※この作品はR-18です。

TS少女はショタに奉仕したい。   作:ゆきかお

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TSした男の子が女の子の振る舞いするのいいよね…ということで初投稿です。


3月26日 前編

 

 普通の男子中学生だった私、花守奈央の人生を、一変させた出来事がある。

 女体化症、っていう病気に罹ったことだ。

 

 それはその名の通り、罹った男は皆等しく股間の一物が消失して、完全にメスとしての身体機能と容姿を獲得した女の子になる、とんでもない病気。

 罹患者達の共通の特徴として、身長が低くなるとか、女性的な部位の発達が著しいとか、美貌の持ち主になるなどがあげられる。

 女性への変化は不可逆的なもので、発症したらずっと女のまんま。

 10年ぐらい前から世界中で確認されるようになった結構新しい病気なんで、今のところ治療法、すなわち男に戻る方法は見つかってない。

 

 色々と謎が多い病だけど、確かに分かってることが2つある。

 原因不明の遺伝子異常が由来らしいので、うつる病気ではないことが分かってる。

 あと当然、女の子は発症しない。

 そして2つ、発症した人が女性として生きる分には、特に問題なく生涯を送ることが出来る。

 妊娠だって、出産だってできる。

 男であることをやめさせられるというのを除けば、何とも優しい病気だと言えるかもしれない。

 

 ただ、男が女になるっていう突飛で奇想天外で不気味な症状に加え、最近出てきた病気というのもあって、正しい病状とそれに関する周囲への影響とかの情報がきちんと伝えられず。

 元男の女っていう、新しい性意識の人種を受け入れる準備を、社会は、人々は整えてなかった。

 それに脈絡なく、年齢関係なく、突然に発症するもんだから、周りから隠し通すのも難しく。

 

 そういうわけで、哀れ女体化症患者達はみーんな奇異と偏見の眼差しを向けられて、迫害とまでは行かずとも、冷たくされ差別されるのが常なもんだから、誰もが環境を変えたり、変えさせられたりして、必死に男であったことを隠して生きている。

 

 それで、その事例に私も漏れず。

 世間様の目に触れぬように母親が躍起になった結果、人目がつかない田舎の学校に転校させられて、ちょっと前に亡くなったおばあちゃんの家にて隔離兼、早い一人暮らしと相成ったという感じだ。

 身の回りの家事は家庭の事情で元々やってたから、一人暮らし自体はすぐに適応できたのが幸いだった。

 これからの女として生きることを余儀なくされたことに比べれば、だけど。

 

 そんな模範的な女体化症罹患者の私は、初めはこの体に難儀して、勝手がわからず振り回されるばかりで余裕なんてなかった。

 20㎝は縮んだ身長やら、変化した骨格やら、無駄にデカい胸やらに疲れさせられてきたけど、特に疲弊したのが月の物で。

 股から血が出てくることに血の気が引いたり、生理痛のあまりのキツさとそれに起因する心細さに、蹲って泣いたこともいくつかある。

 

 また、新しい学校の生徒たちにバレないよう、男の頃の何気ない癖を隠すのにも難儀した。

 何回男子トイレに入りそうになったり、あぐらをかこうとしたか分からない。

 喋り方だってそうだ。頭の中の男のままの自分と、外の女である自分との齟齬に苦しんだ。

 

 男らしい行動を取って癖を治す度に、女らしい行動を取らされて流していく度に、10年経っても慣れないんじゃないかって、辛くなって、これからの人生を悲観した。

 オレより不幸な奴はいない、って感じで。

 まあ、暫く日数を重ねると案外すんなり順応していって、絶望は杞憂に終わったけど。

 

 そうして、女体化から数か月ほど経てば、女性であることに慣れが生まれて、余裕が生まれて。

 心身ともに落ち着き始めると、途端に暇を持て余して仕方なくなった。

 何故ならここは田舎。かろうじて携帯の電波は通っているものの、それ以外がない。

 

 まあまあな都会っ子だった私には、娯楽が釣りとか虫取りぐらいしかないこんな所では、退屈で退屈だ。

 それに、時間を持て余していると、どうにもイヤなことばかり思い出したり、これからの将来への憂いがどんどん重く圧し掛かってきて、鬱屈するばかり。

 

 そうなれば、やることなんて1つになるわけで。

 

 している内は夢中になって、終わるまで明日をほんの一瞬でも忘れられて。

 人がいなければ、どこでだってすぐにだって始めることの出来る遊戯。

 

 ────そう。自分の体で、遊ぶようになった。

 ずっと興味はあったけど、持て余すばかりな上、怖くて手が出せなかった分に加えて。

 女になる前は、そういったことを抑制されてた環境にいた反動の分、夢中になった。

 

 女性の体で覚える快感の虜になって、イケない遊びをよりするようになったら。

 どんどん激しくなっていく、日々増していく、そういう欲求に耐えられなくなってきた。

 こればっかりは元の男譲りなのか、それとも女性全体がそうなのかは分からない。

 通い付けてる遠い病院の診療では特に聞いた覚えがないので、私譲りなんだろうと、考えてる。

 

 ────気持ちよくなりたい。

 ────自分の指じゃ物足りない。

 ────満たして、欲しい。

 

 ────ああ、男の人とシてみたいな、と。

 ふいに、頭の片隅で考えるようになったときには、自分でもどうかしてると思った。

 ただもう、そんな理性の静止が効かないぐらいに、頭の中はそういうことでいっぱいだった。

 

 ────誰と、シよう。

 汚くなくて、脂ぎってなくて。

 無駄にがっついてなくて、イヤに斜に構えてなくて。

 いざとなったら、言うことを聞かせられるような、都合のいい存在と言えば────。

 

 そんな、犯罪者のような思考の紆余曲折があってからは、物事がトントン拍子に進んだ。

 私の家から遠い場所に住んでる、誰かに喧伝するようなやかましさを持たない、大人しいけどえっちなことに興味津々な、年下の男の子を見つけて。

 年上のお姉ちゃんとして誘い込んで、誑し込んで、オッケーが出たなら、私の家に連れ込んで、遊ぶ。

 

 そうやって初めて、おっかなびっくりとそういうことをしたときに、はたと気づいたことがある。

 どれだけ興奮に酔ってたとしても、嫌悪感とか忌避感といった、そういう男の頃なら必ず覚えたであろう、同性とすることへの悪感情。

 それを、一切抱かなかった。

 

 その時に確信したことがある。

 

 意識というか、感覚というか。

 色んなものが女の体の方に引っ張られてるんだなぁ、と。

 

 薄々気づいていたことではある。何なら病院でも説明されてたことなのに、認められない自分がいた。

 いつかは、男に戻れるんじゃないかって、意味のない空想を抱いて、必死にそれにしがみついてきた。

 でも、この初体験のお陰で、踏ん切りがついたのか、ピンと張ってた心の糸が切れたのか。

 随分、気が楽になったのを覚えてる。

 もう、戻れないんだな、って。

 

 こうして、自分の内の変化を自覚して、体の内外共に「お姉ちゃん」を演じることにしてみて。

 本番までは行かないペッティングを色んな子と、バレないようこっそり楽しんで、発散すること数回の後に、ある男の子と、私は出会う。

 そしてその子と、背徳に満ちた、淫蕩な思い出をたくさん作ることになるとは、その時は考えついてもいなかった。

 

 

 *

 

 

 凍てつくような冬がやっと終わって、訪れたるは春分。

 萌芽の季節だ。

 

 のんきに鳴くウグイス。

 豊かに色づき華やかになった野畑。

 髪を柔らかく撫でつける春風。

 

 それらすべてが五感に、春が最盛だということを教えてくれる。

 

 色々と閉鎖的だし、交通機関殆どないし、やることないしで、うんざりとする環境だけれど。

 この穏やかで、長閑な時間が流れるこの田舎はやっぱり、いいな。

 ただ、この春が終われば、胸や股が蒸れる夏がやってくるのは、憂鬱だけれど。

 

 そんな下らないモノローグを頭の中で垂れ流しながら、外に面した家の縁側で、私はくつろぐ。

 本日は春休みの最中にて、中学は休み。

 特に予定のない普段の休日では、大体家の中でのんべんだらりと過ごしているんだけど、今日は大事な子と会う約束をしていて、しかもその子が初めて私の家に来るときた。

 もちろんここまでの道程を記した地図は渡したし、家の外観、表札も説明したけれど、如何せんここは、この田舎においても特に僻地だ。

 

 なので念には念を入れ、彼と会った時と同じ服装、学生服を休日だと言うのに身に着けて。

 一目見れば、瞬時に分かる目印として、今こうしている。

 

「ふぁ……んん」

 

 麗らかな春の陽気も関係があると思うけど、こうして暇を持て余していると、どうにも気だるく、じんわりと瞼を重くする眠気を覚えるから。

 油断すると、うとうとしてしまいそうになる。

 贅沢な午睡の誘惑が私の頭を撫でていた。 

 

 そうやってまだ来る気配がないからと、だらしなく船を漕ぎそうになっていると、家の前の未舗装の道路を踏みしめる足音が、耳に届いた。

 パッと、まどろんでいた意識が明瞭になる。

 軽トラとかが通ることはままあれど、この家の周辺に人が来ることなんてほとんどないから、その足音の正体は9割9分、彼のものに違いない。

 そして彼の独り言も聞こえてきた。 

 

「────えっと、ここ、で……」

 

 そうして通り過ぎることなく家の敷地内に足を踏み入れてきたのは、待望の待ち人。

 背が低い私よりも小さな背格好の男の子、梅見啓くん。4月から5年生の子。

 春休みを迎える数日前、私が下校の途中で、学校に行くために通っているバス停のベンチでゆったりしてたら、たまたま出会った子だ。

 

 ここらでは見たことがない男の子だったから、こんな田舎に何の用かと尋ねたら、探検してたら迷っちゃったらしい。財布も持ってないから、バスが家の近くを通るけど乗れないとのことで。

 帰り方を見つけられぬまま途方に暮れていた所に、私がバス代を出してあげる、と帰宅の提案をしたのが、出会ったきっかけだ。

 リュックやカバンも持たずに、こんなとこにまで探検なんてするかは疑問だったけど、本当に困っているみたいだったから、詮索はせずに。

 

 まあそれで、最初は特に何をするでもなく、バスが来るまでの暇つぶしとして世間話をしてたけど、あまり弾まない会話だった。

 その原因は啓くんがあんまり喋ってくれなかったからだ。私と話すのに何か憚られるような様子で、彼との心の距離を感じた。

 

 よく考えなくても初対面だし、金を借りたという引け目から、この距離は来るものなのかな、と推察したけれど、もっと分かりやすい理由に気づいた。

 それは、啓くんが私のおっぱいをちらちらと見ていた、ということ。

 

 ……しかたがないことではあるけど、そこまでどぎまぎされると、ちょっとだけ悪戯心が湧いてきてしまって。

 そんな彼を私はちょっとからかってみつつ、そういうことに興味あるの、と聞いてみた。

 

 すると啓くんは大きく赤面しながら否定した。

 まあ、即答するようなたくましい子はそうそういないだろう。

 

 けど、素直になってみて、とお願いしてみたら、長い間を置いてから小さく頷くことで、啓くんはそのいじらしい意志を確かに私に示した。

 してみたいんだね、と私が付け足すと、顔を反らされちゃったけど、それを否定しなかった。

 

 そこで、からかいのお詫びとして、そういうことをしてあげるから、皆に内緒で、2人だけで遊ぼうと誘ってみて。

 彼が同意したので、今この瞬間が生まれていた。

 

「啓くん、こっちだよ」

 

 彼はきょろきょろと、高学年になったばかりの成長期真っ只中の身を縮め、辺りを探っていたので、私はひらひらと手を振って、彼をこちらへと手招く。

 私を認識した啓くんは安堵した様子で、不安を滲ませていた顔色をぱあっと明るくして、肩掛けの鞄と、眉にかかるぐらいの長さの黒髪を揺らしながら、こっちへと駆け寄ってきた。

 

「こ、こんにちは、お姉さん」

「うん、こんにちは。迷わなかった?」

「えと、くわしく地図に書いてくれてたので、大丈夫でした」

「偉いね」

 

 私の褒め言葉に気恥ずかしそうに視線をそらして、はにかむ啓くん。

 第二次性徴がまだ来てない分、まだ柔らかな顔立ちをした彼が笑うと、女の子と見紛ごうばかりだ。

 

「……そういえば、お母さん達には、ここに来るのを何て言ってきたの?」

「えっと、友達の家に、遊びに行くって、言いました」

「そっか。りょーかい」

「……あ、あとこれっ、どうぞ」

 

 ごそごそと、鞄からマジックテープの財布を取り出した啓くんは、その中から沢山の小銭を取り出して、私へと差し出した。

 

「え、これ、……前のバス代と、今回の分?」

 

 私の手のひらに収まった大きな硬貨達。

 数えてみると、それらは彼と出会ったあの日の去り際に渡した額と、ぴったり一致していた。

 

「ほんとにあのときは、ありがとうございました。

 だから、お返ししなきゃ、って思って……」

「……別に気にしなくて、良かったのに。

 というか、お金大丈夫なの?」

「はいっ。こづかい、ためてたから、平気です」

 

 交通費ぐらい出すのは年上として当然のつもりだったから、予想外な話になって、ちょっと動揺する。

 

 ……もっと別のところに使って、とお金を突っぱねるのは簡単だ。

 貯めてるとは言ったけど、小学生の小遣いなんて少ないものだろうし、啓くんの為にも、断るのがいいかもしれない。

 けれど、彼の真っ直ぐな感謝と、誠意を無下にするのは、ダメじゃないだろうか。

 

「………うん。ありがとね、啓くん」

「っあ、……ん……」

 

 なので私は、内心申し訳なさがありつつも、彼からのお金を受けとることにした。

 ちょっと不躾だけど、私は彼の頭へと手を伸ばし、さらさらと撫でつける。

 啓くんは一瞬たじろぐけど、その後は何をするでもなく、面映ゆそうに撫でられていた。

 

 ……しかし、よくよく考えたら、これで恩の貸し借りは0になって、啓くんも特に負い目なく、純粋に私とすることが出来るだろうし、結果オーライ、だろうか。

 

「────ん、こっから上がっていいよ」

「っ、はい。……おじゃま、します」

 

 過ぎたことはもう置いておいて。

 私は彼を撫でるのを止めて立ち上がり、啓くんを家の中へと誘う。

 彼はしっかり脱いだ靴を整えてから、縁側を背に歩き出した私の後を追ってきた。

 

「足元、気を付けてね」

「は、はい」

 

 縁側から居間を抜け、経年劣化で随分軋むようになった木の床の廊下を踏みながら、彼と連れ添って向かうは、1人で暮らすには無駄に広いこの家の、一等奥の畳の部屋。

 かつては細々とした物を放り込んでおく物置代わりだった部屋は、今は秘密の遊び場になっている。

 

 この部屋は奥まってるところに位置することもあって音が聞こえづらく。

 それにカーテンをずっと閉めてることもあって、いつも翳っていて、いい具合の室温が保たれている。

 総合して、とっても、都合のいい部屋だ。

 

 恙なく廊下を抜けきり、角にあるその部屋に繋がる古びた木製の扉を開くと、ひんやりとした空気が私を出迎えた。

 カーテンに滲んでいる弱い太陽の光で、部屋の輪郭が保たれている薄暗い一室だ。

 開けた扉の隙間から、部屋の中央に置いてある大きめの布団を、啓くんは一瞥した。

 

「お茶持ってくるから、先に入ってて?」

 

 町からここまでは結構に遠い道のりなので、喉が乾いてるだろうからと、私は彼を労った。

 実際その通りだったみたいで、啓くんはこくりと頷いて、素直に従う。

 部屋の中へと消えていく啓くんを見送るとき、彼の背に、何となく、罠にかかった兎の姿を重ねた。

 

 さて、お茶を出す前に、私は台所へと向かう道中の廊下にある、洗面所の鏡を覗く。

 古ぼけた鏡に写るのは、もうすっかり見慣れた少女の姿。

 

 140代前半から抜け出せないままのちんまりした背に、肩まで伸びた黒髪。

 耳から前に垂らしたサイドヘアが特徴の髪形に、幼さを多分に残した、キュートな顔立ち。

 シャツとスカートから露出している、細すぎず、太すぎず、適度に脂肪の付いた四肢。

 そして、学生服のシャツを押し上げて突っ張らせている、発育が良いというか、良すぎる結果の、とびきり大きな乳房。

 

 全部まとめて、それが今の私だった。

 

 浅い昼寝で弛んでいた瞼を擦って、少し皴がついていた制服を伸ばして払って整えて。

 そして洗面台の棚に陳列されていたレモンのリップを取り出すと、僅かに擦り切れたそれを、唇へと塗りつける。

 少し、厚めになるようにリップを何度か往復させて、十二分に唇に艶が出たことを確認すれば、もう身繕いは終了。

 

 身づくろいを終えた私は台所へと向かい、氷をいれたグラスに冷蔵庫にいれてあるピッチャーの麦茶を注ぎ、ピッチャー共々盆に乗せると、彼の待つ部屋に持っていく。

 

「はい、どうぞ」

「ありがとうござい、ます」

 

 扉を開けると、彼は荷物を隅において、中央に置いてある布団の側にて正座で待っていた。

 そこまで肩ひじ張らなくても、と微笑ましく思い、そしてその礼儀正しさに今日何度目かの感心を覚える。

 私も彼の隣にぺたりと、両膝とお尻を畳につけ、足を外側に開いて座った。

 

「んっ……んく……」

 

 啓くんは受け取ったグラスを両の手の平で包んで、口へと運んでいく。

 喉ぼとけがまだないつるりとした喉を、こくりこくりと懸命に動かして、嚥下して、喉の渇きを癒そうとする様は、愛らしい。

 

「──ぷはっ。……おいしいですっ、お姉さん」

「うん、また欲しくなったら言ってね。注いであげる」

 

 麦茶はすぐさまに飲み干されて、啓くんは一息つけたみたいだ。

 氷だけになったグラスを私が受け取り、邪魔にならないよう傍の盆に置くと、小さくなった氷が崩れて、カランと清涼感のある音を鳴らした。

 

「…………」

 

 不意に訪れた、春の和やかな静けさの中で、もじもじと、落ち着かない様子の、手持ち無沙汰な啓くん。

 太腿の上で手を組んだり、離したり。

 私に声を掛けようとして顔を上げて、取りやめては下を向く。

 私はその可愛らしい様子を眺めるのを止めて、2つほど訊ねることにした。

 

「ねえ、啓くん」

「ぇ、っは、はい」

「……この部屋でさ、何するか、分かってる?」

 

 それは今更、問う必要なんてないことだ。

 彼にとっても、それ以外のことをするつもりはないだろう。

 でも、自分の意思でここに何をしに来たか。

 それを今一度突き付けることで、今からする行為が、どれほど非日常的で、背徳的なものかを、再確認させる。

 

「え、えと。あの、その」

 

 著しいそのどもりかたは、緊張からくるものなのは明白だ。

 啓くんは私の胸を一瞥して、でもそれを悟られないように俯く。

 その俯く最中、垣間見えた彼の頬は、赤く染まりつつあった。

 

「…………えっちな、こと」

 

 りんごのようになった頬をより熟れさせて、消え入るような声で、啓くんはそう答えた。

 はっきりと、そう答えてくれた。

 

「うんうん。……それで、さ」

 

 私は畳に手をついて、彼へと上体を乗り出した。

 彼我の距離が、一気に詰まる。

 私と彼の目線が合う。彼の視界の、全てを奪う。

 啓くんが息を吞んだのが、伝わってくる。

 

「…………私で、いいの?」

 

 互いに見惚れてしまったかのように、しばらく、見つめあって。

 私の問いかけに、彼は静かに、熱を帯びた声色で、呟いた。

 

「お姉さんが、……いいです」

「そっ、か」

 

 啓くんの了承を得た、途端に。

 ありふれていた眼前の世界が、途端に艶めいていくのを感じて。

 私は、胸の高鳴りを覚えた。

 ほんとに、どうしようもないな、私。

 

「…………じゃあ、しよっか?」

 

 胸の内のときめきを抑えようとして。

 それでも微かに上ずった声が、私の喉から発せられた。

 




後編は明日投稿します。
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