しがない強面中堅冒険者、新進気鋭の美女パーティの全員に「私のことは好きにしていいから仲間だけは助けてください」と体を差し出された。 作:ユリイカ
キャンプ地で身構えるシエラとパテマの元にネルヴァが帰って来たのは、それからすぐのことだった。魔獣の出没を心配する二人に、ネルヴァは少しふらふらとしながらも首を横に振る。
「魔獣は、いなかったよ。あたしの勘違いだったみたいだ」
「そっか。なら良かったけど……」
シエラはまじまじとネルヴァを見る。先ほどとは打って変わって、少しぐったりとした様子だ。歩く姿も力がない。何かあったのだろうかとそちらの方が気にかかる。
しかし様子を窺っても、彼女は魔獣を探して疲れただけだと言うのみだった。
「そうじゃ。バルクとファナはどうした?」
「あ、ああ……。あの二人は」
ぴくん、と耳を揺らすネルヴァ。シエラは違和感を抱くが、それが何なのか考える前にネルヴァが言葉を続けた。
「二人はもうちょっと掛かるらしい。包帯を取り替えて、薬を塗り直して、神聖術も掛けてるみたいだからな」
「そっか。じゃ、私たちも解体に戻ろうか」
「そうだな。……ああ、そうしよう」
一抹の不穏を残しながら、三人は再び元の作業に戻る。シエラとネルヴァは河原で獣の解体に取り掛かり、パテマは鍋で湯を沸かしながら夕食の準備を始める。
何やら疲労困憊のバルクとファナが戻って来たのは、夕食の用意があらかた終わった頃のことだった。
「もぅ、二人とも遅いよ! 全部私たちがやったんだけど」
「ごめんなさい、シエラ。ちょっと治療に手間取っちゃって」
森の奥から現れた二人に、シエラはご立腹の様子である。彼女からすれば、二人がわざと戻るのを遅らせて、作業を三人に押し付けたようにも見えてしまうから、仕方ないことだった。
「すまん。急いで戻って来たんだが……。後片付けは任せてくれ」
「むぅ。仕方ないですね」
大きな体をきゅっと小さくするバルクを見ると、シエラもそれ以上追及できない。ため息をついて手打ちとし、ささやかな夕食が始まった。
「ほら、バルクさん。熊の肝が取れたんですよ。新鮮ですし、食べられると思います」
「おお、ずいぶん立派なのがあったんだな」
「これだけ大きければ、きっと精も付きますよ」
「お、おお?」
夕食のメインディッシュは熊肉のシチューである。直火で焼くよりも一度に大量に作れて、野菜など他の栄養も取れることから、野営ではシチューが定番の料理となる。とはいえ、ゴロゴロと肉が入っていると、それだけで気持ちも違ってくる。
そこにさらにシエラは密かに取っておいた熊の肝を取り出してくる。ぜひバルクに、と差し出すと、彼も悪いなと言いつつ嬉しそうに受け取った。
「バルクさんには、いっぱい精を付けてもらわないといけませんもんね」
そう言って妖艶に笑うのはファナである。彼女は相変わらずバルクの真横に陣取り、その胸を密着させている。それどころか、今日は手を彼の太ももに乗せてすらいた。
「なんかファナ、バルクさんに近くない?」
「そうですか? うふふ」
眉を寄せるシエラにも艶然と笑うだけ。特に離れようともしない。
そんな様子を少し離れたところから見ていたネルヴァの脳裏には、先ほどの乱れる二人の様子が克明に浮かんでいた。敬虔な信徒として清貧の生活を送り、男というものを知らなかったファナが、あんなふうに乱れ、嬌声を上げていた。バルクもまた、彼女の凹凸に富んだ躯体を抱き、貪るようにして交わっていた。
「あたしも……」
股間が疼く。急いで綺麗にしたはずなのに、またじんわりと股が濡れ、匂いまで立ちこめてきそうだった。内腿を擦り、身を捩る。
「どうした、ネルヴァ? トイレか?」
「あ、いや、なんでもない」
いつもは快活な姉貴分が静かなことに気が付いたのはパテマだった。不思議そうに首を傾げて覗き込む彼女に、ネルヴァは慌てて否定する。
「なんか、みんな仲良くなったみたいだと思ってな」
「む? そうじゃなぁ」
ネルヴァは改めて率直な思いを吐露する。シエラもファナもバルクと距離が近い。数日前を思えば、考えられないほどの距離だ。あの男の卑劣さを知っているのは自分だけ。しかし、ここから見えるのはパーティの団欒に加わる素朴な男のようにしか見えない。
「バルクも照れ屋さんじゃからの。なかなか口下手なだけで、本当は悪い奴ではないようじゃ」
ぼんやりと三人の方を見ているネルヴァは、パテマが頬を赤くしてくねくねと身を捩っていることに気付かない。
「アイツは、仲良くしたいと思ってるのか?」
「な、仲良く? それはまあ、妾も末長く仲良くするのはやぶさかではないというか……」
ネルヴァの下腹が疼く。
ファナやシエラと楽しげに話すあの男を見ていると、胸に鈍い痛みが走った。自分があそこにいるはずだったのに。どうして自分はここで寂しくシチューを冷ましているのか。あたしだって……。
◇
「ふん、ふんふーん♪」
夜の河原。せせらぎに混ざって、キャンプ地の方からシエラたちの楽しげな声が聞こえてくる。それを背後にバルクは食器を洗っていた。
ファナと一線を超えてしまったのは非常にまずい。彼女は神官であり、処女だったのだ。正気に戻った後、即座に土下座して謝り倒したのだが、彼女は寛大にもそれを許してくれた。
『そのかわり、他の人とはこんなことをしないでくださいね』
そう言われたが、元よりそんなつもりはない。これからはより一層、若い女性ばかりの冒険者パーティ〈極光の剣〉との立場をわきまえ、節度と距離を保って接するべきだと身を改めた。
そして、夕食の準備に参加できなかった贖罪も兼ねて、こうして一人で食器を洗っているのだ。
とはいえ元より一人で黙々と作業することは苦にならない。むしろ好きな性分だった。汚れを落とし、水気を切り、並べていく。そんな作業を続けていくと、着実に成果が積み上がる。それを見ると達成感がある。
「おっおっおー」
一人なら、下手な鼻歌を誰かに聞かれるということもない。シエラたちは食後の団欒を楽しんでいるようだし、そこに俺のような異分子が混ざるわけにもいかないだろう。
そう考えて、バルクが次の皿に手を伸ばしたその時。背後で河原の石を踏む音がする。冒険者としての癖もあり、咄嗟に身構えながら振り返る。
「うぉっ!? ね、ネルヴァか。びっくりしたじゃないか」
果たして、そこに居たのはネルヴァだった。
鍛えられた体躯を赤髪で飾る獣人族の槍使い。〈極光の剣〉の最年長で、リーダーであるシエラも全幅の信頼を寄せる姉貴分。いつも快活で、男勝りな彼女がそこに立っていた。
その姿を見てバルクは怪訝な顔をする。ネルヴァがいつもの溌剌とした空気をなくし、萎れたように耳を伏せ尻尾も垂らしているのだ。
「どうかしたのか? 気分が悪いなら、ファナに――」
「その名前を出さないでくれ」
おろおろと心配するバルクに、ネルヴァは乾いた声で言う。いつも仲の良いパーティにしては珍しい反応だった。困りきるバルクを彼女は潤んだ目で見る。
「お願いだから、今はあたしだけを見てくれ」
「わ、分かった。何があったんだ」
よく分からないが、喧嘩でもしたのだろうか。いくら仲が良いとはいえ、パーティとして生活を共にしていれば軋轢の一つや二つは生じるものだ。とはいえバルク自身はそういう人間関係の煩わしさが苦手で一人を選ぶような男である。あまり良い相談相手ではないだろうと自覚していた。
「――獣人は弱肉強食だ」
脈絡のない話が始まる。バルクはきょとんとする。しかしネルヴァは構わず続けた。
「男も女も関係ない。腕っぷしが強けりゃ、弱いやつを舎弟にできる。あたしはそうやって、生き残ってきた」
「そ、そうか。すごく強いもんな、ネルヴァは」
「ああ。一族の中に敵う奴はいなかった。だから外に出て、あの子の家に雇われた」
それは彼女の身の上話だった。己の体一つで成り上がってきた彼女の、実感のこもった回顧である。バルクも彼女がシエラと幼い頃からの付き合いであることしか知らない。詳しい話を聞くのはこれが初めてだった。
「ずっと、自分が一番だと思ってた。あたしの敵う奴はいないと……。でも違ったんだ」
ネルヴァがバルクを見る。ぎょっとして男は仰け反る。その隙を突くように、彼女は膝を折り、地面に手を突いた。その姿勢はバルクに既視感を抱かせる。
「頼む! あ、あたしを――あたしを抱いてくれ!」
「ちょっ、な、えっ!?」
突然何を言っているんだ。舌をもつれさせながらバルクが腕を振る。だがネルヴァは止まらない。
「お、お前みたいに強いオスを見るのは初めてだ。獣人の本能が、疼いてしかたないんだ。――パーティとか、立場とか、どうでもいい。お願いだから、あたしと思い切りセックスしてくれ」
「セッ!?」
恥も外聞もかなぐり捨てた、飾り立てない粗野な言葉。あまりにも直接的な言い方にバルクの方が戸惑う。
その間もネルヴァは深々と土下座をし、ゴロゴロと石の転がる河原に額を擦り付ける。
「む、胸だって十分大きいはずだ。ファナと比べて張りもある。な、膣中だってアイツのより締まってて気持ちよかっただろ? な?」
顔を上げた彼女の口から飛び出したのは、焦燥を含んだ拙い誘惑の言葉だった。自分の胸を手で押し上げ、精一杯魅力的に見せようとしている。これまで武の道に身を投じていた彼女の、できる限りの女の姿だった。
「多少乱暴にしてくれてもいい。む、むしろあたしを屈服させるような押し付けるようなセックスがいいんだ。もうこんなに濡れてて、一人で慰めても意味がないんだよ」
「うおおっ!? ネルヴァ、ちょっ、待て!」
突然立ち上がった彼女は、淫らに股間を曝け出す。布を全て脱ぎ取り、よく引き締まった大腿が露わになる。だが、何よりも三角の茂みがぐっしょりと濡れているその姿が、バルクの視線を引き寄せた。
「お、お願いだよぉ。あたしとセックス、セックスしてくれ! お、おっぱいも使っていいぞ! ファナだけズルいじゃないか!」
クネクネ、へこへこ。彼女は無意識にか腰を動かす。しなやかな腹筋を曲げて、普段の凛々しさもかなぐり捨てて。
「あんたのソレが忘れられないんだ。もう自分の指や磨いた木の枝なんかじゃ収まらないんだ。な、助けると思って。協力してくれよ。お願いだよぉ」
泣き落としすら駆使して、彼女は懇願する。あの快楽を、ファナを楽しませたあの雄の暴力を自分にも。下腹の疼きが止まらない。濡れそぼった女陰がひくひくと痙攣し、愛液が涎のように溢れ出す。
彼女はよたよたとバルクに迫り、彼の巨体に体を擦り付ける。その濃い男臭を嗅げば、少しは衝動も落ち着くかと思った。だが、余計に劣情を煽られるだけだった。
「お願いします! あたしを滅茶苦茶にしてくれ! た、ただのメスだってことを分からせてくれ!」
しがみつき、懇願する。仲間たちには見せられないような痴態。だが限界だったのだ。
そして――。
「う、ネルヴァ……ッ!」
男の理性もまた、限界を迎えていた。