※この作品はR-18です。

残骸置場   作:逃走‼蜚蠊男

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削除した残骸
講道館以外が柔道名乗ったので感想欄のコメントで怒られた回の残骸でもある


闘辰館柔道

 身長188cm体重105kg

 闘辰館柔道に於いて段位は五段。

 実力的には六段七段有っても申し分がない水準だ。

 

 素行は悪い。

 暴力事件なども常に付きまとっている。

 そして、それらを悪びれる事はなく、寧ろ、誇る程なのだ。

 

 だが、そうした素行の悪さは昇段には何も影響しない。

 昇段しない理由は年齢的なものである。

 六段を取得可能な最小年齢に達していないだけなのだ。

 

 又、恐ろしい事に、この闘辰館は、暴力を推奨している。

 確かに神心会なども、そうした側面はある。

 しかし、闘辰館は根底から、武術を暴力として使う事を良しとしている、そんな心構えなのだ。

 

 ──辻投げ

 いつの時代の話しかと思われても仕方がない所業である。

 一握りの高弟に辻投げをやらせるのだ。

 神室町がその舞台だ。

 有名な格闘家、無名の格闘家、町の喧嘩屋

 相手は問わない。

 投げとは言え、当然、関節も極める、絞め技も行う。

 

 あらゆる柔道の技術を用いて、相手を叩きのめすのである。

   

 この悪徳柔道家──

 名を竹内久信と言う。

 彼もまた、闘辰館の高弟の一人だ。

 

 彼の叔父は、警視庁内閣府調査室、通称MIA(ミニストリー・インテリジェンス・エージェンシー)の室長『竹内政信』と言う人物だ。

 彼は、神宮京平亡き後、直ちにその役職についた代議士である。

 その役職に就く以前からも、総理大臣の首すら容易くすげ替えると言われる、闇の内閣府の長であった。

 そんな危険人物を叔父に持つ、彼も所謂、超上級国民の一角なのだ。

 故に、数多の暴力事件──例えば辻投げなども難なく揉み消せるのである。

 

 闘辰館柔道──

 初代館長は竹内政信の祖父『寛信』と、若い流派道場だ。

 柔道と言うが、そのルーツは、柔術にある。

 政信の家系そのものが、予てより柔術とは縁が深い。

 日本でブラジル人柔術家『ホセ・ラモス・ガルシーア』や『マリオ・ヒベーロ』などが知られ、極めてホセのガルシーア一族の人気が出始める頃には、ブラジルからブラジリアン柔術家をよく招来する様にもなっていった。

 生憎、ガルシーア一族を迎えるには至っていないが、師範や指導員の中にはブラジル人が多く、ブラジリアン柔術も教えているのだ。

 

 現在、この闘辰館には、有望株とされる門下生が在籍している。

 一年程前からだ。

 それは、大相撲で有名な蒙将龍である。

 蒙将龍とは、かの金竜山や零鵬、古くは龍金剛に並び称される名横綱だ。

 マスコミや弟子に対する暴言や暴行──その素行の悪さから角界を追放されたのである。

 その後、紆余曲折あり、蒙将龍はこの闘辰館に流れ着き、柔道──柔術を学んでいた。

 そうしたトップアスリートで構成される転向組とも言える実力者も、数多く擁しているのが、闘辰館なのである。

 

1.

 ──真冬が、今、目にしている物こそ、闘辰館が行っている辻投げであった。

 今夜のターゲットが、たまたま神心会の門下生で、辻投げが真冬の眼前で始まったのだ。

 

 そして、先に仕掛けたのは神心会であった。

 

 木塚は左拳を退いた。

 そして左拳に続き、右腕が弧を描いていた。

 右拳が流れる様に疾った。

 拳が振り抜かれると、人体を打つ音と、大気が破裂するような音が響く。

 右拳が、久信の顎を貫いたのである。

 

 このタイミングで、悲鳴が聞こえた。

 井上の悲鳴も混じっているが、野次馬で集まって来ていた者達が発した悲鳴だった。

 赤牛丸の店員も、慌てて、自動ドアへ駆け寄った。

 

 だが、誰も止めようとしない。

 止められる訳が無いだろう。

 

 188cm の男を殴り付ける空手道着を身に付けた男。

 その空手道着の男も180cm程度の体躯である。

 勿論、鍛え上げられた筋肉が道着の上からでもはっきり見て取れる。

 久信を打った拳は、まるで石器の様な武骨さがあった。

 幾つもの打製石斧を束ねて一つにしたような、荒々しく、武骨で硬い拳である。

 

 木塚の顔は真っ赤に染まっていた。

 殴られた側ではなく、殴り付けた側の顔が真っ赤なのだ。

 それは、怒りによる物だ。

 怒りの熱が顔全体に浮かび上がっているのだろう。

 

「殴った!」

 

 悲鳴が上がった時、そんな声も張り上げられていた。

 周囲ははっきり誰が言ったのか気付いていない。

 恐らく、確信を持って、叫んだものが誰なのかを答えられる人間は、この場では真冬だけである。

 

 ──殴ったと叫んだのは、闘辰館のメンバーであった。

 

 態とらしく、そう言ったのだ。

 

 先に手を出したのは神心会──そう印象付ける為だろう。

 仮に、目撃した者に現場検証の者が尋ねても、皆、神心会が殴ったと言うだろう。

 全面的に神心会を悪とする。

 真冬には、そんな思惑として見て取れた。

 

 かなり狡猾な連中である。

 

 そして、

 ──効いてない。

 真冬は、そう呟き、顎に二発のパンチを受けて尚、微動だにしていない久信をじっと見据えた。

 眸は虚ろなままだ。

 だが、若干揺れてもいた。

 その揺らぎは、彼女に芽生えている動揺かも知れない。

 ──強いな、この人。

 その小さな、端的に紡がれた言葉に、確かな驚愕が込められていた。

 

 だが、真冬以外──大半の者は、顎への打撃により、脳が揺らされ朦朧としている。

 そう受け取ったのだ。

 久信が、何らかの行動を、未だ、起こしていなかったからだ。

 木塚もまた、そう判断したのか、止めに打って出たのである。

 

 初撃の刻み突きで、顎が砕けていても可笑しくない。

 木塚の鍛え上げられた拳から繰り出される一撃は、容易く頭蓋骨を陥没させてしまう。

 彼の打拳を喰らう、それは石を思い切り、投げ付けられるようなものであった。

 

 木塚は、激しいコンビネーションのラッシュを見せた。

 気が遠くなる程の反復練習。

 その末に組み立てられたコンビネーションである。

 打つ為に必要な手順を、既に考える必要さえ無い。

 身体が覚えているからだ。

 

 手数が尋常ではない。

 その全てを目で追えている者は、この場の野次馬と言う点で言えば真冬だけであった。

 拳と足、掌、膝、脛、肘──

 様々な部位が叩き付けられる。

 前面から見える久信の様々な部位が、木塚のラッシュの速射に貫かれるのだ。

 

 例えば膝が鳩尾に突き刺さるのとほぼ同時に、若干のタイミングがずれて脛が跳ね上がり顳顬を打ちつけ、そして肘が脇腹に飛んでくる。

 そうした物が様々なバリエーションで仕掛けてくるのだ。

 単純な物から複雑な物、多様なコンビネーションのラッシュをまさに全身で繰り出していた。

 

 久信は、若干体を下げ、防御の態勢で耐えているだけの様に見えた。

 久信が着ている冬服とズボンが、既にボロのようになっている。

 彼等闘辰館の男達はみんな、私服である。

 

 ラッシュを続け、木塚は一瞬の間すら置かず、コンビネーションの続きから、渾身の一撃を放った。

 

 全身全霊かけて放たれる拳──

 

「ぁれ?」

 その拳が、放たれるより僅かに前、真冬は声を上げた。

 その声の後、残る闘辰館の男達二人が脱兎の如く逃げ出したのだ。

 

 一人はミレニアムタワーが聳える泰平通り側に、一人は彼等が歩いて来た天下一通りの方向だ。

 その天下一通りを真っ直ぐ南に進むと、神室町の入口として有名な、天下一通りと輝くあのネオンのアーチ看板が見えてくるだろう。

 

「辰じゃなくて卯じゃねぇか」

 野次馬がポツリと言った。

 恐らく彼も『脱兎の如く逃げたな』などと考えたのだろう。

 そこで干支で言う兎の『卯』と、闘辰館の『辰』を掛けたのだ。

 ──卯と辰、どちらも干支だ。

 

 その男のしょうもないジョークと、いきなり逃げ出した二人の柔道家の余りに滑稽な姿が合わさり、野次馬達は無情にも、爆笑したのである。

 

 手を先に出したのは確かに神心会だ。

 だが、絡んでいたのは闘辰館の方である。

 先に殴ったのは神心会、でもそれは絡まれたから。

 野次馬達は、事情聴取でそう説明するだろう。

 だが、それでも、不利なのは神心会の木塚である。

 その卑怯な闘辰館の三人組のうち二人は無様に逃げ出した。

 それが野次馬達は面白かったのだろう。

 

 真冬は、彼等が逃げ出す前から、その行動を取る事に気付いていた。

 そして、逃げ出す際の、彼等の心の裡に恐怖の色などが無かった事までも察していた。

 

 無論これは、精神感応の様な超能力ではない。

 筋肉の動きや、それにより生じた微細な震動を感じ、脈拍数や心音を聞き、発汗などによる臭いを嗅ぐ、そうしたものから精神状態を察するのだ。

 真冬は、その気になれば、応用として、昆虫相手にもこの千里眼或いは心眼のような察知能力を発揮し、パッと周囲に逃げ出す複数の蜚蠊を捕らえる事さえ可能であった。

 しかも、羽根を折らず脚を挫かせる事無く、生かしたまま逃がす技術をも持ち合わせている。

 

 彼等がこの場を去った理由、それは、最初から、久信だけが『辻投げ』を行う予定だったからであろう。

 仮に複数──今回の場合二人で来られたら三人で仕留める。

 

 ならば、彼等が消えたのは──

「一人で二人を、問題なく、倒せると考えたから、かな」

 

 真冬の声は幽鬼の声だ。

 か細く、心霊が耳元で囁く様な声は、すっと冬の大気に消えていった。

 その声は雪のように直ぐに溶けてしまい、誰の耳にも届いていない。

 白い少女は、やはり声も白いのだ。

 

 

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