【改訂版】異世界で淫魔師ハレム【コミカライズ作品】 作:ドン・ドナシアン
「……おしっこだ。おしっこをさせてくれ……頼む──」
シャングリアは哀願した。
強い尿意に下腹の奥がきゅうと縮み、そこから圧迫感がじわりと広がっている。
内腿が勝手に震え、いつの間にか腰が引けていた。
深く吸おうとすれば胸の内側で張りが跳ね、喉の奥で息が途切れた。
夜気が素肌を撫で、冷えが脛から這いあがるたび、堪えを揺さぶられる。
脂汗が下腹ににじみ、きらりと光ってから、へその少し下を伝って細い筋になって落ちていく。
だが、ここで崩れたら終わりだ。
シャングリアは、どんな苦悶でも耐えてみせる。負けん気が背筋を支え、羞恥を押し返した。
「残念ながら、シャングリアは捕虜だ。女騎士であろうと、敵に捕らえられれば拘束される──当然のことだ。しばらくはそのままにしておけ」
ロウがきっぱりと言った。
「そんな……」
シャングリアはぐっと下腹に力を込めた。
「あのう……シャングリアに、もしかして、なにかしました?」
そのとき、エリカが遠慮がちに口を挟んで、ロウに訊ねた。
「したな……。クグルスに合成させた薬液入りの果実水を事前に飲ませた。強烈な利尿剤だ。副作用はない。ミランダにたっぷりと依頼料を取られたな」
ロウが微笑む。
はっとした。
駅舎でウマを替えたあのときの果実水のことだ。
まさか、あれに……。
「ど、どうして……。なんでだ?」
シャングリアはロウに向かって声をあげた。
だが、こうしているあいだにも、尿意はどんどんと強くなる。
耐えようと思って、歯を噛み合わせる……。震えは止まらない……。
内腿を寄せる角度を探り、踵に力を寄せ、長靴の底で土を掴む。
それでも波は迫り、目の端が白くきしむ。
顎の筋がこわばり、肩がわずかにすくむ。長靴の縁をかすめた夜気が、刃のように鋭い。
だが、動けない。
樹と樹のあいだに渡された縄が六本、胸の下と腰のあたりで交差して胴を抱えている。
前後左右から寄せる渡し縄に支えられ、両腕は体側に沿ったまま動かせない。
宙に張られた渡し縄に括りつけられ、立たされているのだ。
しかも用を足す直前に襲われ、慌てて脱ぎ捨てたズボンと下着は近くの草の上に転がり、腰から下は覆うものがない。
目の前にロウ、少し引いた位置にエリカとコゼ──。仲間内の座興だということだけが救いかもしれない。
とにかく、奥歯の裏側で、背筋だけは折るなと言い聞かせる。
「なんでかって訊ねたか、シャングリア? 女が外で放尿するときには、どうしても無防備になる。守ってもらう仲間がいなければなおさらだ。それを教えたくてね」
「……」
「仲間になる前に、現実を直視してもらおうと思った。お前には独りよがりなところがある。だが、冒険は独りでは成り立たない。理不尽な命令にでも従える態勢が、命を左右する。だから、こうして思い知らせている」
ロウが言った。
喉が鳴り、みぞおちが熱を帯び、下腹の張りがきゅうと引き絞られる。
いまはただ、下腹に力を集め、その一点に意識を細く結び直した。
喉の奥で息を細く整え、視線を上げる。
だが、理不尽な命令──?
……いや、望むところだ。
ならば、どんな理不尽でも受けてやる。これでも騎士だ、
己の意地を自ら折ったりするものか──。
「……わかった。わたしが悪かった。独りで突っ走ったことも、ロウの言うとおりだ。ジーロップの件だって、わたしは身勝手だった。これからは勝手なことはしない。教訓にする。だ、だから──いまはこれを解いてくれ」
声を絞り出すだけで、鳩尾が熱くなる。長靴の中で足指が土を掴み、汗が下腹を薄く濡らした。
「いやいや、大いに身に刻んでもらおう……。でも、おしっこのことなら気にするな。そこですればいい」
唖然とする。
驚きで喉が鳴った。
「冗談を言うな──。こんなところで、立ったままできるわけがない。とにかく外せ」
声が少し上ずる。内腿がきゅっと寄り、肩がわずかにすくむ。
「なんだ。俺たちの視線が気になるのか」
「俺たちというよりは、お前だ──。厠でさせてくれ」
「なるほど、厠でちゃんとしたいわけだな?」
「当たり前だ」
シャングリアはロウに向かって怒鳴った。
だが、喉が震え、言葉の余韻に合わせて下腹の尿意の圧がまたせり上がる。
いよいよ尿意は迫っている。
「いいだろう。厠でさせてやるよ……。ただ、屋敷までは少しかかるかな。女騎士の矜恃として、そこまで我慢してみせろ」
「そんな……」
屋敷というのは、例の幽霊屋敷だろう。
でも、どのくらいあるのか……?
どれだけ耐えなければならないのか……?
シャングリアは、放心しそうになってしまった。
奥歯の裏で背筋だけは折るなと自分に言い聞かせる。
とにかく、踵に力を寄せ、ぎりりと奥歯を噛みしめた。
「……ねえ、エリカ……。ご主人様って、絶対に愉しんでやってるわよね……」
「まあね……。わざわざ、利尿剤まで飲ませてね。ミランダに依頼までしたなんて知らなかったけど……」
コゼとエリカが半分呆れたような口調で会話をするのが聞こえた。
すると。林の外れで鼻を鳴らす音が近づき、ウマが姿を現す。
鼻先に、小さな女の影。緑の髪が月に淡く光り、背に薄い翅、金飾りの透ける衣──。あのときの魔妖精だ──とシャングリアは思った。
「やっほおー、ご主人様。ぼくの“ふぇろもん”でおびき寄せたウマを連れてきたよ。興奮はもう鎮めてあるから大丈夫」
「ご苦労さん、クグルス」
ロウが軽く頷く。
「魔妖精を……従えているのか」
思わず、声が出た。
ジーロップ山のクエストのときもそうだった。ロウは、この魔妖精を操って、あの絶望的な状況から不定形の魔道生物を退治していた。
「そうだな……。言っておくけど、お前がこの林に入ったのは偶然じゃないぞ。クグルスにウマを誘導してもらった。王都で名を取った女騎士を捕らえる座興だ。手は抜かない主義でね……。それに屋敷に連れて行く前に、どうしても確認する必要はあるだろう?」
「確認……って、なにをです?」
エリカがロウを見た。
「こいつの覚悟だよ。本気で仲間になるつもりかどうかだ。あとで嫌だと言われても困る。俺たちには秘密も多いしな」
ロウは言った。
「まあ、確かに……」
コゼが小さく息を吐く。
「なにを言うか、ロウ──。わたしは本気だ。わたしはお前たちとともに冒険者として生きていくことに決めたのだ。しかも、お前をクロノスと認めて仕える覚悟もある。どうか、お前のパーティに加えて、エリカやコゼ同様に扱って欲しい……。とにかく、もういいだろう。頼む。もう許してくれ」
いつまで、放って置かれるのだ。
羞恥と狼狽と怒りで、シャングリアは昂ぶった声をあげる。
そして、足踏みのように膝を揺らした。じっとすることも難しい。
「そんなことを言われても、簡単に信じられなくてね。シャングリアのように、地位も立場もあり、しっかりとした係累のある女が、俺のような男に従うなんて、道理もないだろう?」
ロウが肩を竦めた。
「まあ、確かに、わたしも半信半疑かもしれません……、シャングリアも言葉だけかもしれないし……」
エリカが横から呟く。
「わたしは本気だ──。お前はわたしの本気を疑うのか──。そもそも、大伯父の許可を受ければ、パーティに入れてくれると約束しただろう──。約束を破るのか──」
シャングリアは喚いた。
「落ち着きなさいよ、シャングリア……。まあ、でも、ロウ様の言い分もわからないでもないわ。正直、あんたが、わたしたちの仲間になりたいだなんて、わたしはいまでも信じられないもの……」
「誇り高い騎士様だものね」
エリカとコゼがそれぞれに言った。
シャングリアは、歯ぎしりした。
「だから、確認したくてね」
ロウが口を挟む。
「確認?」
シャングリアはロウに視線を戻す。
「ああ……、だから、試しを受けてもらおうと思う。そのために、こんな大袈裟な試しを準備したんだ」
「試しだと?」
シャングリアは首を傾げた。
「そう、試し──。俺はこれから、シャングリアに徹底的に理不尽な意地悪をする。ちょっと従いにくいようなね。その理不尽をシャングリアは我慢して耐える。最後まで従順でいられたら、お前の本気を信じてやろう……。それが試しだ」
夜闇の中でロウがにやりと笑うのがわかった。
「わかったような、わかんないような……」
「まあ、理屈は通ってるわね」
一方で、エリカとコゼがぼそぼそとお互いだけで喋っている。
「わかった──。試しでもなんでも受ける。だから、これを解いてくれ」
シャングリアは、尿意の苦悶に脂汗にまみれている身体をのたうたせて叫んだ。
そのやり取りに口を挟むように、魔妖精のクグルスがひょいと姿を現した。
「でもさ、お前たち。どっちにしたって、こいつには性奴隷になってもらった方がいいだろ? このところ、ご主人様を満足させられなくて、途中で倒れてしまうのは知ってるぞ」
クグルスが、にやにや笑いながらエリカとコゼの前に跳んでいった。
「そ、それは……まあ……」
「確かに、三人いれば……なんとか……」
ふたりが顔を見合わせた。
「いやいや、ふたりは頑張ってくれてる、俺の趣味にも合わせてくれるし、過ぎた女だよ」
ロウが笑う。
「でも、ご主人様はこの女騎士が気に入っているだろう? こいつは体力がありそうだし、美人だから、三人いれば、なんとかなるだろう。淫魔師であられるご主人様には、とにかく、お相手が必要なんだ──」
クグルスが言った。
だが、シャングリアはちょっと驚いた。
「淫魔師──? いま、ロウが淫魔師だと言ったか?」
「クグルス、あんた、余計なことをべらべらと喋るんじゃないわよ──」
エリカが声をあげた。
「わかりました……。そういうことなら、こいつの覚悟を試しましょう。クグルス、トリモチを消して。縄はこのままでいいから」
コゼが前に出た。
「いや、縄も解いてくれ」
シャングリアは声をあげたが、クグルスの「はーい」という陽気な返事のあとに、べたりと絡みついていたトリモチが消滅した。粘りのない縄だけになる。どういう仕掛けかはわからない。トリモチも魔道の類なのだろう。
ただ、六本の渡し縄が胴体と腕に巻きついている状況には変化がなく、シャングリアは身動きできない。
すると、コゼが背後に回った。六本の渡し縄のうち、胸の上の一本の縄の結び目だけを解く。すっと、背中側からコゼの両手がシャングリアの前に出てきた。そのコゼの手がシャングリアの膨らんだ乳房を軍服の上から揉み始めた。
「うわっ、なにをするかあ──」
シャングリアは縄でがんじがらめの身を振って、コゼの手を振りほどく。渡し縄が軋んだ。
「はい、不合格」
コゼが背後でけらけらと笑う。
「はあ?」
「言っておくけど、このご主人様は、とってもいやらしくて、鬼畜よ──。あたしとエリカだって、ご主人様のご命令で、愛し合ってたりさせられるのよ。ご主人様の性奴隷になるということは、あらゆる辱めを受けることになると考えていいわ。ちょっとばかり、あたしたちに、胸を触られたくらいで、いやがるようじゃあ、ご主人様に仕えることは無理ね」
「酷い言われようだな……。まあ、好色なのは事実か。鬼畜のつもりはないけどね」
ロウは苦笑している。
だが、シャングリアははっとしていた。確かに、ジーロップ山の最初の夜、馬車の前で──ロウの目の前で、ふたりが黙って動きを合わせ、こちらの視線を遮っていた……。
「そんなことはない──。い、いまのはちょっとびっくりしただけだ。わたしは、お前たちとも仲良くやるつもりだ……。いいや、仲良くする──。む、胸くらい触れ」
慌てて言った。
「あっ、そう。触っていいのね。じゃあ触るわ」
コゼがもう一度、後ろから手を伸ばす。
だが、今度はずっと下だった。
尿意が切迫している下腹部をぎゅっと押し揉むように動かした。
「ひいいっ、なにをするかあ──」
声が漏れ、内腿が勝手に寄る。
必死に膀胱に力を入れて締めつけた。
コゼが手を離してけらけらと笑った。
「ほら、ごらん。あんたみたいなお高くとまった女が、あたしたちの仲間になれるの? 覚悟が足りないんじゃないの?」
「あんたねえ……」
エリカが呆れた口調で口を挟むのが聞こえた。
「じゃあ、試しの開始だ」
ロウが前へ出てきて、すぐそばに立った。これまで比較的離れていたのだが、いまはすぐ目の前だ。
エリカも寄ってきて、コゼが真後ろ、ロウとエリカがすぐ前に立つ。
シャングリアはそのあいだで、渡し縄で雁字搦めの状態だ。
すると、ロウの視線がすっとさがり、シャングリアの下腹の震えに落ちるのがわかった。
「あっ……そんな……」
その視線が肌そのものに触れたみたいに熱く、脇腹の内側がむずむずと疼いた。
ここまで近づかれて腰の前をまじまじと見られるのは、どうしようもなく恥ずかしい。
必死に内腿をすり寄せて、少しでも影を作って隠そうとした。
しかし、隠そうとすればするほど、羞恥の熱が下腹の張りに混じり、喉裏が薄く焼ける気がした。
「どうした、恥ずかしいのか?」
ロウが意地悪く訊ねた。
「当たり前だろう──。へ、変なことを聞くな」
強く返したつもりなのに、声の端がかすれた。
だが、まだ見られている……。
だんだんと身体が熱くなる。乳房の張りも強くなり、締めつけている内腿のあいだに湿ったものが流れ出してきた感触が生まれる。息も荒くなる。
内腿が勝手に寄り、膝が細かく震えた。
「ははは、いいぞ、お前、ご主人様好みだ」
魔妖精のクグルスが目の前に跳んできて、愉しそうに宙で踊る。
なにを褒められたかわからないが、シャングリアを認めてくれたのなら嬉しいかもしれない……。
でも、こんなにじっと見られては……。
「そうか、恥ずかしいか……。ところで、本当に試しを受けるんだな?」
ロウがやっと視線をシャングリアの顔に戻してくれた。
「も、もちろんだ」
間髪入れずに返す。負けたくないという意地が胸の奥で大きくなったきがした。
「わかった……。なら、仲間になりたくなくなったら、いつでも言ってくれ。そのときは試しを中止しよう」
「そんなことは言わん──」
「……じゃあ、死ぬ気で頑張れよ。ちょっと辛いぞ」
ロウがそう言い、クグルスに指先で合図を送った。
「いつもの小瓶を出してくれ」
ロウがシャングリアの前で手のひらを上にする。
「はーい」
魔妖精のクグルスがひらりと舞い、小さな小瓶がロウの手の上に、宙から出現して落ちた。
取り寄せ術か……。かなりの高位魔道だ。この小さな魔妖精が……。
「うわっ、あれよ……」
「はああ……頑張ってね、あんた」
エリカとコゼが、少しだけ同情めいた声を寄せる。
その言葉に、不安が拡がる。
なにか、得体の知れないものなのか?
ロウは小瓶の栓を開けた。
刺激臭がつんと昇った。
ロウが指先で油剤をたっぷりとすくい、シャングリアの股間に手を伸ばした。
「なにをする──。それは、なんだ──。説明しろ、ロウ」
反射的に腰を引く。
すると、ロウが油剤を載せた指を差しだしたまま笑った。
「なんだ、もう降参か?」
試すような声音──。
奥歯を噛む。
羞恥の熱がさらに強くなる。張りの波が重なり、視界の縁が淡くにじんだ。
「まさか……。いや、降参じゃない。なんでもしていい……続けろ」
シャングリアは引いていた腰を前に戻す。
「そうだろうな……。心配するな。ただの媚薬だ」
ロウが愉しそうに、再び指を股間に伸ばす。
だが、媚薬だと……?
シャングリアは歯を喰いしばった。
ロウの指が股間に触れる。
「くっ……」
ひやりとした感触が股間の亀裂に触れ、肉芽にも油剤が伸ばされる。
「うわっ、な、なんだ……これ……?」
身体の奥が痺れても、ここで悲鳴をあげては負けになる。たとえどれほどの薬でも、堪えてみせると思った……。
しかし、一瞬にして冷たさが熱に変わった。
痺れが下腹の奥を突き抜け、胸の奥まで息が広がる。
続いて、股間に残る熱が腰骨にまでじわりと染みわたり、むず痒さが肉の奥を焦がした。
その快感が走るたび、必死に押さえていた尿意がぐらつき、膀胱が悲鳴をあげる。
「とにかく我慢しろよ。すぐに終わる」
「ま、待ってくれ。そ、そんなにしたら……」
ロウの指が油剤をシャングリアの股間で塗り動く。
シャングリアは、生まれて初めてと言っていい感覚に混乱した。ロウの指が気持ちいいのだ。ぬるぬるとした油剤を載せたロウの指が敏感な場所を無遠慮に動いて這い動く。
微妙で丁寧に撫でさすってくる甘い粘っこさと、誘い込まれるような疼きに全身が痺れてくる。
心臓が締めつけられるような甘美感が全身に拡がっていく。
「い、いやだ──。頼む。一度、やめてくれ──。だ、だめええっ」
シャングリアは絶叫した。
「降参か?」
ロウが笑う。
しかし、指はシャングリアの股間を動き続ける。
「ち、違う──。でも、これ以上されたら……」
シャングリアは必死に股間に力を入れる。でも、それを嘲笑うかのように、ロウの指が股間を愛撫して脱力させられる。
さらに、新しく指に載せた油剤を陰核に塗り始めた。二本の指先でくすぐるように揉み解しながら……。
「この媚薬を塗れば、すぐに甘い痒みに変わる……。屋敷に着いたら可愛がってやろう……。それとも、降参か?」
「こ、降参なんか、するものか──」
奥歯を強く噛み、すぐに口を開く。
シャングリアは怒鳴った。
ロウの指が油剤を足してはシャングリアの股間で動く。
踵に力を寄せる。長靴の口をかすめる夜気が刃のように鋭く、下腹の張りがまたせり上がる。内側からぐっと押し上げられるたび、身体のどこかが小さく痺れて、内腿が勝手に寄った。
シャングリアは必死に歯を喰いしばった。
ほんの少しでも気を許せば、いまにもおしっこが迸りそうだった。
「終わりだ」
ロウが指を引いた。
とりあえず安堵した。
だが、もう……。
「クグルス、一本だけ残して、巻きついている渡し縄を消せ」
ロウの指示──。
ひらり、と縄が消滅する。胴体を縛っていた帯の張力がふっと抜け、胸の下だけが支えられる形で残った。
体側に固定されていた両腕の肘から下が自由になる。
血が戻る感覚と同時に、支えを失った心許なさが広がった。
「革枷をひとつだ」
「あいあいさー」
クグルスがロウの前で舞うと、短い鎖で繋がっている黒い革枷がコゼの手の上に落ちた。
「コゼ、後手に拘束してやってくれ」
ロウがその革枷をシャングリア越しに、背後にいるコゼに手渡す。
「はーい……。ほら、あんた、両腕を後ろに回して、水平に重ねなさい」
背中側のコゼが、両腕を背中に回させて、水平に重ねる角度へ導く。
革枷が手首に巻かれ、金具が噛み合う軽い音がした。
締めつけはきつすぎず、逃れられない程度に確かだ。肩が引かれ、胸がわずかに開き、下腹の張りがまた尖る。
だが、これで両手は背中で水平に組んだまま固定されてしまった。
「さあ、屋敷に行こうか……。厠は屋敷だぞ。死ぬ気で頑張ってくれ」
ロウの声は淡々としていた。羞恥が頬を熱くし、喉の奥で息が跳ねる。
歩くことを考えただけで、張りの波がひとつ強まった。
「ああ、そうだ。首環もつけてやろう」
ロウがクグルスに指示をして、鎖付きの首環を出させる。
首に嵌められた。
ひやりと喉元に沿う。
金具が留まり、細い鎖がかすかな音を立てた。
次いで、最後に残っていた胸の渡し縄が消え、支えは首環と背中の革枷だけになる。
「行くぞ」
「くっ」
鎖が前へ引かれる。
首環が締まり、慌てて足を出す。
長靴の底が土を掴むたび、張りの波が腹の内側で形を変えて返ってくる。
内腿の角度を探り、踵に力を寄せる。夜気が素肌を撫で、冷えが脛から這い上がるたび、息を細く流してやり過ごした。
「ま、待ってくれ……、こんな格好じゃ」
シャングリアは声をあげた。
まさか、下半身になにも身につけてない軍装のまま、首環で鎖を引かれて歩かされる気か──。
「敵の捕虜になれば、女騎士はどうなると思う?」
ロウの声は淡々としていた。
「どうって……」
「犯されるんだ。美人ならなおさらだ。それとも、その矜持もなかったか? シャングリアは俺の罠にかかって捕らえられた。いまは捕虜と同じだな」
その言葉に、胸の奥でなにかが納得する。
確かに、罠に嵌まって捕まったのは事実……。
「……わかった。捕虜なら仕方ない。だが、誰かが来たら隠してくれ。それだけはお願いだ」
わずかな弱音が滲む。
ロウが口の端を上げて頷いた。
「さすがに丸出しじゃ気の毒だな。──これだけは許そう。女騎士が捕虜になったとき用の下着だ」
差し出されたのは、腰紐に粗布を縫いつけただけの簡素な代物だった。だが内側には荒毛が植え込まれており、わざと肌を苛むように逆立ててある。
シャングリアは顔を赤らめて手を伸ばし、ロウに渋々それを身にさせてもらった。
ぐっと布を強く股間に押し当てるように引きあげられ、腰の両横で擦れないようにきつく紐を結ばれた。
「──くっ……ああっ……」
装着した瞬間、喉から悲鳴が洩れた。
毛先が柔らかな部分に触れ、針のように鋭い刺激を走らせたのだ。
腰をわずかに動かせば、毛先が左右にかき分けるように擦れ、痒みとも痛みにも似た感覚が一気に広がっていく。
立っているだけでも荒毛がじりじりと敏感な場所を苛み、羞恥と戸惑いを刻みつける。
「……こ、これは……耐えられ……」
女騎士の誇りも、その刹那ばかりは呻きに変わった。
「大丈夫だ。人が来たら隠れさせてやる……。クグルス、ウマを頼む。エリカとコゼは誰かが来たら教えてくれ」
尿意は容赦なく膀胱を圧迫し、羞恥は歩を進めるごとに鋭さを増した。だが、その苦しみはやがて痒みに似た熱へと変わり、股間の奥をじりじりと焦がしていく。
「はあ……仕方ないわね……。まあ、シャングリア、ロウ様はこういうお方よ。諦めてね……」
エリカの低い声が背後から飛んできた。
「誇り高い女騎士なら、胸を張って進みなさい……。でも、これでジーロップのときの冷たさは帳消しにしてあげる」
コゼが囁くように続ける。
捕虜用の下着に押さえ込まれた股間はちくちくと疼き、羞恥にどうしようもない絶望が胸を満たした。
──だが、それでもだ。
ここで耐え抜けば、必ず認めさせられる。
屈辱を力に変えてこそ、勝利がある。
……屈辱が肌の奥底を震わせ、なぜか血が沸き立つような昂ぶりまで呼び覚ましている。
耐えがたい辱めのはずなのに、息を詰めるたび、別の疼きが忍び込んでくる──シャングリアはその戸惑いと戦いながら、首を引かれて闇の道を進むしかなかった。