翌朝。
狭いダブルベッドに三人で折り重なるように眠っていた。窓から差し込む陽光が目蓋を刺激し、不機嫌に目を開けると──左に天音の長い黒髪が、右に百の柔らかい茶髪が視界に入った。
「…………」
昨夜の出来事が脳内再生されそうになり慌てて停止ボタンを押す。だが時すでに遅し。下腹部の微かな疼痛と、右手に残る柔肉の感触が否応なしに蘇ってくる。
「最悪だ……」
声に出した途端、両サイドからモゾリと動き出す気配。
「おはようございます♪ 要君」
艶っぽい天音の挨拶。枕元で髪をかき上げる動作が妙に扇情的だ。
「お前……その格好で喋るな!」
シーツ一枚のみを纏った妖艶な肢体を隠そうともせず微笑んでいる。天音の性格上、「何も恥ずかしくないわ」というスタンスなのだろう。まったくもって破廉恥極まりない。
「要こそ童貞卒業記念にガッツポーズぐらいしたら?」
「ガッツポーズだと!?」
反射的に拳を握りしめかけたところで右隣から咳払いが。
「ちょい待ち要」
百だ。普段はサバサバした口調の彼女だが、今日は明らかに声が掠れている。
「私もいるんだからもう少し慎んでくれない?」
「慎むってお前! そもそもこんな状況を招いたのは誰だと思ってるんだ!」
俺が睨みつけると百はシュンと肩を落とした。
「うう……ごめんってばぁ」
その弱々しさに罪悪感が芽生える。確かによく考えれば百は被害者かもしれない。酔った勢いで、そのまま一夜の過ちという流れは、どう考えても飲ませた側の責任だろう。
そこでようやく頭の靄が晴れてきた。
「俺……マジでやらかしたな」
青ざめる俺を見て天音がケラケラと嗤う。
「大丈夫よ♪ 全員が同意なんだし」
「そういう問題かよ!」
思わずツッコミを入れると百も困ったように眉を寄せる。
「それにしても二股疑惑とか出てないかな……? 」
「……はあ」
深く溜息をついた要の視線が百に向く。ベッドの隅っこで膝を抱えている少女の顔色は土気色だ。
「百……お前は平気か?」
「……だいじょぶ……なわけないよね」
弱々しく答えた声に泣き声が混じっている。普段は粗暴な口調が定評の彼女にしては珍しい萎れ方だ。
要は改めて自分の左手を見つめた。昨日まで二次元に捧げる聖域だったこの手が今は生々しい感触を覚えている。
「やってしまった……」
頭を抱える彼に天音はクスクスと忍び笑いを投げかけてくる。
「まあまあ♪ よかったじゃないですか~。要君的にはプラマイゼロってとこでしょうか?」
「ぜんっぜんプラスにならねーよ!!」
憤慨しつつ要は両サイドの女性陣を見比べる。どちらも露出度が高い恰好で自然体を装っているが、それが逆に罪悪感を刺激する。
天音は相変わらず涼しい表情のまま、見せた写真。
表示された写真に要は目を剥いた。なんと自分が天音の乳房に顔を埋めている決定的瞬間。背景には昨夜使われたコンドームの空袋まで写り込んでいる。
「ぶっ殺すぞテメェ!!!!」
一気に血の気が引いた。三度の飯より二次元愛好家の自分が三次元美女と生々しい営みを遂げた記録。さらにはカリスマモデルのファン会員に捕捉されるリスク。
「ふふ♪ でも私たちって相思相愛でしょ?」
「相思相愛っていうか……襲われた感強いんだけど」
百がぼそりと呟く。顔を上げると目に涙を溜めていた。普段の男勝りな態度とは正反対の脆さに要はたじろぐ。
「お前まで泣くことねえだろ」
「だって……私は要のこと本気で好きだったから……でもこんな形で……」
震える肩を見て要の良心が痛む。二次元至上主義だったとはいえ、ここまで感情を露わにされて無視できるほど鬼畜ではない。
「落ち着けって。俺も混乱してるだけで……」
言いかけて天音が横槍を入れた。
「じゃあこうしましょうか?」
楽しげな声音で続ける。
「要君が私と百ちゃんを同時に恋人にするならデータ削除してあげる」
「ふざけんな!二股宣言じゃねーか!!」
声を荒らげる要をよそに天音は得意げだ。
思わず立ち上がりかけた要の袖を百が引っ張る。
「要ぉ……私なんか捨てられるのかなぁ……?」
潤んだ瞳で見上げられると心臓が高鳴る。天音とはまた違った罪悪感が胸を締め付ける。
「俺は三次元とは付き合いません。断固拒否します」
「それじゃあデータ拡散しますよ~♪」
天音がスマホをかざす。その悪戯っぽい笑みからして冗談だとは思うが彼女の行動力を考えると可能性が皆無ではない。
「チッ……」
苦虫を噛み潰したような表情でベッドに座り直す要。
「・・・責任とかは取るけど、俺、あんまり金は稼げねぇぞ」
「まぁ、その辺は問題ないよ、私、結構金を持っているし」「・・・ほとんど金は使っていないから」
「俺、紐みたいになるのは勘弁だぞ」
もしシャンは連載版あり?
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