しがない強面中堅冒険者、新進気鋭の美女パーティの全員に「私のことは好きにしていいから仲間だけは助けてください」と体を差し出された。 作:ユリイカ
シエラたちが片付けを粗方終わらせた頃、河原の方からバルクたちが戻ってきた。何やら話があると言っていたネルヴァも一緒である。随分と長い時間話し込んでいた上、バルクは心なしか疲れている様子だった。
「バルクさん、ありがとうございます」
「あ、ああ。じゃあこれも片付けておいてくれ」
小走りで駆け寄ってきたシエラに、バルクは綺麗に洗った食器を渡す。ニコニコと笑ってそれを受け取ったシエラだったが、ふと目を瞬かせる。
「どうした、シエラ?」
「いえ、その……。なんかネルヴァ、近くない?」
シエラはバルクの隣に立つネルヴァを見て首を傾げる。さっきまで警戒心をあらわにしていたはずの彼女の態度が、心なしか軟化しているように見える。それどころか、むしろバルクに対して親しくなっているような気さえする。
だがそれを指摘されたネルヴァは慌ててバルクから離れ、ぶんぶんと首を振る。
「そ、そんなわけないだろ」
「そうかなぁ。――まあ、二人の仲が良くなるぶんには大歓迎だけど」
シエラも、ネルヴァがバルクに不信感を抱いていたのは知っていた。河原での話し合いで、二人の距離が縮まったのなら彼女としても喜ばしいことだった。――実際のところは距離が縮まるどころかゼロ距離で重なっていたのだが、それを知る由はない。
「それじゃあネルヴァ、夜の鍛錬始めよっか」
シエラたちは夕食後にも軽く運動をすることを日課にしていた。指南役はネルヴァで、シエラだけでなくパテマやファナたち後衛組も一緒になって、基本的な体術などを学ぶのだ。近接格闘術が必要となるようなことは冒険者の活動の中ではあまりないが、彼女たちにはそれを続けるだけの理由があった。
「そ、そうだな。――護身術は大事だからな」
〈
そんなわけで、簡単な護身術を食後の運動ついでに行うのだ。
「じゃあ、俺は刃物の手入れでも……」
「待て!」
バルクがいそいそとその場を後にしようとすると、ネルヴァが声をかける。びくりと肩を跳ね上げて振り返る大男に、彼女はもじもじとしながら口を開いた。
「こういうのは、そう、悪漢役がいた方が実践的な訓練になるからな。今日からはバルクも参加してくれ」
「悪漢役……。まあ、適任かもな」
己の悪人面を自覚しているバルクは断る理由もなく引き込まれる。
「うーん。ネルヴァ、やっぱりずいぶん仲良くなったわね」
「うふふ。いいことじゃないですか」
まるで態度の違う姉貴分を見て、シエラは首を捻る。ファナは余裕のある笑みでそんな彼女を諌めるのだった。
「むぅ……。バルクはちっと雄々しいだけで、悪人というわけではないじゃろうに」
そんななか、パテマだけがバルクに当てられた役柄に少々の不満を抱いているようだった。
「それじゃあ、まずは手本を見せよう。今日は後ろから抱きつかれた時の対処法だ」
十分ほど前の乱れっぷりもなりを潜め、凛々しく真面目な武人の顔となったネルヴァが早速始める。バルクは彼女の隣で所在なさげに立っている。
これまでは基本的な動きを確認するようなものばかりだったが、バルクという人員を加えたことで、より実践的な状況を想定した訓練が始まるようだった。
「バルク、私を後ろから抱いてくれ」
「わ、分かった」
流石のバルクも、抱いてくれという要求がそのままの意味であることくらい理解している。とはいえ、先ほどの情事もしっかりと脳裏には残っており、緊張からぎこちない動きになってしまうのは仕方のないことだった。
「げへへぇっ! 姉ちゃん、いい体してんじゃねぇか!」
それでも、彼は精一杯役目を果たそうとする。別にやれと言われてもいないのにアドリブでそれっぽいセリフを吐きながら、勢いよくネルヴァの背中に飛びかかったのだ。悪人顔と立派な体躯、それに堂に入った低い声が合わさって、妙にリアリティのある動きとなった。
バルクの大腕が、ネルヴァの肩に回され、更に胸の前にまで向かう。胸板を背中に密着させるような深い抱擁だ。しかも、獣人族であるネルヴァの頭頂にある耳に、丁度バルクの口元が触れる。彼の吐息が、耳に吹き込まれる。
「あふっ♡」
「うぉっ!? ネルヴァ、大丈夫か!?」
妙に色っぽい声をあげ、ネルヴァが膝から崩れ落ちる。予想だにしない展開に、バルクだけでなく側で見ていたシエラたちも驚いた。
ネルヴァは腰が砕けたように座り込んだまま、涙目でバルクを睨みつける。
「ば、ばかやろっ。肩を掴むだけでいいんだよ!」
「え、あ、そうなのか。すまん……」
どうやら、ネルヴァの予想していた動きではなかったらしい。バルクはしゅんとする。
ネルヴァはネルヴァで、ドキドキと心臓が高速で拍動するのを抑えるのに必死だった。
なんだアイツ、早速こんなところであたしを誘惑するつもりなのか? 自分の雌になったことをシエラたちに見せつけようと? そ、それもやぶさかではないが、やはりまだ仲間には秘密にしておきたいし――。
などと考えていると、シエラの不思議そうな目と視線があった。
「んんっ! ちょ、ちょっと驚いただけだ。もう一回、仕切り直すぞ」
顔の熱を自覚しながら、いそいそと立ち上がる。思わずブンブンと振ってしまいそうになる尻尾の付け根に力を込めて自制する。
あたしがバルクと相思相愛の関係にあることは、他のメンバーにはバレてはいけないのだ。
そうネルヴァは決意を新たにする。あれだけ激しく交わって、最後には屈服させるような屈辱的な対位での膣内射精まで決められたのだ。バルクも当然の如く自分のことを想っているだろうと、彼女は全く疑っていなかった。
「バルク、もう一度だ」
「お、おう。――げひゃひゃぁっ!」
妙に迫力のある下品な声を上げながら、男が勢いよく迫ってくる。その気配だけでちょっと股間がじんわりしそうになるが、ネルヴァはぐっと堪えて意識を武人の方へと切り替える。
バルクの手が彼女のがっしりとした肩に置かれた。瞬間、彼女は身を翻し、男の腕を掴む。体全体を巻き込むように腕を絡みつけ、胸で抑える。ふにゅんっ、と彼女の体で唯一柔らかな果実が柔軟に形を変える。
「うおっ!?」
男が一瞬、体の動きを止める。その隙を突いて、ネルヴァは彼を地面に組み伏せた。
「せぇい!」
仰向けになった男の両肩を抑えてしまえば、もはや起き上がることさえできなくなる。あとは煮るなり焼くなり好きにして、悶絶しているうちに逃げてしまえばいい。
「おお、すごいなネルヴァ……」
あっという間に投げ倒されたバルクはと言えば、悔しげな顔はなく純粋にネルヴァの技量に関心していた。見学していたシエラたちもその見事な体捌きに圧巻の一言である。
「ふんっ。まあ、これだけ体格差があっても不意を突けばこれくらいはできる」
「全くだ。とはいえ――」
「うん? うぉっ!?」
もぞり、とバルクが動く。誇らしげに鼻を高くしていたネルヴァが気がついた時には視界がぐりりとひっくり返り、彼女はあっという間に地面に倒されていた。腹に強い圧迫感。見ればバルクがどっしりとまたがっている。その上で両腕が万歳の格好で地面に押し付けられ、無防備な体を晒すことを強制されてしまっている。
横で見ているシエラが手のひらで目を覆いつつも、その隙間からしっかりこちらを見ている。
「あ、あれ?」
一瞬のうちに立場が逆転している。圧倒的な優勢にあったはずのネルヴァが組み伏せられ、身動き一つ取れない。対するバルクは悠然と背を伸ばし、彼女の上にまたがっている。
「護身術がいくらあっても、力や体格は大きい差だ。不意を突いて倒したあとはすぐに離れないと、こうなる」
「あ、ぅ……」
よっこいせ、と立ち上がるバルク。ネルヴァは悔しさに唇を噛んだ。
「お前、体術もできるのか……」
「昔取った杵柄って奴だよ」
拗ねた顔で責めるネルヴァに、バルクは苦笑して頭を掻く。しかし、それがただの謙遜であることは誰の目にも明らかだった。ネルヴァの実力はシエラたちもよく知っているし、ただの男が彼女に敵うはずもない。それに、逆転した際のバルクの動きは、あまりにも滑らかで手慣れていた。
「くそっ、……こっちでも敵わないのかよ」
ぎゅっと拳を握りしめるネルヴァ。ただ、彼女は悔しげなことを言っているわりに――口元が少し緩み、目が喜びの色を浮かべ、内腿を擦り合わせていた。
「は、はい! 次は私が!」
ネルヴァのそんなささやかな変化は誰にも気づかれない。代わりに、シエラが勢いよく手をあげる。ネルヴァの次は自分が体術を実践したいと言うのだ。
「俺がまた襲うのか?」
「お願いします。やっぱり男の人にしてもらった方が、迫力がでるので」
「そうか……」
なぜかウキウキと楽しげな顔のシエラにはっきりと言われ、バルクは少ししょんぼりとする。とはいえ、これも悪人顔が役に立つ珍しい機会だ。存分に彼女たちには対処法を学んでもらおう。
「うおおおっ!」
「きゃぁっ!」
「えっ、おわっ!?」
腹を括り、シエラの華奢な肩に手を掛けたバルク。だが直後、シエラは予想外に身を怯ませる。二人はバランスを崩し、もつれ合うようにして倒れる。咄嗟にバルクは自分の体を下にして、シエラを受け止める。彼女の細い体を抱きしめ、繊細なガラス細工のようだと安易な感想を浮かべながら。
「大丈夫か?」
「派手に転んだのう」
大きな音を伴う転倒に、ネルヴァたちも驚いて駆け寄る。
「だ、大丈夫……」
そこで見たのは、がっちりと太い腕に抱きしめられ、耳まで真っ赤にして固まる、初心な少女の姿だった。彼女の頭はちょうど男の胸元に収まり、きゅっと肩を縮めている。
「とりあえず、怪我はなさそうですね」
神聖術の用意をしていたファナが安心したように言う。シエラは名残惜しそうな顔をしながらバルクの上から立ち上がり、コクコクと頷くのだった。