※この作品はR-18です。

魔女と淫魔とキノコの森   作:丸山ノリオ

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第一話 キノコの森の魔女

 

 風すら通わぬ深い森の奥、茸と苔の香りに包まれた胞子の森の一角。色とりどりのキノコが生えるその土地に、小さな石の家がひっそりと佇んでいる。ここに住んでいるのが、かつて王国を騒がせた魔法使い……そして今は、ただのキノコ研究家として暮らす少女だった。

 

 

 

 「よし……こいつは“夜鳴き茸”。鳴き声を採取するのは今夜だね……ふふっ」

 

 

 

 少女――レイナは小さな瓶に紫色のキノコを入れ、微笑んだ。栗色の髪に、いたずらっぽい瞳。けれどその表情の奥には、数百年を生きた古木のような落ち着きがある。

 

 

 

 彼女は、過去に危険な魔法を開発し、大金を稼いだ挙げ句、王国に目をつけられ、面倒になって国外追放――という経歴を持つ。

 

 

 

 「まあ……金も使い果たしたし、のんびり暮らすにはこの森くらいがちょうどいいよね」

 

 

 

 そんな彼女が、今日もいつものようにキノコ採取をしていたときのことだった。

 

 

 

 ――くんくん。

 

 

 

 「……ん?」

 

 

 

 苔の下から立ち上る土の匂いに混じって、どこか鉄っぽい香りが鼻をかすめた。湿った空気の中に漂う、微かに甘く、妙に生々しい気配。レイナは視線を巡らせ、そして――それを見つけた。

 

 

 

 「……人?」

 

 

 

 草むらの中で、仰向けに倒れている若い女性。蒼白な肌に、少しぼろついた黒の服。手足はすらりと長く、艶やかな漆黒の髪が地面に広がっていた。こんな森の中に、しかも人が……?

 

 

 

 レイナは警戒しつつも近づき、その身体に手を当てる。息はある。けれど、意識はなかった。

 

 

 

 「ま、いいか。研究室のソファ空いてるし……回復魔法、っと」

 

 

 

 軽く指を鳴らすと、女性の身体に柔らかな光が走る。目覚める気配はまだなかったが、外傷はなさそうだった。レイナはため息をつき、女性の肩に手を回して持ち上げる。

 

 

 

 「……はあ、あんた軽いわね。まあ、助かったけどさ」

 

 

 

 少女はそのまま、女性を抱えて家へ戻っていった。

 

 

 

     *

 

 

 

 ――それから数時間後。

 

 

 

 レイナは研究室の机に向かい、採取したキノコの胞子観察に夢中になっていた。

 

 

 

 顕微鏡の向こうに見える胞子の網目模様。美しい。そしてそれが何の毒性を持ち、どう加工すれば魔力と反応するか――その仮説をメモに書き記していたそのときだった。

 

 

 

 「――ひゃっ!?」

 

 

 

 突然、背後からふに、と柔らかい感触が背中に走った。反射的に立ち上がり、振り向こうとしたその瞬間――左右から白い腕が伸びてきたかと思えば、レイナの胸に収まった。

 

 

 

 「え……っ!? ちょっ……!?」

 

 

 

 驚きに目を見開いたレイナ。

 

 胸を乱暴な仕草で揉まれている。身を捩って逃れようとするも、熟練した技術で拘束されている。

 

 パニックに陥っていたレイナだったが、急に半回転させられた事で、状況を理解されるに至った。

 

 目の前には妖艶な表情を浮かべた美女の顔があり、その唇が迫っていた。

 

 唇が重なり――そこで事態の深刻さに気が付いた。何かが、吸われている。自分の中に流れていた魔力が、唇を伝って引き抜かれていくような、奇妙な感覚。

 

 

 

「――ッ!!」

 

 

 

 バンッ!!

 

 

 

 怒りと共に放たれた衝撃波が、研究室の壁にヒビを入れながら女性を吹き飛ばす。女性は床に叩きつけられ、呻きながらも身を起こした。

 

 

 

 「……いたたた……なによ……いきなり吹き飛ばすなんて」

 

 

 

 レイナは肩で息をしながら睨みつける。

 

 

 

 「起きたらいきなり胸揉んでキスして魔力吸うって……どこの変態よアンタ!」

 

 

 

 「ふん、あんたが“溢れてる”からでしょ? あたしのせいじゃないわ。おいしそうにダダ漏れだったのよ、仕方ないじゃない」

 

 

 

 女性はむっとした顔で立ち上がる。確かにどこか人間離れした雰囲気がある。瞳は妖艶に輝き、背中からは今は畳まれた小さな黒い羽。レイナはため息をつく。

 

 

 

 「……貴方、淫魔ね」

 

 

 

「ふふふ。正解。どうかしら? 貴方、私のペットにならない? とっても気持ち良い毎日を約束してあげるわよ」

 

 

 

 レイナは眉を顰めた。

 

 しかし、すぐに笑顔を浮かべる。その様子に淫魔は怪訝な表情を浮かべた。

 

 

 

「それ、いいわね。採用」

 

 

 

「え?」

 

 

 

 驚愕したのは淫魔だった。

 

 まさか自分の提案が受け入れられるとは思っていなかったのだ。勿論、中にはそういう趣味の人間がいる事もあるが、彼女には目の前の魔女がそういう人間には思えなかった。

 

 

 

 困惑する様子の淫魔を見て、レイナは満足そうな表情を浮かべると一つ頷いて、

 

 

 

「じゃあ“あなた”は今日から私のペットね! いや、ペットは外聞が悪いから……そうね、使い魔にしてあげるわ。丁度、キノコ研究の助手が欲しいと思っていた所だったのよ」

 

 

 

 と言い放った。

 

 唖然としていた淫魔だったが、話の内容を理解すると顔を真っ赤にする。

 

 

 

「誰が人間なんかの使い魔になるか!」

 

 

 

 声を荒げる淫魔に、レイナはニヤリと不敵に笑う。すると、部屋中に魔力が満ち始めた。

 

 

 

「う、うそ……」

 

 

 

 それは圧倒的な魔力だった。

 

 思わず身体を縮める淫魔に対して、レイナは上下関係を分からせる様に、高圧的に告げるのだった。

 

 

 

「さぁ、使い魔契約をしましょうか」

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