ。つまりは、感じやすいお前が我慢しているあいだは、こいつの珍棒は落ちなくてすむということだ」

 

「えっ?」

 

「ただし、お前が気をやってしまうと、その瞬間にこの奴隷の珍棒は革紐で千切り落とす……。この奴隷を守りたければ、一生懸命に耐えてみせるんだね」

 

 アスカは自分の思いつきを面白がるように笑うと、後ろからエルスラの股間と尻の穴付近を指で弄り始めた。

 

「あ、ああっ、そんな……」

 

 一郎の足元にあるエルスラの美貌がはっとしたように歪んだ。

 アスカは意地の悪い笑みを浮かべながら、片方の指でエルスラの肛門を弄り、反対の手では開き切った股間の肉芽の周辺を揉みほぐすように動き出した。

 エルスラが背筋を緊張させて、舌足らずの悲鳴をあげた。

 

「いや、いやあっ、ああ、あああっ」

 

 エルスラは宙に浮かべられた身体を激しく身悶えさせだした。

 一方で、一郎の性器の根元に加わっていた圧迫感は一時的に消滅した。

 その代わり、エルスラが気をやるのと同時に、喰い込んでいる革紐は一気に縮まるに違いない。

 エルスラが非常に感じやすい体質であることはもうわかっている。

 そのエルスラが気をやるのに、いくらも時間はかからない気もする。

 

 

 

 “エルスラ(エリカ)

  エルフ族、女

  年齢18歳

  ジョブ

   戦士(レベル20)

   魔道遣い(レベル10)

  生命力:100

  攻撃力:1↓(魔道拘束)

   拘束状態

  魔道力:100(凍結)

  経験人数:男1、女3

  淫乱レベル:A

  快感値:30/100↓

  状態

   一郎の性奴隷

  能力上昇

   淫魔師の恩恵”

 

 

 

 エルスラのステータスを素早く見た。

 すでに、絶頂への度合いを示す快感値は〈30〉を下回りどんどんと低下中だ。

 快感値というのは、淫魔師としての一郎だけが認識できる指標であり、これが〈0〉になれば、女が絶頂する。

 つまりは、一郎の去勢までのカウントダウンの数字ということだ。

 

 それにしても、昨日の晩には、魔道遣いのレベルは〈レベル2〉でしかなかったはずだが、いつの間にか〈レベル10〉になっている。戦士レベルも急上昇しているような……。

 それに、「淫魔師の恩恵」とはなんだろうか……?

 

 しかし、とにかく、エルスラのことだ。

 なんとかしなければ……。

 

「ああっ、だ、だめ、こ、こんなの我慢できない……。はああっ……」

 

 エルスラの鼻息は荒くなり、つらそうに顔を左右に振り始めた。

 

 その口からつっと赤い血が流れた。

 一郎は驚いた。

 

「おやおや、少しでも我慢しようと思って、唇を噛んだかい? まあ、それでどれだけ、快感を耐えられるかやってごらん……。お前の身体は知り尽くしているのさ……。ほら、ここが弱いんだろう? ここもいいだろう?」

 

 アスカが嘲笑しながら、さらにすでにたっぷりと果汁を溢れさせているエルスラの股間を緩やかにくすぐりだす。

 

「ああ、いやあ、ああっ、あああ──」

 

 エルスラの身体が宙に逆さ吊りのまま跳ねる。

 全身は真っ赤で、すでにかなりの汗にまみれている。

 

 だめだ、このままじゃ……。

 これ以上は……。

 

 エルスラの喰い縛るような嬌声はだんだんと大きくなっていく。

 

「わかった。エルスラ、お前の奴隷状態を解く。もう、自由だ。俺を守るな──。命令だ──」

 

 一郎は叫んだ。

 そして、エルスラの奴隷状態を解除しようと頭に念じた。

 それでエルスラは一郎の支配状態から脱するはずだ。

 

 

 

 “エルスラ(エリカ)

  エルフ族、女

  年齢18歳

  ジョブ

   戦士(レベル20)

   魔道遣い(レベル20)

  生命力:100

  攻撃力:1↓(魔道拘束)

   拘束状態

  魔道力:100(凍結)

  経験人数:男1、女3

  淫乱レベル:A

  快感値:10/100↓

  状態

   一郎の性奴隷

  能力上昇

   淫魔師の恩恵”

 

 

 

 しかし、なんの変化もない。

 一郎は呆然とした。

 一度、奴隷状態にしたら奴隷状態を解除できないのか……?

 そのとき、ユグドラのささやき声が聞こえた。

 

『……イチロウ……。一度結んだ奴隷状態は、支配側だけではなく、奴隷側の心の合意がなければ解除できないわ』

 

「支配を解除できない……?」

 

『少なくとも、エルスラさんには、イチロウを主人として認める心が芽生えてしまったようね……。こうなったら、どんな主従関係も簡単には破棄できないわ』

 

 ユグドラの声がそう言った。

 エルスラが一郎を認めている。

 それは意外な言葉だった。

 

「待ちな。いまのはどういう意味だい、イチ」

 

 アスカが険しい顔で一郎を見た。

 エルスラを責める手は中止している。

 

「エルスラは俺に操られて、俺を逃がしたんだ。彼女を許してやってくれ。俺は淫魔師だ。淫魔の力でエルスラを支配して、あんたから俺を逃亡させたんだ。エルスラを苦しめるのはもうやめてくれ」

 

 一郎は、今度はアスカに向かって叫ぶ。

 

「イ、イチ様?」

 

 足元にあるエルスラの眼が大きく見開いている。

 

「淫魔師? あの伝承の? まさか……」

 

 アスカは呆気にとられていた。

 しかし、すぐに納得がいったという表情になる。

 

「なるほどね……。覚醒した能力が淫魔師かい……。神の技というやつだね……。こりゃあ、驚いた。精の力で女を支配するという伝承の能力が覚醒したということかい……。それで、エルスラを……。だったら、わたしも気をつけないとね……。うっかりしていると、わたしも取り込まれかねないところだ……」

 

 アスカが大きな声で笑った。

 

「だ、だから、エルスラを……」

 

「わかっているよ……。だったら、話は簡単だ。支配をしている淫魔師がいなくなってしまえば、エルスラの操りも解けるということじゃないかい……。まあ、正気に戻ったとしても、性便所の刑を許すわけじゃないけどね」

 

「だ、だめえ。おやめください、アスカ様──」

 

 アスカの言葉に突然にエルスラが恐怖に染まった悲鳴をあげた。

 一郎はどうしていきなりエルスラが叫んだのかわからなかった。

 だが、地面に落ちていたエルスラの短剣がふと宙に浮いているのが見えた。

 刃先が真っ直ぐに一郎の胸を向いている。

 

『やめるのよ、アスカ──』

 

 ユグドラの声も鳴り響いた。

 そのときには、短剣の刃先は深々と一郎の胸を貫いていた。

 

「がっ」

 

 突然に視界が消滅した。

 

 同時に全身の金縛りが解けるのもわかった。

 支えを失った一郎の身体が音を立てて地面に倒れる。

 

「イチさまあああ──」

 

 エルスラの絶叫も聞こえた。

 だが、相変わらず視界は戻らない。

 

 真っ暗闇だ。

 

 胸に刺さっていたものが強い力で引っ張られた。

 なにかが胸から噴き出したと思った。

 

「ああああああ──イチさまあああ──」

 

 もう一度、エルスラが絶叫した。

 

 急速に身体が冷えていく。

 

 音が消えた。

 

 死が迫っているのがわかった……。

 

 そして、なにもかもわからなくなった。

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