名探偵の世界のバグ(エラー)は俺らしい 作:heatmajin
早朝。都内の高級ホテルの一室。
そのスイートルームのベッドの上で、神代玲はまだ目を閉じたまま、静かに意識を浮上させていた。
彼の意識を現実へと引き戻したのは、自分の股間で、くちゅ、くちゅと響く、生々しい水音だった。
彼の硬く朝立ちした男根を、一人の女が跪き、その口で懸命に奉仕している。
佐藤美和子だ。
彼女は非番の日ですら、こうして夜明け前に主人の元へと通い、その「朝の勤め」を果たすのが、日課となっていた。
首には、あの白金のチョーカーだけが、朝の薄明かりを受けて冷たく光っている。
彼女の刑事としての誇りは、もうどこにもない。
ただ主人に尽くす雌犬としての喜びだけが、その身体を支配していた。
彼女は巧みに舌を使い、彼のペニスの先端を舐め上げ、そしてその裏筋を、丁寧になぞっていく。
時折顔を上げ、潤んだ瞳で、眠っている(と、思っている)主人の顔色をうかがいながら。
神代は、そのいじらしい姿を、薄目を開けて楽しんでいた。
そして、彼女が再び、彼の男根を、その喉の奥深くまで迎え入れた、その瞬間。
彼は、彼女の後頭部を鷲掴みにした。
「ひぅっ⋯!」
驚く彼女の、その口の中で、彼はまるでピストン運動のように、自分のチンポを激しく突き入れた。
「んぐっ! んんっ⋯! ごほっ⋯!」
涙目になり、えずきながらも、彼女は決して、その口を離さない。
それが主人の望みだと、分かっているから。
やがて神代は、彼女の口の中で、その欲望を解放した。
その熱く、濃い、朝一番の精液を、彼女が、ごくりと、一滴残らず飲み干したのを確認してから初めて、その目を開ける。
「⋯ご苦労、美和子。行っていいぞ」
「は、はい⋯♡ 失礼します、ご主人さま⋯」
彼女は、口の端から、一筋、白い液体を垂らしながら、よろよろと立ち上がり、何事もなかったかのように、身支度を整え、部屋を静に出ていく。
神代はその姿を見送りもせず、ベッドサイドの電話を取った。
ディスプレイには、予想通りの名前が表示されている。
世良真純。
昨夜のうちに、彼が念写して送っておいた、一枚の写真。
蘭が、快感に瞳を潤ませている、あの写真。
それを見た彼女が、黙っているはずがなかった。
「⋯もしもし」
電話に出ると、受話器の向こうから、怒りを押し殺した、低い声が聞こえてきた。
『アンタに話がある。今すぐ、二人きりで会えないか?』
それは、挑戦状だった。
哀れな子猫が、その小さな爪を、懸命に研ぎ澄まして、牙を剥いてきたのだ。
神代は、心の底から楽しそうに、笑みを浮かべた。
「ああ、いいとも。君のような、可愛い子猫ちゃんからの、デートの誘いを、断る理由はないからね」
*
二人が対面する場所に、神代が指定したのは、人目につかない、ホテルのプライベートラウンジだった。
重厚な革張りのソファに、神代は深く腰掛けている。
その向かいに、世良真純は背筋を伸ばし、まるで尋問でもするかのように、鋭い視線を彼に向けていた。
「単刀直入に聞く。アンタ、一体何者なんだ?」
「さあね。君が今、目にしている通りの男だよ」
神代は、ウェイターが持ってきたコーヒーを、優雅に一口飲むと、余裕の笑みでそう返した。
「ふざけるな! あの写真⋯蘭君に、何をした!?」
世良は、テーブルを叩かんばかりの勢いで、身を乗り出す。
しかし神代は、その激情を、柳に風と受け流す。
「何をした、か。それは、あの写真が全てを物語っていると思うがね」
「てめぇ⋯!」
「まあ、落ち着けよ、子猫ちゃん。そんなに僕のことが知りたいのなら、一つ、ゲームをしないか?」
神代はそう言うと、懐から一枚の、古びた新聞記事のコピーを取り出した。
「僕の正体を知りたいか? いいだろう。なら君が、僕を驚かせるような『謎』を一つ解いてみせろ」
彼はその新聞記事を、世良の前に滑らせる。
それは、十数年前にこの街で起きた、とある資産家の、未解決失踪事件に関する記事だった。
「タイムリミットは、一週間。もし君が、この事件の、警察すらたどり着けなかった真相にたどり着けたなら。僕の秘密を、一つだけ教えてやろう」
それは、彼女の探偵としての、最後のプライドを試す「試験」だった。
そして彼女が、決してクリアすることのできない、仕組まれたゲームだった。
世良は、唇を噛んだ。
この男の、人を食ったような態度には、反吐が出る。
しかし、ここでこの挑戦から逃げることは、彼女のプライドが許さなかった。
「⋯いいだろう。その挑戦、受けてやる。だが、もしボクが謎を解いたら、アンタには、蘭君にしたことの全てを、話してもらうからな」
「ああ、約束しよう」
神代は、心の底から楽しそうに笑った。
哀れな子猫が、自らその首を、罠に突っ込んできたのだから。
*
世良はその挑戦を受けた。
彼女はコナンにも、そして兄たちにも頼らず、たった一人で、その十数年前の未解決事件の調査を開始した。
それは、探偵としての彼女の、意地であり、プライドだった。
しかし調査は、想像を絶するほど、難航した。
古すぎる事件。残された、あまりにも少ない資料。そして、関係者たちの、固く閉ざされた口。
いくら彼女が優秀な探偵だとしても、物理的な時間の壁はあまりにも厚く、そして高かった。
タイムリミットの前日。
世良は、自室のベッドの上で、捜査資料の山に埋もれていた。
いくつかの仮説は立てた。しかし、そのどれもが、決定的な証拠を欠いている。
万策尽きた、と言ってよかった。
「くそっ⋯!」
彼女が苛立ち紛れに壁を殴りつけた、その時。
スマホが、短く震えた。
神代からのメッセージだった。
『行き詰まっているようだな、子猫ちゃん』
その、全てを見透かしたかのような文面に、彼女は吐き気を催すほどの屈辱を覚えた。
『特別に、ヒントをやろう。失踪した男が、最後に立ち寄ったとされる、バーの名前。その店の古いロゴマークを、よく見てごらん。鏡に映せば、別の意味が、見えてくるはずだ』
その、あまりにも的確な、神の視点からのヒント。
それに導かれ、彼女は、まるでパズルの最後のピースがはまるかのように、事件の驚くべき真相へと、一直線にたどり着いてしまった。
犯人は、誰で。
動機は、何で。
そして今、その死体が、どこに隠されているのか。
その全てを。
翌日。
再び、あのホテルのラウンジで、二人は会った。
世良は、自分が突き止めた完璧な真相を、震える声で、しかし、淀みなく神代に語って聞かせた。
全てを聞き終えた後。
神代は、パチパチと、わざとらしく拍手をした。
「見事だ。実に見事な推理だよ、世良君」
その言葉に、世良の顔にほんの少しだけ、誇りの色が浮かぶ。
しかし、その希望は、次の瞬間、無慈悲に叩き潰された。
「だが」
神代は、その表情からすっと笑みを消した。
「残念ながら、君は、僕の助けがなければここにはたどり着けなかった。つまり、試験は不合格だ」
その、冷徹な宣告。
世良は、何も言い返せなかった。
ぐうの音も出ないほどの、事実だったからだ。
探偵としての、彼女のプライドが、音を立てて砕け散った瞬間だった。
「ふざけるな⋯!」
世良のか細い肩が、悔しさに震える。
探偵として、完膚なきまでに敗北した。
しかし、彼女にはまだ、最後の武器が残っていた。
「アンタが蘭君にしたことを、忘れたわけじゃないぞ」
彼女は、静かに椅子から立ち上がると、臨戦態勢を取った。
その瞳には、もはや知的な探偵の光はない。ただ獲物を前にした、飢えた獣の、獰猛な光だけが宿っていた。
「そのふざけた口を、二度と聞けなくしてやる!」
彼女はカフェのテーブルを蹴り倒し、一直線に神代へと、その鋭い蹴りを叩き込んだ。
ジークンドー。ブルース・リーが創始した、無駄を一切省いた実戦的な格闘技。
その達人である彼女の蹴りは、常人であれば、まず目で追うことすらできないはずだった。
しかし。
神代は、超能力を使っている素振りなど、一切見せない。
彼はまるで古武術の達人のような、流れるような動きで、彼女の目にも止まらぬ連撃を、全て最小限の動きで受け流し、いなしていく。
「なっ⋯!?」
世良の顔に、驚愕の色が浮かぶ。
おかしい。当たらない。
自分の渾身の技が、まるで水の中を空振りしているかのように、この男には全く届かない。
(実際には、透視で、彼女の筋肉の動きを完全に予測し、サイコキネシスで、その攻撃の威力を触れる寸前で殺している。しかし、世良にはそれが、ただの神業のような体術にしか見えない)
焦れば焦るほど、彼女の攻撃は空を切り、逆に自分の体勢が崩れていく。
そして最後に、彼女が起死回生の飛び蹴りを放った、その瞬間。
神代は、初めて動いた。
彼は、彼女の蹴り足の、その華奢な足首を、いとも容易く片手で掴むと、そのまま体勢を崩させ、ラウンジの分厚い絨毯の上に縫い付けた。
「武術とは、力ではない。流れを読むことだ。君にはまだそれが、分かっていないようだね」
彼は完全に「武術の達人」として、彼女をやり込めたのだ。
探偵としても、武道家としても。
彼女は今日この日、この場所で、二度の、完璧な敗北を喫した。
もう彼女には、何も残っていなかった。
「う⋯うわあああああああん!」
ついに彼女の心のダムが、決壊した。
世良は、床に縫い付けられたまま、子供のように声を上げて、泣きじゃくり始めた。
それは悔し涙であり、そして自分の、あまりの無力さを嘆く、絶望の涙だった。
神代は、その泣きじゃくる、哀れな子猫を、ただ静かに見下ろしていた。
そして、彼女が少しだけ落ち着くのを待ってから、静かにその場にしゃがみ込んだ。
彼は、泣き腫らした彼女の顎を、無慈悲に掴み、その顔を無理やり上向かせた。
そして彼は、まるで戦利品に刻印を押すかのように、その抵抗する唇に、深く、激しいキスをした。
「んんーーーっ!」
世良は必死で、その唇を固く閉ざそうとする。
しかし神代は、それを許さない。
彼はキスをしながら、ごく微弱な、しかし抗いがたい精神感応を、彼女の脳へと直接送り込み始めた。
「抵抗してはいけない」
「このキスを受け入れろ」
「気持ちいいだろう?」
その甘い命令が、彼女の思考の内側から直接響いてくる。
同時に、彼の舌は、まるで生き物のように、彼女の唇をこじ開け、その口内へと侵入してきた。
それはただ、乱暴なだけのキスではない。
彼女が今まで知り得なかった、男と女の、最も原始的で、そして官能的なテクニックの全てが、そこには凝縮されていた。
舌が、敏感な粘膜を、撫でるたびに。
歯列を、なぞるたびに。
喉の奥を、突かれるたびに。
彼女の身体が、びくん、びくんと、意思とは無関係に跳ね上がる。
「あ⋯ん⋯♡ な、に⋯これ⋯♡」
悔しい。
屈辱的だ。
こんな男に、こんなことをされているなんて。
そう、頭では分かっているのに。
脳に直接流し込まれる、快感の信号と。
現実の唇から伝わってくる、あまりにも巧みすぎるキスのテクニック。
その二重の波状攻撃に、彼女の思考力は、急速に麻痺していく。
悔しさも、怒りも、プライドも。
全てが蕩けるような、甘い痺れの中に、溶けて、消えていく。
長い、長い、キスの後。
神代はその、完全に腰が抜けて、瞳の焦点が合わなくなった彼女の唇を、解放した。
二人の間には、銀色の、いやらしい糸が引かれている。
そして神代は、息も絶え絶えの彼女の耳元で、悪魔のように囁いた。
「君が必死に守ろうとしている母親⋯メアリーさん、だったかな?」
「⋯ッ! なぜ、その名前を⋯!」
その名前に、かろうじて、世良の意識が現実に引き戻される。
母親。
自分の、たった一つの、守るべきもの。
「彼女を救いたくはないか? あの、APTX4869の呪いから」
神代は、彼女の最大の、そして唯一の弱みを、的確に突いてくる。
その言葉は、絶望の淵に垂らされた、一本の蜘蛛の糸だった。
たとえその糸の先が、さらなる地獄に繋がっていると分かっていても。
彼女にはもう、それに縋るしか道は残されていなかった。
「⋯アンタなら、母さんを助けられるのか⋯?」
震える声で、彼女はそう尋ねる。
それはもはや、問いかけではない。
懇願であり、祈りだった。
「ああ。いずれな」
神代はあっさりと、そう肯定した。
「だがそのためには、君もそれ相応の『対価』を払う必要がある」
彼は、床に縫い付けられたままの、彼女のその、ボーイッシュなTシャツの裾を、ゆっくりと捲り上げていく。
そしてその、まだあどけない白い腹を、手のひらで愛おしむように撫でた。
「まずは、僕の犬になることから始めてもらうとしようか」
世良はもう抵抗しない。
いや、できなかった。
彼女は今日、探偵としても、武道家としても、そして今、女としても、この男に完膚なきまでに敗北したのだ。
彼女の琥珀色の瞳から、一筋、熱い涙がこぼれ落ちた。
それは悔し涙ではない。
全てを諦め、そして、全てをこの男に委ねることを決意した、降伏の涙だった。