範馬道 神室町の蜚蠊幼女(ヤマトゴスロリ) 作:贋海王
チーヨーがギョンドの名を叫んだ。
驚愕と恐怖心が入り交じった怒声である。
リョウガの空掌が、チーヨーの右掌を引き千切っていた。
チーヨーは、異様な、肉を裂き骨を引き千切る音を聞いた。
掌は言うに及ばず、甲の皮まで肉ごと失われ、中指と薬指は欠損し中手骨ごと抉り取られている。
残る指も骨が剥き出しとなり、肉片となった物が僅かにこびりついているだけだ。
その奪われた肉と骨は、リョウガの左掌にある。
リョウガは、空掌で奪ったそれをギョンドの顔面へと投げ付ける。
肉片、骨、血液の目眩まし──
そして、左手首を掴んでいるチーヨーの左上腕へと、右掌を添えた。
肉が、引っ張られる。
堪らず左手首を離すも、右掌から発生した真空に抗えず右手の空掌へと吸着した。
これらは、チーヨーがギョンドの名を叫んだほぼ同時に終わっていた。
「死ねや」
ボソリと呟くその一言、いつもの遊びを交えて紡ぐ言葉と程遠い無情な物だった。
五指の先端を揃え突き出した
揃えられた中指と薬指そして親指で同じく揃えた人差し指と小指を挟む様に固める。
まるで鳥の嘴の様な拳だ。
左拳で象られたその鶏口を腸が溢れそうな程に穿たれたギョンドの腹へと突き刺した。
リョウガのそれは、何度も剥いでは鍛えた猛禽類の如き強靭かつ鋭利な爪も合間ってより恐ろしい鶏口拳となる。
鶏口拳……いや、違う。
リョウガのそれはプテラノドンの嘴だ。
言うなれば翼竜拳──
空掌で剥き出しとなった内臓へと撃ち込まれる残虐なコンビネーションである。
リョウガは鮮血を浴びた。
リョウガの左拳は、ゾブリとギョンドの腹に突き刺さっている。
ギョンドの体内に、拳一つが丸々潜り込んでいた。
更に──
リョウガは体内で翼竜拳を解き、掌を作る。
温かい内臓を肌で感じつつ、体内で空掌を発生。
勢いよく引き抜かれたその掌により、腸が引き摺り出されていた。
──迦陵頻伽の鉤爪が裂き、翼竜の嘴が啄んだ。
漸く、ギョンドの巨躯は沈んだ。
だが、未だ絶命はしていない。
目は大きく見開かれ、眼球がぴくぴくと動き、口からは息が洩れている。
「迦陵頻伽ぁ!」
チーヨーは、新たに取り出した
鎖が複雑に蛇の様に畝り、先端の鉤爪手形がリョウガを襲う。
更に、左手には異なる武器、
梅花の様な形状の、小さな円盤の先に無数の針が突き出ている奇妙な武器だ。
その立体的な花弁は鉄製で、飛抓と同様に鎖で繋がり操作される。
僅かに膨らんだ花弁状の内部は空洞があり、中には毒液で満たされている。
振るう度にその毒は滲みだし、針へと流れ付着し、その毒針が刺さる、或いは僅かにでも皮膚に擦り傷を負わせたなら、毒を体内に廻らせるのだ。
飛抓と梅吒の二刀流──
二匹の鎖の蛇が舞う。
片や鋭き牙、片や毒蛇。
チーヨーが操る鎖の蛇。
「秘奥義
鉤爪に気を取られると毒蛇に咬まれる。
毒蛇に気を取られると鋭利な牙に咬まれる。
二匹の鎖の蛇による同時攻撃。
互いがフェイントとなり、襲ってくるのだ。
しかも、大蛇だ。
鎖は凡そ5mもの長さを誇る。
それなのに、互いが絡まる事も無い。
卓越した技術に勁が込められ、鎖は意思を持っているかの様に蠢いていた。
「梅吒ッッ」
リョウガの口角が上がる。
八重歯を見せ破顔した。
それは、さも、愉しそうに。
チーヨーは大気を割くように甲高い雄叫びを上げ、鎖を振るう。
何度も振るうが、明らかに彼の操作よりも多くの動作を鎖は見せている。
凪った様なのに跳ね上がる。
本当に鎖が意思を持った蛇なのかと疑うほどに異様な光景だった。
これこそが、勁師と呼ばれる者の“氣”……『勁』がなせる
宙を舞う疾風迅雷の飛抓を僅かに下がり躱す。
すると跳ね上がり、頭上からまたも飛抓が飛びかかる。
更に梅吒は真っ正面から毒液を撒き散らしながら襲って来た。
だが、リョウガは何と梅吒を左手の空掌で引き寄せ、事もあろうに無造作に掴んだのだ。
針が刺さる。
六本の針が、掌、中指、薬指に突き刺さっていた。
滲み出た毒液が浸透する。
飛抓は弾く。
「迦陵頻伽ぁッッ、終わりだッ」
しかも、リョウガはそのまま鉄製の花弁を握り潰し、内部に充満している毒液を左手に浴びたのだ。
傷口から浸透し、皮膚にもたっぷりと大量の毒液が染み渡る。
徐々に彼女の白い肌が、紫に、少し黒さのある薩摩芋の様な色へと変わっていった。
変色した左手は、明らかに毒に冒されている。
が──
リョウガは、握り潰した花弁を離した。
そして、嗤う。
「毒功完成──陵伽派空道・
「馬鹿な……!?ど……毒手だと!?」
「魁‼男塾と
突然、意味不明な問い掛けをする。
そのリョウガにチーヨーは、あることに気付いた。
この幼女は、好きな漫画の技を再現するのだ。
「男塾死天王
これら二人の登場人物は、毒手の使い手だ。
そもそも毒手は、今しがたリョウガが行った様なインスタントに作れる代物ではない。
毒砂と薬液──
毒砂を撃ち、毒に冒される前に薬液で癒やす。
腕を切り落としたくなる程の苦痛の鍛練を何年何十年も続ける。
そして漸く毒手は完成するのだ。
その後は、毒手を扱い戦いに赴く際に、数日間毒砂と薬液の鍛練を再び行い、毒功を完成させる。
当然その際にも苦痛を伴う。
「特に影慶、このキャラは手刀に毒液を浴びせる事で毒手を完成しよるんや、それが愾慄流穿凶毒手拳」
リョウガも、空道の毒手を修めている。
極められるには何年もの時間を擁する毒手を既に修めていると言う常軌を逸した事実は置いておくとして──
空道には、空掌、凶掌、毒掌などがあり、その毒掌が所謂毒手を指している。
当然、戦闘に毒手を用いる為には数日間の準備が必要となる。
だが、リョウガは影慶の様に戦闘中に毒手を突然使えたら……と考えたのだ。
そして、これを可能としたのは、そもそも毒に対する抵抗力が尋常ではないリョウガの体質が有っての事だ。
とは言え、影慶の様にただ毒液を浴びるだけでは流石に不可能だった。
傷を付け傷口から毒を浸透させ完成させる必要があった。
敵が毒を用いて来た時が絶好の機会となる。
相手の毒で毒手を作れば虚も衝ける。
また、ある技術を用いて、毒を排出しつつ毒掌を打つ。
その為、永遠に毒手のままと言う訳ではなく、戦闘時と日常で使い分ける事も可能なのだ。
その技術とは、嘗て真冬も使っていた放華である。
気を練り上げ、新陳代謝を活性化し、体熱温度を上昇させて、毒を体外へと放出する
これの達人ともなれば枯れた巨木をも活性化させ、再び花を咲かせると言う。
「なぁ、チーヨーさん」
「なんだ……」
突然、普段の様な呼び方をされ、一瞬の戸惑いを見せる。
「真冬が
「言ったろ、倉庫は俺達にとって重要な施設だと。少なくとも、俺が教えなけりゃお前は暫くはたどり着くつけねぇ」
「ボケナスが……なら、死ね」
チーヨーは、もはや意味を成さない梅吒は捨てると、飛抓を両手で持ち、操作を開始する。
「迦陵頻伽ぁ……一つだけ覚えとけや」
「は?」
「チーヨーは蚩尤。俺の本名じゃねぇ。
チーヨーは大きく息を吐いた。
「久し振りに名乗るが。俺の本来の名は
チーヨーの言葉には、何も返さずリョウガは毒手と成っている左手の四指を揃え、掌に窪みを作る。
毒手を空掌の形にしたのだ。
そして右手は、背中に隠した。
肘を曲げ、上腕は背後に隠れる。
何の意味が有るのか。
リョウガ得意のまやかしだ。
チーヨーはそう考える。
意味が有りそうで無い、そんな行動をよく取っている。
だが、だからこそ、今度は意味が有るのかも知れない。
「行くぞぉ!迦陵頻伽ぁッ」
両手で操作していた飛抓。
それを手離した。
すると、その飛抓の名の通り、真っ直ぐに飛んだのだ。
鉤爪がリョウガの肩口に突き刺さって来る。
リョウガは避けない。
鉤爪が刺さった。
その飛抓とほぼ同時に、走り近付いたチーヨーの一本拳が、リョウガの目に放たれていた。
リョウガは飛抓は甘んじて受けた。
しかし、爪が刺さると身体を右回りに半回転させる。
一本拳を躱し、毒手の空掌でチーヨーを引き寄せた。
一瞬、チーヨーの身体が浮いた。
リョウガは触れずに、真空を用いて、チーヨーを持ち上げたのだ。
「な!?」
そして、半回転の反動のままに膝蹴りを放った。
浮いたチーヨーは完全に体勢を崩し、更にリョウガの背後に引き寄せられた。
すると、彼の胸元が突然爆ぜた。
リョウガは一瞬だけ生じる真空を背後に設置していた。
それが宙空の地雷となり、チーヨーに襲いかかったのだ。
リョウガの毒掌がその爆ぜた胸に吸い込まれる。
毒手が直接傷口に撃ち込まれた。
空掌となった毒手が吸着すると、引くのではなく、圧した。
真空が肉を突き破ると毒手がめり込み、心臓まで達し、そしてリョウガはそれを掴むや、毒手で握り潰すのだった。
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