その日の呼び出しは突然だった。
「お前なぁ……」
溜息混じりに呟いた俺はエンジンを吹かした。
助手席には帽子を目深に被った永遠が座っている。伊達眼鏡の奥から覗く双眸は悪戯っぽく煌めいていた。
「自宅まで送ってくれるんでしょ?」
「送るわけねぇだろ! こんな怪しい依頼を素直に聞くかっての!」
「でも道順はもう調べてあるわ。ナビにセットすれば一分で目的地よ」
永遠はポケットから折り畳まれた紙切れを取り出した。そこには住所らしき文字列が記されている。
「普通に怖いわ!」
思わずハンドルを握る手に力が籠る。だが運転中だ。急ブレーキなんて踏んだ日には命に関わる。
「ねぇ要君」
永遠が身体を僅かに傾けた。車内灯に照らされた太ももが眩しい。
「二股認めるなら信号の都度キスさせてあげてもいいわよ?」
「ふざけんな! 脳内は全年齢版で固定されてんだよ!」
言い返しながらも法定速度を守ることだけは厳守する。道路交通法違反で人生が終わる方がマシだ。
「じゃあ三叉路ごとにミニスカート捲るというのは?」
「犯罪臭しかしない提案をしてんじゃねぇ!!」
必死の抗議にも永遠は小さく笑うだけだった。
「そんなに警戒しなくてもいいじゃない。ただ家に送ってもらうだけよ」
その穏やかな声色が逆に怪しかった。彼女が表向き柔和な態度を見せるときは大概裏がある。これまでの経験がそう教えてくれていた。
交差点を曲がった瞬間、永遠が不意に窓を開ける。
「ちょっと換気していい? 車内暑くて」
「勝手にしろ」
返事をしながらバックミラー越しに確認すると、永遠は髪を耳にかけながら外の景色を見つめている。その横顔があまりにも綺麗すぎて、つい喉の渇きを意識してしまった。
(くそ……こういう時の永遠は凶悪だ……)
唇の端から溢れかけた生唾を誤魔化すようにハンドルを強く握る。
「そうそう要君」
「今度は何だよ」
「帰りにお酒買ってもらえる?」
「カリスマモデルが、そんな所を見せても良いのか?」
「今は変装しているから問題ないわ。それに貴方が選んでくれるお酒は美味しいって噂なの♪」
「……買いに行くよ。奢ってくれるんだろ?」
永遠が満足げに笑った。
(まぁ……いいか)
要はそう自分に言い聞かせた。
(今はこの女の気まぐれに付き合うのが吉だろう……)
そう結論づけながらもアクセルを踏み込んだ。エンジン音が低く唸り、夜の街へと突き進んでいく。
永遠の家まで約20km。これから続くであろう長い夜の始まりを予感しながら―――。
もしシャンは連載版あり?
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あり
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なし
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タイトルでバンされる可能性あり