※この作品はR-18です。

雪夜の露天風呂、男に戻るはずだった   作:RNOVEL

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露天風呂にて

冬の夜は、静寂と冷気に満ちていた。

 

風が枝を揺らすたび、葉の落ちた木々がきしみを上げ、空気の冷たさをより一層際立たせていた。

 

その中、山あいに併設された露天風呂だけが、まるで異世界のように湯気をもくもくと吐き出していた。温かな蒸気が白い闇を照らし、湯の表面には、やわらかな橙色の灯りがゆらゆらと反射している。

 

――その湯を、ずっと、待っていた。

 

木の脱衣所。凍える空気の中、その真ん中に設けられた小さな木のベンチに、ひとりの少女――いや、早乙女らんまが座っていた。

 

赤いおさげ髪は、風呂上がりのように乾ききっておらず、ところどころ雪の粒を含んでいた。湯気でほのかに頬を染めながら、両手で小さなケースを握りしめている。

 

淡い桃色の楕円形。銀色の箔押しで書かれた文字は──「不死鳥丸」。

 

それを見つめるらんまの瞳には、かすかな震えと、こらえきれない期待が浮かんでいた。

 

「……ふぅ……ようやくだ……」

 

震えたのは、寒さのせいではない。

 

――思い出す。

 

数週間前、シャンプーの曽祖母であるコロンに押された「総身猫舌のツボ」。そのツボのせいで、熱い湯にすこし触れただけでも、まるで全身に火をつけられたかのように飛び上がるはめになった。

 

たとえそれが、自分の姿を男に戻してくれるはずの熱湯であっても――だ。

 

湯船に手を突っ込めば「ぎゃああ!」と叫び、足を浸けようものなら「しぬっ!!」と暴れまわる。自分の体なのに、まるで反応がコントのようで、誰がどう見ても情けない姿だった。素っ裸でのたうち回ったことも、一度や二度じゃ済まない。

 

だから、今夜こそが勝負だった。

 

「へっ……どんなにしぶといババァだって、オレを止めることなんざできねーってこった」

 

口元がわずかに歪む。雪だるまレース、そしてその後のガチンコの格闘戦――あのしぶといコロンを猫拳で勝利し、ようやくこの丸薬を手に入れたのだ。

 

この手にあるのが、「不死鳥丸」。

 

――総身猫舌を治す、画期的丸薬。

 

ただの湯あたりや体質改善ではない。ツボによって強制的に変化させられた体質そのものを、一粒で正常な状態に戻すという、とんでもない代物だ。

 

「……よしっ!」

 

らんまはケースをカチリと開けた。中には、小さく丸く光沢のある赤褐色の粒が一つ。照明の光を反射して、ほんのり輝いて見える。

 

「飲むぜ……これで、久々に男に戻れるぜ……!」

 

ごくっ。

 

迷いは、なかった。

 

口に放り込み、ひと息で飲み下す。丸薬は舌に苦味を残すこともなく、すっと喉を通って胃へと落ちていった。思わず目を閉じ、ひと呼吸――

 

そして、目を開いた。

 

「ふっふーん、オレの勝ちだな、コロンのばーさん!」

 

ベンチから勢いよく立ち上がる。薄く凍った床を踏み鳴らすように、らんまは脱いでいた服に手をかけ、次々に脱ぎ捨てていく。

 

チャイナ服の上着を脱ぎ、タンクトップも脱ぎ、トランクスも脱ぎ、靴下を蹴り飛ばし――完全な裸になるまで、ほんの十秒もかからなかった。

 

「っさむっ!!」

 

思わず肩をすくめるが、今のらんまにとって、それすら気持ちよかった。

 

【挿絵表示】

 

「ま、いいさ……どうせすぐに、あったかい湯に浸かれるんだ。しかも、男の体でな!!」

 

寒空に向かって吠えるように叫ぶ。小屋を飛び出し、雪の積もる石畳を、軽快なステップで駆け抜ける。

 

露天風呂の縁まで来ると、両手をぐるぐると振って勢いをつけ、ひざを曲げ、勢いを込めて――

 

「とりゃあああっ!! 男復活、いっくぜぇぇぇぇぇ!!」

 

【挿絵表示】

 

華麗なジャンプ!

 

足が地面を離れ、雪の舞う空中へと、しなやかな肢体が弧を描いた。赤い髪が風にたなびき、雪と湯気が交じる空間の中に、彼女の――いや、「彼」の姿が浮かび上がる。

 

そのまま、高々と空を舞い、しっかりと両足を揃えながら――

 

 

バシャアアアアアアン!!

 

 

湯面を豪快に割って、露天風呂の中へ飛び込んだ!!

 

 

……が。

 

 

「っっっっづああああああああああああっっっ!!!!!???」

 

ものすごい悲鳴が、夜の山中に響きわたった。

 

 「っっっちょっ……あっっっっっつぅぅぅぅううううう!!!」

 

バシャバシャと、湯が派手に跳ね上がる。湯船の中で暴れる裸の赤毛の少女が、仰天したように飛び出した。

 

 「だっちゃあぁあああーーあああ!!熱ぃいいーーっ!!あちちちちちち!!な、なんでだ!? オレ、まだ……女のまんまじゃねーかあああああっ!!水、水、水ぅう!」

 

慌てて、全身に蛇口からの水を浴びるらんま。

まぎれもなく、女性のまま。しっかりと胸はあり、腰もくびれたままで、かすかな湯気がその肌をなぞっていた。

 

「不死鳥丸ぅぅぅぅぅっっ!! 効いてねぇぇぇぇぇええええ!!!!!」

 

【挿絵表示】

 

――真冬の夜空に、らんまの叫び声だけが、むなしく響いていた。




あとがき
この物語は、TVアニメ『らんま½ 熱闘編』第6話「爆走!雪だるまレース」のエンディングをベースにした、ちょっぴり切なくて、どこか笑えるパロディ作品です。

原作では、苦労して手に入れた「不死鳥丸」のおかげで、ついに湯に入れるようになったらんま。ようやく男に戻れる……はずだったのですが。

「うまくいかせないぜ!」と、ちょっと意地悪な気持ちで書いたのが今回のお話です。

せっかく手に入れた奇跡の丸薬が、まさかの偽物。本人は大真面目に決意して、雪の中、全裸でダイブしたのに、結果は……ギャグ一直線。らんまの苦労は報われず、まだまだ“女のまま”の生活が続くことになってしまいました。

けれど、これこそが、早乙女らんま。

何度倒れても起き上がり、何度裸になっても(?)前を向く。そんならんまの不屈っぷりが、やっぱりたまらなく愛おしいんですよね。

今回も、読んでくださってありがとうございました。

デカパイ、オマンコ丸出しの中編小説も鋭意制作中です!

それでは、また。
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