※この作品はR-18です。

残骸置場   作:逃走‼蜚蠊男

8 / 10
大昔書いて、削除したものの残骸を集めた纏め
バックアップに残ってたもの
範馬道捜索中に発見
元ネタはウルトラマンとキン肉マン


色々残骸

 神原七奈美は夢を見ていた。

 夢か現か分からないような鮮明な夢を。

 時を同じくして、堤櫻も夢を見ていた。

 夢か現か分からないような鮮明な夢を。

 

 光の運命に導かれ出逢った二人の少女が左手の薬指に輝く互いの神秘の指輪に口付けた時、地球を守る奇跡の巨人へと生まれ変わる。

 

 ウルトラ L(リリィ)!

 A(エース)の力を受け継いだ、光の少女である。

 

ミサイル超獣 改造ベロクロン二世

宇宙怪獣 改造べムスター

ミサイル大超獣 ベロクロムスター 

オイル超獣 オイルドリンカー

登場

 

1.大超獣!

─ミサイル超獣ベロクロン、そして宇宙怪獣改造べムスターよ!地獄の底から這い上がれぇ!

 地球全体に怨嵯に満ちた声が響き渡った。

 それは、嘗てウルトラマンAに打ち倒された者達の残党、そしてウルトラマンタロウに完全に敗れ去った筈の異次元人ヤプールの物だった。

─この地球にウルトラマンが訪れる事は最早無い。我が超獣よ、今こそ積年の恨みを晴らすのだ!ベロクロンに改造べムスターよ、融合進化し超越怪獣兵器となるのだ。生まれ変われ、大超獣へー!

 

2.防衛チーム ウルトラZAT

 怪獣や超獣が最後に確認されたのは円盤生物ブラックエンドが文字通りに最後だった。

 円盤生物シルバーブルーメにより壊滅したMACに代わり新たに組織された防衛チームは、初めてウルトラマンと共闘した科学特捜隊と数多の宇宙人を迎撃したウルトラ警備隊、そして強豪大怪獣だけでなく超獣をも相手取りウルトラマンの持つ兵器に並ぶ程の兵器を開発したZATの複合防衛チーム、ウルトラZATであった。

 怪獣こそ現れる事が無い時代が続いたが未だに円盤生物の恐怖を忘れていない人々の心にへと平穏を与える存在である。

 隊長は嘗てZATの副隊長を勤めた事のある宇宙ステーション帰りの荒垣修平55歳。あの頃と変わらない剽軽さと地球防衛の熱意を併せ持つ頼れる隊長だ。

 そして、副隊長として荒垣を支えるのは同じく元ZATの北島哲也。初恋を引き摺りいまも独身の53歳。

 隊員には元ZATの南原隊員の息子である南原珠男22歳と、科学特捜隊の嵐大助隊員に憧れ防衛チーム入りしたと言う蝮三郎23歳。

 そして、紅一点、星野勇子……年齢は……失礼。

 以上五名が新たな防衛チームの精鋭である。

 

3.少女達

 私立黒百合女学館は幼稚舎から小中高大までのエスカレーター式の一貫校である。

 古めかしいセーラー服に身を包んだ幼さが残る少女、神原七奈美はその中等部の二年生だ。

 両親からは円盤生物や怪獣の恐怖を聞かされたことはあるが、それらの存在に現実感を持てない、怪獣時代の後に産まれた若者であった。

 黒百合女学館の門を抜け、校舎へと続く道には広場があり、そこにはウルトラの母を象った像が立っている。ウルトラの母に見守られ少女達は学校生活を送るのだ。

 尤もウルトラの母と言われても14の少女はぴんと来ない。

 しかし、そのウルトラの母の頭部左右にある飾りは二つ結びの髪型であるツインテールを思わせるからか七奈美は髪をツインテールに結わえている。

 だが、両親世代はツインテールというとウルトラマン二世や新マンと呼ばれるウルトラマンであるジャックが交戦した古代怪獣ツインテールを思い出すためにこの髪型はマリー結びと呼んでいる。

「あ……」

 ゆったりと淑女然と歩いていた七奈美だったがウルトラの母像の前で合掌する一人の女生徒の姿に気付くと顔を綻ばせ、つい駆け出してしまう。

 同級生ながら、見た目が幼い七奈美と比べ高等部の生徒と言っても信じられそうな美しい少女、堤櫻だ。

 長い睫毛が綺麗で慈愛の中に強い意思が込められた眼差しに七奈美は奇妙な憧れを抱いていた。

 いや、憧れなんて生温いものじゃない。

 七奈美ははっきりと、それが恋心であると確信していた。

 女同士であるとか、そんなモノは関係無い。

 恋心が今一分からなかったころ、七奈美は母に相談したことがある。

 母は七奈美の想いを否定しなかった。

 母は幼いころ、ウルトラマンA(エース)の最後の願いを聞いていたからだ。当然その言葉に同性愛については触れられてはいないが、どんな人とも分かり合えとA(エース)は教えていると七奈美の母は解釈していた。

 故に娘の同性愛も応援する腹つもりなのだ。

 そんな母に後押しされた七奈美は自分の想いを偽ろうなどと微塵も考えていなかった。

 

 七奈美がツインテールなら、櫻はグドンといった容姿を連想させる。彼女達の同級生である、新条朱音はそう言ってよく二人をからかった。朱音も七奈美の恋心を知っており、グドンはツインテールを食べるんだよとか、たまにツインテールも場合によってはリバースしたりねと笑いながら少々淑女らしからぬ発言で七奈美の羞恥を煽ったりする。

 

「櫻さーん」

 その声に気付いた櫻は視線を動かし、七奈美に向き直る。そして、ふわりとした微笑を見せた。

「ごきげんよう、神原さん」

 

 櫻の最も近い場所までもう少し。

 駆ける七奈美がそう思った、その時だ。

 

 地球に、地球と人類を憎むヤプールの燃え盛る怨嵯の声が響き渡った。

 

 空が砕けた。

 青い空の向こうは赤く、そして巨大な獣の影が揺らめいていた。

 獣は二頭いる。

 珊瑚と怪獣、そしてミサイルで作られた超獣ベロクロン。

 巨大な鳥の様で腹にもう一つの口を持つ宇宙怪獣改造べムスター。

 二頭の超獣と怪獣は割れた空の向こうから地球へと出現した。

 

 円盤生物ブラックエンドの最期から約二十年。

 怪獣を知らない世代の前に、その恐ろしい巨躯が聳えていた。

 

4.変身!女子中学生ウルトラマン!

 出現した二頭の超獣と怪獣。

 ミサイルを乱射し、嘗て出現したときには建設されていなかったような高層ビルを次々とベロクロンは粉砕し、べムスターは出撃したウルトラZATの主力戦闘機ZATホーク1号が発射するスパイナーミサイルをその腹から吸収しベロクロンを守る。

 スパイナーミサイルはウルトラ警備隊がキル星人から防衛し、恐竜戦車を撃破したスパイナーを強化し戦闘機用の誘導弾に転用した兵器である。

 

「櫻さん、化け物が……早く、逃げましょう!」

「……超獣」

「え……?」

「あれは超獣ベロクロンと宇宙怪獣改造べムスター」

 

 櫻は噛み締めるように、二頭の獣が過去に呼ばれていた名前を告げる。

「……神原さん、私は逃げてはいけません」

 奇妙な、七奈美の理解が及ばない奇妙な事を櫻は言った。

 それでいて、七奈美が愛する櫻の強い意思が光る眼差しはより強固な何かを湛えていると七奈美はわかった。

 櫻は何処からか二つ指輪を取りだし、二頭の獣へと視線を移したのち、その指輪を左手の中指に填めた。

「これはウルトラリング。二人で一人に変身するウルトラマンA(エース)はある日を境にたった一人ぼっちで変身することになりました」

「……は、い?」

「私は月の人間として、ウルトラマンがいないこの星を守ります」

「え……と?」

 何を言っているのか。

 七奈美は分からない。

 月の人間とは。

 ウルトラマンエースとは。

 ウルトラリングとは。

 ……櫻が星を守る……とは……?

 

 しかし、七奈美は一つわかった。

 櫻は、命を賭けようとしていると。

 分からなければ分からないでいい。

 後で分かればいい。大切なのは、愛する櫻が命を賭けようとしている。それを放っておくつもりなど、無いと言うことだ。七奈美は、淑女らしからぬ気勢の咆哮をあげる。

「神原さん?」

「その指輪、二つですよね!?一つ填めるだけでそのウルトラマンになれるんですか?櫻さんは!?」

「少なくとも北斗星司は変身しました。だから月の人間である私なら……」

「貸してください」

 

 七奈美は手を出す。

「二人で一人のウルトラマンなら、もう一人は私がなります!」

「……しかし……」

「貸してください」

 

 単なる地球人の七奈美がウルトラマンになれる訳がない。確かに、過去のウルトラマン達はセブンとレオを除き全て地球人と融合している。

 だが、櫻がなろうとしているウルトラマンは彼らとは違う。ウルトラマンA(エース)の力が僅かに残る指輪と月の民が融合しようとしているだけで、他のウルトラマンのようにウルトラマンとしての人格が在るわけでは無いのだ。

 

「大丈夫です。早く!」

 時間はない。

 ベロクロンの水爆どころではないミサイルがこれ以上都市に放たれたら、日本は取り返しがつかない状況になるだろう。

 

 そして、かつて、北斗と南が合体し変身したように……。

 ベロクロンとべムスターは重なり合うように立つや、みるみる内に一頭の巨大な超獣へと融合したのだ。

「そんな!超獣と怪獣が合体した……?」

 

─大超獣よ!目にものを見せてやれ!怪獣より強い超獣より強い大怪獣など物の数ではない。大怪獣より遥かに強い大超獣の力を、超獣の怖さを忘れた人間どもに思い知らせてやれー!

 

 ヤプールの声がまたも聞こえた。

 櫻は七奈美に指輪を渡す。

 七奈美が櫻を想うように櫻もまた、七奈美に他の地球人へと向ける慈愛と異なる物があった。

 しかし、彼女はそれがなんなのかは理解出来てはいない。

 

「これを填めて……どうやれば変身出来るんですか」

「え……」

「え?」

 七奈美は当然知らないとして、そこで櫻は止まった。

 ぎこちなく笑う。櫻は取り敢えずタローやレオーのように、エースとでも叫び、指輪を掲げようと考えていたが、二人で変身する正確な動作は知らなかった。

「んーと、あの、櫻さん。ちょっと良いですか」

「え、あ、はい」

 七奈美は櫻の左手を取り、中指に填められたウルトラリングを外す。

 そして、薬指に填め直した。

 その動作をやりつつ、頬を染める七奈美を見詰め、櫻はドクンドクンと自分の心臓が奇妙なほどに早く脈打つ事に気付いた。

 櫻の指にウルトラリングを填めた七奈美は、自分の左手の薬指に填め、それを櫻にみせる。

「私は櫻さんのおっしゃるウルトラマンエースとかほくとせいじ?さんは知りません。私は私なりのやり方をやります」

「は……はぁ」

 

 そして、七奈美は櫻の薬指にあるウルトラリングに唇を落とした。

 櫻は一気に顔が熱くなるのを感じた。

 恥ずかしさや、奇妙な擽ったさ、そしてそれを上回る多幸感。

 七奈美は何をしたのか。

 すると、櫻のウルトラリングは光の粒子を放ち出したのだ。

 櫻はおずおずと七奈美の手をとり、そして、躊躇いがちに彼女に倣った。

 

 光の粒子が爆発する。

 七奈美は櫻の腰に手を回し、引き寄せるように抱き、互いの体を密着させた。

 背は櫻の方が高いが、その体勢のせいか櫻の顔は七奈美の下にあった。そして七奈美はウルトラリングへだけでなく、櫻の唇にも口付けを交わす。

 その時だ。

 ウルトラリングの輝きは、よりその光度を増してゆき、二人を包んだ。

 

5.参上!ウルトラL!

 光が爆発するや、二人の意識は遥か空に在った。

 そして光を突き破り、地上へと降り立つ。

 二人の意識の眼下はとても低い。

 二人の意識は、自身が尋常ならざる巨人に変貌したことを認識していた。

 身長40mの巨人である。

 だが、意識が巨人になったことで、大超獣の更なる巨大さを理解出来る様にもなっていた。

 ベロクロンは本来55m、改造べムスターは80m。

 融合したこの大超獣ベロクロムスターはその合計135mの超巨大超獣なのだ。

 彼女達の凡そ三倍強の巨躯である。

 その巨大な威容にたじろぐ二人の意識。

 その意識を納めた巨人へとベロクロムスターは毒ガスを吐き出すと同時にミサイルを発射する。

 融合したベロクロムスターだが、彼等にも個々の超獣、怪獣出会った頃の記憶を同時に有している。

 特にベロクロンの記憶がこの二人の意識を内包する巨人に憎悪を向けていた。

 姿形こそ違えど余りにもエネルギーパターンが似ているのだ。超獣の仇敵であるウルトラマンA(エース)に。

 

 ゴボゴボと音を立て、ベロクロムスターの腹にべムスターのような第二の口が開く。

 そこに搭載されている二基のミサイルと熔解弾。

 全身の発射口のミサイルとともに過去のベロクロンならかくし球としていた二基のミサイルを発射。

 更にコンクリートを容易く溶かす熔解弾も巨人へ放たれた。

 

だが

─怯むな!ウルトラL!

 何処からか、二人の意識に厳しさと慈愛を併せ持つ、男とも女とも受け取れる性別を超越した様な神々しい声が伝わった。

─ウルトラLよ、お前たちこそ新たなウルトラマンだ。いくのだ、立て!撃て!

 

「櫻さん!」

 巨人の中で七奈美の意識が叫ぶ。

 怯んだ巨人であったが、七奈美の声と意識が体勢を整えさせ、身を翻し、まるでトランポリンを使いジャンプしたかのように跳躍する。

 そして、そのまま、空中から大超獣の頭に飛び膝蹴りを見舞う。しかもそれは滞空時間の長い、かの真空飛び膝蹴りだ。

 巨人……ウルトラLの膝蹴りを受け、ベロクロムスターの巨躯は揺らいだ。

「神原さん……!」

 

 意識は更に混ざりあいより一つになる。

 暖かい何かに包まれながら、二人の意識は二つで一つとなっていく。

 

 ベロクロムスターのべムスターの腹に真空飛び膝蹴りの体勢から更に身を翻すや、回し蹴り。

 宙を舞う大超獣に続けて両手で放つモンゴリアンチョップ。

 大超獣は悲鳴をあげ、その巨躯を沈めた。

 

 倒れ臥していくなかでベロクロムスターは手からエネルギーレーザーを放った。過去にウルトラマンA(エース)を苦しめた金縛り光線と特殊な白色の破壊光線両方の能力を備えたレーザーである。だが、その不安定な体勢から放つレーザーをウルトラLは三度跳躍し、それを躱す。

 

 そして、大きく間合いを取り両腕を大きく振りかぶる。

 彼女の腕に光のエネルギーが充填されていく。

 右手を掲げ、左手を下げるように広げられた両手から、三日月のような光の刃が放たれる。

 

─今だ斬れ!

 その声と重なるように光の刃はベロクロムスターの首と両手を切断し、そして、胴体を両断した。

 まるで、ジャックがウルトラブレスレットでべムスターを八つ裂きにしたことを思わせるこの止めは、ウルトラマンA(エース)が得意とした見事なギロチン光線である。

 

6.

 大超獣の亡骸を背に、巨人から元の二人に戻った七奈美と櫻は微笑みを交わし、そして、寄り添うように抱き合った。その二人の姿を微笑ましく見詰める少女が二人。

 一人は彼女らの友人である新条朱音だ。

 そしてもう一人。

「いやぁ、ツインテールがグドン食べたらウルトラマンになっちゃったよー」

 小柄で、目付きの悪く深い藍色のゴスロリを着ている幼女に朱音は笑いかけた。

「どうする?オイルドリンカー。」

「超獣より強い大怪獣。そんなものはまやかしだ。超獣は強い。怪獣なんかと融合した超獣、大超獣なんて、超獣の紛い物」

 幼女はギリギリと歯軋りをし、巨人の姿から元の少女となった二人の背後にある亡骸を睨み付けた。

「ヤプールめ。大超獣め。大怪獣め。ウルトラマンめ。私が、超獣が、オイルドリンカーが!誰よりも強いことを証明してやる!」

 ゴスロリ幼女オイルドリンカーは一際高く宣言するように怒声を揚げて朱音に向き直る。

「見ていろ朱音。これからは超獣が!世界の主人公だ!」

 そう宣言するオイルドリンカーに、朱音は優しく微笑みを向けた。「ごきげんよう、櫻さん!二月ももうすぐですね」

 満面の笑顔で神原七奈美(かんばらななみ)は同級生であり、想い人、そして、二人だけの大きな秘密を共有している相手となる堤櫻(つつみさくら)に話し掛けた。

 

 黒百合女学館の板張りの教室。

 窓際の前列に座る櫻は七奈美よりも幾分早く登校していたから、彼女の席に七奈美がやってくる形になっていた。

 七奈美としては一緒に登校したいなと思ってはいるが、櫻は自家用車にて送迎されているため、それは叶わない。

「ごきげんよう、神原さん。おはようございます。はい、そうですね。今年の梅はどんな風に咲いてくれるか楽しみです」

 櫻の家に植えられている梅の話だ。

「ねえ、櫻さん、二月と言えばあのイベントですねー!」

 

 にこにこと笑う七奈美が紡いだ言葉に櫻は小首を傾げ。

「針供養……かしら」

 ぼそりと七奈美には聞こえない程度に言葉を洩らし思案に暮れる。

「でも、地域によっては二月とは限らないわね」

「櫻さん?」

「あぁ、ごめんなさい。何のイベントでしたか?」

 

 櫻は僅かに俊巡するも、パンと手を叩いた。

「もうすぐ節分ですね。こんなに寒いのに暦では春だなんて季節とは面白い物ですね」

 漸く合点がいったと満足し七奈美に笑顔を返す櫻だった。

 

ウルトラL  鬼の節分

 

きさらぎ星人 オニバンバ

鬼超獣 オニデビル

鬼怪獣 オニオン 

鬼大超獣 ヤマバンバ

オイル超獣 オイルドリンカー

登場

 

1.帰ってきたオニバンバ

─来年の今日また来るからなー!

 捨て台詞を残し空へと退散するきさらぎ星人の後頭部に

─忘れ物だー

 ウルトラマンタロウは彼女の金棒を投げつけた。

 一見手酷い老婆への虐待だが、このオニバンバ、そんなか弱い老婆ではない。

 しかし、だからと言ってそれほど強い宇宙人と言うわけでもなく……。

 来年、本当にやって来たオニバンバだったが、地球を襲撃するとんでもない脅威に気付いた。

 宇宙のなかでも悪名高きブラックスターの円盤生物が防衛チームMACのクルーをたった一人を除いて死に至らしめ壊滅させた。そんな円盤生物が地球で猛威を振るっていたのだからたまったものではない。

 そしてオニバンバが飛来したことに気付くものも一人としていない。

 ウルトラマンタロウは既に地球をさり、その頃地球に滞在していたウルトラマンレオは当然オニバンバのことなど知る由もない。

 ちょうどオニバンバがやって来た時、ブラックスターからは新たな円盤生物ブリザードが地球に迫っていたのだ。

 円盤生物がどの程度の速度で宇宙空間を飛行するかオニバンバは知らないために、ブリザードの地球到着を割り出すことも出来ない。

 節分の日に暴れまわっている時、もしも円盤生物と鉢合わせなどしようものなら……と、オニバンバは情けなくもすっかりと怯えきり、直ぐ様に地球を離れたのだ。

 

 それから、どうにも地球に向かう気力も湧かず、憎んでいたウルトラマンタロウももう地球にはいない為、その消沈具合に拍車をかけた。

 だが、今年に入り、ふと地球が懐かしくなったオニバンバは地球に帰ってきた。

 久し振りの地球は、随分と様変わりしていた。

 道行く地球人達が本当にあの頃に出会った同じ日本人なのかと首を傾げたくなるくらいに地球人も変わっていた。

 悪い意味でも、良い意味でも、だ。

 そして、少し拍子抜けしたのはあの頃意味嫌っていた鬼を苛める行事である豆まきが寂れてしまっていたことだ。

 立ち寄ってみた大型スーパーには確かに豆も売られている。しかし、それ以上に、チョコレートが所狭しと店内に並べられているのだ。

「ちょいと、店員さん、これは何ぞや」

「バレンタインのチョコレートですよ」

 

 歯が抜け落ち、ボサボサの長い髪、一目で鬼婆と誰もが考える様な容貌のきさらぎ星人を見ても店員は然程動じず接客用の笑顔で答えていた。

 ここもあの頃とは少し違う。あの時代なら明らかに怯えるか嘲るような態度で接して来ただろう。

 

「ほほー、地球も悪くないぞぇ~」

 味見用のチョコレートを頬張り、満足したオニバンバはスーパーを出て行った。

 

2.バレンタインも節分も

「ねえ、朱音さーん。二月と言えば何でしょう?」

「え?月光仮面はだれでしょう?」

「は?」

 チョコレートを食べ、バレンタインを堪能するきさらぎ星人とは裏腹に、地球人の神原七奈美は、バレンタインを一緒に過ごしたい愛しい少女の鈍さに意気消沈し、友人に泣きついた。

 が、いきなり自分の言い回しを茶化すように返され淑女にあるまじき口調となっている声を洩らしてしまう。

「え?月光仮面の第一話放送は2月24日じゃない」

「え?」

「んん?」

 ややこしくなりそうなので、七奈美は一先ず話を打ち切った。

「朱音さんは……バレンタインを一緒に過ごしたいと思うような方はいらっしゃいますか?」

 面倒なので七奈美は直球で尋ねてみた。

 朱音とて、十代の少女だ。

 そんな相手がいてもおかしくはない。

「バレンタインよりバルタンが良いかなー?」

「は?」

 そのネタ古いよ朱音さーん!と七奈美は心の中で絶叫。

 ハイスクール奇面組で一堂零が言っていたギャグだと、呆れる七奈美だったが、古いのは彼女の方だった。

 朱音は本気でそう言ったのか、黙りこくってしまった七奈美を不思議そうに眺めているのだ。

「私、櫻さんとバレンタインを過ごしたいんです」

 何を言っても訳の分からない返答をされそうなので七奈美は本題を切り出すことに決めた。

「へぇ、何か贈るの?」

「え……いえ。あの、櫻さん、私がバレンタインの話題を出そうとしても気付いて下さらなくて……節分の話とかを……」

「じゃあ、普通にバレンタインの日に何処か行きましょうって誘えば?」

 確かに。

 節分は節分だ。

 バレンタインはバレンタインだ。

 どちらも二月の行事だが日が違う。

 櫻はバレンタインの存在に気付いていないが、気付いていないことなんて別に問題ない。

 普通に誘えば良いだけのことだったのに、なぜ、そこに頭が回らないのか、自分で自分の脳味噌が不思議になった。

 朝のあれは、ただ単に、バレンタインですねと、答えさせたかっただけのしょうもない願望なのだ。

「良かったねー。三日と十四日どっちもデート出来るね」

 朱音が朗らかに笑うと、一気に七奈美の顔が赤くなった。友人に恋路を相談し応援される。

 それがとても気恥ずかしく、奇妙な心地好さと擽ったさに襲われたのだ。

「あと、梅の話もされてたから、梅見のデートも出来ますよー!」

「おー」

「は?」

 パチパチと手を叩きながら気の抜けた返答しかしてくれない朱音だったが七奈美は何故か苛立ちを覚えなかった。

 

3.おにとまめ

─聞け、我が超獣よー。地獄の底より這い出でて再び地上に戦禍を撒き散らすのだ。時が近い、甦れ、鬼超獣オニデビルよー!

 きさらぎ星人以上に節分の豆まきに怨みを抱く超獣がいた。それがこのオニデビルだ。

 オニデビルは豆を投げつけられる鬼の怨念が凝り固まって産まれた超獣であり、直接ヤプールが作り出した訳ではないが、ウルトラマンA(エース)に敗れたヤプールの残留思念と鬼の怨念が結合し産まれた超獣なのであろう。

─聞こえるか?きさらぎ星人オニバンバー。

 今度はデパートにて、少し高級なウイスキーボンボンなどという洒落たチョコレートを口イッパイに頬張るオニバンバだったが、突然ヤプールに呼び掛けられ飛び上がらんばかりに戦いてしまう。

「な、なんぞえ、お前さん、異次元人ヤプールかぇ、まだ生きとったんか」

─地球人、そして、ウルトラマンに怨みを晴らしたければ力を貸せ。我が超獣オニデビルと融合し、大超獣となるのだ!

「ゆ、ゆ融合!?そうなりゃわたしゃどうなるんじゃ」

 すっかりとチョコレートの味に浸るのも忘れてしまうオニバンバの哀れな姿に試食チョコレートを提供するデパートの店員も心配そうに腰を落としてしまった彼女に肩を貸す。

「も、もうええんじゃよ、今の地球人は豆まきなんぞやっとりゃせんわ。チョコレートは旨いし、わたしゃ、地球人への恨みも忘れかけとるぞぇ」

─温いぞー!きさらぎ星人!

 ヤプールの怒号が響くや、デパート上空の青空がガラスが割れるように亀裂が走り、ひび割れ、そして砕け散った。

 その砕けた青空の奥には二つの影があった。

 その二つの影は怪獣然とはしていない。

 日本人ならば馴染みがあっただろう。

 お伽噺に出てくる鬼のような超獣と怪獣である。

 片方は角が三本に鋭く長い。それは超獣オニデビルだ。

 もう一方は鬼としかいいようがない。まさに鬼そのもので、怪獣というより妖怪なのではと考えるものもいるだろう。そちらは鬼怪獣オニオンである。

 当時は兎も角、今の日本人がその名を聞くと、玉葱?など言うかも知れないが鬼だ。

 例えば鬼怨(オニオン)とでも宛字をしたらイメージもしやすいだろうか。

─オニバンバよー、こやつらと融合せよ!

 

4.ウルトラZAT出動

「デパートの上空に超獣と怪獣が出現か」

 北島副隊長と蝮隊員はZATホーク1号に搭乗し、早くもデパート付近に到着していた。

「おいおい、随分と久し振りに見るなあの怪獣。オニバンバだったかあいつら。東のやつ、豆に閉じ込められて大変だったらしいんだよ、懐かしいな」

「東さんって確か、ウルトラマンタロウの」

 蝮のその問い掛けには反応せず、北島副隊長はミサイル発射を命じる。

 オニバンバではなくオニデビルとオニオンだが、案外地球人の目には似たように映ってしまうものであり……。

 現にザラブ星人が化けた偽ウルトラマンと本当のウルトラマンとを例えば写真などで撮影し両者を見比べたらはっきりと違いは分かるのだが、普通に視認するだけなら存外に見分けられないものなのだ。

「副隊長。超獣と怪獣の分析結果が出ました。超獣の方はオニデビル。怪獣はオニオンです」

 ZATホークから聞こえてくるのは女性隊員の星野勇子隊員だ。怪獣や超獣のエネルギーパターンや肉体を構成する物質から地球怪獣か宇宙怪獣、または超獣かなどを分析する技術に長けている隊員だ。

 過去の防衛チームによる怪獣との膨大な交戦記録も彼女の頭の中に入っているというのだから驚異としか言い表せられないだろう。 

「角が多い方がオニデビルです。純粋な戦闘能力は当然そちらの方が高いはずです。お気を付けて」

 北島がどちらが超獣だと訪ねるよりも早く星野隊員は解説する。そしてZATホーク1号にそれぞれの簡単なデータが届けられる。

 オニデビルは角から光を放ち、腕力だけなら嘗て現れた超獣で最強だという。そしてオニオンは催涙ガスを吐き出すとそれには書かれていた。

 

5.オニバンバ

 空を突き破り超獣と怪獣が出現すると、オニバンバがチョコレートの試食をしていたデパートは逃げ惑う人々で大混乱となっていた。長年怪獣の脅威に曝されていなかった彼等は、あの怪獣時代の人々と比べて怪獣から避難する術を持ち合わせてはいなかった。

 当然当時でも避難が上手くいく場合ばかりでなく円盤生物が来襲したときなど数多くの死傷者が出たものだ。

「おばあさん、こっちへ!」

 チョコレートの試食係の女性はオニバンバを宇宙人で在ることに気付いておらず避難誘導のために気遣いを見せた。

 だが、それがその女性の仇となった。

 暴れまわるオニデビルの光波ショックのエネルギーが広範囲に広がり彼女の頭上の天井を崩落させたのだ。

 血走ったようなオニバンバの目が見開いた。

 人間の目線で見る怪獣の暴虐な振舞い。

─オニバンバよ、さぁ、大超獣の素材になるのだ!

 ヤプールの大地を響かせるような呼び掛けが木霊する。

 オニバンバは堪らず恐慌に陥り息を切らせながら逃走を始めるがヤプールの声はどこまでも彼女を追い詰めて近付いてくるのだ。

 そうして、人波を掻き分け、やっとの思いでデパートを出るオニバンバの目に、飛び込んで来た姿があった。

 高級そうな車から慌てて下車する二人の少女。

 古めかしいセーラー服に身を包んだ美少女達だ。

 だが、オニバンバの目に留まったのはそんな容姿ではなく少女達から立のぼるそのエネルギー。一目で分かるのは、彼女達があの憎きウルトラマンタロウ、東光太郎と同じく光の国の光のエネルギーに満ち溢れているということだ。

「あの娘らぁ、でも、あれはタロウじゃないぞぇ、あいつら、ウルトラマンA(エース)の娘かいの」

 悲鳴と怒声で混乱する人々の中で、一際目立つ少女達の元へ向かう。

「ウルトラマンの娘たちよぉー」

 オニバンバは二人に、七奈美と櫻に転げるような形で走りよる。

「……きさらぎ星人」

 七奈美はオニバンバの事など知るはずもないが月の人間である櫻は彼女を知っている。

「な、何とかしてくれぇ、ヤプールが、あいつらをつこうて、あたしを超獣に変えようとしとるんぞぇ」

「え、えぇと、櫻さん、この人は」

「きさらぎ星人オニバンバ。以前地球に現れた際は、ウルトラマンタロウと少年を豆のなかに閉じ込め、その少年の弟さんに食べさせようと目論んだ凶悪な宇宙人です」

「……え……ざ、残酷ですね」

 侵略行為とはまた違うあまりに猟奇的なその目論見に七奈美は心底引いているのか、ひそめられた眉と口許がひきつっていた。

「あたしゃ、もう、そんな悪事は考えとらんわぃ、今も地球の旨いチョコレートを食い歩いとったんじゃあ」

「……?」

 櫻はその言葉に信憑性を感じてはいないが、余りに妙な発言のために首を傾げた。

「バレンタインのチョコレートを喰っとるだけぞぇ」

「バラバとタイラントのチョコレート?それは侵略作戦の秘密コード名か何かですか」

「ほぁ?」

 櫻の口から超獣と怪獣の名前が出る。

 放射能の雨に守られながらウルトラマンA(エース)と交戦し彼を苦しめた殺し屋超獣バラバと、ウルトラ5兄弟を次々と撃破していった五体を様々な怪獣のパーツで構成している暴君怪獣タイラントの名前が突然出てきたため、話が通じていないことに、オニバンバと七奈美も気付く。

「あの、櫻さん、バレンタインです。あの、海外の行事でして……多分、ばらばとたいらんと?と言うのは関係無いかと思いますよ」

「はい?」

 七奈美は簡単にバレンタインの説明をする。

 とは言え櫻が口にした名前であるが……バラバの語源はキリストが処刑される際に釈放された囚人の名だ。タイラントとはつまりは暴君であり聖書の獣と所縁のある暴君ネロを指しているとも言えるし、そしてバレンタインもまたキリスト教の聖職者であるワレンティヌスと考えられるのである。

 面白いことに全てキリストにまつわる者達だ。

「なるほど。バレンタインについては理解致しました。そして、きさらぎ星人、貴方は今、ヤプールに追われているという事ですね」

とするなら、大超獣を生み出させる訳にはいかないだろう。その為には今のうちに向こうで暴れている二体をいち早く撃破するべきだ。

「神原さん、参りましょう」

「はい!……あ、きさらぎ星人さん、安全な所に逃げて下さいね!」

 ウルトラマンの娘達を見送る形となったオニバンバの目は、あの頃にあった毒々しく禍々しい澱みはすっかりと抜け落ちていた。

 

6.融合進化

「脱出!」

 ZATホーク1号が撃墜される。その瞬間、嘗ては荒垣元副隊長現隊長が言っていたお決まりの台詞を北島副隊長が叫び、墜落していくZATホーク1号から避難を完了する。

 しかし、パラシュートで降下している北島副隊長に降り下ろされるオニオンの金棒。

 

 その時だ。

 遥か上空から現れたウルトラLがその金棒に全身で飛び付き、弾き飛ばしたのだ。

「おぉ!ウルトラマン!」

 北島副隊長に若かりし頃の記憶が甦えり喜びが溢れんばかりだった。

 ウルトラマンタロウを援護し共に戦ったあの一年間。

 他の防衛チームと異なり、ZATはウルトラの母という女性のウルトラマンも目の当たりにしている。

 故にこのウルトラLという女性ウルトラマンもウルトラ戦士として簡単に受け入れる事が出来ていた。

 先程の攻撃による衝撃で転倒しながらも、ウルトラLは僅かに頭を降りながら何とか片膝をつき、北島副隊長の無事を確認する。

「ありがとう!ウルトラマン!」

 

 喜ぶ北島副隊長だったが、彼と蝮隊員を巨大な影が覆う。

「う、おぉう」

 二人を覆う影は巨大化したオニバンバだった。

 オニバンバは爪が伸び放題の手で二人を捕まえる。

「ウルトラマンよーい、この地球人達はわたしが安全な場所においてくるぞぇー」

 

「きさらぎ星人さん!」

「邪悪な宇宙人だったきさらぎ星人が……なぜ」

 オニバンバの行動に歓喜する七奈美。

 怪獣を知りすぎる故にかえって、このオニバンバの行動に理解が追い付かない櫻。

 オニオンは先程邪魔されたことによりウルトラLへと怒りを顕とする。金棒を拾い直し彼女へと大きく振りかぶり跳躍。

 ウルトラLはオニバンバにへと二人の意識が向いていたため、そして片膝をついていたためか反応が遅れ、その金棒が肩口に叩き付けられてしまう。

 すさまじい激痛が二人の意識を蝕む。

 ウルトラマンとはいえ、やはりそこは女性戦士の悲しさ、単純な肉弾戦は分が悪い。特にオニオンやオニデビルのように肉体的な強度が高いものにはどうしても力負けしてしまうのだ。

 意識が一瞬飛んだウルトラLに二度めの金棒が降り下ろされた。

 その一撃でウルトラLは転倒し地面に強かに叩き付けられるが、衝撃をあえて利用しそのまま転がり間合いを広げる。

 オニオンに苦戦するウルトラLを無視し、オニデビルはオニバンバを追った。

 

─行け!オニデビルよ。オニバンバと融合進化を遂げるのだ!

 オニバンバを追うために走り出したオニデビルに気付きウルトラLは立ち上がる。そして、体を捻り空高く跳躍した。

 そして右手に八つ裂き光輪を作り出しそれを投げ付ける。

 光輪はオニデビルの三本の角を1本切断するが、本来なら首を狙っていた。

 ウルトラLのジャンプに併せて飛び上がったオニオンが彼女の足を掴み引き下ろしたことで狙いが外れたのだ。

 

 そして、オニデビルは北島副隊長達を逃がしたオニバンバのもとへ辿り着き、残る角でオニバンバを貫いてしまう。

─よし、良くやったぞ、オニデビルよー。鬼超獣、並びにきさらぎ星人よー!融合進化し、大超獣へと生まれ変われ!誕生せよ、鬼大超獣ヤマバンバー!

 

 じわじわと融合していくオニバンバとオニデビル。

 二体の鬼の姿を象る星人と鬼の姿を象る超獣の融合である。新たに生まれた鬼の大超獣は爆発的なパワーを発揮した。

 オニオン1体に苦戦を呈するウルトラLの元へとヤマバンバは一瞬で間合いを詰めた。

 そしてオニオンと同時に金棒を振るう。

 腹と背を同時に強打されウルトラLの体勢が崩れてしまった。

 

 更に、この劣勢のなか、ウルトラLの意識の中にある櫻は悲鳴をあげた。

 彼女が見たものはもう1体。

 新たな超獣の姿である。

 

7.オイル超獣 オイルドリンカー

 頭頂部と鼻先の巨大で刃物の様な角。両手足の鋭く長く太い爪。

 全身を守る巨大な鱗。

 直立している誤った復元モデルのTレックスのような姿を基本にそれら超獣や怪獣らしい異様な姿となるパーツを与えられた超獣。

 オイル超獣 オイルドリンカーが現れた。

 オイルドリンカーは突進。

 その狙いはウルトラLでは無かった。

 大超獣ヤマバンバに対して、オイルドリンカーはその自身の巨大な体躯を叩き付けた。

 あまりの衝撃のためか、超獣最強の剛力を誇るオニデビルを更に強化した筈のヤマバンバが吹き飛んだ。

 アスファルトの道路を大きく穿ち、ヤマバンバは崩落ちる。

 オイルドリンカーは咆哮を上げ、体内に溜めたオイルを着火。顎門を開き吐き出される超高熱の爆炎。

 

 怪獣より超獣は強い。

 超獣よりも大怪獣は強い。

 オイルドリンカーは、当時、超獣最後の生き残りだった。最後の超獣とされたジャンボキングがウルトラマンA(エース)に敗れさり、超獣の時代は終わったと誰もが思っていた。そんな中でオイルドリンカーは出現した。

 ヤプールがいずれ忘れ去られる超獣の恐怖を地球人に再び思い起こさせるために残した隠し球。それがオイルドリンカーだ。

 だがオイルドリンカーはその使命を果たせなかった。どこからか湧いてでた大怪獣が超獣であるオイルドリンカーを丸飲みにし、超獣の時代に完璧に終止符を打ってしまったのだ。

 

 超獣は大怪獣より弱い。

 それがいつしか、超獣は怪獣の出来損ないとさえ考えられてしまうようにもなっていたのだ。 

 

 咆哮を上げ、爆炎を吐き続けるオイルドリンカー。

 

 ──大怪獣と融合した超獣が大超獣になった。超獣より強い大怪獣より強い大超獣になった。

 

 オイルドリンカーの意識が怒りに震えている。

 吐き続けられた爆炎の先にあるヤマバンバはその熱量に苦しみの咆哮を上げていたが、次第にその声は掠れるように小さくなり、少しずつ響きが無くなっていき、そして、止まった。

 大超獣を討ち滅ぼした事を確かめるとオイルドリンカーの巨体が光に包まれる。

 そして、その巨体はかき消えるようにこの場から姿を消していた。

 オイルドリンカーの攻撃力を目の当たりにし焦りを感じたのか、オニオンはウルトラLよりもオイルドリンカーを脅威と悟り、姿が消えようとしているオイルドリンカーを追いかけるため走るが、間に合わない。

 

「櫻さん!」

「は、はい」

 

 背中を見せたオニオン。

 卑怯かも知れないが自分達の力ではこの好機を逃しては確実に敗北する。

 ウルトラマンになれば勝てる。

 そう考えていた自分達の甘さを二人は痛感していた。

 

 両手を大きく広げる。

 上体を捻り、反動を付けるように向き直り両腕を大きく振るう。そしてその腕をL字に組み合わせた。

 白、青、薄紅三色の光線を掃射。

 ウルトラマンA(エース)が扱った光線技と同様のメタリウム光線である。

 背後からの強襲されオニオンに直撃するメタリウム光線。オニオンは肉片を撒き散らし爆発、四散した。

 

8.如月

「……きさらぎ星人さん……死なせてしまいましたね」

「……はい」

 オニオンを倒した。しかしその勝利は超獣が出現し、それが勝手に同士討ちを始めたから成せた幸運である。

 そして、改心した嘗ての邪悪な宇宙人は死んでしまった。とてもではないが、オニオンを倒したと二人は思えなかった。

 そして、残る課題。

 ウルトラマンになったとしても、怪獣と正面切って戦える程の肉体的な戦闘力を自分達は持ち合わせてはいないのだ。

「きさらぎ星人、きさらぎって、二月の如月ですよね」

「彼女達が付けた名称なのか、地球人が彼女等を便宜上そう呼んでいたのかは分かりません。でも……」

 

──私たちは今年も、そして来年の如月の三日も彼女を思って節分の日を過ごしましょう。来年もあの方がやってこれるように

 

 来年の今日また来るからな、あの遠い日、ウルトラマンタロウに告げたオニバンバの捨て台詞をいつまでも覚えていようと、二人は心に刻んでいた。 人間には無い大いなる力を持つ者達がいる。

 それは『超人』だ。

 超人達は幾つかの勢力団体に別れ遥かな過去から闘争を続けている。超人勢力は大まかに分けて四つ。

 

 宇宙怪獣の脅威から地球を守る正しい心を持ったスーパーヒーローである『正義超人』

 正義の超人に属しているがその有り余るスーパーパワーを以てして完膚なきまでに敵を叩き潰す『残虐超人』

 そんな残虐超人達の残虐ファイトが子供だましとさえ思えてしまう冷血冷酷冷徹の非情なる『悪魔超人』

 そして第四の勢力、感情を超越し神に最も近い『完璧(パーフェクト)超人』だ。

 

 西暦1983年、富士山麓に突如として出現したトーナメントマウンテンの山頂に突き刺さる超人タッグトロフィーを求め名だたる超人達がタッグチームを結成しその実力を競いあった宇宙超人タッグトーナメント。その決勝戦は正義超人のタッグチームであるザ・マシンガンズと完璧(パーフェクト)超人のタッグチームであるヘル・ミッショネルズにて争われた。そして、ヘル・ミッショネルズは敗北。彼等の目的である地球のマスクマンレスラーのマスク強奪は阻まれる事になった。だが、完璧(パーフェクト)超人の首領ネプチューンキングの1000人の弟子による地球襲来は目前に迫っていた。そこでヘル・ミッショネルズの一人ネプチューンマンは自らが人狼煙となることでその迫り来る完璧(パーフェクト)超人へと敗北を知らせ地球から撤退させる事に成功したのだ。

 

 ネプチューン・キングの1000人の弟子の一人に、ミスター・アキレスという男がいる。彼は頭頂部に鶏冠状の房飾りが付いた兜や筋肉を象る鎧を纏っており、どことなく古代ギリシャやローマの戦士を彷彿とさせる超人である。

 鎧を纏った超人と言えば仮面の貴公子との異名を持つ、第19回超人オリンピックチャンピオンであるイギリス代表正義超人ロビンマスクを思い出す者も多いだろうが、ロビンマスクが中世騎士を思わせる風貌とするならそれとは全く異なる甲冑超人だ。

 そして、ミスター・アキレスが被る兜の鶏冠状の飾りだが、それは正義超人の名士を生み出してきたキン肉星出身の超人が身に付けるマスクの頭頂部の飾りによく似ている。

 

 そのミスター・アキレスであるが、彼もまた他のネプチューン・キングの弟子達同様に、小型爆弾を飲み込み自爆したネプチューンマンの人狼煙を見受け、地球を離れた。

 ヘル・ミッショネルズの地球での目的は力の無いマスクマンレスラーからマスクを剥ぎ取り1000人の弟子達に与える事だった。その事は先の宇宙超人タッグトーナメント決勝にてネプチューン・キングが明かしている。

 ネプチューン・キングが言うには1000人の弟子はマスクを持たないとの事だが、このミスター・アキレス、マスクは持たないかも知れないがフルフェイスの兜を被っているのだ。

 それは、かつては悪魔超人界に在籍し、完璧超人界に転向した同胞の超人、アームストロングやミスター・アメリカン、ミリオンヘルなども同様だ。

 アームストロング、ミスター・アメリカンは明らかにマスク、ミリオンヘルもヘルメットを被っている。

 それ故に彼等は実際の所、ヘル・ミッショネルズが地球で行う覆面(マスク)狩りについて好ましく思っていなかった。

 同じく同胞のアモイマンなどはロビンマスクのマスクを被る事を心待ちにしていたようだが、彼はネプチューン・キングの言うように確かにマスクは持っていない。だが、ミスター・アキレス達にとっては現在身に付ける兜やマスク、ヘルメットが自分達の超人としてのアイデンティティーを支えるものなのだ。

 もし、準決勝でザ・マシンガンズに敗退したはぐれ悪魔コンビのアシュラマンが身に付ける蒼白い糸目の冷血マスクなどを与えられたら、ギリシャの超人としてのリングコスチュームである甲冑は台無しである。

 

 本当ならミスター・アキレスはネプチューン・キングに自身は他のマスクマンのマスクは不要であると伝えたい思いがあった。しかし、それは出来ない。

 アームストロング達もだ。

 彼等は完璧超人の一員ではあるが、その実力は大きく劣っている。単純な目安としては超人強度だろう。

 超人としての強さを数字で表したそれを超人強度という。超人強度の高低は決して絶対的なものでは無いのだが、彼我の戦力を求める一つの指針にはなる。

 ネプチューンマンが言うところの下等超人に位置する悪魔超人の超人強度は少ない者で200万パワーに近く、大半の完璧超人は1000万を大きく越えている。

 ミスター・アキレスは悪魔超人ではないが、アームストロング達は悪魔超人であった。

 その元悪魔超人である彼等の超人強度は決して高くは無い。しかもミスターアメリカン達の超人強度は100万に満たず、悪魔超人の中でも劣等超人だったのだ。

 そんな彼等が、完璧超人の首領に異議を申し立てられる筈もなかった。

 

 完璧超人による地球進出が叶わなかった事こそ残念に思うミスター・アキレスだが、余計なマスクを被ることなく過ごせる現状、それは非常にありがたかった。

 無念と安堵を抱きつつミスター・アキレスは、住みかとしている地球より遠く離れた未開の惑星へと辿り着いた。

 知的生命体は存在しないが緑豊かで多くの動物が棲む良い惑星だとミスター・アキレスは考えている。

 ミスター・アキレスは地球のギリシャ出身の残虐超人だったが、親友である同じくギリシャ出身の悪魔超人スプリングマンに悪魔超人界を足抜けしたアームストロングやミスターアメリカン達の動向を見守る様に頼まれ、完璧超人入りしたのだ。そんなミスター・アキレス自身は決して悪の超人ではない。未来の話になるが、このミスター・アキレスは正義超人の一人として、正義超人界の中心核であるキン肉マンの王位継承を決める試合を応援するため試合会場に駆け付ける様な男なのだ。

 ミスター・アキレスに少し遅れ、アームストロング、ミスターアメリカン、ミリオン・ヘルが惑星に降り立つ。

 上半身が筋骨隆々なマスクマンであるアームストロング、星条旗模様のマスクを被るミスターアメリカン、ヘルメットにマフラーを身に付けたどこか特撮ヒーローのようなミリオン・ヘル。

 ミスター・アキレスは彼等と共にこの惑星にて特訓を続けてきた。しかし地球進出が叶わなかった今、今後の方針を決めないといけない。

 

 惑星に降り立った四人。

 しかし、その時だ。不意に違和感を感じた。超人としての本能と言えるかも知れない。

 単なる人間と超人の差の一つとも言える、危機的状況を予知能力のように察する力である。

 何かが四人に向けて飛来した。

 四人は咄嗟に跳躍する。

 四人は飛来した何かを取り囲むように着地。

 

「な、何ぃっ───」

 

 ミリオン・ヘルが叫んだ。感情を超越したという完璧超人だが、彼等は所詮劣等完璧超人でしかない。感情を完璧に捨て去ることが出来ていないゆえ驚愕もする。

 飛来し、四人に囲まれた者は三人。その三人は奇妙な全身を覆う黒いローブを身に付けていた。

 ミリオン・ヘルが驚愕した理由はそのローブ姿の男達が手にするモノにあった。

 生首だ。

 丸く巨大なアドバルーンの様な頭部。

 蜘蛛のミニチュアの様な頭部。

 目や口が窪みになっているだけの奇妙な黒い頭部。

 そして尻。いや、これも頭部だ。

 

 かつて七人の悪魔超人が正義超人に宣戦布告するためキン肉マン達の前に現れた際、予めリングに待機していた別動隊悪魔超人達の生首だ。

 アームストロング、ミスターアメリカン、ミリオンヘルもその時の別動隊超人の一員達だ。

「フラッシャーバルーン、クモのコチラス」

「……THE・アンノウン」

「プリプリマン……」

 

 悪魔超人界時代の戦友の無惨な姿に三人の元悪魔超人達は絶句。怒りで肩を震わせ、黒いローブの男達を睨み付ける。しかし、ローブの男達は涼しくその憎悪を受け流し彼等の前へと無造作に生首を投げつける。

 

ドブァドブァ

「悪魔超人でありながら完璧超人などに鞍替えした貴様らは捨て置けん」

ピコピコー

「先のタッグトーナメントにて貴様らの首領は魔界のプリンスを愚弄した」

ギッチギチー

「これは貴様らを嘗ては同胞としていたこやつらへのペナルティーだ」

 三人のローブ姿の男は一人一人言葉を紡ぎ

「元悪魔超人共、貴様らを処刑する!」

 そして同時に言い放ち、黒いローブを一瞬で脱ぎ去り、その全貌を現した。

 

「てめえら、何者だー!」

 拳を握り締め、アームストロングの咆哮。

 

「人喰い戦車のハンティングマン!」

 両腕と口元が砲塔になった超人。

「超人データベース パーソナルマン!」

 巨大なモニターが頭部に胴体はキーボードそして手足がマウスで構成されたコンピュータ超人。

「地獄の歌謡祭 プレイヤーマン!我ら……悪魔のロボ超人!悪魔三銃士!!」

 ターンテーブルの頭部、ピックアップカートリッジの右腕を持つレコードプレイヤーの超人。

 

「そうか、貴様ら、魔界からの刺客だなー?」

 ミリオン・ヘルは眼前のハンティングマンを指差す。

「その通りだ。魔界王は貴様らの死を望んでおられるのよーっ!」

 ハンティングマンが声を発する度に口の砲塔から上がる黒い噴煙。

「ケッ、我らの首領に痛め付けられたアシュラマンの御礼参りって所か。魔界王もチンケな野郎だぜ」

 

 魔界のプリンス アシュラマン。六本の黄金の腕と三つの鬼面を持つ悪魔の騎士。彼の父は魔界の王だ。アシュラマンと同じく六本の腕を持つその姿は正しく異形。獣の様な鋭い牙を生やし、三本の脚を持つ。

 

「機械野郎共、返り討ちにしてやるわー!」

 戦友の死に憤り、息巻くアームストロング。

「待て、お前たち」

 

 だがそこで、ミスター・アキレスが彼等元悪魔超人三人を制する。四人で取り囲む形だったが、ミスター・アキレスは一歩踏み出し、三人を見やる。

「我らは誇り高き完璧超人だ。今、やりあえばリング外の乱闘でしかない。それは完璧超人の矜持を棄てるような物ではないか」

「グムゥー」

 

 ミスター・アキレスの指摘に言葉を失う元悪魔超人三人。今の彼等は完璧超人なのだ。どれだけ劣等超人と呼ばれようが完璧超人である誇りは胸にある。

 

「そこでどうだろう?悪魔三銃士の諸君。我々は超人墓場で待つ。超人閻魔立ち合いの下、正々堂々リングで決着しようではないか」

「ドブァドブァ。面白い、三対三の団体戦というわけか」

「いや、こいつらは私の友だ。友の危機は見過ごせん故、私も参加する。当日までにお前らももう一人用意してくれ」

「よし、分かった。受けてやろうじゃねぇか」

 

 ドブァドブァと奇妙な笑い声と噴煙を上げながらハンティングマンは頷く。

 了解した悪魔三銃士が異常なまでの発光を始めた。一瞬の激しい閃光。その閃光が消えると巨大なリボルバー拳銃が出現していた。

 

 巨大なリボルバー拳銃の弾丸となった悪魔三銃士は打ち出され何処かへと飛び去った。

  傷付き倒れた超人の魂が向かう死後の世界、超人墓場。

 超人閻魔が支配する死の世界だ。

 完璧超人の末席に名を連ねる超人ミスター・アキレスは生きたままその超人墓場に訪れていた。

 この超人墓場は本来死亡超人、あるいは墓守鬼、超人の神のみが立ち入る事が出来る特殊な空間だ。だが、唯一の特例として、完璧超人は命を持ったままこの世界に立ち入る事が許されている。

 

 太陽の光など見えない曇天。夜の様だが夜ではない。厚い雲に覆われ、そして上空を埋め尽くす様に浮遊する無数の超人の魂がこの超人墓場から光を奪っている。その魂は生前の姿を象っており、ミスター・アキレスが見知った超人の姿もあった。

 同郷の友人であるスプリングマン。全身が銀色のバネであり、その姿は玩具のトムボーイを連想させる超人だ。

 右手の尖端が太い針状の突起になっている。

 たまに普通の人間と同じ五本の指を持った手にもなるのだが、今回空中を漂っているスプリングマンはそちらの針状の突起を右手とするスプリングマンであった。

 何のために理由があって右手を使い分けているかは友人であるミスター・アキレスも、スプリングマンとタッグチーム『ディアボロス』を結成する七人の悪魔超人のリーダー格であるバッファローマンも知らない。

 

 死亡し魂となった彼等死亡超人だが、こうして空中を漂っていても自我を失っていない。単なる人間とは違い命を落としたとしても彼ら超人は此岸に戻る機会が与えられている。超人パワーを生成する装置である禁断の石臼(マルティエ・デ・ビレ)を回し超人閻魔のために労働する事により手に入る、命の玉と呼ばれる物を集めたなら、この超人墓場から此岸へと通じる扉を開くことが出来、甦る事が可能なのだ。

 だが、死を受け入れ此岸に未練を残していない超人は永遠に超人墓場の空中を漂い続ける。有名なのはドイツの鬼と呼ばれ恐れられた残虐超人、ブロッケンマンだ。彼も当初は仇敵のラーメンマンの殺害を考え現世に戻るために命の玉を集めていたが息子の成長を促す為には自分は死んだままが良いのだと判断し、超人墓場に留まることを選んだのである。

 逆に何度も命を落としており比較的蘇生するサイクルが早い超人がいる。超人横綱のウルフマンだ。彼はこの労働を手慣れており通常の死亡超人の何倍ものスピードで甦る事が出来た。

 

 ミスター・アキレスが超人墓場に訪れた理由は、悪魔超人との対抗試合を行う為の試合会場の提供、見届け人、及びレフェリーの紹介を超人閻魔に依頼するためだ。

 本来こうしたレフェリーなどの仕事は宇宙超人委員会が行うのが通例だが、完璧超人も悪魔超人も宇宙超人委員会には所属していない。

 悪魔超人同士の試合なら悪魔超人軍の超人が審判するだろうが、これは対抗戦だ。公平にジャッジをするものが必要なのだ。

 そこでミスター・アキレスは超人墓場の超人閻魔にレフェリーを紹介して貰おうと考えたのである。実際は超人閻魔こそ完璧超人の真の中心にあたる存在なのだが、秘匿された超人墓場の存在理由を知らないミスター・アキレスにとって、全ての超人の生死を司る超人閻魔以上に中立性のある者は考えられなかった。

 

 超人閻魔との謁見を終えたミスター・アキレスは超人墓場にある禁断の石臼(マルティエ・デ・ビレ)付近の岩場にて労働する死亡超人を眺めつつ、超人閻魔の返答を待っていた。

 椅子替わりにするには適さないゴツゴツした岩場へと腰を下ろすミスター・アキレスの視線の先には、かの有名な正義超人ウォーズマンの姿が見受けられた。宇宙超人タッグトーナメントにてミスター・アキレス達の首領に殺害されたと聞いている。師であるネプチューン・キングのタッグパートナー、ネプチューンマンはこのウォーズマンさえ下等超人と呼んでいた。

 その下等超人ウォーズマンの超人強度は100万パワーだ。

 100万パワーと言えば地球の超人なら最高峰といえるレベルである。

 今回共に団体戦に挑む同胞ミリオン・ヘルは超人強度100万パワー。このウォーズマンと同じだ。恐らく正義超人界に於いてはミリオン・ヘルは劣等超人ではない。

 だが、ミスター・アキレスの超人強度は90万パワーである。低くはない。低くは無いが悪魔超人界、そして完璧超人界では余りにも頼りない超人強度なのだ。

 ネプチューンマンが侮り貶したこのウォーズマンよりも自身の超人強度が低いという事実はミスター・アキレスの心に劣等感のような物を植え付けていた。

 

「君が悪魔超人軍と団体戦を行う完璧超人のミスター・アキレスか」

 ウォーズマンやスプリングマンを眺めていたミスター・アキレスが、自身に近付いてきた二人の男の姿に気付くよりも僅かに早く、一人の超人が声を掛けてきた。

「私は超人閻魔からの要請により、君達が行う団体戦のレフェリーを勤めさせてもらう残虐超人のマグネマンだ。」

「俺はワラ化け坊。超人じゃねぇからどの勢力が勝とうが関係ねぇ。その分てめえが求める公平なジャッジをしてやれるぜ」

 超人閻魔によりレフェリーに選ばれたもう一人は超人ではない。超人墓場や地獄に巣くう妖怪戦士である。

 マグネマンは胴体や頭部、四肢はそれぞれ複数のS、Nの文字が刻まれた四角形で構成された超人だ。頭頂部と両腕の手の甲からはそれぞれ一本の長く鋭い針が伸びている。

 見たところ磁石の超人か。完璧超人の首領達が扱うマグネットパワーを思い出させるが関係あるのだろうかとミスター・アキレスはふと考える。

 もう一人の妖怪戦士は死に装束の様な白い和服を着た人間大の藁人形だ。心臓部分に突き刺さった巨大な釘が、その妖怪戦士が人でも超人でもない異形なる者であると知らせる、得も言われぬ恐ろしさを醸し出していた。

「悪魔超人軍の方にも一人レフェリーが向かい、試合日程の説明をしている筈だ」

 

 超人閻魔が選んだレフェリー兼ジャッジは三名。

 それぞれが勝敗の判定を行う。

 今回の試合は完全なる時間無制限のデスマッチだ。試合を行う超人両者が絶命するまで執り行われるが両者が共に死亡する場合も考えられる。その場合の勝利者を決めるための人数である。

「悪魔超人軍四人VS.完璧超人軍四人。試合は三戦行ってもらう。一回戦と三回戦はシングルマッチ、そして二回戦をタッグマッチとする。」

 

 マグネマンから語られた試合形式。

 試合に出る順番は自由だが、一回戦が始まる前にそれぞれの試合に参加するメンバーの順番を記したリストを提出しなくてはならず、一度決めたそれを途中変更することは許されない。

 ミスター・アキレスは先のタッグトーナメントにてマッスルブラザーズが途中でパートナーを入れ換え決勝でタッグチームをザ・マシンガンズへと変更した事を思い出す。あれはアシュラマンがテリーマンの試合復帰を認める為に一回戦の勝利を返上したからであるが、それでも、本来のタッグパートナーであるキン肉マングレートが試合続行不可能になったのならマッスルブラザーズはそこで参加資格を剥奪されるのが妥当であろうと、ミスター・アキレスは考えたものだ。宇宙超人委員会は細かくルールは決めるが案外杜撰な所もある。だが、超人閻魔は厳格に試合内容を裁くようだ。

 

「マグネマン、ワラ化け坊。当日はよろしく頼む」

 

 あくまでも選手とレフェリーの関係だ。馴れ合う訳にはいかないため握手は交わさなかった。──魔界

 

 激しい稲光が走る。雷鳴が轟く。

 荒涼とした魔界の荒野に降り注ぐ豪雨をその老人は眺めていた。書類や数多の書物が乱雑に散らかった部屋は魔界に於ける彼の研究室だ。

 老人の名前はユーリ・コピィロフ。

 超人の肉体を改造し機械超人を生み出す第一人者であるチェコスロバキアの悪名高き超人ドクターだ。

 

「ドクター、コードFCの調整が完了しました」

 

 助手らしき女性がファイルを手に入室。

「そうか、して、ボニータよ。FCの完成度はどうじゃ」

「測定された超人強度は5200万パワー。先のタッグトーナメント出場超人最大の超人強度を誇る、ビッグ・ザ・武道の5000万パワーを200万パワー上回る数値です」

「ひぁひぁひゃあ、やったぞ、遂に悪魔超人を素材に、究極のロボ超人を生み出したぞ」

 

 ユーリは嘗てヨーロッパチャンピオンであるミハイルマンをロボ超人に改造した過去を持つ。しかし、そのミハイルマンは試合中に暴走し対戦相手のみならずレフェリーまで殺害し大爆発を起こした。ユーリはそんなロボ超人を作り出した罪を問われ超人ドクター界を追われたのである。

 その後ユーリはサタンにその腕を買われ魔界へと移住し悪魔のロボ超人開発を手掛ける様になったのだ。

 正義超人界に対する恨み辛み。それを爆発させるように彼は魔界で悪魔超人を機械超人へと改造し多くのロボ超人を生み出した。完璧超人に挑む悪魔三銃士もまた、ユーリの作品なのだ。

 悪魔超人で最も有名なロボ超人は恐らくステカセキングだろう。ステカセキングは彼の生み出した機械超人ではないが、ミラクルランドセルに隠されたあらゆる超人の能力が集録されている超人大全集をバージョンアップし続けているのはこのユーリだ。

 

「コードFC……いや、悪魔超人ミスターF・Cよ、聞こえるか」

 机の上に置かれた通信機に向かい声を張上げる。

 ミスターF・Cの待機する部屋にユーリの声が響いた。

「お前は完璧超人に鞍替えした裏切り者の悪魔超人共と試合をする悪魔三銃士に加わる四人目の悪魔として、試合に参戦せよ」

 ユーリは先日サタンの命令を受け、悪魔三銃士、ハンティングマン、パーソナルマン、プレイヤーマンの再調整を完了した。しかし、新たに四人目の選手を寄越すように要請され、このミスターF・Cの完成を急いだのである。

 

 助手の女性超人ボニータがモニターの電源をオンにする。すると、ミスターF・Cの部屋が映し出された。

 映し出された超人は明らかに小柄なロボ超人で身長にして僅か160cm。しかし、その姿は奇妙な物だった。

 顔はブラウン管テレビを模しており胴体は四角い機械だ。その胴体には赤い備え付けのレバーが中心にある。長方形のコントローラーパネルの様な右手。そのコントローラーパネルには円いボタンが二つと十字のボタン、そして小さな長方形のボタンが二つ。胴体にもボタンの様なものが見られる。肩口の硬質な金属性の肩当てはかなりの超人硬度だろう。

 複雑な姿のその奇妙なロボ超人はブラウン管テレビの頭部を動かし、自身の部屋に備えられたモニターに視線を向ける。尤もテレビ画面の様なその顔に目は見付けられないのだが。

 超人とは不可思議なもので目らしき物が無くても視覚を有し、口が無くても言葉を話す。面白いものになればマスク越しに食事をするものもいれば、マスクに汗をかくものさえいる。超人は明らかに人と異なる姿でも人としての活動する機能は必ず持ち合わせているのだろう。リングコスチュームとなるマスクも肉体の一部なのかも知れないが、マスクを脱ぐことも出来るため……そんな細かい所でさえも人の常識で超人を推し量れる物ではないのだ。

 マスクや鎧をリングコスチュームとすることで有名なロビンマスクという超人がいるのだが、彼はマスクの隙間からストローで飲料を飲むかと思えばマスク越しに酒を飲み、怪我をすれば鎧の上に包帯を巻くのだ。彼の事をよく知らない人間は彼のそんな姿を見て仮面の貴公子の異名からか仮面の奇行子などと茶化すが、超人である彼は確かに鎧の上から包帯を巻いたとしても止血し傷を治すことが出来るのだ。

 

「ドクター、僕のデビュー戦が決まったのですね」

 ミスターF・Cは元はアメリカ在住の若き超人だった。残虐超人スカルボーズやデビルマジシャンなどの残虐超人が奮う残虐ファイトに憧れ残虐超人の門戸を叩くが残虐超人界はラーメンマンやウォーズマン、カレクックと言った実力者達が正統な正義超人へと転向した為ほぼ壊滅状態にあった。それ故に若冠18歳の彼は、残虐ファイトを自由に行える悪魔超人軍へと参加したのである。

「そうだ。相手は最近巷で有名な完璧超人共じゃ」

─────

 

 ユーリとミスターF・Cの会話を、特殊な霊的画面で見るものの姿が魔界に聳えるピラミッドの奥にあった。

 縞柄のネメスという頭巾を被り黒いマスクで口許を隠した男だ。七人の悪魔超人の一人であるミスターカーメンだ。宇宙超人タッグトーナメントではアシュラマンが繰り出した悪魔霊術の一つ、地獄のキャンバスから亡霊超人として呼び出されたが全く目立った活躍は出来なかった。

 それには理由がある。完全に死亡していた他の亡霊超人となった悪魔超人達と違い、ミスターカーメンは命の玉を集め、半分、生命の有る超人となりつつあったから、亡霊超人として力を発揮できなかったのである。

 

「お父様、超人墓場の使いの方をお連れいたしました」

 獣の耳を頭にもつジャッカルの化身超人である女性が扉を開け、玄室のようになっているピラミッドの一室に現れた。彼女はアヌビ・クレア、ミスターカーメンの一人娘だ。

「ようこそ、魔界へ」

 ミスターカーメンは一礼し、その使いの超人を招き入れる。

 現時点で悪魔超人軍の主力もまた壊滅状態にある。

 七人の悪魔超人のリーダー格であるバッファローマンは正義超人へと転向し、悪魔騎士のリーダー格のサンシャインは死亡。司令塔である悪魔将軍は不在である。

 アシュラマンは負傷し魔界にあるアシュラ族の城で療養中だ。ザ・忍者はつい最近超人墓場から帰還したが姿を消している。

「魔界王の代理人として話を聞くと伺っているが」

 

 アヌビ・クレアに連れられ現れた男は超人閻魔が選んだ三人目のレフェリーだ。七人の悪魔超人として多くの超人を血祭りに上げてきたミスターカーメンは、そのレフェリーに選ばれた男から並々ならぬ強大なパワーを感じていた。とてもではないが、いちレフェリーが持つようなそれではない。

 この男は妖怪麒麟男爵。後の完璧超人首領であり、新世代の超人勢力、悪行超人軍団d.M.p(デーモンプラント)を設立する立役者の一人となる麒麟男(キリンマン)の若き日の姿である。 麒麟男爵がミスターカーメンに持ってきた話は試合会場と試合形式についての話だ。魔界王が多忙な為、現在活動している悪魔超人のなかで最も実力者であるミスターカーメンが魔界王の代理人に選ばれたのである。

 麒麟男爵を前にしたミスターカーメンは彼に秘められた底知れぬパワーを感じ、その力に飲み込まれそうになる恐怖感を覚えたが、その恐怖を上回る憎悪によって恐怖を押さえ殺し平静を保っていた。

 憎悪。それはこの麒麟男爵の容姿が関係する。

 麒麟男爵はその名の通り中国の伝説上の生き物霊獣麒麟と似通った容姿をしている。四つ足の麒麟が二足歩行に直立していると言ったところだ。

 後々d.M.p(デーモンプラント)設立時、妖怪から超人となり麒麟男(キリンマン)を名乗るようになった彼は中国出身の完璧超人として悪行超人軍団に登録している。

 ミスターカーメンは七人の悪魔超人として正義超人と団体戦を行った際に正義超人ブロッケンJr.を完全にKO寸前まで追い詰めていた。

 だが突然乱入してきたモンゴルマンにより敗北する。しかも、その乱入劇に気付かず宇宙超人委員会はモンゴルマンが去ったあとリングに生き残っていたブロッケンJr.の勝利と判定したのだ。どう考えても宇宙超人委員会のミスであり怠慢が原因の試合結果である。その納得がいかぬ試合結果の直接の原因を生み出したモンゴルマンの正体こそ、中国きっての実力派超人、ラーメンマンなのだ。

 それ故に中国出身であると考えられるこの麒麟男爵にも一方的な憎悪を向けていた。

 しかし、実はこの麒麟男爵、中国の妖怪ではない。

 日本の大分県出身の妖怪だ。

 その事実を知ったなら、もしかしたらミスターカーメンの憎悪は一気になりを潜め、あっさりと恐怖に飲み込まれてしまったかも知れない。知らなくて良いことも在るものだ。

 

「なるほど、超人墓場、魔界、地球でそれぞれ試合を行うのだな。そこで妾(わらわ)に魔界での試合会場を手配してくれというわけか」

 

 ミスターカーメンのその言葉を聞き麒麟男爵は気にする様子は見せなかったが、ミスターカーメンの一歩後ろに立ち、二人の会話を聞いているアヌビ・クレアは恥ずかしそうに頬を朱に染めていた。父であるミスターカーメンは何故かたまに一人称として妾を使う。

 それは女性の一人称だとアヌビ・クレアは思っており、ミスターカーメンがその一人称を言う度にどうも気恥ずかしくなってしまうのだった。魔界でブロッケンJr.戦を観戦していたのだが、観衆の前でわらわと言っていたのを画面越しで聞いた時など会場に居なくて良かったと心底安堵したものだ。

 

「そう、これらの試合を超人閻魔は公平に裁こうと考えていらっしゃる。故に悪魔超人にとって有利な魔界、完璧超人に馴染みのある超人墓場、そして悪魔完璧両超人陣営共に因縁ある地球。その三ヶ所で試合を行うのだ」

「悪くない考えだ。了解しよう」

 

 問題は地球での試合会場である。だが、今回の両陣営の超人はほぼ無名の悪魔超人と完璧超人だ。正義超人が余計な横槍を入れてくることはまず考えられない。

 とは言え地球での試合会場は、超人や人間の目に入るところではなく日本妖怪の百目仙人辺りから提供される予定であった。百目仙人は富士山出身の妖怪であり、富士山山麓に出現したトーナメントマウンテンでの抗争が端を発したこの試合だ。百目仙人が用意する富士山周辺にある妖怪の隠れ里を試合会場とするのも適切だろうと超人閻魔や麒麟男爵は考えていた。

 

 麒麟男爵がピラミッドの玄室を退出するとミスターカーメンはアヌビ・クレアに顔を向けた。カカカという特徴的な笑い声を上げ、ミスターカーメンは話を聞いたそばから既に決めていた試合会場先をアヌビ・クレアに伝える。

「魔界王がアシュラマンの受けた怨みを意趣返ししたいと考えているのなら、それはアシュラマンが得意とするウェザー・デスマッチに最も適した場所が良いだろうと思わんか?アヌビよ」

 ウェザー・デスマッチ。黄金のマスク奪還の為にキン肉マンが悪魔騎士最後の刺客アシュラマンと死闘を演じた試合形式こそ、そのウェザー・デスマッチだ。天候によって形状が変わるリングによって柔軟にそのリングに対処し試合を展開しなくてはならない非常に厄介な試合形式である。

 

「魔界第九層氷結地獄にて、ウェザー・デスマッチを執り行う」

「……しかし、お父様……我々悪魔超人軍の選抜超人は皆ロボ超人と聞いています。あのウェザー・デスマッチで作られる特殊リングの上では重量級が多い彼らロボ超人は不利になるのではありませんか?」

 

 氷のリングや、雨水の糸で形成されたリングなどそうした普通の人間なら立つのも困難、あるいは不可能なリングで試合をしなければいけないのがウェザー・デスマッチだ。そんなリングでは重量級の超人は不利になる可能性が高い。

 アヌビ・クレア本人は知らない事だが、今しがた参戦が決まったミスターF・Cは160cmという身長の低さからは考えられない体重450kgの重量級超人である。

「大丈夫だ。キン肉マン戦で見た雨水のリングなどはアシュラマンだからこそ出来る芸当。大抵はあの様なリングになるわけではない。せいぜいが氷上デスマッチになるくらいだ。何より、アシュラマンが得意とする試合形式で我々悪魔超人が勝利すれば魔界王も喜んでくださる事だろう」

 

 その試合形式を選び会場を手配したのがミスターカーメンとなれば、魔界王にとってそしてアシュラ一族の中でミスターカーメンの名はより聞こえが良い物となる筈だ。そんな打算がミスターカーメンにはあった。

 勿論そんな皮算用をしているなどと娘の前にはおくびも出さない。

 つもりであるが、聡いアヌビ・クレアはミスターカーメンから臭う様なそのセコさを、実のところ察しているのだった。

 ──富士山

 日本人なら知らないものは一人としていない、日本を象徴すると言っても過言では無い休火山。

 その富士山の麓に広がる青木ヶ原樹海。

 一度足を踏み入れたなら二度と帰ることは叶わないと言われる樹海だ。自殺の名所で知られそこで数多くの人間が自ら命を絶っていると聞く。

 その青木ヶ原樹海に超人がいた。

 人間では振るうことも難しい巨大な斧を持ち樹木を伐採している。

 目を引くのは額にある楓を模した『メイプルリーフシンボル』と胸元の中心にある楓のマーク、そして赤と白で統一されたそのカナダ国旗を彷彿とさせるカラーリングだろう。大抵の人間は一目でこの超人がカナダ出身の超人なのだと察する筈だ。これで仮にインド出身の超人などと言われたら皆爆笑するだろう。

 彼の名はカナディアンマン。容姿だけでなく名前まで一貫してカナダ出身の超人であることを主張する超人だ。

 しかし、彼はそのカナダを追われひっそりとここ青木ヶ原樹海で暮らしていた。余りにも情けない超人レスラーとしての経歴が災いし祖国では国辱超人と罵られ今はこうして青木ヶ原樹海にて樹木を伐採し、炭火を焼いて生活しているのだ。

 

「ケケケ、青木ヶ原樹海住まいの野郎が居たとはな」

 

 カナディアンマンは暴徒化した人間に折角建てたジムのドアを丸太で破壊された事がある。その丸太への怨みを樹海の樹木に八つ当たりするように乱暴に斧を叩き付け伐採していたときの事だ。

 突然不気味な声が聞こえてきた。

 ゾッとするような声だ。

 恐ろしい超人の声は超人レスラーとして生きてきた中、何度も聞いている。しかし、そうした声とは異質な恐怖を沸き起こす物だった。

 斧を振るう手を止め、慌てて声の方へと振り返る。

 嫌な汗が額から頬から流れ顎を伝う。

「ゲっ、化け物」

 声の主の奇怪な姿を前にし小さく悲鳴を上げるカナディアンマン。現れたのは人間大の藁人形だ。

 本来なら心臓が有る筈の辺りに巨大な釘が打ち込まれている。そして彼が纏う死に装束の胸元は、本物かは分からないが血の色に染まっていた。

「ケケケ、この樹海は富士山の真の所有者百目仙人の許可を受け、これから試合会場となるんだぜ。邪魔者はさっさと立ち去りな」

「な、何だと試合会場ーっ?ちょ、超人レスリングのか!?」

「ケケケ、そうだ超人レスリング……──んん?そう言う、てめえも超人だなー?あぁ、週刊HEROでその面(ツラ)見たことがあるぜ。てめえ、あの(・・)カナディアンマンじゃねえかー」

 週刊HEROとはテリーマンの恋人で有名な記者の翔野ナツコも記事を書いている超人関係専門の情報誌である。超人達の活躍する姿を写真で紹介したり、超人情報番組『超人アワー』で行われたインタビューの記事なども掲載されている。

「グヌ……何を指して″あの″かは聞きたくないが確かに俺はカナディアンマンだ。お、お前は何者だ、見たところ超人ではないな?」

「ケケケ、俺はワラ化け坊、超人じゃなく妖怪だ。近い内に開催されるとある超人レスリングの試合の準備をしに来たのよ。さっさと消えたら痛い目に遭わなくて済むぜ国辱超人さんよー」

 

 ワラ化け坊は駅のホームに設置されている屑籠から捨てられていた週刊HEROの記事を読み、カナディアンマンの顔を知っていた。先の宇宙超人タッグトーナメントの際に本選開始前に脱落したことではなく、カナディアンマンにとって小さな汚点ではあるが、余りにも恥ずかしい特集記事だ。

『10年前なら優勝できた。超人レスリングはパワーの時代は終わった』

 第21回超人オリンピック ザ・ビッグファイト終了後に超人アワーで受けたインタビューに対してカナディアンマンが回答した言葉だ。しかし、その直後正しくパワー溢れる超人の代名詞とも言える怒れる猛牛、七人の悪魔超人のリーダー格、バッファローマンが現れたのだ。

 パワーの時代は終わった訳ではなかった。寧ろパワーが猛威を奮う時代が直後に訪れてしまったのである。

 その話を面白おかしく書いてあった超人HEROの記事をワラ化け坊は目にしていたのだ。

 

「く、クソ、頼む許してくれ」

「な?何だと―?」

 突然土下座を始めたカナディアンマンに面喰らうワラ化け坊。幾ら弱体超人国辱超人と謗りを受ける超人とは言えいきなりこの様な行動に出るとは思っていなかったのだ。

「そ、祖国に帰る訳にも行かず、ここから出て生活するにも今は持ち合わせもあまり無いんだ。その試合とやらの邪魔はしないからソッとしておいてくれー」

 身長265cm体重218kgの巨漢が土下座で見るからに小さくなっており、ワラ化け坊はその情けない姿に呆れため息を一つ。だが、行くあてもない生活に関してはこのワラ化け坊にとっても他人事では無かった。

 彼はこの異形のせいで人間からは忌み嫌われ、現代のように文明が高くなったいま、屑籠から野良犬と一緒に食べ物を漁るような日々を送った事もある。

 

「ケケケ、仕方ねぇ。なら、てめえはここで試合会場の準備と整備の手伝いをやりな。役に立ったら面白い試合を見せてやるぜー」

 

 青木ヶ原樹海特設試合会場。

 そこに所謂四角いリングは無い。

 この青木ヶ原樹海そのものが、悪魔超人軍と完璧超人軍の選抜超人が試合するリングなのだ。 第20回超人オリンピック第21回超人オリンピック ザ・ビッグファイト、宇宙超人タッグトーナメントを制した正義超人キン肉マン。彼が遠い宇宙の彼方にある辺境の小さな星クッピン星にて、100万年前にその星の人々を恐怖のどん底に突き落としていた残虐超人タイラントを得意のキン肉バスターでKOし勝利を納め祝福されながら自身の宇宙船に乗り込む姿を陰から睨むものがいた。

 

 三ヶ月前に封印を解かれたタイラントには現代で手下に引き入れた超人が四人いた。その超人達は第21回超人オリンピック ザ・ビッグファイトにも参加していた残虐超人スマイルマンを筆頭に残虐超人ハンマーヘッド、残虐超人土偶マン、そして、七人の悪魔超人の別動隊として超人感謝デーに紛れ込みバッファローマン達が出現するまで偵察のために待機していた悪魔超人の一人クモのコチラスである。

 

 クッピン星に辿り着いたキン肉マンとテリーマン。彼らはアレキサンドリア・ミートの助言を受けながらキン肉マンはリーダー格のタイラントを、テリーマンは単身スマイルマン、ハンマーヘッド、土偶マンを撃ち破った。

 だが、キン肉マン達はミスを犯していた。

 キン肉マン達がクッピン星に辿り着き、決戦の場に到着するより以前、クモのコチラスはクッピン星の監獄で囚人から予想外の反撃を受け気を失っていたのだ。命までは奪われなかったクモのコチラスはキン肉マン達がタイラントと死闘を繰り広げている間に意識を取り戻し、他の囚人を殺害。キン肉マン達がクッピン星を離れるまで、密かに待機していた。

 それ故にキン肉マン達は彼の存在には気付くことなく地球に帰ってしまったのだ。

 

 ───数日後

 暗黒物質(ダークマター)に包まれているため他の星の者から気付かれること無く繁栄してきたクッピン星。

 しかし、キン肉マンの活躍で長きに渡る恐怖の存在が撃ち破られたにも関わらず、残党のクモのコチラスが新たな恐怖としてクッピン星の人々を苦しめ始めていた。

 クモのコチラスは100万年前にタイラントを封印したシルバーマンの石像を一番に破壊しクッピン星の住人に希望は無い事を印象付けたのだ。

 タイラントがキン肉マンに討たれた際に破壊されたリングの上の玉座だったが、クモのコチラスは自分専用の玉座を作りそこに座っていた。

 

 その玉座は自らが吐き出した糸で身動きを取れなくした人々である。その中にはタイラント打倒の切っ掛けを作った青年もいた。その青年がクッピン星を逃亡し、地球へと辿り着いたことでキン肉マンがこのクッピン星にやってくることになったのだ。

「バラックよぉー、キン肉マンは困ったときにはまた来いよと抜かしてたが、こうなったら行きようもねぇなあ」

 青年、バラックの頭をからかうように軽く叩きながらクモのコチラスはスパスパスパと奇妙な笑い声をあげた。

「おらー、飯はまだか!」

「随分と息巻いているな、クモのコチラス」

 

 つかつかと歩み寄る黒いローブの男が、慌てて食事を持ってきた女を押し退け、そうクモのコチラスに声をかける。

「誰だてめえは」

「隠された星に居るとはな、探すのに手間取ったが、流石カーメンの娘アヌビだ。父親以上の占い能力よ。ずばりとお前の居場所を見付けてしまった」

「カーメンだぁ?ミスターカーメンか?随分懐かしい名前じゃねえか」

 

 クモのコチラスは人間玉座から立ち上がりその玉座を掴み黒いローブの男へと投げ付ける。人間玉座は五人の男を糸で絡めて作ったものだ。ざっと纏めて400kgは有るだろうが、クモのコチラスはそれを片手で持ち上げ投げ付けたのだ。

 黒いローブの男は人間玉座を受け止め地面へと下ろす。

 しかし、その隙を狙うかの様にクモのコチラスは体に捻りを加え揃えた両足でリング上からドロップキックを放つ。

 ドロップキックは黒いローブの男の胴体に命中。しかし、クモのコチラスのドロップキックが貫いたのは黒いローブだけであった。

 

「ヒャオー」

 黒いローブを脱いだ男は体を半回転させ、ローブを貫いた状態にあるクモのコチラスへと拳の甲を叩き付けた。

 

「……て、てめえ、何もんだ」

 地面に落ち、片膝を付きながらクモのコチラスは手を振り回しながら声を張り上げる。

「悪魔超人」

「な、なにぃ?悪魔超人だと、俺が悪魔超人界に居たときはてめえ何ぞ見たことも無かったぞ」

 

 ローブを脱ぎ捨て、その姿を現したのはプレイヤーマンだ。

「俺は悪魔三銃士の一人 超人歌謡祭プレイヤーマン。クモのコチラス、貴様は完璧超人にくら替えしたミリオン・ヘル、ミスター・アメリカン、アームストロングの仲間だったな。よって貴様を処刑する!」

「何だと?意味のわからねぇことを!」

 

 クモのコチラスはミリオン・ヘル達が完璧超人入りした事は知らない。クモのコチラス達はバッファローマンがキン肉マンに敗北するよりも前、既に別動隊としての任務を終了し解散していたのだ。それ以降何かしらの交流が有ったわけではない。

 クモのコチラスが知っている事と言えばミスター・アメリカンとアームストロングは当時から仲が良く、機会があれば二人でタッグチームを組み銀河系超人タッグタイトル等に挑戦したいなどと言っている話を聞いた事が有るくらいだった。

 

「行くぞ、クモのコチラス。死の超人歌謡曲!」

「ちっ、ステカセキングの真似事かー」

 ギッチギチーと意味の良く分からない笑い声と共にプレイヤーマンから何かの曲の序奏が聞こえ出す。

「始まったぜ、イギリス超人ロビンマスクのテーマ!」

 

 ステカセキングのミラクルランドセルに備えられた超人大全集。確かに、このプレイヤーマンの超人歌謡曲はそれの真似事だ。そしてプレイヤーマンの超人歌謡曲はそれぞれの超人のテーマが流れているときのみ、その超人の技を完全にコピー出来るのだ。そこはステカセキングの超人大全集に劣る所だろう。

 

 だが、一つ違うところがある。

 

 ロビンマスクの技術をコピーし、ロビンマスクの必殺技、タワーブリッジにプレイヤーマンはクモのコチラスを極めた。プレイヤーマンの肩にクモのコチラスを仰向けに乗せ、左右の手でクモのコチラスの首と太股を持ち、背骨をへし折るようにしならせる殺人技だ。プレイヤーマンの右手はレコードプレイヤーのピックアップカートリッジのアーム状になっており完全に掴むことは出来ないが、肘窩

辺りで挟み込む事で極めていた。

 クモのコチラスは苦痛に耐えながら、蜘蛛の全身を象った頭部の口から糸を吐き、プレイヤーマンの左手に巻き付ける。

 そして、糸でその左手をギリギリと締め上げていく。目にも見えないような細い糸だが、その締め付ける力は相当な物だ。

 そのせいで左手のフックが甘くなった。それを見逃さずクモのコチラスは体を反転。

 そのまま空いている右肘でプレイヤーマンの頭部となるターンテーブルにエルボーを叩き付けた。

 グラリとぐらつくプレイヤーマンから離れ、クモのコチラスはリングの方へと走り、一気にコーナーポストへと駆け上がる。未だ糸はプレイヤーマンの左手に巻き付いており、コーナーポストから飛び上がると同時に糸も操作しプレイヤーマンの体勢を崩す。

 

「クモンゴルボディプレス!!」

 

 クモのコチラスのボディプレスが体勢を崩したプレイヤーマンに襲い掛かろうとしたその時だ。

 ロビンマスクのテーマが終わり、ウォーズマンのテーマが始まった。今回は序奏はない。

 

 ウォーズマンのテーマが始まったその瞬間だ。

 ボディプレスを仕掛けたクモのコチラスだったが、体勢を崩していた筈のプレイヤーマンにあっさりと受け止められ、そして、一瞬で背後に回ったプレイヤーマンはクモのコチラスの背中に跨がるような体勢で両足を相手の太股に引っ掛け、両腕の手首を掴み、引き上げるように関節を極める。ウォーズマンの必殺技、パロ・スペシャルの体勢だ。それが極るや、クモのコチラスの肩はメキメキと悲鳴を上げ、骨がへし折れへし折れた骨は皮膚を突き破り鮮血が迸る。その返り血に塗れるプレイヤーマンはギッチギチーと笑い、更に腕を絞り上げていき、地面に押し付けるようにクモのコチラスを倒す。

 

 ステカセキングの超人大全集と違うところがこれだ。

 奏でられた超人のテーマソングにあるフレーズと全く同じことが必ず起きるのである。

 

 ウォーズマンのテーマはそこでストップ。

 プレイヤーマンはパロ・スペシャルを外し、両肩を完全に破壊されほぼKO状態であるクモのコチラスを見下ろす。

 

「ギッチギチー、終わりだクモのコチラス。これで、死刑執行よー」

 

 脱ぎ捨てたローブを拾い上げ、それを纏うや、プレイヤーマンのローブの裾が突如と鉈の様に重く鋭利な刃物と化した。

 プレイヤーマンは身動きが取れなくなったクモのコチラスを抱え上空へと放り投げ、落下してきたクモのコチラスの首を、その鉈と化した裾で刎ね跳ばした。

 超人墓場の墓守鬼達が奇妙なリングを遠巻きに見詰めている。いや、それはリングと言って良いのだろうかと、一人の墓守鬼はそのリングを指差して隣の墓守鬼に語りかけていた。

 コンクリートの四角いリング状の塊がそこに鎮座していた。しかも本来なら有る筈の四隅に聳える鉄柱のコーナーポストもリングを囲むロープもない。

 しかし、その替わりと言っていいのか悪いのか、グルリとリング状のコンクリートを取り囲む男達。

 更にはリングに上がった超人を決して逃がすことは無い金網で作られた壁と天井の囲い。

 その金網の天井には同じく金網で作られたゴンドラがぶら下がっている。

 そして何よりも、墓守鬼さえ青ざめる物がリングを囲む男達の背後に敷き詰められていた。

 無数の鋭利な刃が生える板である。

 

 コンクリートデスマッチ。その昔、ラーメンマンとブロッケンJr.が超人オリンピックで繰り広げたデスマッチがある。それはリングをコンクリートで固めるというものだ。

 ノーロープデスマッチ。ハワイ遠征中のキン肉マンがハワイチャンピオンのジェシー・メイビアと行ったデスマッチだ。この中では比較的緩いデスマッチだが、ロープを利用した技も、ロープブレイクも出来ない過酷なデスマッチだろう。

 金網デスマッチ。古くはキン肉マンvs.ゴーリキ、有名なのはこれまたラーメンマンが行った対ウォーズマン戦だろう。この時は更に棺桶デスマッチも導入されており、ノックアウトした対戦相手を棺桶に入れるというルールであったが、この超人墓場特設リングには残念ながら棺桶は見られなかった。ラーメンマンと言う超人は不運な物で金網デスマッチをその後ヘル・ミッショネルズ戦、現時点では未来の話であるが、後々勃発する超人戦争王位争奪編ではバイクマンというロボ超人ともこの恐るべき金網デスマッチを行っている。

 ランバージャック・ゴンドラ・デスマッチ。

 このリングを囲む男達は金網デスマッチ同様、リングに足を踏みいれた超人レスラーをリング外に逃がさないために存在している。しかし金網と異なりこの男達は超人レスラーに能動的に行動をする。つまり、逃走防止に託つけて、危害を加えてくる可能性もあるのだ。キン肉マン&キン肉マングレート(正体はテリーマン)のタッグチームマッスルブラザーズはアシュラマン&サンシャインのはぐれ悪魔コンビ戦でこのデスマッチを行った際、はぐれ悪魔コンビに味方する四人の超人の妨害を受けた為に実質二対六という絶望的な試合運びを強いられたのだ。そして、このゴンドラは棺桶デスマッチにおける棺桶と同様の扱いだ。このゴンドラにノックアウトした対戦相手を入れて初めて勝ち名乗りを受けられるのだ。 

 そして最後はソード・デスマッチ。無数の刃が突き出た剣板、これに落ちたら最後、嘗て実力者のテリーマンを一度絶命せしめた程の正しくデスマッチなのである。

 

「うむぅ、盛りすぎなデスマッチで何が何だか分からんわい」

 墓守鬼の一人が冷や汗を拭いつつ呻く。

 

その墓守鬼の呟きを聞いたミスター・アキレスは内心沸き上がりつつある恐怖心を圧し殺さんとばかりに組んでいる腕に力を込めた。

「残虐超人、正義超人、悪魔超人、完璧超人と全ての超人勢力がそれぞれ争ったデスマッチの複合デスマッチと言う訳か」

 着々と準備が進む超人墓場特設リングを眺めているミスター・アキレスは椅子替わりとしている岩に座りながら、対戦相手になるパーソナルマンに視線を向けることなく語りかけた。

「その様だな」

 ピコピコーと電子音なのか笑い声なのか判断の難しい声を洩らすパーソナルマン。パーソナルマンはその名の通りパーソナルコンピューターの化身であるロボ超人だ。頭部はモニターそのものであり、目の様にも見える物が二つついているだけの感嘆な顔からは表情も感情も読み取れない。

 同じくロボ超人、例えばウォーズマンのように、対戦相手の感情や行動を読み取り計算できるコンピューター超人なら或いは理解出来るかも知れないが、生身の超人であるミスター・アキレスにはパーソナルマンの心情を察することは不可能であった。

 

 そして、試合当日。

 超人墓場には元悪魔超人出身の完璧超人であるミスター・アキレス、ミリオン・ヘル、アームストロング、ミスター・アメリカンが。

 悪魔超人からはハンティングマン、パーソナルマン、プレイヤーマン、当日になって初めて見る新顔のロボ超人、ミスターF・C。

 ジャッジを行う為の三人である残虐超人マグネマン、妖怪戦士のワラ化け坊に、同じく妖怪戦士であり後々d.M.pの完璧超人首領となる麒麟男爵(後の麒麟男)。

 彼等は超人墓場の長、超人閻魔の眼前にて頭を垂れ、試合開始の宣言を待っていた。

 

「完璧超人、悪魔超人達よ。一回戦シングルマッチは青木ヶ原樹海特設リング、二回戦タッグマッチは超人墓場特設リング、三回戦シングルマッチは魔界特設リングにて行う物とする」

 超人閻魔は短く告げると、手に持っていたメンバー表を傍らに控える一人の超人に手渡した。

 ホッケーマスクの様な仮面の奥に隠れた爛々と輝く赤い瞳に異様な光を宿し、背には巨大な右手を背負いその手の人指し指はさらに左手を象り頭を掴んでいるという奇妙な出で立ちの超人だ。

 ジ・オメガマン ディクシア。

 それが彼の名前だが、その名を世間に知らしめるのはもう少し先の事である。

 

「第一回戦、青木ヶ原樹海特設リング悪魔超人軍、並びに完璧超人軍」

 ジ・オメガマンがそのメンバー表の名を読み上げるよりも早く両陣営の超人に異変が起こった。

 

「ぐお、こ、これはー!?」

 

 完璧超人からはアーム・ストロング、悪魔超人からはハンティングマンの体が少しずつ消えだしたのだ。

 闇のなかに染み込むように徐々に薄れていく二人の超人。

「アームストロング対ハンティングマン」

 

 ジ・オメガマンが名を告げるとほぼ同時に二人は完全にかき消えていた。

 

ケケケケ

 ワラ化け坊が笑いながら彼も消えていく。

 青木ヶ原樹海のメインレフェリー兼ジャッジはワラ化け坊のようだ。

 マグネマンと麒麟男爵はこの超人墓場で場外乱闘が起こらないよう目を光らせると同時にVTRで細かく試合内容を見定めるのだ。

 

 そして青木ヶ原樹海を映すビデオカメラだったが、その先にリングは無く、広大な青木ヶ原樹海にて相対することなく現地に到着した二人の超人が映し出されていた。

 

「ケケケケー。アームストロングにハンティングマンよー。おめえらのリングはこの青木ヶ原樹海そのものだー」

 

「な、なんだとー!?」

「この青木ヶ原樹海には様々なトラップや仕掛けが存在している、それを掻い潜り、てめえが得意な状況を見事作り上げ有利な試合状況へと事を進めてみるんだな、そらー、ゴングだぁ!」

 

ワラ化け坊の号令のもと、ゴングが高々と鳴り響いた。 天上兄弟喧嘩という大昔の超人の神についての伝説がある。

 兄である金のマスク超人ゴールドマン

 弟である銀のマスク超人シルバーマン

 彼等は仲の良い兄弟の超人であり、それぞれゴールドマンは戦、シルバーマンは平和を司る神であり、攻撃と守り、矛と盾。

 二人は対をなす超人だった。

 

 しかし、そんな二人の間に走る亀裂。

 一人の子供の他愛もない一言、二人が戦えばどちらが強いのかと言うその問いにより、ゴールドマンとシルバーマンはそれぞれの強みを主張しあい、いつしか仲違いの末に後に伝わる『天上兄弟喧嘩』が始まったのだ。

 

 それらは後世の超人に伝えられた逸話であり真実かどうかは分からない。

 真実はこの喧嘩を調停した裁きの神ジャスティスに聴けば良いだろう。

 

 だが、この天上兄弟喧嘩には根本的な原因と要因を招いた裏の存在があった。

 その名は105の超人の神よりはぐれし神の一柱である『不和の神』と彼の神器『ヴィトレイの裏切りの箱と呪いの人形』である。

 

1. 

 いつぞやの8月26日号の肉刊スポーツの見出しを御存知だろうか。

 そう、アシュラマン婚約!?の一行である。

 

 これは実はアシュラマンが後に妻となるイボンヌとの逢い引きを偶然見かけた魔界超人特派員のかってな思い込みから付けられた見出しなのだが、実のところ当たらずとも遠からず、アシュラマンの浮いた話の一つとなっている。

 

 その逢い引きだが、二人が何をしていたか……。

 

「イボンヌ……私は悪魔超人だが、いずれは正義超人や完璧超人達との和解に臨みたいと考えている」

 

 アシュラマンは三対六本の腕の内中段の対の手に一つの不気味な箱を持ち、魔界由来の女性超人と共に魔界の奥底に向かっていた。

 完璧超人に狩られた笑い冷血怒りの面は既に正義超人キン肉マンの手によって彼のもとに返されてはいるが現在の彼は素顔のそれであった。

 嘆きの顔ではあるが、実のところその優しい顔はむしろ慈愛と言っても良いかも知れない。

 現状のアシュラマンに悪行超人の面影はない。

 

「一つの区切りとして、あのタッグトーナメントで用いたこの呪われた箱と人形を魔界の奥底に封印したい」

 

 正義超人の友情を奪いキン肉マンを孤立させることに成功した呪いの人形とそれらを封じ込めるヴィトレイの裏切りの箱と呼ばれる魔界に伝わる神器である。

 アシュラマンがイボンヌと共に魔界に訪れていたこの場面を肉刊スポーツの記者が目撃し後々アシュラマンへと突撃インタビューを行ったのである。

 その際アシュラマンはサタンクロスとの試合を控えておりいい迷惑となったことは8月26日号の記事からも明らかであろう。

 

「それに今、新たな危機がキン肉マンに迫っているかも知れない。このヴィトレイの裏切りの箱が私の意思とは関係無く、再び作動し次なる呪いの人形を生み出しているのだ」

 

 裏切りの箱をパカリと開くやそこにはキン肉マン、テリーマン、ロビンマスク、バッファローマン、ウルフマン、ブロッケンJr.の人形が納められていた。

 

「しかも、これは私の不注意でだが、いつの間にか作られていた人形に驚きヴィトレイの裏切りの箱を落としてしまい……そのときにウルフマン人形の脚が傷付いてしまったのだ……!」

 

 イボンヌはアシュラマンのその告白に何と返して良いものか分からずなんとも言えぬ表情のまま顔を背けるしか無かった。

 

「不思議だとは思わんか。いくら役職が有るとはいえテリーマンやロビンマスク、ブロッケンが王位を賭けたキン肉マンに協力しようとしていないのだ。それは恐らく……このヴィトレイの裏切りの箱が影響している」

 

 ウルフマンの脚が治らないのも私のせいかも知れないとアシュラマンは心の内にて呟く。

 

「これらを封印することこそ、私の悪魔としての区切りであり、今、キン肉マンを救うことになると……私は考えたのだ」

 

「なるほど面白い。流石は魔界のプリンス、アシュラマン」

 

 イボンヌと共に魔界の奥底へと続くトンネルを進むアシュラマンの背後より男の声が響く。

 何者かが後を追ってきているなどととんと気付けてはいなかった。

 その異常性にアシュラマンは眉を潜めイボンヌを庇うように下がらせた。

 

「何者だ」

「知性、残虐、技巧、飛翔、強力を含む105の神よりはぐれし邪悪神。その名も不和の神」

「っ!貴様も超人の神か!?」

 

 闇より生じた白いフードの男がアシュラマンの6つの目に映る。

 しかし、キン肉マンの戴冠式に現れた超人の神達からは実体の様なものは見受けられなかった。

 頭部のような物は浮いてはいたが、投影された幻の様な存在感しかそこには無かったはずだ。

 だが、この神を名乗る男からははっきりと実体を伴った肉の圧力が感じられるのだ。

 

「尤も……こうして肉体を持った以上超人の神とは言えぬかも知れんがな」

 

 くくっとくぐもった笑い声とともにアシュラマンの耳には半端にしか届かぬ言葉を発する。

 

「そのヴィトレイの裏切りの箱は元々この私の物でな。現時点、超人界を乱さんとする邪悪五大神の役に立つだろう事は明白。返して貰うぞ」

 

 その言葉が号令となったのか。

 不和の神のローブより闇が伸びる。

 そして箱を守ろうとするアシュラマンの隙を衝くかのように新たな闇が二つ伸びイボンヌへと襲いかかる。

 咄嗟にヴィトレイの裏切りの箱への意識がそれイボンヌを庇うアシュラマン。

 しかし、それを狙い更なる影が二つローブより飛び出し、イボンヌへと意識が集中してしまったアシュラマンの手より裏切りの箱を奪い取る。

 

「しまった!」

 

 五つの影は再び不和の神の元へと飛び、恭しくそれを手渡した。

 

 影達も同じ様なローブを羽織った男達であり恐らく超人であろうとアシュラマンは察し、戦闘体制を取るためか何処からか笑い、冷血、怒りの三面を取り出し装着する。

 

「けけけー」

 

 闇の一人がローブを脱ぎ捨てる。

 そこに居たのは、古代の日本の鎧。

 いや、甲冑を纏った人間を粘土や泥で形作り模した人形。

 埴輪の超人だった。

 

「まて、ハニワマン。ここでやりあう必要もない。私の目的はこいつを返して貰う事だけだ。アシュラマンと試合うつもりなど毛頭ない」

 

 そして不和の神はヴィトレイの裏切りの箱を開き、キン肉マン、テリーマン、ロビンマスク、バッファローマン、ブロッケンJr.を模した呪いの人形をハニワマンを筆頭にそれぞれ闇のローブを纏った超人に投げ渡し、自身はウルフマンの人形に一度目をやるがそれに関しては特に何も述べず、蓋を閉め、自らはヴィトレイの裏切りの箱を脇に抱える。

 

「ククク、これで奴等の友情は引き離された。キン肉マンはこれより、たった一人で王位争奪戦に挑まなければならぬ」

 

 そして、突然アシュラマンの背後に現れた時と同様にして不和の神はその姿を消していった。 中国河南省

 草一つ生えない荒涼とした岩山がそこにあった。

 もしもそこで足を踏み外そう物なら決して助かるとは思えぬ切り立った崖。

 崖道を向かった先に有るのは赤い門構えである。

 その門を越えても続くのは剥き出しの岩肌のみ。

 家は見当たらない。

 だが、そこに一人の男がいる。

 崖の上で中国拳法の演武を続ける辮髪の男は超人レスラーに明るい者なら誰もが見覚えのある超人であろう。

 

 中国四千年の伝統ラーメンマンである。

 

 先の宇宙超人タッグトーナメントで身に付けていた隈取り模様の覆面、モンゴルマンマスクは装着しておらず、超人オリンピック ザ ビッグファイトなどで親しまれたラーメンマンそのままの姿であった。

 

 超人オリンピック ザ ビッグファイトの準決勝にてウォーズマンから受けた傷が原因で一時は植物超人となってはいたが現在は幾分か回復し、モンゴルマンマスクを身に付けずともこうして日課である演武を舞う程度の事ならば可能となっていた。

 しかし、やはり実際の試合となればどうであろう。

 

 霊命木と呼ばれる特殊な樹木からモンゴルマンマスクを作りラーメンマンに再び戦う力を取り戻させた超人専門の名医ドクターボンベにかつて随伴した事がある中国出身の残虐超人ゴクウマンはその演武を眺めながらふとそう考えていた。

 

 モンゴルマンマスクはヘルミッショネルズとの死闘により機能を停止する程ではないが戦闘用に使える状態には無いほどにズタズタになっている。

 今後ラーメンマンはリングに上がる事になったとしてもモンゴルマンマスクを被り、古傷により低下している身体能力を補う事は難しいだろう。

 

 しかし、そんなラーメンマンに対してであったとしても、どうしても伝えなければならない事があるのだ。

 ゴクウマンがここを訪れたのには訳がある。

 

「久し振りだな、ラーメンマン」

 

 軽く手を上げたゴクウマンへと、演武を終えたラーメンマンが視線を向ける。

 

「珍しいな、中国へ戻っていたのか。ゴクウマン」

「あぁ、お前に……教えておきたい事があってな」

 

 宇宙超人タッグトーナメント終了後、様々な功績を讃えられたキン肉マンがいよいよキン肉星の王位を継ぎ第58代キン肉星大王となる戴冠式、その当日。

 新たな悪行超人である五人の運命の王子達が現れ、彼らはキン肉マンこそ偽の王子であると主張しキン肉星の王位を賭けキン肉マンへと挑戦状を叩き付けたのだ。

 それをラーメンマンに伝える事こそゴクウマンがここ中国に戻ってきた理由であった。

 

「なんと……そんなことが……」

「しかも、だ。これを見てくれ」

 

 ゴクウマンが取り出したのは週刊HEROと言う超人に関する事柄専門の情報誌だ。

 テリーマンの恋人の翔野ナツコが記者を勤めている雑誌と言うことでアイドル超人の間でよく知られる雑誌であった。

 

「キン肉マンを含めた六人の運命の王子が団体戦……。何だと!?キン肉マンチームは先鋒キン肉マン、大将ミートのたった二人で、五人一組のチームを相手にするのか……!?」

 

 週刊HEROには戴冠式に起きた異変の後に開始される事が決まった王位争奪戦について、細かく、それぞれのチーム、そしてそのチームメイトについて書かれていた。

「テリーやロビンはそれぞれ正義超人軍参謀、正義超人軍幕僚長としての立場から中立でなければいけない為に、この戦いへの参加は不可能らしい」

 

「ウルフマンやジェロニモは」

 

「ウルフマンは痛めた足の療養をするためにハワイへ向かった。ジェロニモはそれの付き添いの後、向こうでジェシー・メイビアとの試合が決まりそれに備えている大事な時期だ。ブロッケンに関しては分からんがドイツへ戻っている様だな」

 

 ウォーズマンは先日の宇宙超人タッグトーナメントでヘルミッショネルズとの試合により命を落としている。

 

「すまんな、ゴクウマン。よく知らせてくれた」

「お前はどうする?」

「私の古傷はまだ癒えてはいない。モンゴルマンマスクも戦闘に使えるほどの機能はもはや無いだろう」

「……やはり、そうか。伝えるべきでは無かったかも知れないが、お前にとって何も知らないまま全てが終わってしまうのもどうかと思ってな」

 

「……いや、私がリングへ再び上がる可能性を賭けた希望がまだあるのだ」

 

 ラーメンマンはそう語り青々とした空を見上げた。

 その言葉に偽りは無い。

「霊命木で作ったモンゴルマンマスクに改良を重ね、完成させたのがこのヘッドギアだ」

 

 懐より小さな保護具を取り出し、それをゴクウマンに見せる。

 ゴクウマンの目にもそれは傷口だけを覆うことで覆面のように視界を遮られる事もなくなり、より自由に戦える品物だと見受けられた。

 

「しかし、ラーメンマン、元々お前はモンゴルマンマスクを被ることで霊命木から発せられる特殊なガスを吸い、戦えるようになったはずだ。霊命木のガスを吸える訳ではないヘッドギアで大丈夫なのか……?」

「……」

「どうした?」

 

 ゴクウマンの問い掛けにラーメンマンは無言を貫き、そして……

「詰まらん事を聞くな。男なら無意味な疑問など抱かず有りのままを受け入れるのだ。男は黙って残酷拉麺」

 

 そのラーメンマンの答えに今度はゴクウマンが無言になってしまう。

「こ、言葉の意味がよく分からんが……」

 

「フッ、まぁよい。ドクターボンベとお前がガンダーラで手に入れてくれた秘薬と霊命木を以てしてモンゴルマンマスクが完成した事をお前も知っているだろう?」

「あぁ、当然だ」

「このヘッドギアはガンダーラの秘薬とは異なる力を扱うことで古傷を覆うだけで霊命木のガスを活かせるようになったのだ」

「な、その力とは何だ……!?」

 

「嘗ての強敵、ミスター・カーメンがそれをもたらしてくれた……未知のエネルギー、ピラミッドパワーを……」

 

 ミスター・カーメン

 その男はモンゴルマン時代に戦ったナイルの悪魔の異名を持つエジプト出身の悪魔超人である。 銅ベルマンと言う正義超人がいる。

 頭部が特徴的な超人でそれは鐘の様に見え、超人レスラーとしては珍しく盾を携え、手は杭のような形状となっているペルー出身の銅鐘の化身とされる奇妙な超人である。

 

 身長189cm 体重450kg 超人強度55万パワー 超人硬度は凡そ3と全身が銅製故か超人として考えてもかなりの重量級であろう。

 

 超人レスラーとしての活躍として有名なのは第20回超人オリンピックに参加した事だろう。

 決勝トーナメントへの切符を勝ち取る為の最終予選である地球と月の往復マラソンにてキン肉マンに加えスフィンクスマンやルピーン、アマゾンマン達他複数名と同着。

 決勝トーナメント参戦への最後の一人を決めるバトルロイヤルで惜しくも敗退したが、その試合は超人レスリングファンの間で語り草となるほどの死闘であったという。

 

 第21回超人オリンピック ザ ビッグファイトではペルーでの国内予選大会にてヒガンテマンに敗北してしまい本選に出場する機会を失ってしまったかに見えたが、幸運な事にヒガンテマンは国内予選大会決勝にて死亡。

 国内予選大会での優勝者と準優勝者が本選に進むことが出来たペルー予選では死亡したヒガンテマンに代わり、宇宙超人委員会委員長ハラボテ・マッスルの推薦もあり、超人オリンピック本選に出場が決まった。

 だが残念ながらこの超人オリンピック ザ ビッグファイトでも決勝トーナメントまで進むことなく予選で脱落している。

 

 決して目覚ましい実績を揚げてきたと言う訳ではないかも知れないが、第20回超人オリンピックでは不運に見舞われなければ決勝トーナメントに出場していた可能性もあり、そもそも10万人の超人が参加した超人オリンピック ザ ビッグファイトでは一握りの超人のみが勝ち上がった新幹線アタックにおいても好成績を残しているのだ。

 超人レスラーとしての実力は祖国ペルーに於いて間違いなく五本の指に入るはずである。

 そして、彼にも正義超人として何より大切な熱い友情パワーが宿っていることは、キン肉マンが王位を賭けて争った王位争奪戦の最後の対戦相手であるキン肉マン スーパー・フェニックスとの試合にて、ネプチューンマンが発したメッセージを受け取った1000人の正義超人の一人として、キン肉マンを応援するため大阪城へと駆け付けている事からも明らかである。

 

 そんな正義超人銅ベルマンの本業だが、実は超人レスラーではなく、超人による犯罪を調査する超人刑事である。

 人を大きく超越した肉体を持っている超人が法を犯す罪人であった場合には当然人間ではどうしようもない。

 そんな恐ろしい犯罪超人を取り締まるのが超人刑事や超人警察なのだ。

 有名な者としては正義超人ロビンマスクの盟友であり、第19回超人オリンピックイギリス国内予選で名を馳せたジョンブルマンなどが挙げられるだろう。

 銅ベルマンもまた数々の犯罪超人を取り締まり、時には撃破してきたのだ。

 ペルーでのそれらの功績も宇宙超人委員会からの評価を高くしている理由の一つである。

 

 そして現在、超人刑事としての銅ベルマンだが、彼は『ペルー超人病院カピラリア毒素治療科超人ドクター連続殺人事件』と言うペルー超人界始まって以来の凶悪事件の解決に頭を悩ませていた。

 ペルー国内に止まらず、幾つかの国で同時多発的に起きていたこの殺人事件は、カピラリア毒素治療の発展を大きく滞らせる事になった超人史に残る悲惨な事件として超人や人間の間で語られる事になる。

 

 カピラリア毒素とは遥かな太古、超人の神の裁きにより超人を絶滅させる為に照射されたカピラリア七光線に含まれる物で超人に悪影響を与えると言われている。

 王位争奪戦に知性チームの一員として参加したプリズマンが使う必殺技『レインボーシャワー』で一躍知られる事になったこの毒素であるが、当然超人の間ではカピラリア毒素は予てより危険視されており、自然界にも太古に照射された七光線の残留物が今も僅かながら存在している事から毒素を抜き取る為の医療技術が確立されている。

 

 ラーメンマンがプリズマンとの死闘で浴びたカピラリア毒素は早急な治療を受けられたなら抜き取る事も可能とロビンマスクが発言した事から、日本にもカピラリア毒素の影響を治療できる超人病院が存在していることも知られているだろう。

 

 この連続殺人事件が凶悪極まりない事件とされるのは、超人ドクターを殺害しただけでなくカピラリア毒素治療の資料を焼失、更には治療器具の破壊にある。

 まるでカピラリア毒素治療の根絶を目的としたかのような事件なのだ。

 人間の中には超人を疎ましく思う者もいる。

 犯人は最悪そんな超人差別主義者の人間ではとも考えられたが超人ドクターとて超人である。

 

 超人ドクターとして有名なドクターボンベは若かりし頃、ハング・キラーのリングネームでリングに立っていた。

 そこまででは無いにせよ超人ドクターもまた人間とは比べ物にならぬ身体能力なのであるから当然人間相手にそうそう遅れを取るとは思えない。

 

 ならば犯人は同じ超人であろう。

 

 しかし、それならば何故、超人が超人の天敵であるカピラリア毒素治療の根絶を目的としたような犯行をするのかが理解できないのだ。

 事件は王位争奪戦の最中に起きて居るためにプリズマン並びにスーパー・フェニックスの関与も疑われて然るべきなのだが、キン肉星王位の継承権を持つスーパー・フェニックスは当然未来の超人界を担う可能性を持つ者である為に超人界全体に害を成そうとするとは思えないといった先入観や事件の起こりが日本から遠く離れたペルーであったこと、試合会場がある日本のカピラリア毒素治療科は襲撃されていなかった事が彼らに疑いの目が向けられる事も無かった理由かも知れない。

 

 しかも、いつの間にやら犯人はなりを潜め、プリズマンやスーパー・フェニックスにとって最も重要となるラーメンマン戦の頃には、殺害事件は起こらなくなったのである。彼らが事件の中心にいるのならラーメンマン戦の前に日本のカピラリア毒素治療科を襲撃するはずだ。

 銅ベルマンがキン肉マンの応援に日本へと駆け付けた理由は超人オリンピックを競った仲としての友情が一番に挙げられるのだが、日本のカピラリア毒素治療科への警備などの目的もあったのだ。

 

 王位争奪戦も終わり、キン肉マンの勝利を見届け、ペルーに帰国し更なる調査を行う銅ベルマンだったが、この事件は犯人不明、目的不明として永遠に未解決となる。

 

 この事件さえ無ければ今以上にカピラリア毒素治療は発達し、数年先には例えば仮に超人の神が再びカピラリア七光線を照射する事態になったとしてもその毒素を中和する医療技術が生まれていただろう。

 だが確実にカピラリア毒素治療技術は衰退こそすれ、発展の希望は絶たれたのだ。

 南極

 この極寒の地で10万年もの間眠り続けていたと語った超人がいる。

 

 彼の名前はクリスタルマン。

 身長280cm 体重200kg 超人強度90万パワー。

 全身が水晶で構成された非常に美しい超人だ。

 

 ラッカ星の侵略を目論む宇宙野武士を相手取り、キック一発で宇宙野武士の首を刎ねた冷たいファイト、誰よりも早く彼らの弱点を暴いた洞察力、近年の超人では珍しい光線技をも扱う一流の正義超人である。

 

 そんな正義超人としての高い実力を持ち合わせながら彼は超人オリンピックに参加することなく南極でまた眠りについていた。

 その為悪魔超人や悪魔騎士の正義超人界襲撃の際にもその姿を見せる事は無かったのだが彼は再び異変を感じその目を覚ました。

 

 最初に感じた異変は富士山麓に出現したタッグトーナメントマウンテンの存在であった。

 その調査の為に彼もタッグトーナメントに参加しようと考えたがこのタッグトーナメントは宇宙超人委員会の推薦が無ければ僅か八枠のタッグチームの中から漏れてしまうのだ。

 故に委員長のハラボテ・マッスルと懇意にしている超人のタッグチームばかりがその八枠に選ばれてしまった。

 ビッグボンバーズのスペシャルマンとカナディアンマンは恐らくタッグトーナメントが行われる以前、キン肉マンと悪魔将軍が試合したダイヤモンドリングを委員長と共に支えたと言う功績からハラボテ・マッスルの評価が大きく上がったのだろう。

 

 このタッグトーナメントに参加する為にクリスタルマンが選んだタッグパートナーはサボテンマンと言う過去に超人オリンピック ザ ビッグファイトに出場した事もある正義超人だ。

 だが、やはりハラボテ・マッスルの推薦からは漏れてしまいクリスタルマンもサボテンマンもタッグトーナメント出場は叶わなかったのである。

 

 その宇宙超人タッグトーナメントを観客席にて見守っていたクリスタルマンだったが、彼が感じた真の異変はそのタッグトーナメントそのものでは無かった事を知ることになる。

 

 南極

 

「やはり、封印されていた欠片が失われている」

 

 宇宙超人タッグトーナメント決勝を監視していた謎の気配を追っていたクリスタルマンはそれが故郷の南極へと消えた事にふと不安がよぎった。

 

 彼が10万年もの間、南極で眠り続け守護していた物が存在しているのだがそれが失われていたのだ。

 

「いかんぞ……あれは超人界を滅ぼしかね無いものだと超人の神に聞かされ10万年前からその封印を守護していたのに……」

 

 彼がその封印を守っていた物こそが近い将来キン肉マンが王位をかけて争うことになる知性チームのチームメイト、プリズマンの核となる欠片である。

 

「む、あいつは……」

 

 極寒の氷の大地、そこに奇妙な出で立ちの男の姿があった。

 あいにく、欠片の封印を暴き、南極に住む一人の結晶超人を生まれ変わらせた者では無い。

 だが、その存在こそ、正義超人達が知らぬところで暗躍する悪行超人の一人なのだ。

 

 その手にはクリスタルマンにも見覚えがある超人を象った人形が持たれている。

 

「こんなところで超人消しゴムで遊んでいるのかな?」

 

 極寒の地で一人、ブロッケンJr.の人形を持ったその男に声をかける。

 呪いの人形。

 タッグトーナメントを見ていたクリスタルマンもその存在を既に知っている。

 しかしあれはキン肉マン達が奪い返した筈である。

 

 だとすると新しく何者かがまたも呪いの人形を作ったのだろうか。

 

「悪魔超人か?」

「ヒヒヒー、あんな下等な超人と一緒にしないで貰おうか」

 フード付きの白いマントを身に付けた男は奇妙な笑い声をあげた。

「私は超人の神に仕える兵隊超人の一人よー!」

 

 超人の神には直接彼らに仕える兵隊がいる。

 超人の神に見出だされた者もいれば、超人の神に作り出された者もいる。

 

 飛翔チームのメンバーに選ばれた兵隊超人達の異様に高い超人強度は彼等が神に見出だされ神の力を賜った超人であるからだ。

 天界の神兵達。

 それこそ兵隊超人である。

 

「超人の神……」

 クリスタルマンはタッグトーナメント終了後すぐに日本をたってはいるがキン肉マンの身に起きた戴冠式の異変を当然知っていた。

 キン肉マンに力を貸してやりたいのはやまやまであったが、故郷の南極に向かった気配を探ることも正義超人としての使命だと考えたのである。

 それにキン肉マンにはアイドル超人の仲間がいる。

 キン肉マンの手助けに適した者は彼等であり、自分がやるべき事は南極の調査であるとクリスタルマンは考えたのだ。

 

「お前は邪悪五大神の手下か」

「ヒヒヒー、私の主は憤怒の神!邪悪五大神ではないわ!」

 

 兵隊超人がマントを脱ぎ捨て、マントとブロッケンJr.の人形を上空へ放り投げる。

 するとブロッケンの人形はマントにくるまり不思議なことに上空でピタリと止まった。

「憤怒の神……」

「そして私の名はユニコーンマンだー!」

 

 フード付きのマントより姿を現したのは一見して一本の角が目立つ超人であった。

 ヘルメットのような被り物から生える額の角。

 腕と脚を守るプロテクター。

 攻撃も守りも両立させた容姿からも実力者であることが窺い知れる。

「それははぐれ悪魔コンビが持っていた呪いの人形だろう?何故神の兵隊超人が手にしている」

「やかましいわー!下等超人が!」

 

「なに!?」

 

 問答無用とはこの事だろうとクリスタルマンが考えるよりも早くユニコーンマンが跳んだ。

 

「硬度10!ダイヤモンドホーン!」

 

 超人硬度10を誇ったダイヤモンドパワーの角。

 そして、超人硬度10のプロテクター。

 ダイヤモンドの角とプロテクター。

 これこそ、完璧超人ケンダマンが言うところの、攻撃も守りも完璧なダイヤモンドパワーである。

 

 クリスタルマンが迎撃のために両手を合わせ真っ直ぐ腕を伸ばし放たれるビーム。

 しかし、そのビームの速度を凌駕する突進の速さ。

 クリスタルマンの細い目が驚愕に見開かれた。

 

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