しがない強面中堅冒険者、新進気鋭の美女パーティの全員に「私のことは好きにしていいから仲間だけは助けてください」と体を差し出された。 作:ユリイカ
果たして、バルクとパテマは捜索に乗り出したシエラたちによって発見された。しかし、二人を見つけた〈
「パテマ、いったい何があったの?」
「ぬぅ。妾が考えなしに夜の森に入ったせいじゃ……」
水球によってずぶ濡れとなったパテマは、シエラに保護されて事情を説明する。
ただし、バルクが気を失う前に行ったことについては曖昧に伏せたまま。魔獣の攻撃を受けて負傷し、パテマが応急処置を施した後に力尽きて意識を失ったことにする。嘘をついたわけではない。全てを話していないだけで。
ネルヴァとシエラの二人がかりで、気を失ったバルクを運ぶ。気を失った人間というのはとにかく運びにくい代物だ。それでも、シエラたちはできる限り丁寧に彼をキャンプ地まで連れ帰った。
「パテマ、傷は大丈夫なんだよね? ちゃんと目は覚ますよね?」
温かい焚き火のそばに寝かせる。ゆっくりと胸を上下させるバルクを見ながら、シエラは何度も繰り返した問いをパテマに向ける。
「大丈夫じゃ。薬の副作用で体力が尽きておるだけじゃからな」
「念の為、神聖術も掛け直しておきましょう」
ファナが胸の前で指を組み、祈りを捧げる。バルクの巨体が光に包まれ、その体力がわずかに回復する。神聖術は傷も癒すことのできる女神の奇跡だが、あくまで対象者の生命力を励起させるだけのものだ。気を失った者を目覚めさせるほど、便利に使えるわけではない。
「シエラ、もうテントに戻って休め」
ネルヴァが薪の束を抱えてシエラを寝床に促す。しかし、若い少女は首を左右に振った。
「ダメ。バルクさんを見ておかないと」
「お前……」
いつもは素直な彼女が、頑なになる。そんな姿にネルヴァは思わず唇を噛み締めた。
シエラはこの男に性的な暴力を振るわれている。それなのに、どうしてこうも固執するのだろう。決まっている。反抗する意志も折られたのだ。精神的に強い傷を負った者が、傷を与えた者に従順になるという話を、ネルヴァはどこかで聞いたことがあった。
「大丈夫だ、シエラ。バルクのことはあたしに任せろ」
自分が身を差し出せば、バルクはシエラには手を出さない。自分が性欲の捌け口になってさえいれば、パーティは円満にこのキャンプを終えられる。ネルヴァはそう自分に言い聞かせる。
しかし、それに異を唱える者が他にいた。
「バルクさんのことは、私に任せてください」
「ファナ?」
たゆん、と大きな胸を揺らして立ち上がったのはファナである。夕食時から、妙にバルクと距離が近かった。まさか、あの男は彼女にまで手を出したのか。
「ファナ、大丈夫だ。ここはあたしが――」
「いいえ、これは神官としての務めです。なので、ネルヴァさんはシエラさんに付いていてください」
ファナの細い目に妙な迫力があった。ネルヴァは僅かに感じた異様な雰囲気に違和感を抱く。しかし、その正体が何なのかまでは分からなかった。
その間にもファナは横たわるバルクの胸に手を置き、心配そうに彼の様子を窺う。
「今はただ眠っているだけのようですし、心配はいりません。三人はテントでお休みください」
「しかしな……」
この男のことは、全部自分に任せていればいいのに。ネルヴァは自分でも気付かないうちに強く抵抗する。
シエラもファナも、この男の毒牙が掛からないように、あたしが守ってやっているのに。どうしてそれを理解しないのか。
「――いや、ここは妾が」
手を挙げたのはパテマだった。彼女は濡れた髪を布で拭いながら口を開く。
「バルクが怪我をして気を失った原因は妾にある。なれば、妾が責任を取って世話をするのが当然じゃろ」
「いいえ、ここは神官である私に任せてください。プロですから」
「わ、私がちゃんと看病するよ!」
お互いに一歩も引かない少女たち。自分こそがバルクの面倒を見るのだと主張して譲らない。その光景を、ネルヴァは愕然として見ていた。
彼女たちは、この男のことを何も分かっていないのではないか。自分はこの身をもって、あの男の隠し持つ凶器を知ったのだ。あんなものがシエラやパテマに向けられたら、二人とも再起不能になってしまう。だから、自分が守らねばならない。あの凶悪なものは、自分だけが――。
「もうっ!」
大きな声を上げたのはシエラだった。彼女は立ち上がり、その瞳に怒りの色を滲ませる。
「うきゅっ」
「ぬあっ」
直後、ファナとパテマが糸が切れたように崩れ落ちる。一体何が起こったのか、ネルヴァは混乱する。気が付けばシエラの姿が消えていた。彼女が何かしたのか。
「がっ」
首筋に強い衝撃。それがシエラの強烈な手刀だと気付く前に、ネルヴァもまた意識を刈り取られた。
武術、体術における天賦の才。それを遺憾無く発揮した彼女は、獣人族であるネルヴァでさえ捉えられないほどの機敏な動きで、仲間三人の意識を刈り取った。それはまさしく才能の無駄遣い。そう表す他にないほどの鮮やかな動きだった。
「バルクさんは、私が看病するんだから」
シエラは気を失った仲間たちをテントの中へ引き摺りながら静かに呟く。
三人をテントの中へと隔離して、出入り口も閉じる。邪魔が入らないように。
「バルクさん。バルクさんが本当は優しい方だってこと、私だけは知ってますからね」
パチパチと静かに爆ぜる焚き火の前で、彼女は薄く微笑みを浮かべる。
隣には穏やかな吐息を繰り返す大男。シエラは昨夜のことを思い出す。
恐怖のあまり気が動転していた彼女は、彼のテントで上裸となり、こちらから襲うようにして彼の股間にしゃぶりついた。その時に感じたのは恐怖のほかに、強い雄の力。
それを振るえば、自分たちなど力づくで従えられるだろうに、彼はそうしなかった。
シエラは理解した。彼は見た目こそ凶悪だが、その心は優しい男なのだと。
「他の三人は怖がっているみたいですけど、私はバルクさんのことを理解していますから。バルクさんも、私といる時は安心してくださいね」
手を厚い胸板に這わせる。鍛えられた硬い筋肉だ。昨日の記憶が鮮明に思い出される。
初心な少女に、この男はあまりにも強い印象を残した。もっと深く理解したい。彼の全てを知りたい。彼の最も密接な理解者になりたい。
それは恋の芽生えというには、あまりに歪だった。
「バルクさん、バルクさん。――んっ」
桜色の唇が、男の体を這う。すんすんと小さな鼻を動かしながら、彼女は覆い被さるようにして男に密着する。
彼の存在を、感触を、匂いを感じていると、不思議と下腹部がうずく。じんと熱を持ち、むず痒く動くのだ。
「でも、今はもったいないですよね」
年齢に似合わない妖艶な笑みを浮かべて、シエラはバルクの下半身に手を伸ばす。脱力してなお、布ごしに強い存在感を放つ男根。軽く刺激を伝えれば、瞬く間に隆起することだろう。
だが、今ではない。
気を失ったままというのは、あまりに味気ない。
「必ず、バルクさんに捧げますからね」
シエラは気を失った男の耳元で囁く。
その日が来るのは、そう遠いことではないと確信しながら。