控室に戻ると、百はふぅっと大きく息を吐いて、その場にぺたんと座り込んだ。
深紅の着物がふわりと広がり、さっきまでの凍てついた威圧感が嘘のように抜け落ちていく。
「……っ、もう無理。ああいうの、ほんっとダメ……
なんであんなに寄ってくるの……胸ばっか見て……」
扇子を放り投げ、ぐでんと畳に倒れかける。
俺が咄嗟に支えると、百はその腕にすっぽり収まるように身体を預けた。
「ちょ、ちょっと百……胸、当たってる……」
「知ってるわよ……わざとじゃないわよ……もう疲れたの……」
弱音を吐く百は珍しい。
その反動か、隅に置かれていた徳利を手に取った。
「飲む……今日くらい飲ませて……制裁後のご褒美……」
「百、ちょっと待て、これ強いぞ」
「うるさい。今日は飲むの。ずっと我慢してたんだから……」
くい、くい、と辛口の酒を口に流し込む百。
頬が一瞬で紅潮し、瞳がとろんととろけていく。
「……ん……っ、はぁ……」
色っぽすぎる吐息が漏れ、俺は思わず視線を逸らした。
「……要」
「な、なんだよ」
「さっき……救われた」
百はぽす、と俺の肩に頭を載せ、指先で俺の袖をつまんだ。
「“お前の怒りじゃなくて隣にいてくれればいい”……って、言ったでしょ」
「言ったけど……」
「……あれ……ずるい……。ああいうの……反則……」
頬が真っ赤だ。酒だけじゃない。
百は俺の胸元に額を押しつけるように寄りかかってきた。
「……緊張して、怖くて……でも、隣に立ってほしくて……
ちゃんと言ってくれて……わたし……ちょっと泣きそうになった……」
弱い声だった。
完璧超人の彼女が、こんな小さな声で本音を零すなんて。
「百、酔ってるだろ……」
「酔ってるわよ……。酔ってるから言えるのよ……」
百が俺の胸を指先で軽く叩く。
「ねぇ……要……。私のこと……どう見てるの?」
「ど、どうって……」
「今日の着物も……胸元も……見てたじゃない……」
「み、見てない!」
「見てたわよ。ずっと。怒ってるのに。必死なのに。
それでも……見られたら……ちょっとだけ安心したの」
百は俺の横に膝立ちになり、俺の目の前に顔を近づけた。
「……ねぇ、要。私……怖いわ」
「何が?」
「怒るのも……牽制するのも……全部、自分ばっかりで……
それで“女として見られてないのかも”って……
ずっとずっと……思ってたの」
「……百」
「だから……今日みたいに……少しでも私を見てくれると……
変に安心しちゃうの……。おかしいでしょ……?」
そう言って百は弱く笑う。
普段なら絶対見せない、揺れた笑顔。
「ねぇ……要。
もし……もしよ? 今日の続きが……どこかに繋がるとしたら……」
百が俺の着物の襟をそっと掴む。
「……隣にいるだけじゃ、もう足りないって……言ったら……どうする?」
喉が鳴った。
百は俺の手に自分の手を重ね、指を絡めてくる。
「……ねぇ、要。
酔ってるけど……これは冗談じゃないの。
今日……あなたに言ってほしかった言葉、全部聞けたから……
今……ちょっとだけ……弱くなってるだけ」
百の吐息が触れる距離。
唇が震え、胸元の布が上下する。
「……怖いけど……“女として見られるの”、嫌じゃなかった……
むしろ……」
百はそこまで言って、俺の肩に顔を埋める。
「……もうダメ……これ以上言ったら……戻れなくなる……」
腕に抱きついてくる百の指が、俺の背中をぎゅっと掴んだ。
もしシャンは連載版あり?
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あり
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なし
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タイトルでバンされる可能性あり