「事情はわかった。つまりーーこういうことやな」
なのはが出て行った後、部屋にやってきたはやてと情報の交換をした。
私がこのような姿になったというのに、はやては何事もなかったかのように接してくれる。
「だからなのはの身が危ないっちゅーことやな、ってフェイトきいてる?」
「ああ、うん」
リィンフォースのこともあるだろうに、はやては辛そうなそぶりを一切見せない。これが指揮官の度量というものだろうか。
「他の味方もおらん、デバイスもなし。おおよそ最悪の状況やけど・・・フェイト、わたしはやれるとおもうてる」
「わたしにできるかな」
自分に自信を持てない。私は下を向いてしまう。
「しっかりせぇ! 魔王に見初められたフェイトが頼りや。闇の書の闇の復活なんて絶対に許さへん。なのはも助けけんとな」
そんな私にはやては喝を入れる。
私だけが頼りだと。
仲間として信頼してくれている。
そうだ。
やれるかじゃない。
やらなきゃいけないんだ。
「うん」
なのはを助けないと。
この状況をなんとかできるのは私だけだ。
ならばやるしかない。
私は決意を新たに顔を上げた。
「あああああああああああああああ」
魔王の玉座にて。
宙空に磔にされた高町なのはと、それを見上げるようにして白衣の男と白銀の髪を持つ女性が佇んでいた。
「いやっ、やめてえええええええ」
裸のまま見えない鎖に拘束され、囚われたなのはの体からは、その身に宿した魔力がリィンフォースに向かって流れていた。
「ふふふ、流石は魔王の魔力だ。闇の書の魔力蒐集も容易いというもの。リィンフォース、あとどのくらいで吸収できる?」
「現在80%、魔王の引き剥がしが間も無く完了」
その言葉にドクターは口角を上げる。その光景を睨みつけるようになのはが口を開く。
「なんでっ、体が、言うことをきかないの」
「おやおや、お困りのようですねぇ。ではその疑問には私が答えて差し上げあげましょう。あなたの肉体に潜り込んだワームのことをね」
「な、にを」
「あなたが他の魔族を喰らって力にできたのは私が潜り込ませたワームのおかげということですよ。ほら」
ドクターが指を鳴らすとなのはの肉体の一部が隆起して、そこから一匹の虫がこぼれ落ちる。その生き物は落下の衝撃で息絶えた。
「う、そ」
「急に新しい能力に目覚めて違和感を覚えませんでしたか? いや、そんな余裕はありませんでしたかねぇ。これは私が意図的に与えた能力だったのですよ、あはははっ」
「こ、のぉ、うっ、あぐっ、ああああああああああ」
「ワームを与えることであなたが捕食能力を獲得するかは五分五分というところでした。しかし流石はエースオブエース、私の理想の通りに働いてくれました」
「なんでっ、こんなっ、こと」
「ふふ、この世界に対する復讐ですよ。陳腐だと笑いますか? でも構いません。一族の恨みを果たすためですからねぇ!」
「吸収率99%」
魔力の大きな光を纏った魔王がリィンフォースの中に入っていくーー
「「させない!」」
声が響くと同時、二つの光の鎖が魔王の体に纏わりつき、リィンフォースに吸収されかけていた体を強制的に引っ張り上げる。
「魔王様、私の中にお戻りください」
引き上げられた魔王の肉体は母体を求めるようにフェイトの体内に戻り、再びその紋様をフェイトの腹に刻む。フェイトは魔王が宿ったお腹を愛おしそうに撫でながら、キッと表情を切り替えてドクターに向き直る。
フェイトが魔王を取り返したことを確認したはやてが口を開いた。
「これで計画は御破算ってわけやな。ドクター?」
「フェイト、ちゃん。はやて、ちゃん」
ギリギリのところでフェイトとはやてが拘束魔法を使用して引き剥がすことで、リィンフォースは魔王を完全に吸収することはできなかった。
「おのれ・・・だが、すでに大量の魔力を吸収することはできました。完全とはいかなくても、この力ならば!」
「ううっ、ぐうっ」
《防衛プログラムの再構築を開始》
「なんやて!?」
どこからともなく響いた声にはやてが動揺する。
リィンフォースがうめき声を上げて苦しみだし、その体内から黒い魔力が発生していた。
「ふはははっ、素晴らしい。この力を待っていた、待ち焦がれていた! さあリィンフォース、私と一つになるのです」
「あああっ、ああああああああ!」
リィンフォースがドクターの中に取り込まれ、爆発的に膨らんだ魔力がその肉体を改造していく。
「あかん。防衛プログラムが起動してしまう!」
「これはもう魔王様の力じゃないと・・・」
魔王様の力であれば闇の書の防衛プログラムの復活を阻止できるかもしれない。しかし目の前で行われる高速の肉体改造ーー闇の書の防衛プログラムの復活に間に合うとは思えない。
でも、ここで終わりたくない。
まだ終われない。
全てを踏み躙られて終わることなんてできない。
「チェーンバインド」
「なあにぃ!?」
復活を目前に異形化を続け、巨大化していくドクターに光の鎖が巻きついた。
光の鎖は巨大化するドクターの肉体に食い込み、その肥大化を抑えるとともにダメージをも与えていた。
それを行なったのは。
「まだ、私たちは、負けてない」
「なのはっ!」
それは、どれだけボロボロになっても立ち上がる私たちの友人、高町なのはだった。
「わたしも加勢するっ!」
はやての放った拘束魔法がなのはの魔法に重なる。
「フェイト!」「フェイトちゃん!」
拘束魔法を使う二人の声が重なった。
二人が作ってくれた時間を無駄にできない。
私はお腹の中にいる魔王様に話しかける。
「魔王様、どうかお力を」
フェイトが魔王に語りかけると、お腹に刻まれた王の紋様が輝いた。
「ああっ、魔王様っ、ありがとう、ございますっ」
フェイトの体に魔王の魔力が満ちていく。強制的に取り出すのではなく、魔王自身の意志で与えられた魔力はフェイトの力を極限まで高め、引き出した。
「これならっ」
フェイトの周囲に大きな雷球が浮かぶ。
それは大量の魔力を纏って帯電し、放たれる時を待つ。
さらに雷球は一つ二つと数を増やしていく・・・。
「させるものかあああああ」
拘束によってダメージを受けながらも膨大な魔力によって急速に肉体を修復したドクターは、フェイトの一撃を阻止せんと咆哮する。
「ううっ、拘束魔法が、保たない」
拘束を抜け出そうとするドクターの圧倒的な魔力量に、なのはとはやて二人の力は限界を超えていた。
「させんよ。2度とこの力は使わせんっ」
はやてがその魔力をドクターが取り込んだリィンフォースに向ける。
「ぐううう、なにいいい、接続、が」
リィンフォースに届いた魔法がドクターのパスに楔を穿つ。完全に接続を断つことはできなかったものの、魔力供給に混乱を起こすことに成功する。
一瞬だが拘束に対する抵抗が消えた。
その隙をフェイトは逃さない。
「――ファランクス、シフト」
発生した数多の雷球がドクターの体に殺到する。
魔力が生み出した雷がその身を焼き尽くしていく。
回復した側から焼き払い、全てを灰燼に帰す。
「馬鹿、な。私の完璧な計画が、馬鹿なああああああああああああああ!!!」
瞬間、エネルギーが収束して巨大な爆発を巻き起こした。
部屋は白煙に包まれて、視界はゼロに等しい。
「なのは、はやて、ありがとう」
フェイトが呟く。
白煙を上げる空間にドクターの姿はなかった。
消えゆく魔力の残滓だけが世界を満たしている。
「ごめんな・・・」
ぽつりとはやてが漏らしたのは誰に向けての言葉だったか。
《ありがとう。はやて》
「・・・!」
最後にそんな言葉が聞こえた気がした。
はやては涙を流して、消えゆく魔力の残滓を見送った。
こうして。
闇の書を復活させようとしたドクターの計画は潰えたのだった。