しがない強面中堅冒険者、新進気鋭の美女パーティの全員に「私のことは好きにしていいから仲間だけは助けてください」と体を差し出された。 作:ユリイカ
目を覚ましたバルクは一瞬奇妙な感覚に襲われた。感覚のなかの時間に大きなずれがあるような気がするのだ。しかし周囲は暗い洞窟で時間を知る術がない。しかも体が妙に重たく、全く疲れが取れていない。それどころか眠る前よりもよほど疲れているような気さえしてくる。
体を起こそうと力を込めれば、全身がバキバキと悲鳴を上げた。
「う、ぐぉお……」
「バルクさん! おはようございます」
うめき声を上げながらどうにか上体を起こすと、遮光布が開いてシエラが現れた。一糸纏わぬ姿――ではなく普通に服を着て、動きやすいように髪も纏めたいつもの姿だ。
にこやかな笑みを浮かべて声をかけてくる少女を見て、バルクは混乱する。フラッシュバックする光景、白い柔肌に玉のような汗を浮かべて嬌声を上げる少女の姿は、俺が見た夢なのだろうか――。
「ゆっくり休んでくださいね。昨日は、た、大変激しかったわけですし……」
「うぐぅ」
ぽっと頬を赤らめて俯くシエラで、バルクは記憶が本物であることを確信する。そして同時に、愕然とする。
「お、俺はなんてことを……!」
教官としてあるまじき失態である。危険地帯であると自ら言っておきながら、重要な見張り番すらできず、欲に流されて若い少女たちと交わるなど。失格である。教官どころか、冒険者として活動する資格もない。
かくなる上は命をもって償わなければ。
「シエラ、探索は中止だ。洞窟から出てすぐに町に帰ろう」
「きょ、挙式ですか!?」
「挙式……? 俺は今日を持って冒険者を引退するんだ。責任を取る」
「せ、責任って。うひゅっ」
真剣な顔のバルクに対し、シエラはなぜか嬉しそうに頬を押さえてくねくねと身を揺らす。
「大丈夫ですよ、バルクさん。バルクさんのことは私がしっかり養いますから!」
「養う……?」
拳に力を込めて宣言するシエラを見てバルクは首を傾げる。なんだか、自分の想定していない方向に話が進んでいるような気がする。こういう時はちゃんと話し合わないと誤解のもとだ。
「俺はシエラたちに取り返しが付かないことをしてしまったんだ。もはや教官という立場にはいられない」
「ええ、ええ。分かってます。私たちの関係はもう後戻りできるものではなくなりましたもんね」
唇を噛み締めて切実に語るバルク。シエラは聖母のような微笑みを浮かべて頷く。
「私たちも、起きてから話し合ったんです」
バルクが過労死もしくは腹上死寸前まで迫り、泥のような惰眠を貪っていたころ。シエラたち〈
ちょくちょくバリケードを越えようとしてくる魔獣を撃退しながら、バルクとの今後の関係について論を尽くした。
「バルクさん。――バルクさんが良ければ、これからも私たちと一緒に居てくれませんか?」
シエラが放った言葉にバルクは愕然とした。
あれほど極悪非道な行為をしたというのに、彼女たちは限りない慈愛の心で許そうとしてくれているのだ。なんという博愛の精神か。やはり彼女たちは自分には到底釣り合わないほどの高潔さの持ち主なのだ。
「私たちはバルクさんにたくさんの事を教えられました。今まで知らなかったことを沢山。ネルヴァは新しい自分に気付きました。ファナは新たな境地に達しました。パテマも、一人では受け止めきれないことを仲間と共になら乗り越えられると」
シエラとパテマがバルクにキノコを食わせて第二ラウンドを始めた時、ネルヴァは遮光布の隙間からそれを見ながら自慰に熱中していた。自分の雄であるはずの男が別の女、それも自分と親しい仲間たちに取られているというシチュエーションが、彼女の胸を掻き立てるのだ。脳が壊れそうになるほど苦しいが、それを見ながら達する絶頂は全身が痺れるほど癖になる。
ファナは神官の務めという建前を崩され、自ら求めることを知った。そして、それこそが生物として素直なことなのだと。
パテマは一人では到底バルクの精力を受け止めきれないと体で思い知った。
だからこそ、四人は結託することにしたのだ。
そもそも冒険者としての活動は辞めたくないし、四人のうち誰かが欠けることも避けたい。だったら四人全員で彼を迎えればいいのではないか。そんな結論を出した。
「このことに気付けたのも、全部バルクさんのおかげなんです」
「そんな、俺は何も……。シエラたち自身の力だろう」
「いいえ。バルクさんが私たちの体の奥深くに刻みつけてくれたことです」
「そ、そうか……?」
まあ、シエラがそういうならそうなんだろう。
バルクは一抹の違和感を抱きながらもなんとか納得する。
「これから、ペインサーペントを倒しに行きたいと思ってるんです。――それを見て、私たちのことを見てから、決めてください」
ペインサーペントの討伐。それは駆け出し冒険者から中堅冒険者へと認められるための登竜門だ。シエラたち〈極光の剣〉はそれを目指してここまでやってきた。
「そうだな。ここで、放り出すのも無責任だろう」
バルクは自分勝手な己を恥じる。彼女たちはあんな凄惨なことがあったというのに、それを乗り越えようとしている。浅ましくも手を出した男に、自分たちはこれほどの力を持っているのだと示そうとしている。
ならば、それを見届ける責任があるだろう。
「シエラ、話は終わったか?」
「バルクさんの体調はどうですか?」
「ごはん作ったんじゃが、食べられるかのう」
話がひと段落したところで、三人がタイミングよく入ってくる。まるで覗いて聞き耳を立てていたかのようだ。パテマは豪勢に肉がゴロゴロと入ったシチューの器を抱えていた。
「この肉……」
「バルクが寝てる間に襲ってきた魔獣の肉だよ。筋はあったが、じっくり煮込んだから柔らかいぞ」
しっかり食べろよ、とネルヴァが尻尾を振る。バルクはパテマから器を受け取り、感謝を込めて食べ始めた。疲れ切り、全ての栄養を枯渇させていた体に染み渡る。滋養たっぷりのシチューだ。だが。
「うぐっ」
「どうした? 何か苦手なものでも入っておったか?」
「いやその、キノコが……」
シチューにキノコが入っていた。
「別に今まで苦手だったわけじゃないんだが。なんでだろうな」
「な、なんでじゃろうなぁ」
首を傾げるバルクに、パテマも乾いた声で続く。
不思議なこともあるものだと眉を寄せながら、キノコも食べる。いつもと同じ味で、特に変わったことはない。
「ありがとう、みんな。――俺も覚悟を決めたよ。責任を持って最後まで四人のことを見届けよう」
「っ!」
空になった器を手にしたまま、バルクは〈極光の剣〉の四人を見渡す。それが自分なりの贖罪であり責任であると理解したのだ。ここで探索を中止して町に戻ることもできるが、それはあまりにも自分勝手なことだと思い知った。
シエラたちもそれを聞いて目を見開く。
「そうですか。私たちのことを最後まで……」
「永久就職ということですね」
「責任……!」
「ぬふっ。やはり妾の見込んだ男じゃのう」
あれ、なんか意味が違ってきているような気がする。そんな疑問をバルクが抱く前に、シエラたちは動き出す。
「そうと決まれば、とっととやる事片付けて町に戻らないと!」
「これから忙しくなるだろうからな!」
「うん? あれ?」
急にやる気を漲らせるシエラたち。バルクは一人だけ置いて行かれたような気持ちになる。だが少女たちは止まらない。装備を整え、武器を携え、荷物を背負い、あっという間にキャンプも撤収してしまう。
「さあ、行きますよバルクさん! 私たちの輝かしい未来へ!」
「あれ?」