しがない強面中堅冒険者、新進気鋭の美女パーティの全員に「私のことは好きにしていいから仲間だけは助けてください」と体を差し出された。 作:ユリイカ
バルクは途方に暮れていた。
「なんだったんだ、いったい」
女性ばかりの若いパーティ〈
テントの中には甘い香りに混ざって、男臭い精液の臭いと少しの少女の残り香が漂っている。
バルクはまだ理解の追いつかないまま、これまでのことを思い出す。
◇
事の発端は、彼がトリタンの冒険者ギルドに併設された酒場で飲んでいた時のことだ。万年中堅と揶揄される彼ではあるが、一端の冒険者らしく町の外へ出ない時も情報収集も兼ねて酒場で過ごしている。決して出かけるのが億劫だったわけではない。
「ですから、皆さんはまだ実績もありませんので。ペインサーペントに挑むのは無謀かと……」
顔馴染みの受付嬢の困りきった声が、彼の興味を引いた。カウンターに目を向けてみると、そこには一目で新人と分かる真新しい装備に身を包んだ少女と、彼女に従う三人の若い女性たちの一団がいた。その姿にはバルクも見覚えはあった。伊達に日がな一日酒場で管を巻いているわけではないのだ。
〈
だが、彼女たちの実力よりも熱を帯びて語られるのは、四人が四人とも目の覚めるような美女であるという点だった。特にリーダーのシエラはどこか高貴な家の出身という話もあり、淑やかな所作も相まって粗暴な男たちの心を鷲掴みにしていた。
しかし彼女たちに気安く声を掛けようにも軽くあしらわれ、逆に手を出そうものならあっという間に酒場から叩き出される。そんなこんなで、早くも一目置かれる存在となっていたのだ。
「でも私たちならなんとかなると思うのです。森での歩き方も慣れていますし」
「前衛二人に魔法使い、神官もいるんだ。そう心配しなくてもいいだろ」
酒場はカウンターのすぐ隣にある。耳をそば立てなくとも、彼女たちの会話は聞こえてきた。〈極光の剣〉が揉めているとあって、周囲の酔いどれたちも声を抑えていた。
どうやら彼女たちがトラガの森のペインサーペントを倒しに行きたいらしい。ということはすぐに分かった。ロックボアが初心者の壁なら、ペインサーペントは中堅の壁だ。これを前にして足踏みしている冒険者も多いなか、快進撃を見せている〈極光の剣〉はストレートに勝利を得たい様子だった。
しかし、ペインサーペントが中堅の壁と呼ばれるのにも相応の理由がある。それ自体の強さもさることながら、最大の障壁は環境だ。トラガの森はトリタンから馬でも三日という人里離れた僻地にある。広大で湿気のこもった土地であり、足元は常にぬかるんでいる。更に、ペインサーペントは森ではなく、その地下に広がる入り組んだ大洞窟に生息しているのだ。
例え剣の才能があったとしても、強い魔法が使えたとしても、この森の歩き方、戦い方を知らなければどうにもならない。そして、それを習得することは冒険者として欠かすことのできない素質だった。
故にギルドはペインサーペントに挑む冒険者を冷静に見定め、その力量が挑戦に足り得るかを判断する。せめて何度か森に足を運び、調査と慣熟を重ねなければ、まず受注の許可すら降りないのが通例なのだ。例え新進気鋭のパーティであっても、むしろ将来が嘱望されているからこそ、その認可は慎重になる。
だが、そんなギルド側の判断をシエラたちは適切なものと理解しなかった。
「ですから、トラガの森は大変危険ですので……」
「行って帰って六日も掛かるような場所なんだ。そう何度も依頼をこなしても意味ないだろう」
気の強い性格なのか、特に獣人族のネルヴァの意志が硬い。
ギルドとしても、基本理念として自由を掲げている。彼らが依頼の受注を認めないというのもあくまで奨励といった段階であり、強制力はないのだ。しかし――。
「あっ、バルクさん!」
受付嬢と目が合ってしまった。
バルクがサッと視線をずらすも、時すでに遅し。カウンターから飛び出してきた受付嬢は、デスクワークとは思えないほどの腕力で強引に彼を引き摺り込んだ。
「トラガの森のペインサーペント討伐依頼を受注するのであれば、バルクさんの同行が条件です」
「お、おい!」
とんでもないことを言い出した受付嬢にぎょっとして顔を向けると、メガネの奥からじろりと睨まれた。「いいから黙ってろ」というサインである。体格に似合わず小心者で、顔面にそぐわず押しに弱いバルクは、きゅっと肩を縮めることしかできなかった。
「え? それは、どうして……」
当然、〈極光の剣〉の面々は戸惑う。さっきまで視界にすら入っていなかった大男が突然割り入ってきたのだ。そらみろとバルクが受付嬢を睨むも、彼女は涼しい顔で微笑んでいる。
「バルクさんは経験豊富な冒険者で、トラガの森にも何度も足を運んでいます。初めて森に入るのでしたら、せめて彼の指南を受けてください」
「はっ!? ちょ、俺は――むぐっ」
なんてことを言い出すんだ。とバルクは今度こそ目を見張る。
彼は万年中堅と揶揄されるしがない冒険者である。そこそこいい年齢にも関わらず、いわゆる一流の壁を突破できないまま、こうして昼間から酒場で入り浸っている男だ。そんな男が、今をときめく少女たちに何を教えろというのか。
そもそも俺は人と話すのが苦手で単独行動をしているのだ。そう言いかけたバルクの鳩尾に拳が叩き込まれた。受付嬢にあるまじき暴挙であった。
「バルクさんは実績も実力も確かなんですから、黙っててください。酒場のツケ倍にしますよ」
「あんまりだろ!」
「これも後進育成のためです。ギルドから特別に手当も出しますから」
「ぐぅ……!」
少女たちに背を向けて、高速で囁かれる言葉の数々。脅しと甘言の使いこなしが巧みすぎて逆に怖い。
気がつけば、バルクは〈極光の剣〉の教官という立場を押し付けられ、彼女たちと共にトラガの森の手前にあるキャンプ地に立っていた。
「しかたない、か」
押しに弱いバルクだが、根は真面目である。外見こそ子供が泣いて失禁するような熊顔だが、性格も穏やかである。そして何より、初心者がトラガの森に無策で挑むことの危険性もよく知っていた。
「お前ら、森に入る前にこれだけは守れ」
緊張で表情を固くしながら、バルクはシエラたちに約束事を守らせる。ひとつ、トラガでの戦い方はバルクが教える。ふたつ、最低でも三日間は洞窟に入らない。みっつ、バルクの言葉には従う。
新人というのは呆気なく死ぬ。だからこその約束だった。
そして、彼女たちは一日でそれを破った。
禁じられた洞窟へと踏み入り、案の定複雑な構造で迷い、更には仲間の一人が足を挫いて動けなくなってしまったのだ。バルクが助けに行かなければ、そのまま餓死もあり得ていた。
命のかかった重大な違反だ。ゆえにバルクも真剣に怒った。シエラたちも死ぬ寸前まで行って、トラガの森の恐ろしさが身に沁みたはずだった。だから、彼もそこで一旦は区切りをつけることにしたのだ。
「おい、ネルヴァ。後で俺のテントに来い」
「っ!」
そう声を掛けたのは、彼女が洞窟で足を挫いていたからだ。ただの捻挫ならまだしも、骨が折れていたら事だ。今後の活動にも関わってくる。幸い、バルクには多少、応急処置程度の心得はあった。そのため、様子を見ようと思ったのだ。
だが……。
「私のことは如何様にもお使いください。ですが――ですが、仲間だけは。仲間だけは何卒お許しを!」
なぜかテントにやって来たのはネルヴァではなく、リーダーのシエラだった。怯えた顔で、今にも泣きそうになりながら。それでいて、瞳に決意の光を宿して。
緊張させまいと焚いていた香も、施術のために敷いていた毛布も使わなかった。なぜか開幕土下座をかましてきたシエラが、そのまま服を脱ぎ始めたのだ。彼女もどこか怪我をしていたのかと思ったら、なぜかバルクのズボンまで脱がされた。
彼も中年に差し掛かっているとはいえ男である。若い少女たちと行動を共にしていると、欲を出す暇もない。加えて慣れない香を焚いたのも不味かった。妙な雰囲気になってしまって、僅かに理性の戒めが緩んでしまったのだ。
気がつけばシエラが必死になって己の男根にしゃぶりついており、慣れない快楽が襲ってきた。その勢いのまま射精し、彼女の顔面を汚してしまった。
慌てて水などを渡した気もするが、動転していてあまり覚えていない。気がつけば、痕跡だけが残るテントの中で呆然としていた。
◇
「――なんだったんだ。本当に」
記憶を一から巡らせても、結局理解はできなかった。
隙間風が吹き込んで、下半身の寒さを思い出す。バルクはいそいそとズボンを引き上げ、香を含んだ空気を外に掃き出した。
「……今日はもう、寝るか」
シエラたちを救出にいって、ネルヴァを背負って戻ってきて、更には突然の口淫である。一日に詰め込んでいい量の出来事ではない。もはや頭も上手く回らず、バルクは現実逃避を選んだ。
お嬢様ってこわい。
そんな的外れな感想を胸に抱きながら。彼はのそのそと冬眠に入る熊のようにテントに潜り込み、さほど時間もかけず深い眠りに落ちていった。ちょうど同じ時、離れたところにあるテントで、件のお嬢様が悶々とした気持ちを持て余し――。
「シエラ……。すまない、あたしが責任を……ッ!」
彼女の気配で目を覚ました獣人族の女が、ひとり悔恨に拳を握りしめていることも知らずに。