※この作品はR-18です。

残骸置場   作:逃走‼蜚蠊男

7 / 10
没ネタの残骸で、これも未完


没ネタ残骸

 

 

0.

 肌寒さが増していた。

 クリスマスのイルミネーションが、華やかだった街並み。

 そうした、光りの片隅に、闇が冷たく蟠っている。

 幸福や救済などとは無縁な、生まれながらの無縁仏が眠る、荒涼とした墓場の様な闇である。

 

 そこは、見窄らしく汚ない一室であった。

 六畳一間のアパートだ。

 築何年になるだろう。

 昭和の時代から取り残されているような、二階建ての木造アパートだった。

 その部屋は二階にある。

 

 201号室──

 

 内装も外装も古い。

 窓は一つ。

 遮光カーテンすら付いていない。

 薄い木製のドアのポストには、無数のチラシが突き刺さっている。

 溢れていた。

 宗教の勧誘などのチラシも見られた。

 こうした人間を狙った、貧困層が暮らす住居特有の勧誘チラシである。

 トイレと炊事場、洗濯機も共同で、風呂場は無かった。

 余程の訳有りか、生活保護受給者が住む、極貧困層用のアパートなのだ。

 六畳一間には、家具が見られない。

 人が生活する上で必要な物が、何一つ無いのである。

 毛布一枚敷かれていない。

 監獄の方が余程ましだろう。

 

 テレビ

 冷蔵庫

 掃除機

 炊飯器

 空調──

 当然ながら、現代ではありふれた電化製品なども、有るわけが無い。

 

 層となり積み重なったゴミだけが、この部屋に存在している物である。

 此処彼処に、大小無数の蜚蠊が這っている。

 大半が惣菜の入れ物だ。

 その入れ物に集っている蜚蠊の姿もあった。

 

 ペットボトルなども散乱していた。

 そのペットボトルの中に水が入っている物もあり、それはゴミではなく使われているようだ。

 炊事場の水道水を汲んで、飲み水にしているのだ。

 

 天井には、灯りとなる照明は無かった。

 有ったとしても電気がこの部屋には通っていないのである。

 電気代を支払っていないからだ。

 

 部屋の内部は、この殺風景な部屋に相応しい寒々強い冷気に満ちていた。

 この部屋には、蜚蠊以下の人間が棲んでいるのだ。

 

 住人は、汚ならしい女と少女である。

 

 その蜚蠊の様な少女が、低い天井を見上げていた。

 貧相な少女だ。

 薄汚れている。

 

 所謂、ネグレクト状態にある少女だ。

 年齢は、九歳。

 髪や身体は、外の公園で洗っている。

 しかし、石鹸を使った事が無い。

 故に、髪も肌も薄汚れた、浮浪児宛らであった。

 

 身に纏う衣服も汚ならしく、とても平成の日本で暮らす少女には見えなかった。

 元は白い半袖シャツだった。

 だが、今は所々解れ、汚れている。

 胸元は、赤黒く染まっていた。

 血の跡である。

 誰の血か。

 少女の血である。

 母は駆除の為と言うが、一般的には虐待行為により、赤子の頃、母親から彫刻刀を突き立てられたのだ。

 

 シャツは、丈が合っていない。

 かなり、大きめのものだ。

 その為、ワンピースのような状態になっている。

 これは、衣服に金を使わない為の苦肉の策であった。

 この寒い中、裸足だ。

 

 髪が長い。

 長年、手入れされていないようで、伸びっぱなしなのだ。

 

 その長い髪の色が不気味であった。

 肌の色も異様であった。

 余りにも白過ぎる。

 口唇も、死体の様に白い。

 だが、双眸が、血濡れた様に紅い。

 先天性色素欠乏症である。

 

 その見目は、まさしく、幽鬼のようだ。

 母からは、蛆虫と呼ばれている、當之真冬という少女であった。

 何故蛆虫なのか。

 白いからである。

 

 そもそもが、真冬の父が言い出した事だ。

 

 実の父ではあるが、両親は夫婦ではない。

 愛人ですらない。

 母の蓮美は、その男の、子を孕む為の袋であった。

 父は、蓮美の血と遺伝子を必要とし、利用しただけである。

 

 當麻塵滅流宗家──

 父は、その、武術流派の娘の血を欲したのだ。

 蓮美の方は、男に恋い焦がれ、狂っていた。

 それも真冬の不幸であった。

 

 しかし、真冬の最たる不幸は、雌(むすめ)として、産まれてしまった事である。

 父は、息子を望んでいた。

 強い──強くなる可能性を秘めた息子をである。

 その男にとって、娘など必要ではないのだ。

 娘では、彼の遺伝子を全うに受け継ぐ事が出来ないからだ。

 此の世に生を受けた時から、誰にも望まれぬ命となった、忌むべき少女、それが真冬だ。

 生まれながらに、冷たく寒い、厳しい『真冬』を生きるだけの、悲運の途を辿る事になる、そんな娘なのである。

 

 ──馬鹿者が、雌(むすめ)なんぞ産みやがるとはな

 ──しかも、なんだこりゃあ、随分、生(なま)っ白(ちれ)ぇ餓鬼だな

 ──蛆虫かよ、こいつ

 ──こりゃあ、江珠(あいつ)の刃牙(ガキ)の方が使えそうな分、まだマシだぜ

 ──お前のほうで駆除しとけよ、その害虫(ガキ)をよ

 ──ふん、當麻塵滅流ねぇ、糞の役にも立たねぇ女だったぜ、お前(めぇ)も、その害虫(ガキ)もよ

 ──いや、そいつに、いずれ、俺の餓鬼を孕ませるのも悪くねぇ

 

 それだけを言い渡され、産まれたばかりの真冬と蓮美は、あっさりとゴミクズ同然に棄てられたのだ。

 

 そうして、母の蓮美は、真冬を憎んだのである。

 特に最後の言葉だ。

 この害虫に、愛する男をいつか奪われる。

 娘への激しい憎悪と、嫉妬により身を焦がしたのだ。

 

 弱い娘なんていらなかったのよ。

 あの人に棄てられたのはお前のせいよ。

 見苦しいのよ、蛆虫。

 蜚蠊は早く死ね。

 使えない屑虫よね。

 産まれながらの害虫が。

 お前が産まれた日が私の命日だよ。

 疫病神。

 蛆虫の餌は生ゴミで良いわよね。

 外のゴミクズでも食ってろ、蜚蠊。

 蛆虫が話すな。

 帰ってくるなよ、もう。

 

 父からも母からも愛され無かった娘、それが真冬だ。

 母から向けられる物は常に憎悪であった。

 故に、真冬が母から掛けられた言葉は、九年間で、概ねそれくらいであった。

 

 真冬が見ているのは、天井ではない。

 その天井から、ぶら下がっている女の死体である。

 母親が、首を括り、吊り下がっていた。

 両手首も切っている。

 恐ろしい顔で、真冬を睨み付けていた。

 もはや、何もその目には映していないが、真冬は、そう思ったのだ。

 蜚蠊が集っている。

 蜚蠊が母の肉を食らっているのだ。

 手首に集っている蜚蠊は、剥き出しの血肉を食らっている。

 舌がだらりと垂れ下がり半開きとなった口から、ヤマトゴキブリが、母の体内で、越冬しようとしているのか出入りを繰り返している。

 母親を食らっている。

 虫達が、母を、弔ってくれている。

 この子達の中で、母は生きる。

 そう思うと、真冬は嬉しくて泣いていた。

 虫達が食べると、母親は死んでも、彼らの中で母は生き続ける。

 

「ありがとうございます。戦友、あなたのお陰で母はあなたのなかで生きるんですね」

 

 母親は、もう居ない。

 胸が、痛い。

 ──あぁ、そうだ、彫刻刀。

 ──お母さんが私の胸を痛くしてくれた刃物だ。

 ──だから、ずっと持っていよう。

 

 痛みと血。

 それだけ、お母さんが私にくれた。

 大事な物だ。

 血。

 真冬は、自身の紅い眸より朱く黒ずんでいる、畳の上の水溜まりに舌を這わせた。

 血と糞尿が混ざりあった水溜まりだ。

 苦く鉄臭く、しかし、脳が痺れる様に、甘くなる。

 先端が蛇のように二つに分かれた舌を、その水溜まりに這わせ続けた。

 蜚蠊達と共に、弔いを続けるのだ。

 

 

1.

 少女は、その日の夢をたまに見る。

 それは、トラウマなのか、母の死と言う、母との数少ない思い出故に見る夢なのか。

 

 少女自身、理解出来てはいない。

 ただ、目覚めた時に、一抹の寂しさ、暖かさが、胸の中に重石となって落ちて来て、そして、涙が出ているだけだ。

 

 目を擦った。

 痒みに似た感傷が、心と眼に残っていた。

 

 ──まだ、眠い。

 少女──當之真冬は、無意識的に口を開けて、深く息を吸った。

 ──何時だろ。

 床の置き時計に視線を向けた。

 

 夕刻だった。

 18時20分──

 

 ──さて、どうしよう。

 真冬は、布団を這い出る。

 二度寝も、考えたが、一先ず、何かを食べようと思ったのだ。

 喉の渇きも感じた。

 

 布団に入っているとまだ暖かったが、出てしまうと冷やりとした大気に肌を刺された。

 

 母を喪ったのは三年前の冬である。

 年の瀬も近い。

 

 だが、布団から這い出た真冬は裸体だった。

 寒くて当然だが、眠る時は、つい裸体になってしまう。

 厭な癖だった。

 

 来年、13歳になる。

 その年齢の割に、真冬の身体はほっそりとしたものだった。

 

 胸元の抉られた傷痕が、痛々しい。

 心臓の真上辺りだろう。

 何度も刺され、その時、刃物を捻じ込まれ抉られる。

 そうした傷痕であった。

 母から受けた虐待の跡である。

 駆除しとけよ──真冬の父がそう言った瞬間、最初の傷が植え付けられたのだ。

 母は、我が子をいとも簡単に、棄てたのだ。

 愛する男と不要な娘、それは天秤にかけるまでも無かった。

 

 似たような傷が、下腹部にもあった。

 開腹後の手術痕も見られた。

 ある事件により、真冬は子宮を摘出することになったからだ。

 

 12歳の少女とは思えぬ、悍ましい肉体である。

 娘として産まれた事を疎まれ、加えて子を孕めない雌としての価値を失っている身体。

 

 女である身体。

 女である必要すらない肉体。

 ──真冬の身体は、すべてに於いて、恥ずべき肉体なのだ。

 

2. 

 真冬は、人目を引く少女でもあった。

 道端であれ、何処であれ、彼女と、すれ違うと、大抵の人間が、興味を持つだろう。

 そんな容姿の少女である。

 

 絹の様な白い髪は長く伸ばされている。

 肌は、清楚で嫋やかな白磁の様に白い。

 うっすらと、血管が透けて見える程である。

 虚ろ気な双眸は、紅く、ルビーの輝きを思わせる。

 

 そして、顔立ちも、とても美しい少女であった。

 陶磁器の人形──

 或いは異形の美しさを湛えた雪女。

 そんな印象である。

 

 年齢は、幼くも見えた。

 だが、眸の裡、虚ろな紅い目の奥からは、強固な意思の光りが感じられ、大人びているようにも思えてしまう。

 見た目からは、年齢が把握し難い、そんな少女である。

 実年齢としては、12歳──

 若く見えるか、大人びていると感じるか。

 人によって、受け取り方が変わりそうであった。

 

 身長は、160cm程度。

 ほっそりとした身体を見るに、体重はかなり軽そうに見える。

 胸の膨らみは、あまりにも幼い。

 12歳のそれではない、幼過ぎる物である。

 有り体に言えば、貧乳──

 少し良く言うならシンデレラバスト──

 

 和装にアレンジされたゴスロリ衣装をその慎ましやかな身体を飾るように、そして恥ずべき肉体を隠すように纏っている。

 着物の様に前合わせの形状のフリルブラウス。

 振袖風だが、袖口はフリル状になっていた。

 肩口に、エプロンドレスで見られるような肩紐と肩フリルが装飾されている。

 それらは白い。

 袴の様なミニスカートには、白と黒のレースとフリルがふんだんにあしらわれている。

 色は全体的に白いが、ミニスカートから伸びる細い脚を包むガーターニーソックスは黒だった。

 太股と膝の間のガーター部分は白いレースとなっている。

 ヘッドドレスは、ガーターニーソックスと合わせているのか、基本は黒いレース生地だ。

 白いフリル状の生地も重ねるようにあしらわれ、そこもガーターニーソックスの白いレース部分に合わせて飾られているようだ。

 右端に花弁状の黒いリボンが咲いていた。

 靴は薄い紅色のハーフブーツである。

 

 ヤマトゴスロリのヤマトゴキブリ──

 

 それは、真冬が自身を紹介する際に使う名称だ。

 語感の良さを気に入っている。

 この様な、和風ゴスロリを着ている時に、そう名乗るのだ。

 和風ゴスロリを身に纏っていると、時間は、19時近くになっていた。

 小さな窓から差していた夕焼けの灯りも、少しずつ闇へと、傾き出している。

 

 真冬自身、こうしたゴシック&ロリータはかなり好みである。

 着替えるのに、若干手間取るのが難点だが、純粋に可愛いと思っていた。

 

 だが、これらの衣服は彼女の持ち物ではない。

 ある人物から、宛がわれたものであった。

 無論、自分で買おうにも、恐らく手が出せない値段だと思われる。

 

 さて──お水を。

 と、真冬は、紙コップを手に取る。

 それは、床に直置きされていた。

 そもそも、この部屋に、テーブルや棚と言った物がなかった。

 しかも、この紙コップは、新しい物では無い。

 ディスカウントショップで、1パック15個入りを110円で買った、安物紙コップだ。

 本来なら使い捨てである。

 だが、真冬は、一つを何度も使う。

 一ヶ月で一個使い潰し、一年かけて、三個余る。

 そんな貧乏臭い計算だった。

 

 そのコップを手に、真冬は、部屋を出た。

 ここは、六畳一間の薄汚れた木造アパートの一室だ。

 部屋の中に水道が設置されていない。

 

 部屋から出て、共同の炊事場の水道を使う必要があるのだ。

 そして、真冬は、その水道から出る水を飲み水にしている。

 

 寝起きで乾いた喉を、その水で潤すのだ。

 恐らく、品質は良くない水であろう。

 アパートの屋上の貯水槽に貯まった水だ。

 この、昭和から取り残されたようなアパートの貯水槽。

 決して清潔ではない。

 

 昭和なら、ネズミ辺りが浮いていても可笑しくない貯水槽なのだ。

 たまに開いていて、雨水が流れ込んだりもする。

 そんな時代の貯水槽が、今も残っており、使われているのだ。

 

 流石に、現在はそこまで不潔では無いだろうが、信用度は高くない。

 

 軋む様な音を立てて、薄い木製のドアが開く。

 鍵が掛かっていない。

 掛けていないのではない。

 そもそも、鍵が付いていないのだ。

 ここに引っ越して来た際に、既に鍵が壊れており、鍵を付けるには15万円必要だと言われ、結局、真冬は鍵を付けなかったのだ。

 概ね、作業費込みで五万程度で可能な工事だ。

 大家はかなり、吹っ掛けて来たのだろう。

 

 真冬が、ドアを開けると、正面の部屋のドアが少し開いている。

 外の様子を確かめる様に、そのドアの向こうに何者かが潜んで居るようだ。

 

 一人。

 息遣いが聞こえる。

 

 真冬は気にせず、炊事場へと歩いた。

 靴は履いていない。

 一階に、銭湯のクツ箱のような、大人数用のクツ箱が置いてある。

 そのクツ箱に、アパートの住人の靴が仕舞われている。

 そして、玄関で、靴を履くのだ。

 真冬が、ドアを閉め、炊事場へ向かった。

 

 廊下を挟んで、両サイドに部屋がある。

 その奥に炊事場があり、そこを過ぎると階段があり、一階に降りられるのだ。

 

 部屋は二階に六部屋。

 真冬の部屋は201号室だ。

 真冬の部屋の隣が202号室。その正面の部屋は205。

 炊事場近くが203号室である。その前が206。

 水を入れて、戻る。

 

 正面の部屋はまだ開いている。

 その部屋はつまり、204号室だ。

 部屋に戻る時、その部屋を真冬は、背にしなければいけない。

 

 勢い良く、205号室の扉が開いた。

 そして、何者かが、真冬の元へと踏み込んで来たのだ。

 部屋のドアとドアは凡そ3m離れている。

 

 その距離を一瞬で詰めてきた。

 同時に、204号室も開く。

 

 詰めてきた男の右手には金属バット、左手にはビール瓶が握られていた。

 ──後頭部

 ──続けて側頭部

 両手の凶器を真冬へと叩き付けたのだ。

 

 その後、204号室の男が飛び出し、真冬の背中に向かって抱き付くように両腕を回して来たのだ。

 そして、真冬の部屋へ押し入ったのである。

 

 205号室の男が扉を閉めた。

 鍵を掛ける積もりだったが、鍵が掛からず、若干の動揺を見せた。

 金属バットで、後頭部を殴る。

 そして、勢い付けたままに、ビール瓶を側頭部へと薙る様に叩き付けた。

 

 そこで、背後から別の男が掴みかかる。

 

 手馴れていた。

 まず、少女を、躊躇いなく、金属バットとビール瓶で殴り付ける度胸が凄まじい。

 ビール瓶は、633mlサイズの大瓶である。

 大瓶の重さは約600g

 金属バットは約900g

 それで少女の頭部を殴り付けたのだ。

 頭蓋骨が陥没しても不思議ではない。

 

 しかも、フルスイングで殴ったのだ。

 風を切っていた。

 意識を断たれ、最悪、死ぬ可能性だってある。

 

 金属バットは、僅かにへこみ、大瓶は、なんと殴り付けた部分が割れて、玄関付近に瓶の破片が散らばっていた。

 

 当然、瓶が割れる音が聞こえた。

 そこで、直ぐ様、もう一人が飛び込み、真冬の部屋に雪崩れ込んだのである。

 そして、殴り付けた男は扉を閉めたのだ。

 仮に他の部屋の者が扉を開け、様子を見ても、既に彼らは真冬の部屋にいるのだ。

 

 目撃されず、真冬の部屋に押し入ったのであった。

 

 男達は、元々、計画を立てていた。

 真冬の容姿に目を付け、機会があれば、こうして、襲おうと考えていたのだろう。

 

 まず、205号室の、バット男。

 金属バットマンは、身長178cm体重88kg

 それなりに、鍛えた肉体の持ち主だ。

 

 204号室の男は更に、巨漢であった。

 身長186cm体重108kg

 

 このアパートは、貧困層が集まる。

 それは、生活保護受給者や、日雇い労働者、あるいは、やくざの囲いであるホームレスだ。

 一階の住人は、そうした囲いとなっているホームレスである。

 彼らは、一つの部屋に数人で住む。

 そして、みな、生活保護を受給する。

 それはやくざに流れる。

 所謂貧困ビジネスである。

 

 恐らく、このアパートの大家はやくざの周辺者と呼ばれる者だ。

 

 そして、この、男達は、そうした生活保護受給者ややくざの囲いではなく、日雇いの肉体労働者だろう。

 身体が鍛えられている。

 また、生活保護受給者は、基本的にそうそう引っ越しが出来ない。

 故に、問題を起こしても逃げられ無いのだ。

 

 中々、彼らが、犯罪を起こすのは難しいのである。

 だが、日雇いは、すぐに跳べるのだ。

 特にここは、やくざの周辺者が経営する貸し物件だ。

 日雇いとやくざに、多少の繋がりや縁があっても可笑しくない。

 仮にそうなら、跳びやすいのであろう。

 

 しかも、この手馴れた様子、他の物件でも常習犯の可能性が高そうであった。

 

 金属バットがへこむ程の勢いで叩き付けた。

 その際の音も凄まじい物であった。

 

 彼らは、肉体労働で日頃から、身体を酷使している。

 故に体力もある。

 生まれながらに、筋力にも恵まれているのだろう。

 

 特に、金属バットマンの相棒、204号室の男はちょっとしたアスリートレベルの肉体である。

 背後から、飛び付きながらのタックル。

 そして、崩し、倒す。

 ラグビーのタックルを思わせる。

 

 プロでは無いにせよ、心得はありそうだ。

 高校か中学の頃にラクビー部だったのだろう。

 

 金属バットマンは、恐らく野球部か。

 

 ラグビーマンは、真冬の背後から腕を回している。

 太い腕だ。

 掌も大きい。

 

 真冬の身長は160cmだが、身体は細い。

 その細い身体に、大蛇が蟠る様に腕が絡まり、真冬を俯せで押し倒しているのだ。

 

 真冬は、頭部の激痛に喘いでいた。

 しかし、突然伸びて来たラグビーマンの掌の動きに小さく悲鳴を上げた。

 

 呼吸音と、軽い金属が擦れ合うような高い音が混ざった様な悲鳴だった。

 真冬の衣服は前開きの、着物状になっている。

 その胸元に、男の掌が潜り込んで来たのだ。

 

 真冬は、咳き込みながら、頭を振った。

 両手を伸ばし、這うように動く。

 

 踠くと言った方が適切だ。

 だが、逃れる事は出来なかった。

 

 太い指が、真冬の肌を撫で、探るように蠢いた。

 啓蟄の虫が藁の中で蠢く様に、真冬の胸元をまさぐるのだ。

 

 しかし、この虫は這い出てくる訳ではない。

 真冬の衣服のなかで、巣籠もりしているのだ。

 そして、エサを欲している。

 片手は巣籠もりせず、真冬の襟元を掴んでいた。

 

 虫が、エサを見付けた。

 餌の周囲を這い回る。

 

 真冬は、その虫が、男の芋虫のようなぶよぶよした、太い指であると知っている。

 その悍ましさに、喉を痛める様な高い声を発した。

 

「や、やめ」

 その時だ。

 襟元を掴んでいた男の左手が、前開きをずらしたのだ。

 

 そして、声を上げ、開いた口に、左手の人差し指と中指を突っ込んだのである。

 舌を、指で擦り、圧した。

 

 右手の芋虫が餌に食らい付いた。

 胸の先端を、親指と人差し指で挟み、捻っていた。

 

「えらい、貧乳やのう、こいつ」

 

 金属バットマンが、真冬の右踵に、ビール瓶を叩き付けた。

 

 確実に、踵を割った。

 金属バットマンはそう確信する。

 

 乳輪を先端周囲をなぞる様に指を這わせた。

 そして、親指で擦る。

 人差し指で擦る。

 

 それを繰り返し、突然、激しく抓った。

 

 乳頭は、血管と神経が集中している。

 そこを思い切り抓るのだ。

 それも、引き千切らんばかりに、捻る様に抓るのだ。

 親指で圧し、人差し指と挟み、中指で支え人差し指の爪を突き立て、捻り、抓った。

 

 薬指と小指は、乳輪より上、膨らみの無い乳房を包むように蠢いていた。

 

 それは、快感を与える為ではない。

 痛みだ。

 

 暴力と同時に、性的な欲求をぶつける。

 そして、少女から抵抗の意思を奪う。

 そうした腹積もりであった。

 

「痛(い)っ、だぁ、ぃっやぁっが」

 

 真冬は、恐ろしい叫びと共に、ガリガリと床を掻いている。

 両足を動かし、逃げようとするが、108kgが背後からのし掛かっているため、微動だに出来なかった。

 

 ラグビーマンは、膝を付く。

 そして、真冬を持ち上げたのである。

 

 それに合わせ、金属バットマンが、二人の前に移動し、真冬の顔面を、金属バットの先端で突いたのだ。

 

 鼻頭に、金属の棒が突き立てられた。

 ダラリと、赤い物が鼻腔から漏れた。

 

 そして、鼻血が、吹き出るのだった。

 一瞬、ダラリとしたものが漏れ、膨れ、そして血飛沫となったのである。

 

「いや……まて、こ、この餓鬼」

 

 金属バットマンが、真冬を見詰め、何かに気付いた。

「頭蓋骨、砕けていないんじゃねぇか?」

 

 想定では、後頭部、側頭部は陥没していても、可笑しくない筈だ。

 何より、何故、意識さえ、失っていないのだ。

 金属バットマンは、その異様な状況に気付いたのだ。

 

 ──こいつは、何故、悲鳴を上げる程度で済んでいるのか?

 

 殺すつもりでレイプに来たのだ。

 美しい幼女が、引っ越して来た。

 

 それは、非常に美味しい状況にあった。

 保護者は、居るようだが、全く見ていない。

 故に、決行は容易い。

 

 そう判断していたのだ。

 だが、本当に、容易い話なのか。

 

 金属バットマンは、何か、冷たい気配を察した。

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