名探偵の世界のバグ(エラー)は俺らしい 作:heatmajin
園子を俺の女にしてから数日後。俺は約束通り、彼女と「お茶」をするために喫茶ポアロのドアを開けた。もちろん、そこには蘭とコナンの姿がある。全ては計算通りだ。
「神代さ〜ん♡こっちこっち!」
園子が満面の笑みで手招きする。俺が席に着くや否や、彼女は当然のように俺の腕に自分のそれを絡ませてきた。その蜜月ぶりに、向かいの席の蘭は「も〜、園子ったら、神代さんが困ってるでしょ」と呆れ顔で笑っている。
いいや、困ってなどいない。むしろ、この状況を楽しんでいる。蘭、君のその警戒心のない笑顔が、いずれ絶望に染まるのが待ち遠しいよ。
俺は「やれやれ」といった表情で肩をすくめ、蘭に視線を送る。「大変な子に好かれちまったよ」とでも言いたげな、人の良い男の顔で。コナンだけが、その笑顔の裏にある何かを嗅ぎ取ろうと、探るような視線を向けてくる。面白い。その小さな名探偵のプライドを、いつかへし折ってやるのも一興だ。
和やかな空気が流れていた、その時だった。
園子のスマホが、甲高い着信音を立てた。画面を一瞥した彼女の顔色が変わる。鈴木財閥の秘書からだ。
「はい、園子ですけど…え? 嘘…!」。スピーカーホンでもないのに、切羽詰まった秘書の声が聞こえてきそうだ。やがて、スマホを落としそうなくらいに手を震わせ、園子は顔面蒼白で俺を見上げた。
「か、神代さん…! 次郎吉おじ様のところに、脅迫状が…!」
園子は悲鳴に近い声を上げ、俺の筋書き通り、救いを求めるようにその身を預けてくる。「怖い、どうしよう!」。俺は「落ち着いて。僕がついてる」と優しくその背を撫で、動揺する蘭とコナンに聞こえるように言った。「すぐに目暮警部に連絡を」。
事件の幕は、こうして切って落とされた。
*
鈴木家の豪奢な応接室は、一転して物々しい捜査本部の様相を呈していた。
テーブルに置かれた脅迫状を、険しい顔で睨むのは目暮警部。その隣には、メモを取りながら真剣な表情を浮かべる高木刑事と、腕を組んで冷静に状況を分析する佐藤美和子の姿があった。
被害者家族として園子、その付き添いで蘭とコナン。そして俺は、「園子さんの精神的支柱だから」という、彼女のゴリ押しでまんまと同席を許されていた。
「『鈴木財閥の隠された罪を、神の雷が裁くだろう。手始めに、穢れた血を受け継ぐ令嬢の命を貰い受ける』…か。悪質な悪戯にしては、手が込んでいるな」
目暮警部が唸る。もちろん、俺が雇ったチンピラに書かせた、安っぽい三文芝居だ。だが、警察を動かすにはこれで十分。
「筆跡からは特徴は掴めません。ごく普通の、市販の便箋と封筒です」と高木。
「犯人に繋がる手掛かりはなしか…」
捜査が行き詰まり、沈黙が落ちる。完璧なタイミングだ。俺は、さも今気づいたとばかりに口を開いた。
「警部殿、失礼ですが」
全員の視線が俺に集まる。俺は脅迫状を指さし、静かに言った。
「この脅迫状のインク、僅かに甘い香りがしませんか? おそらく、特殊な植物性のインクでしょう。国内では、確か…特定のアンティーク工房でしか扱っていない、非常に珍しい品のはずですが」
もちろん、そんな知識は俺にはない。だが、この脅迫状を書かせたチンピラには、俺がわざわざ用意した特殊なインクを使わせている。犯人に繋がる手掛かりは、最初から俺自身が仕込んでおいたものだ。全ては、この俺が「天才的な協力者」として警察組織に恩を売り、君たちの信頼を得るための、完璧な自作自演なのだから。
「なにぃ!?」
目暮警部が驚きの声を上げ、慌てて脅迫状に鼻を近づける。佐藤刑事は、信じられないものを見るような目で俺を見つめていた。その瞳には、疑念と、それ以上に強い驚嘆の色が浮かんでいる。
コナンだけが、苦虫を噛み潰したような顔で俺を睨んでいた。「なんで、そんなことまで知ってるんだ、この人…」。その心の声が、手に取るように聞こえてくる。
さあ、舞台は整った。これからだ。君たち「正義」の人間を、俺の掌の上で踊らせてやる。
特に――君をな、佐藤美和子。
俺は、彼女にだけ分かるように、挑戦的な笑みを送った。
俺の一言で、停滞していた捜査は一気に動き出した。
「ばかもーん!すぐその工房を洗い出せ!」
目暮警部の号令で、高木刑事が慌ただしくスマホで連絡を取り始める。彼ともう一人の刑事が、チンピラのアジトへと向かう段取りになった。
「警部、失礼ですが」
その時、静かだが凛とした声が響いた。声の主は、佐藤美和子。彼女は、俺から視線を外さずに言った。
「私は、ここに残ります」
「なに? 佐藤くん、君も現場へ…」
「この神代さんという方、何かまだ隠している気がします。それに…」
彼女は、俺を真っ直ぐに見据える。その瞳は、まるで獲物を見つけた狩人のようだ。
「あなたのその『勘』、もう少し詳しく聞かせてもらえないかしら」
こうして、図らずも捜査線は二つに分かれた。チンピラを追う、高木たちの【物理的な捜査】。そして、この応接室で、俺という「謎」を解き明かそうとする、佐藤の【心理的な捜査】。
面白い。実に面白いじゃないか、佐藤美和子。
*
高木たちが出ていくと、広すぎる応接室には奇妙な静寂が訪れた。俺と、俺を尋問しようとする佐藤。そして、その異様な雰囲気に固唾をのむ蘭、園子、コナンの三人。
静かな、しかし濃密な心理戦の火蓋が切って落とされた。
「さて、神代さん」
佐藤は、プロの刑事の顔で切り込んできた。
「改めてお伺いします。あなたの言う『趣味』とは? なぜ、我々警察より先に、インクの特性に気づけたんですか?」
「言っただろう? 美しいものを愛でるのが好きなんだ。君のようなね」
「質問をはぐらかさないで」
「はぐらかしてなどいないさ。事実だよ」
俺が余裕の笑みで返すたび、彼女の眉間のシワが深くなる。だが、俺は畳み掛ける。
「君こそ、どうして現場に行かなかったんだい? 手柄を立てるチャンスだったのに。それとも、高木くんに花を持たせたのかな?」
「…!」
俺が、彼女と高木の関係を知っているかのような口ぶりをしたことで、彼女の冷静さに初めて動揺が走る。
「あなたには、関係ないでしょう」
「関係なくはないさ。僕は、君に興味があるからね」
他愛ない会話の応酬。だが、その裏で、俺は彼女の心の壁を一枚、また一枚と剥がしていく。コナンは、大人の男女が繰り広げる高度な探り合いに、手も足も出せずに歯噛みしている。蘭は、そんな二人の姿に、なぜか胸がざわつくのを感じていた。園子だけが、うっとりとした表情で俺を見つめている。
その時、佐藤のスマホが鳴った。高木からだ。
「佐藤さん!犯人を確保しました! やはり、神代さんの言っていた通り、例のインクを使っていました!」
事件は、一応の解決を見た。だが、佐藤の心の中には、解決などしていない、巨大な「謎」だけが残された。
俺が帰ろうと立ち上がると、佐藤は、たまらず俺を呼び止めた。
「待って」
凛とした声に呼び止められ、俺はゆっくりと振り返った。そこに立っていたのは、佐藤美和子。彼女は、まっすぐに俺だけを見つめていた。
ただの民間人とは思えない、あまりにも鋭い観察眼を見せた謎の男。彼の存在が、自分の刑事としての直感を、どうしようもなく刺激するのだ。このまま帰すわけにはいかなかった。
「あなた、一体何者なの?」
佐藤は、刑事としての純粋な問いを投げかける。今日、彼女の常識に小さな、しかし確実な波紋を広げた男。その正体を知らずに、今日の捜査を終わらせることなどできなかった。
俺は、彼女のまっすぐな瞳を見つめ返すと、ふっと、これまでの不敵な笑みを消した。そして、まるで慈しむかのように、穏やかな声でこう言った。
「さあね。ただの通りすがりの男だよ」
初めて会った時と、同じ答え。はぐらかされた、と佐藤が眉をひそめかけた、その時。
「――でも」
俺は一歩、彼女に近づく。そして、彼女にだけ聞こえる声で、こう囁いた。
「もし、君が心の底から『助け』を必要とする時が来たら、心の中で僕の名前を呼ぶといい。そうすれば、どこにいても、必ず君の元へ駆けつけよう」
それは、予言でも、脅しでもない。
まるで、神が信徒に与える約束のような、絶対的な響きを持った言葉だった。
佐藤は、何も言い返せなかった。あまりにも現実離れした言葉。しかし、彼の瞳は、それが決して冗談ではないと物語っていた。
俺は、呆然とする佐藤に背を向けると、今度こそ応接室を後にした。園子が「神代さ〜ん、待ってよ〜!」とその後を追いかけていく。
後に残されたのは、事件解決後の安堵感と、佐藤の心に残された、巨大で、甘美な「謎」だけだった。
*
事件が解決し、俺が鈴木家を後にすると、園子からすぐにメッセージが届いた。
『今夜、いつものホテル、スイート押さえてあるから♡ 今日のお礼、いっぱいさせて?』
忠実な犬だ。俺は『いい子だ』とだけ返し、指定された時間に向かった。
スイートルームのドアを開けると、待ち構えていた園子が、子犬のように駆け寄ってきて俺の胸に飛び込んできた。彼女が身にまとっているのは、薄いシルクのバスローブ一枚だけ。シャワーを浴びたばかりなのか、高級なシャンプーの甘い香りがふわりと鼻腔をくすぐる。
「神代さん…! 来てくれた…!」
「約束だからな」
俺は彼女の顎をくいと持ち上げ、深く、貪るようなキスをした。彼女は慣れた様子で舌を絡ませてくる。この数日で、俺は彼女の身体に、俺のやり方を徹底的に教え込んできた。
「すごかった…! 神代さん、本当にすごかったんだから! 刑事さんたちなんて、全然頼りにならなかったのに!」
「当然だ」
興奮冷めやらぬ様子でまくし立てる彼女を抱きかかえ、キングサイズのベッドへと運ぶ。彼女は、恍惚とした表情で俺を見上げている。今日の俺は、彼女の目には本物のヒーローに映ったのだろう。
「怖かった…。だから、いっぱい安心させて…?」
彼女は、自らバスローブの帯に手をかけ、ゆっくりと解いていく。露わになったのは、今日のために用意したという、黒いレースのランジェリー。白い肌とのコントラストが、彼女の扇情的な魅力を引き立てている。
「よくできました」
俺は、褒美を与える主人のように彼女の頭を撫でると、その黒いレースの中心に指を這わせた。すでに、彼女の蜜でじっとりと湿っている。
「んっ…♡」
俺は、その濡れた布の上から、彼女の敏感な蕾をゆっくりと撫でる。事件の高揚感と、俺への崇拝。それがスパイスとなって、彼女はいつもより遥かに感じやすくなっていた。
「今日の君は、特に素直でいい子だ。ご褒美に、いつもより気持ちよくしてやろう」
俺は、彼女の脚を大きく開かせると、邪魔なレースを片手で引き裂いた。ビリ、という音と共に、彼女の秘部が完全に晒される。恥じらいと期待に顔を赤らめる園子。俺は、その濡れそぼった花弁に顔を近づけ、舌を伸ばした。
「ひゃっ…!♡ あ、だめ、れいさ、ん、そこは…!」
彼女が一番弱い場所。俺はそれを知り尽くしている。舌先で、硬くなった蕾を執拗に転がし、吸い上げる。園子はビクビクと全身を痙攣させ、あっという間に一度目の絶頂を迎えた。シーツを握りしめ、涙目で俺を見上げる彼女に、俺は休む間も与えない。
今度は、俺自身の熱く猛るペニスを、その濡れた入り口に押し当てる。
「さあ、園子。お礼の時間だ。君の身体で、今日の俺を労ってみせろ」
「は、い…♡ 神代さんの、全部、ください…♡」
彼女は、自ら腰をくねらせ、俺のものを迎え入れる。俺は、その言葉に応えるように、一気に最奥まで突き入れた。
「んんっ!!♡♡」
狭い内壁が、俺のものを喜悦と共に締め付ける。俺は、彼女の髪を掴んで顔を固定させると、獣のように激しく腰を突き上げ始めた。
「あっ、あっ、あっ! すご、いぃ…!♡ 神代さんの、おっきい…!♡」
「名前を呼べ、園子」
「れいさんっ、れいさん、れいさぁん!♡ ああっ、好き、大好きぃ!」
俺は、彼女の言葉に満足しながら、さらに速度を上げる。ベッドが軋み、部屋中に卑猥な水音が響き渡る。俺は、彼女が何度も絶頂に達するのを確認しながら、ふと、今日の出来事を尋ねた。
「ところで、園子。今日の帰り際、蘭や、あの小さな探偵は、何か言っていたか?」
「ぁんっ!♡ ら、蘭は…! 神代さんのこと、すごく、んくっ、尊敬してたみたい…!♡ 応接室での、佐藤刑事さんとのやり取り、すごい迫力だったって、後でこっそり言ってた…!」
「そうか。あいつはまだ子供だからな」
「こな、コナンくんも…! あなたがインクのこと当てた時、すっごい顔で、警戒、してたぁっ! 『何かおかしい、ただの人間じゃない』って、蘭と話してたみたいよ…!」
「面白いな、その小僧は」
忠実な犬は、快楽に溺れながらも、俺が求める情報を的確に報告してくる。最高の駒だ。蘭が俺を「大人」として意識し、コナンが「異常者」として警戒する。全て、俺の筋書き通りに進んでいる。
「いい子だ、園子。もっと褒美をやる」
俺は、彼女の身体を反転させ、背後からの体位に変える。より深く、彼女の奥を抉るように、激しく突き入れた。
「あぎゃっ!♡♡ そこ、だめぇ! いっちゃう、また、いっちゃうからぁっ!」
彼女の悲鳴にも似た喘ぎ声を聞きながら、俺は、蘭や佐藤、灰原の顔を思い浮かべていた。一人は、もう俺の腕の中。残りの獲物たちも、いずれこうして、俺の下で快楽に泣き濡れることになる。
そう思うと、興奮で、さらに自身が硬度を増すのが分かった。
「園子、そろそろだ」
「はいぃっ!♡ いっぱい、いっぱい、神代さんの、くださいぃっ!♡」
俺は、最後の力を込めて、数回、激しく腰を打ち付けると、彼女の身体の最奥に、俺の支配の証を注ぎ込んだ。
「んんんーーーーーっ!!♡♡♡」
長い痙攣の後、園子はぐったりとベッドに沈む。俺は、その汗ばんだ背中に、満足のキスを落とした。
これで一人、俺なしでは生きられない女の完成だ。次のゲームが、ますます楽しみになった。
*
翌日。帝丹高校の教室は、いつもと変わらない賑わいを見せていた。
「神代さん、本当にすごかったんだから! 刑事さんたちより先に、全部お見通しなんだもん!」
園子が、昨日の事件の興奮を蘭にまくし立てている。
「うん、すごかったね…」
蘭は、どこか上の空で相槌を打つ。彼女の脳裏に浮かぶのは、昨日の応接室での光景。佐藤刑事と渡り合う、神代さんの、あの大人びた姿。自分が、そしてきっと新一でさえも、まだ持ち得ないあの余裕と、ミステリアスな色気。
「ねえ、蘭もそう思わない!? すっごく素敵な大人じゃない!?」
園子の言葉に、蘭はハッと我に返る。そして、少しだけ遠い目をしながら、静かに呟いた。
「…うん。本当に、素敵な…大人だと思う」
その声には、憧れとも、諦めともつかない、複雑な響きが混じっていた。
同じ頃、阿笠邸の地下室では、もう一つの会話が交わされていた。
「あの神代玲って男、やっぱり何かおかしい。ただの人間じゃない気がするんだ」
コナンが、深刻な顔で灰原に相談を持ち掛ける。灰原は、パソコンの画面から目を離さずに、いつものように軽口で返す。
「あら、あなたも大概、人間離れしてるじゃない。同族嫌悪かしら?」
だが、コナンの報告を聞き進めるうちに、彼女の指が止まった。
「…なるほど。警察ですら見落としていた、インクの特性を初見で見抜く観察眼。確かに、ただの一般人にしては、知識も、着眼点も、鋭すぎるわね」
灰原哀は、この時初めて、神代玲という存在を、解析すべき「データ」として、そして排除すべきかもしれない「脅威」として、そのリストに加えたのだった。
そして、警視庁。
佐藤美和子は、山積みの報告書を前に、深いため息をついた。頭から、昨日の男の言葉が離れない。
――もし、君が心の底から『助け』を必要とする時が来たら、心の中で僕の名前を呼ぶといい。
馬鹿げている。オカルトだわ。そう頭では分かっているのに、あの静かで、自信に満ちた声が、耳の奥で何度もリフレインする。
彼女は、無意識のうちに、ペンで書類の隅に「神」と書きかけて、ハッとして、インクが乾く前に慌てて指で擦って塗りつぶした。指先に残ったインクの汚れが、まるで、心につけられた黒い染みのように思えた。