淫界人柱アラカ葬式エンドIF 作:名無し犬
「アラカ、ここって…!?」
(そう、淫界よ。警戒して、ここでは何が起きても不思議じゃない…!)
パニックになりそうなのを必死に堪えて、努めて冷静に彼に話しかける。何故とかどうしてとか、考えている余裕は今は無い。とにかく、この場を切り抜ける事を考えないと。そこまで考えて、違和感に気付いた。
怪異が居ない。少ないなんてものじゃない。少なくとも、周囲からは何の気配も感じられない。この場所が特別なのか、それとも別の理由があるのか…。
「あーあ、捕まっちゃった♡」
私の思考を遮る様に声が響いた。でも私は、不意を突かれた事よりも、その姿を見て驚愕した。彼も、言葉を失っている。
「それにしても、随分面白い事になっていたのね♡ねえ?アラカちゃん?」
そいつは、私の姿をしていた。私の顔で、私がしない様な淫靡な表情で、無邪気な喋り方をしていた。その喋り方には、嫌というほど覚えがある。
(カーラ!?何で私の姿に!?)
「あら?私達にも声、聞こえるんだ?元の体だからかしら?それにしても何でって、もしかして覚えていないの?」
キョトンとした顔のカーラは、心底不可解だという様に首を傾げた。すっとぼけている訳ではない、と思う。
(覚えていないってどういうこと?それに元の体って?)
「?ああそっか!もしかしてあなた、自分が死んで悪霊になった、って思ってる?やっぱり!生霊になった時の事、覚えていないのね!」
(…え?)
話された内容が理解出来なくて、思わず思考が止まる。生霊?私が?
「それは少し無責任じゃない?あなたのせいで私達、面倒な事になってるのに。あなたが体から飛び出して行ってしまったから、憑依してただけの私達がこの体の持ち主になってしまったのよ?おかげさまで、前みたいに自由に移動出来なくて、とっても不便だったんだから!」
(ちょ、ちょっと待って!何を言ってるの!?どういう事!?前提からちゃんと説明して!)
こちらへの不満を口にするカーラに待ったを掛ける。分からない事ばかりで、こっちはずっと置いてけぼりだ。彼なんて、口を挟む余裕も無い。…裸のカーラから目を逸らさないのは、まあ仕方無いので不問にする。警戒するべき相手なのは間違い無いし。
「簡単な話よ?愛しい彼に会いたかったあなたが生霊になって、淫界の呪縛さえ突破して外に飛び出して行った。それだけの事よ」
(なっ!?そんな事出来る訳ないでしょ!?でたらめ言わないで!)
「でたらめなのはあなたなんだけど…」
私の反論を聞いたカーラの顔は、何を言っているんだこいつ、と言っている様な呆れ顔で。その説明が嘘では無いと証明していた。待って、嘘でしょ?本当に私、そんな事を…!?
「それよりもアラカちゃん?あなた、状況が分かってる?今、相当まずい状況よ?」
「っ!?これ、は…!?」
(…あっ)
突然感じた重圧に、彼が身構える。一方私は、これから起こる事を察して、全身から血の気が引く様な感覚を覚えた。そう、逃げた、逃げたのだ私は。記憶は無いけれど、私はこの淫界から逃げ出した。そんな事をすれば、この、女への偏執極まる執着を持つ異界はどうなるか、想像に難く無い。
「ああ、やっと気付いた?そう、今淫界は怒っているの。一度屈伏させた牝に逃げられて。それこそ、私みたいな無力な牝に、目もくれないぐらい」
意地の悪い笑みを浮かべて、カーラは私の予想を肯定する。
「ここはね、その怒りで進化したの。核を現世と異界の狭間に移して、今や淫界そのものが自由に動ける様になったわ。全てはあなたを再び捕らえて、その報いを受けさせる為に、ね」
まずい、まずいまずいまずいまずい!私だけならまだ良かった。でも、私が憑依したせいで彼まで巻き込んでしまった。元は男の彼に、ここの凌辱は絶対に耐えられない。このままじゃ、彼まで…!
「ふーん、忠告したのに、人の心配しちゃうんだ?」
カーラの言葉で現実に戻された時には、もう遅かった。気付けば頭上から、大きな影が差している。私は反応出来たけど、彼は反応出来ていない。避けて、そう叫ぶよりも先に、身に覚えしかない衝撃が私を襲った。
◆
「い、今のは?」
何か、大きな掌の様なものが自分に振り下ろされた。のだと思う。断言出来ないのは、それが自分の体をすり抜けて、もの凄い勢いで去っていったからだ。いったい何が起こったのか、呆気に取られてふと気付く。何かが、体の中から抜け落ちた様な感覚。絶対に失くしてはいけないものを失くした焦燥感。
「アラカ?アラカ!?」
嫌な予感に駆られて名前を呼ぶけれど、アラカからの返事は無い。まさか、あの掌がアラカを…!?
「へえ、置いていくんだ。諸共連れていくのだとばかり思っていたけど」
「っ!お前…!」
「もう、怖い顔しないで?私達は無関係よ?それにここで時間を潰して良いの?あなたのだーい好きなアラカちゃんが、酷い目にあっていると思うけど」
カーラと呼ばれていたそいつの言う事を聞いてハッとする。そうだ、早く助けに行かないと!でも、いったいどこに?
「ねえ、案内してあげましょうか?アラカちゃんの所に」
こちらが迷っているのを察してか、カーラは楽しげにそんな提案をしてきた。
「無関係じゃなかったのか」
「さっきの掌とはね。でも、私達はこの淫界で生まれたものだから。どこに連れて行かれたのか、見当くらいはつくわ」
その言葉は、正直言って信用ならない。カーラの喋り方には覚えがある。あの廃ビルで、時々語り掛けてきた悪霊だ。およそ真っ当な存在じゃない。
「何が目的なんだ」
「ここから出たいだけよ?私達は淫界の犠牲者の集合体だもの。当然の願望だと思わない?まあ、あなた達がもがく様を楽しみたい、って考えも否定はしないわ」
「悪趣味だな」
こちらの言葉に、カーラはただ笑みを浮かべるだけだった。やはり信用は出来ないが、今は藁にも縋りたい状況だ。
「…分かった、案内してくれ」
「ふふっ、決まりね。それじゃあ、道中は護衛をお願いね。もっとも、何も居ないでしょうけど」
歩き出したカーラの後を、警戒しながらついていく。カーラの言葉通り、道中で怪異に襲われる様な事は無く、それがむしろ、よりいっそう不安を煽った。
「じゃあ、まずはここね」
階段を上った先、肉壁に空いた穴の前に辿り着く。穴の中は、よく分からない粘液に塗れた触手達が蠢いていた。嫌悪感を感じながら、カーラの後に続いて穴の中を這って進む。
「んっ♡あんっ♡あぁ♡もう、物足りないわね!」
「あん、まり、変な声、出さないでくれ」
進む度に艶やかな声を上げるカーラに抗議しながら、全身を撫でる触手のくすぐったさに耐える。動き辛いし不快だが、これぐらいなら問題無い。問題無い、はず、だったのに。
「ふぁっ♡あっ?ひんっ♡や、あっ♡な、なんっ♡」
不意に股間を撫でられ上げて、声が上擦る。それが転換点だった。下腹部を中心に体全体へと熱が広がっていき、認めたく無いのに、くすぐったさが快感へと変わっていく。
「あらあら?何だか、変な声♡聞こえてきたけれど?」
「う、うるさい!さっさと進んでくれ!」
わざわざ一度止まってからこちらを煽るカーラに、さっさと進む様に促す。すると丁度出口だった様で、カーラに続いてどうにか外に這い出る事が出来た。先に脱出したカーラは、大きく伸びをしながら、楽しげにこちらを見下ろしている。
「ふふっ♡つまらないと思ってたのに、思わぬ収穫だったわ。同じ体、だものね。ちょっと切っ掛けがあれば、感じ方、思い出しちゃうか♡」
「…無駄話してないで早く案内してくれ。時間が無いんだ」
心底楽しそうなカーラを急かす。快感を覚えた事を否定出来ないのが、とても悔しかった。
「もう、つれないわね。まあ、良いわ。早く進みましょう。…ああ、そうだ」
思いの外、素直に言う事を聞くカーラを不審がっていると、いったい何を思い付いたのか、意地の悪い笑みでカーラは振り返った。
「さっきみたいな通路、まだあるから。頑張ってね♡」
◆
「はーっ♡はーっ♡はーっ♡」
「お疲れ様♡良く我慢出来たわね♡えらいえらい♡」
息も絶え絶えに、穴から這い出す。カーラが何か言っているが、それに耳を貸す余裕は無い。体が熱くて仕方がない。頭はぼうっとして、下腹部が切なく痙攣を繰り返しているのが分かってしまう。自分が異性の体になったのだと、かつてないほどに実感させられていた。
「はーっ♡はーっ、はーっ…」
深呼吸を繰り返して、何とか体を静める。今はこんなものに振り回されている場合じゃない。早くアラカの下へ行かなければ。
「はあ、つまらないわ。もう少し乱れてくれると思ったんだけど。そんなにアラカちゃんが大切?」
「当たり前だ」
「…そう。言い切っちゃうんだ。ちょっと羨ましいわ」
再び警戒しながら、淫界の奥へと進んでいく。もうだいぶ歩いてきた。そろそろ目的地に着いてもいいのではないか。そう考えたその時だった。
「…っ!」
「そろそろ到着ね」
急に木製になった床を不審がりながら進んでいると、突然、息が詰まる様な重圧に襲われた。間違いない。アラカが拐われた時に感じたものと同じだ。この先にアラカが居る…!
「戦う前に、一つだけ教えてあげる」
カーラがこちらへ振り返る。その表情は、今まで見た事が無いほど真剣だった。
「この先に居る怪異に、あの子は一度勝っているの。あなたを助けたい一心で、ね」
話された内容に息を飲む。ここからでも分かる。この先に居るのは、自分とは格の違う存在だ。それに、アラカは勝ったんだ。
「まさか、あなたは無理だなんて言わないわよね?」
挑発なのか激励なのか、真意の読めない言葉だった。答えがどちらにしろ、返事は変わらない。
「やってやるさ」
カーラの横を通って、気配の大元へ近付く。
────勇気だ。
小さく呟いて、淫界の奥地へと足を踏み入れ、そこに居る怪異とついに対峙した。
それは巨大な仏像だった。見た目とは正反対の邪悪な気配を放ちながら、見た目通りの強大さを感じさせる。そんな怪異だった。そしてその左の掌に、人魂がふよふよと浮かんでいる。
「アラカ!」
「だ、め。きちゃ、だめ…!」
こちらの呼び掛けに答える声はか細く、弱々しかった。早く助け出さなければ。怒りに燃えて、一歩前にでる。
「アラカを放せ…!」
返答は、巨大な掌で返ってきた。まるで虫を潰すかの様な気軽さで迫る掌を、紙一重でどうにかかわす。
「かわ、せる…!」
続けざまに振り下ろされた掌をかわしながら、小さく呟いた。確かに速いけれどかわせる。体が軽い。今までに無いほどに調子が良い。まるで、閉じていた感覚が開いていくかの様だ。初めての実戦で、アラカの体に眠っていた戦闘の記憶が甦っていく。どう動けば良いか、考えずとも分かる。
───これならいける!
掌の攻撃をかわしながら御札を構える。今の自分の最大火力、ありったけの御札をぶつける。ぶつけようとした、のに。気付けば体は地面に這いつくばっていた。
「あ、ぎっ!?」
遅れて痛みがやって来てようやく、自分があの掌に叩かれたのだと認識出来た。何も見えなかった。さっきまでの攻撃は、ただこちらを弄んでいるだけだった。それを理解したところでどうしようもなくて。
「ぐっ!?ごっ!?ぐぇっ!?」
何度も、執拗に掌が叩き付けられる。起き上がる暇が無い。もう完全に成すがままだった。それでも必死に思考は回して、この状況を打開する術を探す。
「んぎゅっ♡」
そんな抵抗さえ許されなかった。視界が、思考が真っ白に塗り潰される。叩かれた衝撃が下腹を揺らして、痛み以外の感覚を伝えて来た。静めたはずの熱がぶり返す様な、体の奥底で燻っていたそれを、無理矢理燃え上がらせる様な感覚。
────絶頂している。
知らないはずなのに、分かってしまう。今自分は、虫の様に潰されて、絶頂していた。
「あっ♡んぐっ♡やめ♡んっ♡いや♡だぁっ♡」
痛みと快感が同時に襲いかかってきて、気が狂いそうだった。何度も絶頂させられて降りて来られない。感じれば感じた分だけ、昂って、上って、受け止める事しか出来なくて。発散出来ないまま、体に快感を詰め込まれていく。
「いっ♡」
────絶頂している。
「おっ♡」
────絶頂している。
「ひぎっ♡」
────絶頂している。
絶頂する。絶頂する。絶頂する絶頂する絶頂する絶頂する絶頂する絶頂する。何度も何度も何度も。無理矢理上り詰められて。叩かれた痛みと、快感と、絶頂を繰り返した疲労とで、心がバラバラに弾けてしまいそうだった。
「…あ?」
ついに気絶しそうになったその時、掌が突然動きを止めた。そして右手の手袋を乱暴に奪い取ると、アラカを摘みながら、こちらに近付いてくる。
「…!?待って、待ってお願い!それだけは!それだけは止めて!」
アラカが自分に、右手に近付いていく。それが何を意味するのか、思考する余裕は無くて。駄目、逃げて、と叫ぶアラカの声も、どこか遠く聞こえた。そのまま、何をするでもなく、右手に近付くアラカを見つめて、アラカが、右手に、触れた。
────私は、物だった。
────何度も、使われた。
────何度も、汚された。
────何度も、壊された。
────使われた。汚された。壊された。
使われた汚された壊された使われた汚された壊された使われた汚された壊された使われた汚された壊された使われた汚された壊された使われ汚され壊され使わ汚さ壊さ使汚壊使汚壊使汚壊使汚壊使汚壊使汚壊使汚壊使汚壊使汚壊使汚壊使汚壊使汚壊使汚壊使汚壊使汚壊使汚壊使汚壊使汚壊使汚壊使汚壊使汚壊使汚壊使汚壊使汚壊使汚壊
「?♡???♡♡?♡♡♡」
何かが、自分の中に入ってくる。何かが、自分を壊している。誰かの記憶。物の様に使われて、汚されて、壊された。凌辱の記憶が、『私』の中に詰め込まれていく。精神は与えられる情報を処理出来ないのに、体だけが勝手に気持ち良くなって、絶頂を繰り返す。誰かが『私』に必死に呼び掛けている気がするけれど、良く聞こえない。
ああ、駄目だ。これは、駄目だ。女の子が味わってはいけないものだ。犯して、汚して、貶めて、牝に堕とす為のものだ。それが今、『私』の中に深々と刻みこまれて、『私』が塗り替えられる。『私』が『私』じゃなくなる。あれ?そもそも『私』って、『私』だったっけ…?
「ごめんなさい…!ごめんなさい…!」
薄れゆく自我が、誰かの、いや、最愛の人の嗚咽を、確かに聞き取った。
◆
「ごめんなさい…!ごめんなさい…!」
変わり果てた彼の前で、私はただ、泣いて謝るしか出来なかった。酷い姿だった。白目を剥いて、顔は涙や鼻血、よだれでべしょべしょ。体は快感に反応して激しく痙攣を繰り返して、ズボンはいろんな液体でずぶ濡れだ。
「!?♡♡♡♡♡?♡???♡♡♡♡♡♡」
今だって、声すら出せず、快感にのたうち回っている。私の体で、私の記憶を読み取ったから。この淫界での凌辱の記憶を一気に流し込まれて、男の彼が耐えられるはずが無かった。
拐われた後、何もされなかった時点で嫌な予感はしていた。この淫界はまず、彼を凌辱して私を追い詰めようとしているのだと、予想はついた。でも、今の私には何の力も無くて。こうして、彼が壊れていく様を見て謝る事しか出来ない。
「…?ひっ!?」
急に周囲の気配が増えて、周りを見渡す。気付けば無数の怪異が、私達を取り囲んでいて。私は思わず情けない悲鳴を上げてしまっていた。恐ろしいのは、その怪異全てが彼を舐め回す様に見つめている事だった。
「待って、お願い、待って…。私が悪かったから、罰なら何だって受けるから、人柱にだって何だってなるから、だからお願い…!彼だけは、彼だけは助けて…!」
私のみっともない懇願を、もちろん怪異達は聞き届けない。むしろ、私の怯える様を楽しむ様に、じりじりと距離を詰めて来ていた。
ああ、どうしてこうなってしまったんだろう。ただ、彼に会いたかっただけなのに。あのまま、淫界に残っていれば、こんな事にならなかった。いや、あの時ブローチを落とさなければ、私が一人で死んでいればこんな事には…!
「…?」
突然、怪異達が動きを止めた。信じられないものを見るかの様なその目は、明らかに地面の方を向いていなくて。まさか、と私は恐る恐る振り返った。
「う、そ」
彼が、立ち上がっていた。震える足で、それでも、確かに立っていた。
「負ける、もんか…!」
体はふらついて、無理をしているのが丸分かりだ。けれど、瞳は爛々と輝いて、彼の強い意志を表しているかの様だった。
「誓ったんだ、絶対、離さないって…!」
抵抗は許さないと、怪異達が一斉に飛びかかる。おまけに偽仏の掌まで迫って来て、彼に止めを刺そうと追い打ちをかける。
「だからッ!ここで負けてたまるかッ!」
飛びかかって来た怪異が、眩い閃光に消し飛ばされる。偽仏の掌も弾き飛ばされ、何が起こったのか分からず怯んでいる様に見えた。
今の技、間違いない。私の奥の手、『帷の切断』だ。信じられないけれど、彼はあの情報の濁流の中、今必要な情報を拾い上げて立ち上がったんだ。
「ごめん、アラカ。もう大丈夫だから」
「あっ…」
彼が私に触れて、私が彼の体に入っていく。暖かい。気を抜いたら泣きそうだ。でもどうして?どんな奇跡が起きたって、淫界でこれ程の力を振るえるはず、いや、待って、そうか。彼は肉体は女性でも魂は男性だから、淫界の干渉を受けづらいんだ。
「っ!まだだ、まだやれる…!」
でも、彼ももう限界だ。どうにか立ち上がったけど、体力も霊力も底をつきかけてる。偽仏も今は警戒して攻めあぐねているけど、こちらが限界だと分かればすぐに襲いかかってくるだろう。せめて霊力だけでもあれば。無理矢理捻出する方法もあるけれど、それでもまだ足りない。何としてでも、彼だけは現世に送り返さないと…!
(あっ)
そこまで考えて、私はようやくそいつの事を思い出した。周囲の気配を探ればやっぱり、隠れてこの戦いを観戦している。
(お願い!私の指示する方向に走って!)
「!ああ、分かった!」
無茶を承知で、彼を走らせる。呆気に取られた偽仏を置き去りに、私達はそいつ、カーラへと近付いた。予想外だったのか、驚いて硬直している。
「ちょっ、ちょっと!?私は…!」
「良いから手を貸す!」
彼の体を借りて、カーラの手を取る。やっぱり、私の体だから霊力の受け渡しがスムーズだ。少し量が心許ないけれど、これならギリギリ足りる。偽仏が、慌てて掌を振り下ろして来たけど、好都合だ。真正面から粉々にしてやる…!
(私のイメージ通りに動いて!今の君なら出来る!)
「ああ!」
彼に体を返して、イメージを伝える。サイコメトリーの腕、ある意味で異界そのものみたいな媒体を、大質量でぶつける!
「「我流──壊霊掌・神腕──!!!」」
────振り抜いた右手が、その巨大な掌ごと、偽仏を粉々に打ち砕いた。
◆
「ここは、ビルの屋上…?」
「そういう形をしているだけよ。ここは現世と異界の狭間。現世からは認識も出来ないし、異界からは認識出来ても干渉出来ない」
(でも、君の右手なら、核に干渉出来るはず)
あの偽仏を倒して、自分達は淫界の最深部、あのビルの屋上の様な場所へと到着していた。疲労困憊の体を、カーラに肩を貸してもらいながら、社に近づいていく。
社の前まで来て、一度深呼吸をしてから、右手に御札を握りしめた。やり方は、何となく分かる。さっきの様な事は、まだ一人では無理だけど、こういったものに干渉する感覚は理解出来た。
(終わり、ね)
「ええ」
御札を貼り、静かに崩れ始めた社を見上げる。これで、やっと終わったんだ。ようやく、外に…
(ここも、私もね)
「え?」
アラカの言った事が理解出来なかった。気付けば、半透明の彼女が目の前にいて、その足先から徐々に体が消え始めていた。
「ごめんなさい。霊力、足りなかったから。私の魂で無理矢理補ったの。もう私に、霊として留まる力は残って無い」
「なっ!?」
悲しげに微笑む彼女は、もう太ももの辺りまで消えかかっていて、咄嗟に右手で掴もうとしても空を切るばかりだった。
「無駄よ。そもそもの存在が消えかかっているの。その右手でもどうしようもないわ」
そんな馬鹿な、あんまりじゃないか。まだこれからなんだ。誓ったばかりなんだ。それなのに、こんな…!
「助けてもらったのに、こんなお別れでごめんなさい。でもこれで良かったの。私はもう、君を縛るべきじゃない」
「嘘だ。なら君は、何でそんな泣きそうなんだ…!?」
自分の指摘に、アラカは誤魔化す様に笑った。既に、下半身は消えてしまっている。
「私の事は、忘れて。今度は、そうね、もっと愛想の良い女の子を選びなさい」
「嫌だ!忘れない!忘れるもんか!君だけだ!君だけなんだ!君だけを、愛してるんだ!」
「…本当に、こりない人。あんな目にあってまだ、そう言ってくれるんだ」
もう、アラカの体は肩の辺りまでしか残っていない。何か、何か無いのか!?本当に、どうしようも無いのか!?
「ならせめて、私をかわいそうとは思わないで。私は君と出会えて、君と居られて幸せだった。最期だから、言うね?」
「待ってくれ、駄目だ、そんな満足そうな顔をしないでくれ。行かないでくれ…!」
もう頭しか残っていないアラカは、憑き物が取れた見たいに晴れやかな笑顔で、それでも、涙を流しながら最期の言葉を口にした。
「愛してる。私は、伊早瀬アラカは、君を愛して、君に愛されて、心の底から幸せだった!」
その言葉を最期に、アラカは完全に姿を消した。縋る両手は空を切って、両足からその場に崩れ落ちる。
「あ、ああ、ああああああああああああああああぁ!!!!!」
その慟哭で最後の力を使い果たして、絶望の中、自分は意識を失った。
ペース配分を完璧にミスりました。申し訳ありません。
次回、本編最終話です。
二人は幸せなキスをして終了(ネタバレする作者のクズ)
二人は幸せなキスをして終了(固い決意)
二人は幸せなキスをして終了!(ぜってえハピエンにしてやるからな)