※この作品はR-18です。

しがない強面中堅冒険者、新進気鋭の美女パーティの全員に「私のことは好きにしていいから仲間だけは助けてください」と体を差し出された。   作:ユリイカ

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第8話「妄想癖の神官」

 ファナは神官である。全ての母とも呼ばれる光の女神を奉り、彼女に祈りを捧げることでその加護を得る。そのため、彼女は幼い頃から人里離れた山奥にある修道院で、同じく祈りの道を邁進せんとする少女たちと修行の日々を送っていた。

 シエラと出会ったのは、彼女が成人の儀式を終え、修道院を出て町の教会を訪れた時のことだった。世俗から離れていたため、右も左も分からないまま途方に暮れていた彼女を、シエラが助けてくれたのだ。

 以来、ファナはことあるごとにシエラと時間を共にした。やがて彼女がネルヴァによって剣の才能を見出され、冒険者を志すと聞いた時、ファナは半ば当然の如く自分も着いていくことを決めていた。

 

「“慈愛の光よ、かの者の苦痛を和らげ、身を蝕む毒を消し去れ”」

「ありがとう、ファナ。楽になったわ」

 

 ファナが祈りを込めて手をかざすと、シエラのふくらはぎの腫れが急速に引いていく。神官の祈りは女神の恩恵を与え、傷や病気、毒を祓うのだ。それ故に神官がパーティの命運を分けることも多々あり、ファナほどの神聖術の使い手ともなれば引くて数多だった。

 

「マッドリーチは無理に剥ぎ取ろうとすると肉が抉れる上に、毒もある。しかし、こうしてすぐに治せると後遺症も心配しなくていい」

 

 ブーツを履き直すシエラを見て、バルクが感心したように腕を組んで頷く。

 午後の訓練を始めた一行は、やがて巨大でグロテスクな蛭型の魔獣であるマッドリーチの群生地へと踏み入った。バルクの助言のもと、虫除けの成分がある薬草を使って対策は取っていたのだが、それも完璧ではなかったのだ。

 シエラのふくらはぎに人の頭ほどの大きさがある蛭が噛みつき、一時は場が騒然となった。しかしそこはバルクが冷静に刺激のある植物の汁を使うことで蛭を払い、毒の残る噛み跡にはファナが神聖術で対処した。

 

「やっぱり、神官がいると心強いな」

「あ、ありがとうございます……」

 

 熊のような風貌のバルクに見つめられると、ファナは強い圧迫感を覚える。幼少期からほとんど男性という存在と触れてこなかった彼女は、異性との接し方が未だ分からないでいるのだ。

 しかも、彼女は望んでもいないのに、胸が淫らに大きく育ってしまった。それは男を否応なく欲情させ、その視線を集めてしまう。無遠慮に情欲の目を向けられれば、苦手意識を植え付けられても仕方のないことだった。

 ましてや、この男は先ほどネルヴァと共に――。

 

「うん? どうした?」

「な、なんでもありません!」

 

 ぼーっと呆けていたファナをバルクが覗き込む。至近距離に迫った髭もじゃの顔に、ファナは驚いて飛び退いた。

 

「よし、ファナ。今夜は楽しみにしてろよ」

 

 バルクはファナを見たまま、ニヤリと笑みを深める。足元から震えそうな恐怖が、彼女を襲う。

 いったい今夜、何をされるのだろうか。

 バルクは皆の目の前ということもあってか、深くは語らない。代わりに意味深調な視線を残し、再び歩き出す。

 

「うぅぅ。男はみんな獣……男はみんな獣……」

 

 修道院時代、院長が口酸っぱく言っていた。男はいくら見た目が良かろうと、どれほど優しくしてこようと、一皮剥けば薄汚い野獣のような本性が隠れている、と。実際、この男もそうだった。ネルヴァを激しく突き上げ、痛々しいほどに攻め立てていた。

 こうして親切そうな顔をしているが、その凶悪な顔面が本性を物語っている。

 ネルヴァが毒牙に掛かってしまったのは悲しいが、せめてシエラだけでも守らなければ。

 

「シエラ、気をつけてね!」

「え? う、うん。虫除けも塗り直したから、しばらくは大丈夫だと思うよ」

 

 ぎゅっと拳を握って釘を刺すファナに、シエラは首を傾げながらも頷く。確かに神聖術があれば蛭も怖くないとはいえ、好き好んで噛まれたいわけではない。それに、いちいちこんなことで神聖術を使わせ、パーティの進行を中断させるのも申し訳なかった。

 

「こっちだ。気をつけて歩くんだぞ」

 

 先頭に立ち、バルクが声を上げる。

 シエラは無邪気な顔で頷き、再び木々の生い茂る道なき道を掻き分け始めた。やはり、昨日までと比べてバルクとの距離が近いような気がする。彼女は優しく、人を疑うということを知らない。だから、彼にも油断してしまっているのだろう。

 

「ダメだよ、シエラ……!」

 

 ファナは軽快に歩みを進めるリーダーを見つめ、唇を噛んだ。

 あの男は野獣なのだ。ネルヴァを襲ったということは、きっとおっぱいが好きなのだろう。シエラだって慎ましいとはいえ、しっかりと膨らみはある。いつ食い散らかされてもおかしくはない。

 

「はっ!」

 

 そこまで考え、ファナは愕然とする。

 あの男はおっぱいが好き。そして、〈極光の剣〉で一番の巨乳は、他ならぬ自分である。濃紺色で厚手の神官服の下から強く主張する胸は、彼女の悩みの種だ。こちらにサイズを合わせれば四肢が余り、四肢に合わせれば胸が窮屈で息苦しくなる。この神官服も、わざわざ手縫いしたものなのだ。それでも、巨乳を隠せるものではなく、むしろシルエットを強く主張している。

 あの男も、この胸は幾度となく見ているはずだ。密かに舌なめずりして、機会を窺っているに違いない。もし隙を見せれば、その瞬間に襲われ、犯されるのだ。

 先ほどの「楽しみにしていろ」という言葉。それはつまり、そういうことだったのか。

 

「どうした、ファナ?」

「な、なんでもないよ」

 

 鬱々と考えを巡らせていると、同じ後衛組のパテマが怪訝な顔で覗き込んでくる。ファナは慌ててぶんぶんと頭を振って誤魔化す。

 ネルヴァには相談できない。彼女はもはやあの男に籠絡されてしまっている。

 

「性奴隷……。たしか、そういうやつだ!」

 

 修道院時代、同室の子が枕の下に世俗の書物を隠していた。そこに描かれていたのは、生々しい性描写だ。男が貴族令嬢を誘拐し、檻に閉じ込め、飼い慣らす。そして、己の所有物としていたぶるのだ。

 ファナは皆が寝静まった後、密かにそれを盗み出し、わずかな蝋燭の火の下で読んでいた。思えばあれが、男の本性が恐ろしいものであると教えてくれた人生の教科書――バイブルだった。

 

「ねえ、パテマ」

「なんじゃ?」

「……バルクさんって、手錠とか足枷とか、持ってないよね」

「何を言っとるんじゃ? さすがにあの男も、そんなものは持っておらぬじゃろ」

 

 ドキドキと鼓動を速めながら勇気を出して尋ねるも、パテマはからからと笑う。そんな仲間の様子に、ファナも自分の考えが少し行きすぎていたことを自覚する。それはそうだ。流石にあの野獣のような男でも、そんな物々しいものを持っているはずがない。

 もしそんなものがあれば、それこそ彼が黒である決定的な証拠となる。あの巨漢は教官役として〈極光の剣〉に近づき、自分たちの体を虎視眈々と狙う下賤な野郎ということになってしまう。

 

「よし、この辺だな。ちょっと待っててくれ」

 

 不意に前を歩いていたバルクが四人を留める。シエラたちが不思議そうに首を傾げるなか、彼はひとり近くの茂みへと分け入って行った。そして――。

 

「よしよし、一つは掛かってたな」

「ひぃぃっ!?」

 

 その手に頑丈な革のベルトと鋼鉄の枷を持って現れた。拘束具である。まごう事なき、人の動きを封じ、嬲るための凶悪な道具である。確定だった。やはりあの男は下劣な野郎だったのだ。

 それを認めた瞬間、ファナは悲鳴を上げる。視界が暗くなり、平衡感覚を失う。くらりと天地が傾くのを感じながら、薄れゆく意識の中でパテマたちの焦った声を聞く。

 

「ファナ!? おい、しっかりしろ!」

「す、すまん。夜食にどうかと思って罠を仕掛けておいたんだが……」

 

 ふらりと気を失ったファナは、ぬかるみに落ちる前にネルヴァが抱き止める。そんな彼女を申し訳なさそうに見下ろしながら、バルクは小柄な沼イノシシを手に下げていた。

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