居酒屋の喧騒が耳膜を叩く。
安い店特有の油と煙草の匂いが混ざった空気が鼻腔をくすぐる。
俺の目の前では斎賀百がすでに3杯目の生ビールを煽っている。瓶底の底が乾いた喉を潤す音が妙に大きく聞こえた。
「ったくよォ~!」
百の愚痴が始まると同時にテーブルに空瓶が叩きつけられた。衝撃で俺の烏龍茶(偽)の表面が波打つ。
「職場の先輩がよォ!毎晩毎晩飲みに付き合わせて!」
「あー……その話さっきも聞いた気がするが」
「うるせェ!要だから言えんだろコレは!」
百は顔を真っ赤にしてグラスを呷る。幼馴染特権というやつらしい。
彼女の愚痴は尽きることがない。同僚への不満、上司への怒り、果ては母親との喧嘩まで。すべて俺が聞く。
「なぁ要~……」
4杯目に口をつけながら百が肩に凭れかかってきた。酒臭い息が首筋にかかる。
「おい重いぞ」
「いいじゃん別にィ……友達だろォ~?」
その言葉に嘘はない。軽口を叩ける唯一の女友達。
彼女の長い黒髪からは整髪料とアルコールの入り混じった独特な匂いが漂う。汗とビールの匂いが混ざって妙に生々しい。
「そういや明日休みなんだろ?」
「……休ませてもらえねェかもしれないけどな」
百の声音が急に低くなった。5杯目を注文する手つきもどこか危うい。
「おいおい潰れんなよ?」
「うっせぇ!要の分くらい払えるわ!」
そう言いながら6杯目のジョッキを空にする。
「あー……もう眠ィ……」
7杯目でようやく限界が来たらしい。テーブルに突っ伏すようにして寝息を立て始めた百。
その姿を見て苦笑が漏れる。何度目か分からない保護者の心境だ。
「まったく世話の焼ける……」
肩を揺さぶっても起きない。店内の喧騒が遠ざかる感覚がある。
ふと周囲を見渡すと客はまばらになっていた。時計は終電近くを指している。
「しゃあねぇな……」
財布を取り出し勘定を済ませようとすると店員が訝しげな表情を浮かべた。まあそうだろうな。
酔いつぶれた女を連れ帰る男など珍しくもない風景ではあるが事情を知らない者には怪しまれることもある。
レジで支払いをしている最中も百は一向に起きる気配がない。完全に寝入ってしまっていた。
店を出ると冷たい夜風が頬を撫でた。秋口とはいえまだ涼しい季節だというのに大量の汗を掻いている自分に気づく。
「おい百起きろってば」
再三呼びかけても反応はない。
仕方なく背負うことにした。成人女性にしては軽い方だと思う。おそらく普段から運動不足なのだろう。
アパートまでの道のりを歩きながら考える。こんな時間からどこへ連れて行けばいいのだろうか? 彼女の住まいはもちろん知っている。しかし女性の部屋に入るわけにもいかないし俺自身も疲れているのだ。
「……ったく」
俺は、そのまま近くの公園に向かう。
そこならば、夜風を浴びながら、俺はしばらく待つ。
もしシャンは連載版あり?
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あり
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なし
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タイトルでバンされる可能性あり