「――ひゃっ!?」
突然、背後からふに、と柔らかい感触が背中に走った。反射的に立ち上がり、振り向こうとしたその瞬間――左右から白い腕が伸びてきたかと思えば、レイナの胸に収まった。
「え……っ!? ちょっ……!?」
驚きに目を見開いたレイナ。
胸を乱暴な仕草で揉まれている。身を捩って逃れようとするも、熟練した技術で拘束されている。
パニックに陥っていたレイナだったが、急に半回転させられた事で、状況を理解されるに至った。
目の前には妖艶な表情を浮かべた美女の顔があり、その唇が迫っていた。
唇が重なり――そこで事態の深刻さに気が付いた。何かが、吸われている。自分の中に流れていた魔力が、唇を伝って引き抜かれていくような、奇妙な感覚。
「……こ、この!」
怒りの感情に任せるように叫ぶ。
それから魔力を叩きつけようと試みるが、相手の方が一手早かった。
息を吐き出したレイナの隙に、美女のどろりとした唾液が流し込まれる。
「……!?」
彼女の唾液の味を認識した瞬間、強烈な衝動に理性が押し流された。気付いた時にはレイナは自分から舌を絡ませ、唾液を求めていた。
脳内では警鐘が激しく鳴っていた。
目の前にいる美女の正体は一つしかない。淫魔――サキュバスに違いなかった。
だとすれば体液を摂取するのは危険。淫魔の体液には媚薬効果があるという知識が脳裏を掠める。
「ぢゅるるるる♡ んは♡ ぢゅるるれろれろ♡」
焦燥感は募る。
だけど、もはや手遅れに違いなかった。気付けば、レイナは自分から淫魔の首に腕を回して、強引に唾液を強請っていた。
「ぷは♡ んぢゅるる♡ ぢゅるるぁあ♡」
完全に堕落したレイナの様子を見て、淫魔は目を細めて嗤った。
それから、淫魔はレイナから魔力を奪い、代わりにレイナは淫魔から唾液を貰う。
彼女達の淫らな等価交換は――日が暮れるまで続いていた。
◇
獣の声が聞こえて、意識が引き戻される。脳に霧がかかったように、意識がぼんやりとしていた。
「おっ♡ おっおっおぉ♡ んあぁぁああ♡」
再び獣の様な叫びが聞こえ、どこから聞こえたのかを考えて……レイナは唖然とした。
今、発されたのは獣の声ではない。間違いなく自分の口から発せられた音だったのだ。
それから股間走る甘い刺激を覚えて、何があったかを思い出した。
「っ♡ あぁ! 淫魔め……」
「あ、気がついた? よかった♡ 心配したんだよ、吸いすぎて壊れちゃったかなって♡」
「あぁぁぁぁ♡」
淫魔は椅子に腰掛けて、レイナの実験室を、まるで我が家であるかのように寛いでいた。
その態度に怒りが湧き上がるが、快楽の波が押し寄せてきてそれどころでは無かった。
事態は非常に深刻だ。
レイナは裸に剥かれており、革製だと思われる手錠で後ろ手に固定されていた。首元にも何かを装着しているようだ。ゴワゴワとした感覚から、同じく革製の首輪が嵌められているのだろうと推測出来た。
下半身は触手生物に跨ぐように座る形で固定されており、秘所に絶えず刺激が与えられていた。
そして何より……レイナ自慢の魔力が、体から欠片も感じられなかった。
「ああぁぁ♡ そ、そんな……」
レイナは絶望の声を漏らす。
それを見た、淫魔は嬉しそうに微笑むと、椅子から立ち上がってレイナの傍に近寄った。
それから膝立ちになって、レイナと視線を合わせる。両手でレイナの乳房を優しく弄びながら、彼女の耳元で誘惑するように囁いた。
「あなた……素敵よ。こんなに美味しい魔力は初めてだったわ。
身体もとっても魅力的だし、媚薬漬けにしても正気でいられる精神力も素晴らしいと思うわ」
淫魔はうっとりとした表情で賛美する。まるで心の底から尊敬している様な丁寧で優しい言葉だった。
「だから……私と契約しましょう。私は貴方をペットとして一生大切にすると約束するわ」
淫魔の指に魔力が集約していく。
「ヒッ……」
レイナは思わず恐怖の声を漏らす。
淫魔の使おうとしている術は、契約の魔術だ。お互いに定めた約束事を強制的に履行させる為の魔術。
もし一方的な不平等な約束事でも、この術を使用して契約したならば、守らざるを得なくなってしまう。
「い、嫌だ……!」
レイナは思わず叫んでいた。
そんなレイナの様子を見て、淫魔は嬉しそうに……そして少しだけ寂しそうに微笑んだ。
「……そう。だったら、契約したくなるようにしてあげるわ」