しがない強面中堅冒険者、新進気鋭の美女パーティの全員に「私のことは好きにしていいから仲間だけは助けてください」と体を差し出された。 作:ユリイカ
バルクが起き出してキャンプ地に現れると、すでにシエラたちは服装も整えて朝食の準備を始めていた。グツグツと沸き始める鍋に切った野菜を入れながら、ネルヴァがバルクを迎える。
「随分とよく寝てたみたいだな」
「おはよう、ネルヴァ。――ここのところ、なんか妙にぐっすり眠っちまうんだよなぁ」
気が緩んでいるのだろうか、とバルクは不可解な思いに首を傾げる。
「きっと疲れが溜まっているんですよ。ちゃんとスッキリ、できましたか?」
「ああ。それはもちろん」
何故か肌艶の良いシエラが、炙ったパンをバルクに渡す。パテマがフライパンでベーコンと卵を焼いてそこに載せた。
「今日もみっちり鍛錬するのじゃろ。いっぱい食べるのじゃ」
「おお、ありがとうな」
「むふっ。こ、この程度、別に普通じゃろっ」
くねくねと体を揺らすパテマ。バルクは特に気に留めず、早速パンに齧り付く。
「おはようございます、バルクさん」
「ん、ファナもおはよう」
――直前でファナに挨拶され、彼も律儀に返す。相変わらず彼女の服装は、際どいスリットの入った神官服の下から黒い肌着がちらりと見え、むっちりとした太ももが大胆にも露わになっている。バルクはふつふつと動き始めた股間を内股で抑え、食事に集中した。
「んふっ♡」
その様子を、ファナが妖しい笑みを浮かべて見ていることには気づかない。
「ほら、シチューもできたぞ。どんどん食べろ」
「うおっ!? ちょ、ちょっと多くないか?」
「一番デカいんだから、これくらい食べられるだろ」
そこへ、明らかに具沢山のシチューがずいと差し込まれる。ファナとバルクの間に割り込んできたのは、少し不機嫌そうになったネルヴァだった。
「珍しいですね。ネルヴァがバルクさんにお皿によそって渡すなんて」
「なっ。た、たまたまだよ!」
ファナの鋭い指摘にネルヴァはぴくんと耳を震わせながらも誤魔化す。そのまま押し付けるように肉が山積みになったシチューをバルクに渡し、鍋の元へと戻る。
「バルクさんも打ち解けてきたみたいで、嬉しいね」
「そ、そうじゃの。……ちっと距離が近すぎやせんか?」
「良いことじゃない」
そんな様子を、やはりシエラは無邪気に笑って見ているのだった。
「それで、今日は何するんだよ」
ネルヴァの問いに、バルクは匙を止めて思案する。
「そうだな……。そろそろ洞窟に入るか」
その一言で和気藹々としていたキャンプ地の空気が張り詰める。〈
トラガの森の真髄は鬱蒼と茂る地上部ではなく、その下に広がる複雑に入り組んだ洞窟群にある。彼女たちは勇み足でそこに挑み、そして苦い経験をしているのだ。あの時の自分たちがどれほど浅はかな行動だったのか、今であればよく分かる。
しかし鍛錬を積み、バルクも彼女たちが次の段階へ進めると判断した。
「洞窟は、一度入ったら数日はそこで過ごすことになる。野営道具は準備できてるな?」
「は、はいっ!」
天然の迷宮となっている地下洞窟を日帰りで探索することは難しい。よって、洞窟内で食事や睡眠も取りつつの行動となる。バルクの指示でシエラたちは前もって簡易の野営道具を揃えていた。
「綺麗な水が潤沢に使えるわけでもない。日の光を浴びない生活は案外心身に負担をかける。それに、これからは常に気を張っておかなければならない。覚悟はできているな?」
「もちろんだ」
洞窟探索の過酷さはこれまでとは比にならない。だが、ネルヴァもすでに腹を括っている。
昨日、男にその絶大な力を示され完膚無きまでに屈服させられたネルヴァは、もはや彼の実力を疑っていない。それどころか群れのボスを守るのは第一雌たる己の役目であると本能的に確信していた。
彼女は無意識に尻尾を振り、彼に熱のこもった視線を送っていた。
「足元も悪い。ネルヴァがそうだったように、誰でも足を滑らせる可能性がある。ファナもしっかりと準備をしておけ」
「お任せください」
これは鍛錬の一環ではあるが、命の危険も十分に考えられる。ファナもそのことは十分に理解しているし、油断もなかった。彼女の荷物には応急処置用の医療器具から薬品まで、一通りのものが揃っている。更に彼女はトラガの森に自生する薬草も集めていた。
全ては神官としての務めを果たすためである。仲間が怪我をしても適切に処置し、その心身を万全に整える。もちろん、バルクも緊張を強いられる環境下で鬱憤が溜まるだろう。それを解消するのも自分の役目だと、ファナは信じていた。
それに洞窟の中での性処理は、否応なくシエラたちから見つかりやすくなる。見つかるつもりはないが、そのスリルが彼女の心を炙るように刺激した。
「そしてパテマ。洞窟では特にお前が重要になる」
「う、うむ。分かっておる」
狭い洞窟内では、ネルヴァの槍やシエラの剣も動きが制限されてしまう。そこで活きるのが柔軟性の高い魔法戦闘だった。前衛二人が卓越した技術を持つように、パテマもまた年齢を考えれば信じ難いほどの魔力量とそれに見合うだけの技量を持つ。まさしく天才と言って相応しいだけの実力があるのだ。
更に言えばパテマは小柄な小人族である。閉所においては、この面白みのない体も有利に働くのだ。
そんな洞窟戦の切り札と言うべき魔法使いも、愛する男に真正面から念を押されては重圧を抱く。だがそれ以上に彼から厚い信頼を寄せられていることに喜びも感じていた。やはり自分と彼は深い愛で繋がっているのだと確認する。
「シエラもよろしく頼むぞ。洞窟内ではより連携が重要になってくる」
「はい、頑張ります!」
結局のところ、重要なのはパーティの結束。そしてリーダーの手腕である。〈極光の剣〉の殿となっているのはネルヴァかもしれないが、核となるのは間違いなくシエラなのだ。
日頃からパーティは彼女の声を起点に動くことを洗練させてきた。シエラが落ち着いて的確に指揮を執れば、パーティは四人の力を合算した以上の力を発揮できる。
将来の恋人、そしてゆくゆくは伴侶となる男に、シエラは強く誓う。自分はあなたの隣に立つに相応しいだけの実力を持っているのだと。
「よし、みんな気合いは十分みたいだな」
四者四様の心境を全く知らないまま、バルクはうんうんと頷く。
群れのリーダーとして、性欲を持て余す男として、愛しあう恋人として、将来を約束した未来の伴侶として――そんな自覚はさらさらないまま。
「洞窟探索となれば、俺もしっかりしないとな。何かあったら遠慮せずすぐに言うんだ。鍛錬であっても試験じゃない。俺もしっかりサポートするつもりだから、何でも気軽に相談してくれ」
「な、何でも……」
「サポート……」
「遠慮せず……」
「相談……」
空になった食器を片付けながら、バルクは軽い調子で安易に言う。彼なりに四人の緊張をほぐすような計らいもあった。
致命的だったのは、ごくりと生唾を飲み込み喉を鳴らす彼女たちに気付かなかったことだけである。