しがない強面中堅冒険者、新進気鋭の美女パーティの全員に「私のことは好きにしていいから仲間だけは助けてください」と体を差し出された。 作:ユリイカ
三日三晩眠り続けたのち、ようやく目を覚ましたバルク。彼は涙ぐむシエラたちによって迎えられた。意識が覚醒したとはいえまだ体が完全に回復したわけではない。ファナの判断により、しばらくは洞窟内で養生に徹することとなった。
「バルクさん、あーん♡」
「いや、シエラ。だからもう自分で食べられるんだが……」
「ダメですよ。怪我人は安静にしていてください」
「もがっ!?」
強引に口の中にスプーンが突っ込まれ、言葉を封じられる。なんとか上体を起こせる程度にはなったバルクだが、なぜかいまだに食事はシエラたちが交代で手伝っていた。腕は動くと主張しても、全くもって相手にされない。
「私は口移しでもいいんですよ。これまでずっとそうしてきましたし」
「勘弁してくれ」
手に持った器には煮溶かしたパン粥がある。シエラはそれを残念そうに見て言った。バルクに咀嚼する力が戻ったのは嬉しいことだが、合法的に(?)彼とキスができる理由を失ったのは悲しいことである。
知らないうちに何度も唇を奪われていたバルクとしては、彼女たちの献身的な看護には感謝しつつも、もうちょっと良い方法があったのではないかと首を捻ってしまうのだが。
「それよりバルク。やっぱり、そっちの目は……」
ネルヴァがシエラの肩越しに覗き込む。彼女は悲しそうに耳を伏せながら、遠慮がちに尋ねた。
バルクは口の中のものを飲み込み、そっと右目に触れた。ペインサーペントの毒液と消化液に侵された右目は白濁し、焦点も合っていない。バルク自身も視界が半分になってしまったことを自覚していた。
「見えないな。まあ、これくらいで済んで良かった」
そう言って彼はわざとらしく笑う。
右目の喪失はそう簡単に笑い飛ばせるものではないはずだ。特に単独での活動を主としている彼にとっては。最悪、冒険者稼業の引退を余儀なくされるほどの大怪我である。
「ファナの神聖術で治らぬのか?」
「中途半端に癒えてしまった目は治せません。神聖術はあくまで体力を消耗して治癒を早めるものですから」
一縷の望みを懸けるパテマにファナは無念そうに首を振る。女神の奇跡といえど、人の祈りを介する神聖術は万能ではない。
「あんまり気にするな。俺は死ぬところだったのを助けてもらったんだからな。感謝こそすれ、責めるわけがない。むしろ何かお礼をしたいくらいなんだ」
「お、お礼……?」
「おう。命の恩人だからな。俺にできることなら何でも」
「な、何でも……!?」
軽い調子で言い放つバルクの様子とは裏腹に、四人の間で緊張が走る。
この三日間、日の光も入らない洞窟で看護をし続けてきた。たびたび襲いかかってくる魔獣を撃退しながらの看護だ。しかも患者は雄々しくてドエロい肉体を曝け出し、更に薬の副作用もあって禍々しいほどに勃起していた。それを間近で見せつけられながら、流石に患者には手を出せないと堪えてきたのだ。
でも、バルクさんもう結構回復してるって自分で言ってたよね。
そんな思いが四人の間で共有される。ちらりと盗み見たバルクは上体を起こし、美味しそうにパン粥を食べている。筋肉が多少衰えているかもしれないが、それでも分厚く頑強な肉体は健在だ。
「……」
ごくり。四人が同時に生唾を飲み込む。
彼女たちはまさに、極上の肉を間近に置かれながら見えない壁で阻まれ続けていた犬のようだった。目の前にニンジンが吊るされながら、いくら走ってもそれに届かないロバのようだった。
端的にいえば、四人揃って欲求不満だった。
「こ、こほんっ。バルクさんの看護で全面的に貢献したのはやはり私ですよね」
別に他意はないですけど、まあ順当にいけば私が一番最初ですよね。そんな雰囲気を出しながらファナが口を開く。実際、彼女がいなければバルクはまず死んでいた。彼女の適切な処置が命運を分けたのは確実だ。
だが彼女はむっちりとした太ももをモゾモゾと擦り合わせ、厚い神官服越しにも分かるほど、乳首を膨らませていた。今更真面目な神職ぶったところで、すでに彼女の本性は仲間たちも知るところである。何を要求するかなど火を見るよりも明らかだ。
「妾が偶然持ち合わせておったキノコがなければ、バルクもここまで回復せんかったじゃろ」
要求を口にしようとしたファナを阻んだのはパテマである。彼女が偶然、たまたま持ち合わせていたキノコ、カブトワリタケがバルクの生命力を増強したのだ。全身の肌を溶かされながらも一命を取り留め、三日後にはこれほどまでに回復したのは、明らかにキノコのちょっとヤバい薬効のおかげであった。
しかしパテマの頬は赤く染まり、口元がだらしなく開いている。怜悧な表情はどこかへ消え、その頭の中で何が妄想されているのか。
「まあ待て。バルクをここまで運んだのも、魔獣から守ったのも私だぞ。肉体労働的には一番の貢献をしたと言ってもいいだろ」
異を唱えたのはネルヴァである。一晩で肋骨数本の粉砕骨折を治した彼女は、その後も武力担当としてバルクを守り続けた。地下洞窟は本来、無数の魔獣が昼夜を問わず襲いかかってくる魔境である。初日の見張りがいなくても何とかなった夜が異常なだけだ。
更にネルヴァはバルクの体を定期的に動かし、褥瘡にならないように気を遣っていた。これも非力なファナやパテマにはできない仕事であった。
とはいえ彼女の尻尾は落ち着きなく左右に揺れて、耳もパタパタと動いている。年長者の意地をかけて表情こそ取り繕っているが、尻尾と耳が何よりも露骨に彼女の内心を表していた。
「みんな、何を言ってるんですか。片時も離れずにお世話をしたのは私ですよね」
そこへ手を挙げるシエラ。
彼女の言葉は一切過言ではなかった。この三日間、彼女は一瞬たりともバルクから離れていない。――いや、過言ではあった。30分に1回くらいの頻度でお花を摘みには行っていた。しかし、献身的に看護をしていたという意味では、彼女は天使のように慈愛を持って甲斐甲斐しく行っていた。
「それにバルクさんに負担をかける訳にもいきませんし、ここは穏便にリーダーとして私が代表して……」
「こんな時だけリーダーの特権みたいに持ち出さないでくださいよ。やはり修道院で修行をした私が――」
「お前がやってたのはエロ知識の収集だろうが。それこそバルクが死ぬまで搾り取るだろ」
「ええい、寝取られ趣味は黙るのじゃ! ここは恋人である妾にじゃな――」
男が軽い気持ちで投げた火種が、充満していたガスに火をつけた。少し離れたところで頭を突き合わせて議論を始める〈極光の剣〉の少女たち。それを見たバルクは首を傾げる。
「いやまあ、なんだ。四人とも世話になったし、別に誰か一人にって訳じゃないんだが」
その不用意な言葉が、少女たちの耳に飛び込む。ぴくりと肩が揺れ、ゆっくりと四つの顔がバルクの方を見る。
「四人揃って……」
「バルクも逞しいのう♡」
「じ、自分で楽しみながら、自分以外も楽しんでる様を見せつけられる……?」
「そんな、バルクさんは私の……なのに」
目の色を変える。とはこのことか。四人の瞳に怪しい光が宿ったのを見て、バルクは本能的な恐怖を覚える。何というべきか。自分が簀巻きにされたまま、三日三晩食事を抜いて飢えた獣たちの前に差し出されてしまったかのような。
「あ、あれ。どうしたんだ? なんか表情が怖いぞ?」
「安心してください、バルクさん。ちゃんと優しくしますから」
「はぁ、はぁ♡ バルクは寝転んでおるだけで良いからの♡」
「ごくり……。あ、あたしは最後でもいいからな♡」
「み、みんなに奪われるくらいなら、私も!」
にじり寄る四人。バルクはまだ身動きがとれるほど体力は回復しきっていない。ここは深い洞窟の奥。邪魔するものは――いない。