しがない強面中堅冒険者、新進気鋭の美女パーティの全員に「私のことは好きにしていいから仲間だけは助けてください」と体を差し出された。 作:ユリイカ
バルクはシエラたちが焚き火に向かっている隙を見て、脱力状態のファナを抱えて河原へと移動した。夕暮れ時の冷たい水に落とせば、彼女も即座に正気に戻った。
「ぷふぁっ!? な、何をするんですか!」
「すまん。ただ、早めに気付いてもらわないといけなかったんだ。それに、服装もどうにかした方がいい」
「はぇ? きゃああっ!?」
全身濡れ鼠となったファナは、そのむっちりとした肢体に布を貼り付けていた。凹凸に富んだ艶やかな肉体が服越しにも露わになり、特に大きく揺れる胸の存在感をさらに補強する。
しかし、バルクがその姿に思わず目を逸らしそうになったその時。
「くちゅんっ」
濡れた体に風が吹き、ファナはくしゃみをする。汚れを落とし、匂いを消すのも大事だが、水浴びには少し時間が遅い。
「その、これを使え。こっちは乾いてるからな」
ぷるぷると震えるファナの頭に被せられたのは、大きなサイズの少し男臭い上着だった。見れば、バルクが上裸となっている。彼はその状態のままザブザブと川の中に入り、本日二度目のズボンの洗濯を始めた。
「良いんですか?」
「俺の方が丈夫だろう。それに、女性は体を冷やしちゃいかん」
あいも変わらず無愛想な口ぶりだ。しかしそれがバルクの優しさであることを彼女も理解した。男物のシャツを身にまとい、神官服を川の流れに晒す。こびりついた泥や葉に混ざって、染みついた体液が取れた。あとはきつく絞って軽く乾かせば、なんとか着れるようになるだろう。
ズボンを洗い終わったバルクは、泥だらけになってしまった網を再び一から洗い直している。
「……その網は何に使ったんですか?」
「この川に魚も泳いでるからな。それを獲るために使った。今頃、焚き火で炙られてるはずだ」
シエラたちにはイノシシの解体のほかに、川魚の下処理も頼んでいた。そのため人手が必要だったのだ。
「今日はシエラがマッドリーチに血を吸われたし、ファナも倒れただろう。貧血は探索では避けておきたい」
「はぁ」
どうやら、バルクはファナが気を失った理由を貧血だと推測したようだった。実際は勘違いで衝撃を受けて、勝手に倒れただけである。的違いな推理を真剣な顔で語る大男に、ファナは思わず笑ってしまった。
「……私の服はもう乾きましたから。バルクさんも着てください」
「もう良いのか? 正直助かるが」
ファナは生乾き程度に戻った神官服を苦労して着直し、自分の体温が残るシャツをバルクに渡す。彼も分厚い筋肉があるとはいえ、夕暮れの水の中に半裸で立つのは寒かったのだろう。素直にそれを受け取ると、いそいそと袖を通す。
「その、バルクさん」
「どうした? ああ、さっきのことなら心配するな。目覚めたばかりで混乱してたんだろう。俺は何にも覚えて――」
「私のおっぱい、気持ちよかったですか?」
「ゴォホッ!?」
川辺にしゃがみ込んで網を洗うバルクの背中に、ふにょんと二つの果実が押し付けられる。ほのかにあたたかいソレが何なのかを理解する前に、彼の耳元で少女が優しく囁いた。
思わず咽せる男の分かりやすい反応に、彼女は糸目を細めて満足感を得た。
「――私、見ちゃったんです。バルクさんとネルヴァがその、せ、性行為をしているところを」
「なっ。あ、あれは……」
もぞりと動く体を抑え、ファナはうんうんと頷く。
「分かってます。バルクさんも男性ですから、劣情が堪えきれなかったんですよね。大丈夫です。今日からは私が、責任を持ってお相手しますから」
「うん?」
何か、風向きが怪しい。
バルクが訂正しようと顔を向けるも、がっちりと腕でホールドされてしまう。
「迷える者を助けるのは聖職者の務め。バルクさんの肉欲は全て、私に向けてください。ネルヴァに負担をかける訳にはいきませんから」
「いや、あれはそういう訳じゃなくてだな――」
「恥ずかしがらなくてもいいんですよ。男は皆、ケダモノであるということを私はしっかりと知っていますから」
「ちがっ、話を、もががっ!?」
反論しようと口を開くバルク。彼の顔面にしっとりと湿った布地が張り付く。その向こうから感じる温かな体温と柔らかな肉の感触。ファナがバルクの頭を抱き抱えるようにして胸元を押し付けていた。
「はぁ、はぁ。んっ。私は神聖術を使って、ある程度の疲れを癒すこともできますからね。んんっ」
ぐにぐに、と胸の先端を擦り付けるように動くファナ。バルクは彼女を強引に引き剥がすこともできず、困ったように腕を動かすことしかできない。
疲れ果てていた息子が、またやるのかと少し呆れ気味に首をもたげる。その時、ぴたりとファナの動きが止まった。
「――それとも、私では満足できないと?」
「ひっ」
凍えるような冷たい声。それまでとの落差に、息子が素早く引っ込む。
これまでの柔和な雰囲気を絶やさないファナの印象がまるで違って見える。震えるバルクの背中に密着したまま、彼女は指先をつつ、と走らせた。
「そんなわけないですよね? 私の方がおっぱい大きいですもん。それにあんなにいっぱい出してましたし。私の方が気持ちよくできますよ? 体もふわふわだし、抱き心地もいいって友達にも言われてるんです」
「あ、あの、ファナ? ファナさん?」
「これからは全部私に任せてください。私がバルクさんの性欲を解消して差し上げますから」
「いや、だから――」
「嫌なんですか? ダメですよ。私以外のメンバーを襲わないようにするためなんですから。私で満足できないんですか? そんなわけ、ないですよね?」
「は、はい」
あまりの気迫に、熊のような男の方が気圧される。気がつけば、彼はこくりと頷いていた。それを認めた瞬間、それまでの迫力が霧散し、ファナは花のような笑顔を浮かべた。
「それはよかったです。これで〈極光の剣〉のみんなも安心できますし、バルクさんも辛い思いをしなくて済むということですね」
「あ、ああ……」
「それじゃあ、これから毎日お務めを果たしますので。よろしくお願いします」
「毎日!?」
衝撃の言葉に耳を疑うバルク。しかしファナは足取りも軽く、キャンプの方へと歩いていく。
「待ってくれ、流石に毎日は――」
「嫌なんですか? ダメですよ。毎日絞ってあげないと、持て余した性欲が誰に向けられるか分からないじゃないですか」
自分で満足させたいのか、仲間を守りたいのか。ファナの中ですらそれが定かではないようだった。そこに一抹の不安を抱きながらも、バルクは何も言えなくなる。そもそもがこの男、対人関係を築くのが苦手で単独行動に徹している変わり者なのだ。
「頑張りましょうね、バルクさん♪」
女神のような笑顔の少女。バルクは自分がどんどんと危ない方向へと引き摺り込まれているような気がして、ブルブルと身を震わせた。
◇
「あれ、ファナ。河原にいたの?」
「うん。寝起きで歩いたら転んじゃって。服を洗ってたの」
「うわぁ、胸元まで破けてるじゃない。とりあえず私の上着でも羽織って」
キャンプ地ではシエラたちが食事の準備を進めていた。焚き火の周囲には串に通したイノシシ肉や川魚、野菜などがじっくりと炙られ、美味しそうな香りが漂っている。
ファナが戻ってくると、シエラたちは胸元の大きく裂けた彼女の服を見て目を丸くする。慌てて上着を被せ、なんとか体裁を整えたところで、どこか挙動不審なバルクが戻ってきた。
「す、すまん。遅くなった」
「バルクさんも河原にいたんですね」
「網を洗ってたんだ。うん」
自分に言い聞かせるように頷くバルク。そんな彼を不思議そうに見た後、シエラは自分が座っていた丸太の横に手を向ける。
「そ、その、良かったらこちらへどうぞ。足も濡れてますし、そのままだと寒いでしょう」
火に当たった方がいいだろう、と言い訳のように繰り返すシエラ。バルクが彼女の優しさに胸を熱くしながら、そちらへ向かおうとしたその時。
「バルクさんはこちらへ」
「うおおっ!?」
ぐい、と横から引っ張られる。見れば、ファナが微笑みのままバルクを別の丸太へと促していた。
「ちょっ、ファナ」
彼女らしくない強引な動きにシエラが驚いて立ち上がる。しかし、ファナはバルクを丸太の上に座らせると、自分も彼に密着する近さで腰を落ち着けた。
「バルクさんと隣に座ると濡れちゃうわ。それなら、一緒に濡れてる私の隣の方がいいでしょう?」
「それは……」
一見すると妥当な意見だっただけに、シエラもしぶしぶ手を引かざるを得ない。しかしどこか落ち込んだような様子で、せっかく良い具合に焼けた魚も手に持ったままだ。
「なんじゃぁ?」
そんないつもと様子の違う仲間たちを見比べて、パテマが一人きょとんとして。
「お、この肉もいい感じだな。バルク、食べていいぞ」
ネルヴァは無邪気に肉を焼いていた。