【改訂版】異世界で淫魔師ハレム【コミカライズ作品】 作:ドン・ドナシアン
「じゃあ、ぼくもいくよ、ご主人様。また遊びのときは呼んでね」
クグルスが宙を跳んで、一郎の前に現れた。
「ああ、クグルス。またな」
一郎は短く応じた。
性奴隷だけの場ならともかく、副ギルド長ミランダの前で魔妖精の存在を見せるのは好ましくない。クグルスには異界に戻ってもらうことにした。
屋敷妖精シルキーは、来訪したミランダへの対応に出ている。エリカとコゼは地下の浴室に向かっていた。
この屋敷のなかでなによりも一郎が気に入っているのは、前の主人の趣味で造られた豪奢な大浴場だ。
濾過した川の水を引き込み、一日中いつでも温かい湯には入れるようにシルキーの魔道で湯温と清潔さを保っているのだ。
シルキーに訊ねたところ、ほとんど負担もなく、常に適温の湯を湛えていられるらしい。
すでに今朝に試してみたが、十人ほど入っても余裕のある広さで、洗い場もゆったりとしている。
しかも前の主人の嗜虐趣味により、浴場でも嗜虐遊びができるよう設計されていた。一郎はひと目で気に入ってしまった。
「そういえば、ご主人様。前から教えようと思っていたことがあるんだ」
クグルスが異界に戻ろうとする直前に、思い出したように口を開いた。
「教えようと思っていたことって?」
「うん……ほら、ご主人様たちが王都に来たばかりのころ、大ラット狩りをしたよね」
「ああ、やったな」
新人扱いでデルタ・ランクだったころ、地下下水に棲む大ラット退治のクエストを受けた。
クグルスの力を借り、異性のフェロモンを発散させて次々と罠に誘い込み、前代未聞の捕獲数を挙げたのだ。
結果として一郎たちは二階級昇進し、ブラボー・ランクとなったのだった。
「あのとき教えてもらった“ふぇろもん”。ぼくも調べてみたんだ。それでわかったんだけど、ご主人様自身も強いフェロモンを発しているよ。人族の女なら必ず影響を受けるくらいの強いやつをね」
「おれがフェロモンを……?」
一郎は驚きを隠せなかった。
「そう。ご主人様は知らなかったみたいだから教えておこうと思ったんだ」
ただ存在するだけで女を惹きつける。そういう匂いを放っているということなのか──。一郎は当惑した。
「じゃあ、またね、ご主人様」
クグルスはそう言い残し、今度こそ、姿をかき消した。
やはり、侵入経路はここしかない。閉じた門を壊してでも入るしかない……。
ミランダは決心した。
屋敷全体が得体の知れない魔道に覆われているのはすぐにわかった。
彼女も魔道を操る身であり、肌でそれを感じ取れる。
門以外の場所から入ろうとすれば道に迷い、気づけば敷地の外へと追い出されるのだろう。結界の仕掛けは明白だった。かなりの高位魔道による結界がかかっている……。
つまりは、屋敷に入るなら、この門を通るしかない。
だが、門は堅く閉ざされている。
ミランダは二本の大斧を握りしめた。
かつて“怪力ミランダ”の二つ名で知られた
問題は、この門にもかかっているであろう結界の存在だ。どのような結果になるかまでは読めない……。
だが、その前に思い出すのは自分の失策だ。
よりにもよって、借り家の斡旋屋から託されたメモを取り違え、殺人ゴーストが巣くう危険極まりない幽霊屋敷の場所をロウたちに教えてしまうとは……。
十年近くもギルド預かりのまま放置された忌まわしいクエスト案件だ。すでに大勢の犠牲者を出したS級案件に、新人のロウたちをなんの準備もなく送り込んでしまった──なんという過ちか。
王都では誰もが知る曰くつきの屋敷だ。
普通なら近づく者などいない。
だが、王都に来てまだ二箇月程度の彼らは、疑いもせず足を踏み入れた可能性がある。
今朝になっても斡旋屋との約束の場所に現れず、宿にも戻っていないと知ったとき、ミランダは自分の過ちを悟ったのだ。
すぐに一郎たちが寝泊まりしているはずの宿屋に向かった。荷はそのままで、亭主も昨夜は帰っていないと証言した。
彼らがここに囚われたのは疑いようがない。
責任は自分にある。
ロウたちを助けなければならない。
だが、すでに一晩以上が経っている。間に合うのか……。
ミランダは大斧を構えた。ドワフ族の男でも両手で扱う武器を、ミランダは左右に一本ずつ持つ。
その怪力は同胞さえも驚かせたものだ。
とにかく、門を叩き壊す……。屋敷内に侵入できたら、遮二無二、内部に突入してロウたちを探す。
策とも言えないが、時間をかける余裕はない。
そう思ったとき、不意に門が音もなく開いた。まるでミランダを大人しく受け入れるかのように……。
ミランダは息を呑んだ。
迷いはあったが、進むしかない。
前庭の向こうに見える石造りの屋敷──。
その中にロウたちがいるはずだ。
懐には転移魔具を忍ばせている。
使い捨てだが、作動させれば自分ごと周囲を冒険者ギルドの事務室に飛ばせる。
彼らを見つけ次第、それで脱出するつもりだった。
ただし──ロウがまだ生きていてくれるなら……だ。
屋敷の玄関に辿り着いたとき、内側から扉がすっと開いた。
身構えるミランダの前に現れたのは、ひとりの可愛らしい童女だ。
ドワフ族の特徴により、人間族やエルフ族の子供ほどの背丈しかないミランダだが、その彼女よりさらに小さい。
紺色のワンピースに白いエプロン──いわゆるメイド服の姿。恐ろしい女ゴーストの登場を予測していただけに、童女の出迎えは意表を突くものだった。
「……屋敷……妖精……なの?」
当惑しながらも、ミランダには人族でないことがすぐにわかった。妖精族──しかも屋敷妖精に違いない。
屋敷の主人と契約し、掃除や世話を魔道でこなす召し使い妖精。だがその存在は稀少だ。仕える主人が強い魔力を持っていなければ棲みつかず、王侯貴族ですら容易に飼えない。
いくら有能な魔道遣いを住まわせても駄目で、「屋敷の主人」と「魔力の持ち主」が一致していなければならないのだ。
実際、このハロンドール王都の王宮であるハロルド城にも屋敷妖精はいないし、高位魔道遣いでもある巫女のいう王都三神殿にも存在していない。
それほどに屋敷妖精とは珍しい存在なのだ。
とにかく、それであれば、ここまでの強い結界の存在には納得がいく。これは、この屋敷妖精の力によるものだろう。
屋敷の管理に関することならほぼ無限の魔道を操れる存在──だからこそこれほどの結界が張られているのだろう。
とすれば、この屋敷に巣食うゴーストは、屋敷妖精を繋ぎとめられるほどの魔力を持つ魔道遣いということになる。
単なる亡霊ではない。
これは、ミランダの予想を超えていた。
危険だ──。
退いて態勢を立て直すべきか……。
だが、時間をかければかけるほど、ロウたちの救出は望み薄になる。
生きていればの話だが……。
「屋敷妖精のシルキーです。旦那様がお待ちです。どうぞ、ミランダ様」
童女がにこにこと告げ、ミランダはぎょっとした。
「なぜ、あたしの名を……?」
「旦那様から伺いました。そろそろミランダ様が来るだろうから、お通しするようにと。どうぞ中へ」
思いもよらぬ応対に、ミランダは呆気にとられた。
強引に突入してロウたちを連れ出すか、それとも退くか──判断に迷う。
「どうぞ遠慮なく、ミランダ様。エリカ様もコゼ様も、旦那様と一緒にお待ちですよ」
シルキーが言い添え、ミランダはさらに目を見張った。
「ちょっと待て。旦那様って誰のことよ?」
屋敷妖精が言う旦那様は、てっきり女ゴーストだと思い込んでいた。だが、エリカたちの名が出たということは……。
「もちろん、旦那様はロウ様です」
シルキーはにこにこと嬉しそうに答えた。ミランダは呆然とした。
「さあ、どうぞ」
さらに促され、不審を抱えつつも屋敷に入る。大きなホールに出たところで、シルキーが振り返った。
「よろしければ、武器はお預かりします」
「いや、これは持っていく」
ミランダははっきりと言った。罠だと思った。絶対に手放すわけにはいかない。
「そうですか……。では、そのままで」
あっさりと引き下がるシルキーに、逆に不気味さを覚える。彼女は先に立ち、ホールを抜けて廊下へと進んだ。
「どこに行くのだ、シルキー。ロウはどこにいる?」
「地下におられます。他の方々もご一緒です」
シルキーはにこやかに応じる。罠に嵌めようとする気配はない。むしろ自然体すぎる。
だが──地下か……。
ミランダは胸元に隠した転移魔具を確かめた。叩けば発動し、自分と周囲をギルドの事務室に飛ばせる。
内側からであれば、結界に阻害されないはずだ。
だが地下では、どうか……。
それに気になるのは「旦那様」という呼び名だった。ロウに魔力はないはず。……それなのに屋敷妖精が従うとは?
なにかの罠か……。確かめる必要がある。
「ここを降ります」
シルキーが示したのは地下への階段だった。ミランダは足を止めた。
「どうかしましたか?」
振り返るシルキーに、ミランダは低く問いかける。
「その前に訊ねたい。お前、ロウのことを旦那様と呼んだね?」
「はい。ロウ様は旦那様です。昨日からそうなりました」
「だが、おかしい。屋敷妖精は魔力の高い主に仕えるはずよ。ロウには魔力なんてない。それなのにお前が支配されるわけがない。罠なら今ここで白状しな。ロウは無事なんだろうね?」
ミランダが怒鳴ると、シルキーはにっこり微笑んだ。その笑みがあまりに無邪気で、かえってミランダはたじろぐ。
「……そうですね。新しい旦那様は魔力をお持ちではありません。でも、なぜかロウ様はわたくしを支配してくださったのです。とても気持ちがよかったです」
楽しげに思い出し笑いを浮かべながら、シルキーは階段を降りていった。
仕方なく、ミランダもそのあとに続く。
石造りの廊下が広がっていた。
燭台の明かりに照らされ、左右に鉄の扉が並ぶ。突き当たりには大きな扉がひとつ。シルキーは迷いなく奥へ進んでいく。
「横の扉はなんだい?」
ミランダが問いかけると、シルキーは足を止めずに答えた。
「調教室です」
あまりにあっさりした返答に、ミランダは思わず声を詰まらせた。
「ちょ、調教室だって──。つまりは、拷問室ということかい?」
ミランダは緊張して声をあげた。
「拷問室とは呼びません。調教室です。趣向ごとに分かれた部屋になっています。全部で六個あります。でも、旦那様たちがお待ちなのは調教室ではありませんよ。突き当たりの浴室です。そこでお待ちです」
「浴室?」
次々に出てくる意外な言葉に、ミランダは混乱気味だ。
「ここです」
シルキーが立ち止まって振り返った。
そこは突き当りであり、両側に横に開く造りの木製の扉がある。
そのとき、扉の向こう側から、確かにロウやエリカたちの声がかすかに聞こえた気がした。
シルキーが扉を開く。
確かに浴室だ。
広い脱衣所だった。
壁際には木網の椅子がずらりと並び、隅の台には厚手のタオルが山のように重ねられている。磨き込まれた石床はしっとりと光沢を放ち、すでに湯気の匂いが漂ってきていた。
奥には両開きの扉があり、その向こうに大浴槽があるらしい。
貴族の屋敷にさえ滅多に見られぬ規模の浴場──この館の異様な贅沢を物語っていた。
ロウたちの声は、その奥から響いてくる。
「……あ、うう……」
そのとき、エリカの苦しげな声が向こう側から響いた。
はっとしたミランダは、大斧を持ったまま勢いよく扉を開いた。
しかし、その中の光景にミランダは硬直してしまった。
扉の向こうは、間違いなく浴室だった。
石造りの壁は水滴を光らせ、白い湯気が立ちこめている。広々とした洗い場の奥には十人以上が入れるほどの巨大な浴槽があり、縁には獣や女の彫刻まで刻まれている。儀式場めいた異様な豪奢さだった。
その湯に浸かっているのは、一郎とエリカ、コゼの三人。
目にした瞬間、ミランダは思わず息を呑んだ。
一郎を中心に、ふたりの女がぴたりと絡みつき、素肌を密着させている。
湯の濁りに隠れてよく見えないが、両手は背の後ろに回され、拘束されているようにも見えた。にもかかわらず、ふたりは身をよじり、悶えを隠せない。
一郎の両腕は湯の中で動き続け、女たちの秘めた部分を確かめるように弄んでいるのだろう。エリカもコゼも、その動きに合わせて身を震わせ、赤らんだ顔を湯気の中にさらしていた。
無論、素裸であることは明らかだった。
「……あっ、ロ、ロウ様……お、お願い……そ、そんなこと……ああっ……」
エリカが真っ赤に頬を染めて声をあげる。さきほど聞こえた苦しげな声は、嬌声に過ぎなかったのだ。
「ああ……はあ……ご主人様……」
コゼも熱に浮かされたように吐息をもらし、一郎の肩にすがりついている。その声は甘えにも似て、聞く者を惑わせる響きを帯びていた。
「わっ、すまない」
思いもよらぬ、淫靡な光景に動揺して、ミランダは慌てて扉を閉じようとした。
「ミランダ、待っていたよ。とにかく、話があるんだ。入ってきてくれ」
そのとき、エリカとコゼを両脇に抱えたまま愛撫を続ける一郎が顔をあげ、強い視線をミランダに向けた。