範馬道 神室町の蜚蠊幼女(ヤマトゴスロリ) 作:贋海王
“仔犬──?”
“見付からないんですか”
“可哀想ですね、分かりました。私も探します”
西公園
通称、賽の川原──
ホームレス達のたまり場だ。
そこに1人、ホームレスと呼ぶには不似合いな少女が居た。
白い髪に白い肌──
虚ろな紅い瞳が印象的な少女である。
年齢は九歳ほどの少女がホームレスのたまり場に居ると言う不思議──
ホームレスと聞けば、多くは男性をイメージするのだが、女性も存在する。
この賽の川原でも長く滞在したら、何人かの女性ホームレスの姿を見掛ける事だろう。
初めて賽の川原でこの白い少女を見ると、そうした女性ホームレスのうちの誰かしらの娘なのかと思うかも知れない。
しかし、それは違う──
白い少女──真冬は、たった一人でこのホームレスのたまり場へ訪れ、つい先日から住み着き始めたばかりである。
1.
寒いな──
真冬は神室町の劇場前広場にいた。
昨夜と違い、雪は降っていないが、底冷えするような肌寒さを覚えていた。
当たり屋達との一件の後、彼女はモグサ達に連れられ、西公園内にあるホームレス達のたまり場、賽の川原に到着した。
そこで、一晩過ごしたのだ。
いつもの真冬なら、これくらいの寒さ、別段、苦にも思わないだろう。
母と二人暮らしだったアパートに暖房器具は無かったから、寒さにも慣れたものだ。
暖房だけではない。
ガスなどもほぼ毎月止められたままだった。
熱い風呂にも浸かった記憶が無い。
洗顔や洗髪も冷水にて行っていた──
水道を止められているときは、近場の公園に向かう事になる。
まともな生活を送っている同年代や年齢の近しい子供達の明るい声を聞きながら、公園の水道を使う。
普通の精神の持ち主なら、既に精神も心も破綻し狂っていた筈だ。
温かい食事も知らなかった。
“蛆虫なら、ゴミでも食べてなさい”
それは、母の口癖だ──
アパートのゴミ捨て場が、真冬にとって、食べ物を得られる場所であり、食堂だ。
年齢一桁の少女が、ごきぶりの
それは、とてもおぞましい光景だったろう。
アパートに住む住人はそれを目撃していた。
毎日の話である。
だが、誰一人として救いの手など伸ばしはしない。
真冬が母と暮らしていたアパートの住人達も貧しい者達ばかりなのだ。
彼らは皆、助けたくとも助けられない、そして、殆どの者は、他人を助けようとする心など持ってはいない。
アパートの住人達は、ヒステリックに叫ぶ真冬の母の声を毎日の様に聞いているから尚更だった。
安アパートの薄い壁では、彼女の声を遮る事は難しい。
“ねぇ、しろ、害虫って偉いわよね。冬になったら死ぬんだから。お前も早く死ねよ”
母は真冬とは呼ばない。
『しろ』
肌も、髪も真っ白いから“しろ”だ。
役所へ命名の届け出さえ、最初は“しろ”で登録するつもりだったのだ。
娘への愛情など無かったのだと、それだけでもはっきりと理解できる。
真冬と言う名前も自分にとって寒い冬のような存在だから、そう名付けられたのだ。
『白い』なら『雪』雪と言えば『冬』そうした連想ゲームの様な意味合いもあった。
勿論、様々な願いが込められ、真冬と名付けられた者もいるだろう。
まず、殆どがそうだ。
透明感のある“真冬”と言う言葉から、純粋や真実などの意味合いや願いを以て名付けられる。
そして“真”と言う漢字は『愛情』の意味を持っている。
母からの愛情を何一つ知らぬ真冬に、その漢字が与えられているのは、どうにも皮肉なものだった。
では、蛆虫──
その呼び方を最初に言い放ったのは、真冬の実の父親である。
真冬が産まれ、母子ともにまだ病院にいた時の事だ。
二人の前に父親が姿を見せた。
真冬の母は未婚だった。
真冬にとって父親である男は、真冬の母の夫ではない。
愛人と言う訳でも無い。
両親が顔を合わせたのは、ほんの数度。
片手で数えられる程度だ。
“お前ぇ、この
“俺は娘なんざ要らねぇんだ”
“
“しかも、なんだこりゃ?随分真っ白だな、こいつ蛆虫かよ”
“俺のガキじゃなく、蠅の子供だな”
“これなら、
“お前ぇも、この
病院での会話はこれだけだ。
そして、それ以降、真冬の父親は彼女らの前に姿を現すことは無かった。
娘を産んだ女。
それ故に、真冬の母はあっさりと棄てられたのだ。
真冬の父親が蛆虫と呼んだ娘。
母が“しろ”か“蛆虫”と呼ぶのはこの時の会話が原因だ。
真冬の母にとって、彼に棄てられる事になった疫病神、それが蛆虫のしろである。
真冬は父親の名前を知らない──
写真なども母の手元に無い故に、当然として顔も見たことはない。
真冬の誕生日は、真冬の母は自身の命日だと言った事がある。
娘にとってどれだけ傷付ける言葉であっても彼女は平気で吐いたし、肉体を傷付けることもあった。
母の手料理を食べた事がないが、母が作ったホウ酸団子を食べさせられた事はある。
“しろ、害虫なんだからこれでも食べなさい”
そんな真冬が昨夜、ホームレスのたまり場で食べた肉入りのスープと雑炊──
その美味しさと温かさは、真冬が、つい泣いてしまう程だった。
彼女にスープを与えた老婆のホームレスは突然の涙にさぞ驚いた事だろう。
(仔犬、どこにいるんだろう……)
仔犬を探しながら、思い出すのは昨夜のスープの味。
スープの具であった肉は、実はホームレス達が食用で飼っている赤犬だ。
犬の味を思い出しつつ探す仔犬。
何とも、笑い話にもならない。
勿論、探している仔犬が食用になることは流石に無いだろうが……。
『仕切り直し、没ネタエピソード』は削除し、残骸置場に入れた方が良いですか?
-
そのままで良い
-
残骸置場行きが良い