ONE PIECE - 淫色の航路(ハーレム・ルート) - 作:heatmajin
ゴーイングメリー号の航海は、奇妙な安定期に入っていた。
俺のハーレムという「家族」の形は、あの夜の狂乱の儀式を経て、完全に完成した。
女たちは、それぞれの役割を理解し、俺という唯一絶対の王の下で、歪ながらも、調和の取れた日常を送っている。
特に、あの生意気だった二匹の猫──ナミとノジコの変化は、見ていて飽きなかった。
彼女たちの口からは、まだ時折、反抗的な言葉が飛び出す。
だが、それはもはや、飼い主の気を引くための、じゃれつきのようなものに過ぎない。
「エロス!ちょっとこっち来て、見てよ!次の海流、かなり複雑なんだけど!」
航海士として、すっかり船に馴染んだナミが、俺を呼びつける。その呼び捨ての口調とは裏腹に、その瞳には、俺の知識を頼りにする、確かな信頼の色が浮かんでいる。
俺が、海図を覗き込みながら、その肩に手を置いても、彼女はもう、昔のように大げさに身体を跳ねさせたりはしない。ただ、ぴくりと肩を震わせ、その頬を、ほんのりと赤く染めるだけだ。
その様子を、甲板でみかんの木の世話をしていたノジコが、少しだけ、羨ましそうな、そして悔しそうな顔で見ている。
俺が、彼女の元へ歩み寄り、その尻に触れてやると、彼女は「⋯バカ」と小さく呟くだけで、もう本気で抵抗しようとはしない。
その身体は、俺の愛撫を、素直に受け入れることを、覚えてしまったのだ。
マキノとカヤの「偽りの姉妹」は、もはや本物の姉妹以上に睦まじく、共に俺の世話を焼き、
アルビダは、俺の剣として、そして奴隷として、その忠誠心を、日に日に深くしている。
ああ、実に、快適な船旅だ。
だが同時に、少しだけ退屈でもあった。
そろそろ、新しい「玩具」が欲しい。この完成されたハーレムに、新たな波乱と、新たな音色を加えてくれる、新鮮な獲物が。
そんな俺の渇望を、運命が聞き届けたかのように。
ゴーイングメリー号の行く手に、ついに巨大な島影が見えてきた。
東の海(イーストブルー)の終着点。そして、偉大なる航路(グランドライン)への入り口。
「⋯ローグタウン。『始まりと終わりの町』よ」
ナミが、少し複雑な表情で呟いた。
俺は、その活気に満ちた町を眺めながら、不敵に笑みを浮かべた。
船が港に着くと、俺は、甲板にクルー全員を集めて告げた。
「これより、自由時間とする。ナミ、ノジコ、お前たちは久しぶりの町だろう、好きに買い物でもしてこい。マキノとカヤは、船の備品の買い出しを頼む。金は、ここにある」
俺は、金の入った袋を、ナミへと放り投げる。
「え⋯いいの?」
「ああ。ただし、日が暮れるまでには、必ず船に戻れ。俺を、待たせるなよ?」
その言葉には、有無を言わせぬ圧がこもっている。
女たちは、一瞬、顔を見合わせた後、それぞれに頷いた。彼女たちに与えられた、ささやかな自由。それすらも、俺という支配者の許可があってこそ成り立つ、檻の中の散歩に過ぎないことを、彼女たちは、もう理解している。
「アルビダ、お前は俺と来い」
「御意に、エロス様」
俺は、女たちが町へと散っていくのを、満足げに見送った。
そして、俺自身もまた、真の目的を果たすために、町へと足を踏み出す。
俺の視線の先には、既に次なる獲物の姿が、はっきりと見えていた。
正義という、青臭い鎧をまとった、初心な女剣士。
あの鎧を、俺の手で、一枚ずつ、丁寧に、剥がしてやるのが、今から楽しみで仕方なかった。
◇
俺は、アルビダを伴い、ローグタウンの喧騒の中を歩いていた。
この町は、海賊王ゴールド・ロジャーが生まれ、そして処刑された場所。そのせいか、他のどの町とも違う、独特の熱気と殺気が渦巻いている。
俺は、前世の記憶と、この町の空気から、目当ての獲物がどこに現れるかを、正確に予測していた。
向かうは、少し治安の悪い東地区の酒場だ。
案の定、俺たちがその酒場に足を踏み入れた瞬間、下品な視線が、一斉にアルビダへと突き刺さった。
「おぉ⋯?なんだ、あのイイ女⋯」
「見たことねぇ顔だな。どこの船の海賊だ?」
地元のチンピラたちが、値踏みするように、こちらを見ている。
俺は、あえて彼らの近くの席に座り、酒を注文した。
「よぉ、姐ちゃん。一人かい?俺たちと、もっと楽しいことしねぇか?」
すぐに、数人の男たちが、アルビダを取り囲む。
アルビダは、その美しい眉をひそめ、冷たい視線で男たちを一瞥した。
「⋯失せな、下衆ども。エロス様がお寛ぎの時間だ」
「あぁ?エロスだぁ?なんだそりゃ、そのヒョロっちい男のことか?」
チンピラの一人が、俺を指差して、下品に笑う。
その瞬間、アルビダの瞳に殺気が宿った。
だが俺は、その肩を手でそっと制した。
「待て、アルビダ。こいつらは、俺が『遊んで』やる」
「⋯御意に」
俺は、ゆっくりと立ち上がると、チンピラたちの前に立つ。
「おい、お前ら。今、俺の女に、何と言った?」
「ああん?聞こえなかったのかよ、ヒョロ助!その女を、俺たちに寄こせって言ってんだよ!」
その言葉を待っていた。
俺は、笑みを浮かべたまま、男の顔面に肘を叩き込む。
ゴッ、という鈍い音と共に、男は鼻の骨を砕かれ、床に沈んだ。
しかし、俺は、それで終わりにはしない。
倒れた男の腕を掴むと、まるで枝でも折るかのように、逆の方向へと捻じ曲げた。
「ぎゃあああああああっ!」
男の絶叫が、酒場に響き渡る。
他のチンピラたちが、恐怖と怒りで、一斉に武器を抜いて襲いかかってきた。
俺は、その攻撃を、まるで舞うように、ひらり、ひらりと躱していく。そして、すれ違いざまに、一人、また一人と、関節を的確に砕き、急所を打って、戦闘不能にしていく。
その姿は、自分の身を守るための正当防衛ではない。
明らかに、相手に最大限の苦痛を与え、その悲鳴を聞くことを、「愉しんでいる」サディストのそれだった。
そして、その光景を、酒場の入り口で、一人の女が、愕然とした表情で見ていた。
花柄のシャツに、ジーンズ。赤いフレームの眼鏡。まだあどけなさの残る女剣士。
たしぎだ。
彼女の、真っ直ぐな瞳が、俺の「悪」を、確かに捉えた。
「そこまでです!」
凛とした声が、響き渡る。
彼女は、俺と、床に転がるチンピラたちの間に、割って入った。
その目には、チンピラへの憐れみと、俺への明確な敵意と嫌悪の色が浮かんでいる。
「理由はどうあれ、その行き過ぎた暴力、見過ごせません!海軍の名において、あなたを拘束します!」
俺は、その正義感に満ちた顔を見つめ、心の底から、愉悦の笑みを浮かべた。
(⋯かかったな、純粋なヒロイン)
「正義のヒロインのお出ましか。面白い。だが、お前のそのなまくらで、俺が斬れるとでも?」
俺は、床に転がっていたチンピラの一人が持っていた、安物の無銘の剣を拾い上げると、ゆっくりと、彼女に向かって構えた。
舞台の幕は、上がったのだ。
俺の挑発に、たしぎの眉が、きりりと吊り上がった。
「その言葉、後悔させてやります!」
彼女は、その腰に差した名刀「時雨」を抜き放つと、迷いのない、一直線の突きを繰り出してきた。
真面目で、実直な、彼女の性格そのものを表すかのような、美しい剣筋。
だが、俺にとっては、あまりにも読みやすい。
俺は、拾ったばかりの無銘の剣で、その切っ先を、軽くいなす。
キンッ!
甲高い金属音が、酒場に響き渡った。
その瞬間、俺は仕掛けた。
剣と剣がぶつかり合った、その衝撃を通して、ごく微量の「興奮ホルモン」と「快楽ホルモン」を、彼女の身体へと送り込む。
「⋯っ!」
たしぎの身体が、ほんの僅かに、硬直した。
彼女は、自分の身体に起きた微細な変化に、まだ気づいていない。
「どうした?その程度か?」
俺は、さらに彼女を挑発し、打ち合いを続ける。
たしぎは、プライドを刺激され、何度も、何度も、斬りかかってくる。
「だまりなさい!」
「遅い!」
「くっ⋯!」
キンッ!カンッ!キンッ!
刃がぶつかり合うたびに、俺は、執拗に、繰り返し、ホルモンを送り込み続けた。
徐々に、彼女の脳は、この異常な方程式を学習し始めていく。
「俺との剣戟」=「心地よい興奮」
やがて、たしぎ自身も、その変化に気づき始めた。
(な⋯なぜ⋯?)
この男と打ち合っていると、身体の奥が、熱くなる。
心臓の鼓動が、ただの戦闘時のそれとは違う、期待に満ちた音を立てている。
もっと、打ち合いたい。
もっと、この男の剣を、自分の剣で、受け止めたい。
そんな、剣士としてあるまじき、倒錯した衝動が、彼女の心に芽生え始めていた。
「はぁ⋯はぁ⋯!」
彼女の呼吸は、戦闘の疲労だけでなく、奇妙な興奮によって、乱れていた。その頬は上気し、瞳は潤んでいる。
その姿は、もはや正義を執行する海軍ではなく、一人の男に夢中になる、ただの「女」の顔だった。
俺は、彼女の心が、十分に俺の色に染まり始めたのを確認した。
そろそろ潮時だ。
その時、まるで俺の筋書きを知っていたかのように、酒場の入り口から、野太い声と大量の煙が流れ込んできた。
「たしぎッ!何をもたついている!そいつが、東の海(イーストブルー)で暴れているという、例の男か!」
“白猟のスモーカー”の登場だ。
俺は、その煙が、俺たちを完全に包み込む直前に、たしぎから大きく距離を取った。
そして、その蕩けたような瞳を見つめ、別れの言葉を告げる。
「今日のワルツは、ここまでだ、お嬢さん。続きは、偉大なる航路(グランドライン)でな」
「あっ⋯待ちなさい!」
たしぎが、何かを叫ぶ。
だがその声は、スモーカーが放った煙に掻き消された。
俺は、その煙を、まるで存在しないかのようにすり抜け、アルビダと共に、その場から悠々と姿を消す。
「逃したか⋯!」
スモーカーの、悔しげな声が、背後で聞こえた。
◇
後に残されたのは、静まり返った酒場と、呆然と立ち尽くす、たしぎだけだった。
彼女の身体には、あの戦闘中の、異常なまでの高揚感と、微かな快感の記憶だけが、まるで烙印のように、強く、強く、刻み込まれている。
自分の身体に何が起きたのか、彼女には、まだ理解できない。
しかし、その心の奥底で、一つの、抗いがたい感情が、確かに芽生えていた。
(もう一度⋯)
もう一度、あの男と、剣を交えたい。
その、自覚してはいけない倒錯した渇望が、彼女の正義を、内側から、静かに、しかし確実に、蝕み始めていくのだった。
◇
夕暮れ時、俺は、アルビダと共に、ゴーイングメリー号へと戻った。
船の甲板には、買い出しを終えた女たちが、既に全員揃っていた。
ナミとノジコは、両手に大きな買い物袋を抱え、満足げな、しかしどこか疲れたような顔をしている。久しぶりの自由を、それなりに満喫したのだろう。
マキノとカヤは、船の食料庫に、手に入れた食材を運び込んでいた。
俺の姿を認めると、女たちは、それぞれのやり方で、俺の帰還を迎えた。
マキノは「おかえりなさい、エロス君」と、優しく微笑み、
カヤは「お怪我はありませんか?」と、心配そうに駆け寄ってくる。
アルビダは、俺の後ろで、控えるように直立し、
そして、ナミとノジコは、「⋯おかえり」と、少しだけぶっきらぼうに、しかし確かに、そう言った。
「ああ、ただいま。出航の準備はできているか?」
「ええ、いつでもいけるわ。食料も、水も、十分よ」
ナミが、航海士として、的確に答える。
俺は頷くと、船首へと向かった。
眼下には、ローグタウンの喧騒が広がっている。
(⋯たしぎ、か)
あの、純粋で、真っ直ぐな女剣士。
俺が植え付けた快感の種は、今頃彼女の中で、どんな芽を出し始めているだろうか。
彼女は、必ず、俺を追ってくる。
「正義」という名の、言い訳をしながら、その身体が求める「快感」に、引き寄せられるように。
次に会うのが楽しみだ。
「エロス」
不意に、ナミが隣に立ち、俺に声をかけた。
「どうした?」
「⋯あんた、本当に、私の憂いを、払ってくれるんでしょ⋯?グランドラインに入ったら、アーロンみたいな奴らが、もっともっと、いるんでしょうけど⋯」
彼女の瞳には、まだ拭いきれない不安の色が浮かんでいる。
俺は、そんな彼女の腰を、ぐっと引き寄せた。
「ひゃっ⋯!」
「当たり前だ」
俺は、彼女の耳元で囁く。
「お前は、誰の女だ?この、カイン・D・エロスの女だぞ。この世の全ての憂いなど、俺の前では、塵芥に等しい」
俺の言葉に、ナミの顔が、赤く染まる。
その反応を、俺は満足げに見届けた。
「全員、出航だ!進路は、リヴァース・マウンテン!偉大なる航路(グランドライン)へと、殴り込みをかけるぞ!」
俺の号令一下、ゴーイングメリー号は、ゆっくりと、港を離れた。
東の海(イーストブルー)での「遊び」は、もう終わりだ。
これから始まるのは、世界の常識も、法則も、全てが通用しない無法の海。
そこには、どんな気高く、美しい女たちが俺を待っているのだろうか。
王女か。
革命軍か。
あるいは、悪魔の子か。
俺は、まだ見ぬ獲物たちに思いを馳せ、不敵な笑みを、その唇に浮かべた。
俺の、淫色の航路(ハーレム・ルート)は、まだ、始まったばかりだ。
◇
その頃、ローグタウンの海軍支部。
一室で、スモーカーは、忌々しげに葉巻の煙を燻らせていた。
「⋯結局、逃げられたか。あの男、ただのチンピラとは、明らかに格が違ったな」
その彼の前に、一人の部下が、直立不動で立っていた。
たしぎだ。
彼女は、先ほどの戦闘の後、ずっと自分の執務室に籠っていたが、今、何かを決意したような硬い表情で、ここへやってきたのだ。
「スモーカーさん」
「⋯なんだ、たしぎ」
「ご報告があります。先ほどの男⋯カイン・D・エロスと名乗っていた男についてです」
彼女は一呼吸置くと、はっきりと、そして力強く、こう言った。
「あの男は、危険すぎます。私がこれまで対峙してきた、どの悪とも違う、根源的な『悪』の匂いがします。このまま野放しにすれば、必ずや、偉大なる航路(グランドライン)で、大きな災いを引き起こすでしょう」
その言葉は、海軍としての、純粋な正義感から来るものだった。
スモーカーは、その部下の真剣な眼差しを見て、黙って頷く。
そして、たしぎは続ける。
「ですから、お願いします!私に、あの男を追わせていただけないでしょうか!この責任は、私が取ります。私が、必ず、あの男を、グランドラインで捕らえてみせます!」
それは、部下としての、見事なまでの「進言」だった。
スモーカーは、その熱意に、少しだけ目を細めた。
「⋯好きにしろ。元より、俺も、あの男をこのままにしておくつもりはねぇ」
「!ありがとうございます!」
たしぎは、敬礼すると、部屋を飛び出していく。
その背中を見送りながら、スモーカーは、ふと、一つの違和感に気づいた。
(⋯やけに、熱心だな。いつもの奴とは、少し違う⋯)
彼は、気づいていない。
部下の、その正義感に満ちた言葉の裏側で、彼女の魂が、何を叫んでいたのかを。
(もう一度⋯)
部屋を駆け出していく、たしぎの心は、ただ一つの、倒錯した思いに支配されていた。
(もう一度、あの男と、剣を交えたい⋯!)
正義の執行という、絶対的な大義名分。
その美しい仮面の下で、彼女は、自らの身体が求める、未知の快感へと、その足を踏み出していく。
そのことにまだ、彼女自身は、気づいていない。
あるいは、気づかないフリを、しているだけなのかもしれない。