しがない強面中堅冒険者、新進気鋭の美女パーティの全員に「私のことは好きにしていいから仲間だけは助けてください」と体を差し出された。 作:ユリイカ
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「ケイブバットの群れだ」
「灯を消して静かに」
初日は乱戦となり苦労したケイブバットも難なくやり過ごし、体力の消費を抑える。
彼女たちは明らかに実力をつけていた。
「バルクさんが眠っている間に、改めて四人で役割を確認したんです。私たちは今まで、連携も感覚に任せていましたが、お互いの得手不得手を具体的にすると、無駄がなくなりました」
洞窟を奥へ奥へと進みながら、シエラは得意げに語る。バルクは自分が惰眠を貪っている間に少女たちが成長していることに感激していた。やはり自分は、本当はいらなかったのではないか。そんなことさえ思ってしまう。
「ほら、バルクさんとその、せ、セックス……するときと同じですよ」
「ぶふぉおっ!?」
突拍子もない話の展開にバルクは思わず吹き出す。周囲を警戒していたネルヴァが驚いて耳を立てるのを見て慌てて謝る。シエラの方を見てみれば、自分で言ったくせに耳まで真っ赤にしていた。
「な、何を言ってるんだ……」
「私たち四人とも全然体の大きさとか好きな姿勢とかが、違うじゃないですか。でも、それぞれに得意なやり方でバルクさんを喜ばせることができるので。えへへ」
口元を緩める新進気鋭の少女冒険者。純粋無垢だった彼女の変わりようにバルクは頭を抱える。
「勘違いしないでくださいね。正妻は私なので」
「正妻って……。また大袈裟な」
「はい?」
「え?」
また随分とスケールの大きなことを言い出す、と乾いた笑いを漏らすバルク。しかし返ってきたのはきょとんとした顔。何やら様子がおかしいことにバルクが気付きかけたその時。
「バルク、ちょっと来てくれ!」
ネルヴァが何かを見つけたようだった。バルクが気を引き締めて駆けつけると、彼女は地面にしゃがみ込んでランタンの光を掲げている。指先で滑らかな砂の堆積した地面を指し示す。
「この跡って……」
「よく見つけたな。ペインサーペントだ」
砂の上に描かれた曲線。太い筒状のものが蛇行した跡だ。その特徴的な足跡を刻むのは、この洞窟においては一種しか存在しない。
「それほど時間も経ってない。これなら、辿っていけば追いつけるだろ」
バルクは何も言わない。ネルヴァの言葉に間違いがないことの証左だ。
ネルヴァが立ち上がると他三人も唇を引き締めて頷いた。いよいよこの冒険の最大の難関がやってくる。準備を改めて確認し、ペインサーペントの情報を共有する。
これまでとは打って変わって真剣な表情で話し合う四人を見ながら、バルクは安堵していた。彼女たちはもう洞窟を舐めていない。どんな危険があるのか熟知した上で、冷静に対処することができている。
「いくよ、みんな」
シエラの号令でパーティは歩き出す。向かう先は洞窟の最奥、ペンサーペントの巣だ。
トラガの森の地下洞窟で頂点に君臨する毒蛇。そのサイズはバルクを丸呑みできるほどで、鋭い牙から強烈な毒液を滴らせる。その毒を浴びると皮膚が爛れ、激しい痛みに襲われることからその名前が付いた。
「ファナ、毒消しは持ってるな」
「はい。多めに用意していますし、水も集めています」
洞窟の奥で毒を浴びると、その苦痛は長引く。対処する手段を持っていなければ、数日かけて洞窟を脱出するまでどうしようもなくなるからだ。頼みの綱となるのは神官の神聖術と医術だけである。もちろん、それに頼らなくても良いのなら、それが最善ではあるが。
「――っ!」
先頭を歩くネルヴァが腕をあげる。進軍停止の合図を受けて、後ろの三人が立ち止まって息を潜める。声を発しないということは隠密が求められる状況にあるということだ。
彼女は事前に定めたサインを繰り出し状況を伝える。それによれば、この先の通路に魔獣の死体の山があるという。ペインサーペントの巣だ。
「……」
「……」
ネルヴァがシエラに視線を送り、シエラも頷く。彼女は荷物の中から小さな球状のものを取り出し、巣に向かって投げ込む。
それが地面に落ちると同時に弾け、周囲に白い粉塵を撒き散らす。
「パテマ!」
「――“灼熱の炎槍よ、我が敵を貫き、その肉を焼け。癒えることなき傷と、忘れることなき苦痛を刻め”!」
繰り出される
ドォオオオオオンッ!
耳をつんざく轟音と鮮烈な爆炎。洞窟を揺るがす衝撃。灼熱が岩肌を舐める。
即座に魔法の風が送りこまれ、煙幕が晴れる。そこにいたのは全身を黒く焦げ付かせた大蛇だった。
「鱗は削れた! いくぞ!」
ネルヴァが一気呵成に飛び出す。
ペインサーペントの脅威は毒牙だけではない。その身を守る分厚い鱗が天然の鎧となり、並の刃物は通さないのだ。だからこそ、最初にシエラが粉を詰めた袋を投げ、そこにパテマが着火することで爆発を引き起こし、蛇を丸焼きにした。これはバルクが教えた対処法だった。
ちなみにバルクが単独で討伐するときは粉袋を投げ、松明を投げ込む。
「シャアアアアアッ!」
食事中に炎に包まれたペインサーペントは当然の如く怒り狂っている。焼けつく肉を露出させながら獰猛に吠え、爛々と輝く赤い瞳でネルヴァたちを睨みつける。
「せぁあああっ!」
疾風迅雷。ネルヴァの槍は鋭さを増していた。脳を破壊されるような苦しみを乗り越えた彼女の刺突は熾烈である。その鋭い穂先がペインサーペントの目を狙う。だが相手も毒牙を尖らせ噛み付かんと襲いかかる。
その時。
「はぁああああああああああっ!」
風の如く疾駆する少女。金髪をたなびかせ、瞬く間に肉薄する。彼女の剣が、鱗の剥がれ落ちた柔らかな肉に深々と刺さる。
「ジュアアアアアッ!?」
神経を直接ぶつ切りにされる猛烈な痛みにペインサーペントが仰け反り悶える。だが、苦痛はそれだけでは終わらない。
シエラは深々と剣を突き刺したまま、その刃を蛇体に沿わせて動かした。ゴリゴリと剣先が背骨を撫でる。大蛇が生きながらにして三枚におろされようとしていた。
堪らず大蛇は標的をシエラに向ける。長く滑らかに曲がる体は、制約なくシエラへと頭を向けることができた。しかし。
「妾のことも忘れるでない! “揺らぎ、捩れ、捻り落とせ。風は万物を貫き通す不可視の槍なり。その苦痛で風穴を穿て”!」
立ち上がった太い体に穴が開く。パテマの杖の先端から勢いよく放たれた風の槍が喰らい千切ったのだ。赤黒い血が飛沫をあげ、シエラを汚す。彼女は恐れることなく剣を進める。
それでもペインサーペントの生命力は強靭だった。体の半分が裂かれてなお闘志を失っていない。
「おとなしく、倒れやがれ!」
ネルヴァが吠える。その槍の切先が蛇の喉を穿つ。擦れるような絶叫をあげる大蛇の心臓へ、シエラの剣が達する。
「はあああっ!」
拍動を続ける分厚い筋肉の塊に、鋭利な鉄が突き刺さる。溢れ出す鮮血が周囲に飛び散り、シエラの白い肌を更に汚す。そして――。
「シャ、ァ、ア……」
ゆっくりと大蛇が倒れる。バルクを遥かに超える重量の巨体が地に落ちれば、小さな地震のような揺れが周囲に伝わった。
「はぁ、はぁ」
「なんとか、倒せたか……」
肩で息をしながらシエラは剣を引き抜く。ネルヴァもまた槍に付いた血を拭い、大きく息を吐き出す。やがて彼女たちが現実を認識し、押し寄せる歓喜の波に身を委ねようとしたその時。
「油断するな!」
バルクの激しい声。シエラが目を見開き、事切れたペインサーペントを見る。
周囲には食い散らかした大量の魔獣の死体。あまりにも多い。それにこのペインサーペントは腹が大きい。彼女たちが辿ってきた痕跡よりも遥かに。これはまさか――。
「っ! これは!?」
シエラが剣を引き抜き、腹を割く。内臓と共にこぼれ出てきたのは白い卵。このペインサーペントは雌で、孕っていた。ならば――。
「ジュアアアアアッ!」
「きゃああっ!?」
ファナの悲鳴。暗がりの中から飛び出してきた巨影。
「まずい、
ネルヴァが驚きの声をあげる。
現れたのは、倒したものよりも一回り大きく筋肉質なペインサーペント。それが今しがた倒したばかりの雌の相方であることは明白だった。愛する者を失った者がどうするのか、それは全ての種族に共通の帰結をとる。
牙を剥き、敵意を露わにするペインサーペント。その毒牙が呆然と立ち尽くすシエラに迫る。ネルヴァも間に合わない。
「シエラァアアア!」
巨体が彼女を突き飛ばす。揺れる視界のなか、シエラは目を見開く。大斧を携えて飛び込んできたバルクが、彼女を力任せに押し出した。そして、自分と立場を入れ替えた彼に巨大な蛇の牙が迫る。
「バッ――!?」
バルクが、喰われる。