※この作品はR-18です。

範馬道 神室町の蜚蠊幼女(ヤマトゴスロリ)   作:贋海王

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五寸釘

 日本の公道をブローニングM2重機関銃を搭載したジープが豪雨に打たれながら走っている。

 しかも三台。

 かなりのスピードだ。

 濡れた道路を走行しているが、運転技術が良いのか危な気ない安定した走行を見せている。

 

 大戦中の米軍でもタイムスリップして来たのかと、これを目撃した者がいたら思うかも知れない。

 

 それぞれのジープには、先導するかのように前方を走るジープに四名、後方のジープ二台には二名ずつに分かれて搭乗している。

 搭乗者には外国人らしき男が二名いるが、残りの六人は皆日本人らしかった。

 大戦中の米軍が現れた訳では無いだろう。

 とは言え、異様な光景である事は変わらない。

 

 ジープの屋根が外されているため、皆、雨に濡れている。

 突然の雨だった事も関係しているが、屋根が外されているのには理由が二つある。

 一つは、視界を広くする為だ。

 日本の公道を走っているが、このジープが向かう先は正に戦場なのだから、視野を広くするに越した事はないだろう。

 

 二つ目は搭乗者に大柄な男が多いからだ。

 前方を走るジープを運転しているのは『リチャード・フィルス』だ。

 隣には『江頭剛志』、荷室には『ユウヤ』と若い男性。

 後方を走るジープの運転手は『ゲイリー・バスター・ホームズ』で、隣に『鎬紅葉』、もう一台はデボラのマスターである丸坊主の男『伊集院隼人』が運転し荷室には『古牧宗太郎』が座っている。

 

 若い男性は、デボラにいた『井森洸一』と言う武器マニアの学生だ。

 彼も真冬とは知り合いで、丁度来店していたので伊集院が声を掛けると、力を貸すと申し出て来たのだ。

 彼はヤクザや不良を毛嫌いしている。

 真冬へ不埒な真似をする連中が気に食わないのだろう。

 

 井森は車載銃架に設置されたM2重機関銃を興味深く見ていた。

 これを撃てるかも知れないと思うと楽しみで仕方無かった。

 しかも相手はヤクザや海外マフィアなのだから、喜びもひとしおだ。

 荷室の井森と古牧は、いざと言う時M2を扱う係である。

 その気になれば伊集院は銃架から外し、携行して手持ちで扱える。

 この人数的には二台で良いだろう。

 だが、彼らの目的である真冬の救出。

 重傷であろう真冬を逃がすための車両と、追っ手の足止めをする車両が必要であり、真冬を加える事になる最終的な人数を考えて、計三台用意したのだ。

 

 彼らが向かう“倉庫”に常駐している者は、恐らく最低でも100人は下らないだろう。

 しかも、全員が達人レベルであることも推察される。

 海外マフィアは台湾黒社会に属する武術集団であり、源王会のヤクザもいる。

 彼らに対抗するため、重機関銃も含めて多くの近代兵器を準備して来た。

 それらは荷室に置かれているバズーカやら、M60機関銃、M870散弾銃、ジョンソンM1941軽機関銃などだ。

 拳銃や、無数の棘が付いた奇妙な鉄球状のグローブ、日本刀などもあった。

 

 散弾銃や拳銃なら素人のユウヤにもある程度扱えるだろう。簡単なレクチャーもしている。

 

 伊集院はまるで、アメリカのアクション映画の主人公の様に身体に弾帯を巻いていた。

 そして、ショルダーホルスターにS&W M629を納め、両肩にM1携帯式対戦車ロケット弾発射機を既に携持していた。

 正に一人軍隊と言った様相を呈しているのである。

 

 これらの武装だ、警察が検問していたら一瞬でアウトだろう。

 だが、この夜、警察の取締りは暴走族集団『機動爆弾巌駄無』を相手に手を焼いていた。

 そちらに掛かりっきりだった。

 真冬を救出する為に、特攻隊長『柴千春』が動いた結果だ。

 彼は機動爆弾巌駄無の暴走行為を複数に分けて展開させた。

 そして、それらに警察の目が向いている内に、精鋭で構成された本体が“倉庫”へと突入すると言う作戦だ。

 倉庫で大乱闘が起きても暫くは警察の手も回らない。

 そして、倉庫は警察の介入が困難な海外マフィアの巣窟だ。

 それを逆に利用した。

 表向き、警察が大掛かりに動くのは暴走族相手だろう。

 

 柴千春も神室町を庭とする暴走族である。

 当然デボラと言う用心棒集団の存在を知っていた。

 そこに、自身の作戦と共に真冬救出を申し出たのだ。

 

 更に、三台のジープを追う様に走行し、いつしか合流する様に並走を始めた赤いミニクーパーの姿もあった。

 神室町69あ1919とのナンバープレート。

 それに気付き訝しむユウヤに、伊集院が安心する様に伝えた。敵では無いと。

 その車にいる人物は真冬とは全く関係無い。

 だが、伊集院が古くから知る者であり、真冬救出のために呼んだ人物なのだと語る。拳銃の腕も確からしい。

 

 ──たった一ヶ月だ。

 真冬が神室町で生きたのは。

 それでも、彼女はそこで多くの絆を育んだ。

 賽の河原で生活し、そこで交流したモグサやミチを初めとするホームレス達は、真冬の無事を願い、サイの花屋をも動かした。

 サイの花屋が送り込むゲイリーと古牧。

 真冬を愛する翠は父である風間組の組長柏木修に願った。

 柏木と縁があり、真冬もまた所属するデボラのマスター伊集院と用心棒リチャードが真冬救出を買って出た。

 真冬の主治医である柄本は、鎬紅葉に真冬の救出を依頼した。

 真冬の戦闘力を気に入った神室町の強者、江頭剛志、井森、真冬の仔犬ポチタロへ向けられる無償の愛情と優しさに、心打たれ、惹かれたスターダストのホストユウヤと暴走族柴千春、彼らは何の得も無いのに命をかけるのだ。

 真冬の殺害を目的としながらも、真冬への暴力に怒る二律背反する思いを持った姉、呉陵伽。

 

 子供らしい安らぎさえ知らず、母からの愛にはぐれた九年間を生きてきた真冬の、神室町で過ごした一ヶ月とそこで生まれた絆の光りが、今、集束する時だった。

 

1.  

 その彫刻刀は、三角刀と呼ばれる物だ。

 刃先の形状は、尖ったV字となっている。

 真冬のこの彫刻刀は、暗器である。

 投擲武器としては確かにバランスの良いものではないが、少女が手軽に用意出来て、所持していても特別違和感なく、咎められることも無い道具だ。

 だが、刃先が、通常の彫刻刀よりも遥かに鋭利なのだ。

 斬り付けたら、かなり深く肉を抉れる。

 投擲したら、突き刺さる。

 そして真冬が投擲したなら、それは、近代兵器に勝る凶器と化すのだ。

 

 最初に釘を三本取った。

 それは、手の内に隠す。

 その動きは、かなりの手際の良い手品の様で、釘を取ったことに気付けた者はいなかった。

 そして、彫刻刀を手にした。

 この時点で真冬の腹は決まっていた。

 

 脳と心を満たしたのは憎悪と殺意だ。

 長時間の苦痛と絶え間無く続く望まぬ快楽は、真冬の脳に異常な脳内麻薬を分泌させた。

 脳が熔ける程の脳内麻薬に、罪無き仔犬への虐待を目の当たりにした事で沸き上がる激しい憎悪。

 その憎悪が怒りとなり殺意を産んだ。

 そうした物が交ざり合い、脳内麻薬は未知の反応を見せ、エンドルフィンを進化させた未知の分泌物となっていた。

 強力な殺意は未知なる脳内麻薬へと変貌したのだ。

 

 若松の脹ら脛へと彫刻刀を投擲した時点で、釘を指と指の間に挟み込んで左拳を握っていた。

 釘の頭部を拳の内で支える。

 人差し指と中指、中指と薬指、薬指と小指、それぞれの間に一本ずつだ。

 

 一瞬で山村へと詰め寄った。

 それはまるで距離など意味を為していないかの様な速度だった。

 ベッドから跳び、その移動の際に体勢を低くし尺骨と橈骨が粉砕されている右腕で、床を抉り、破片と化したそれを、散弾銃の弾丸の様に周囲にばら蒔いた。

 それは、目眩ましともなり、近くにいた木村の眼球に対してはより深刻な影響を与えた。

 尖った破片と、粒子状の破片が眼球を傷付けたのだ。

 

 仔犬を追った山村の後頭部に、三本の釘が突き刺さった。

 そして、そのまま切り付ける様に振り下ろす。

 ガリガリと頭骨を割り、頚を裂いた。

 

 真冬は山村から離れ、続けてその釘を、倒れている若松の額に突き刺し、4cm程刺さっているその釘で、額から顎にかけて真っ直ぐ切り裂き、抉ったのだった。

 

 真冬は死を受け入れ、その前に仔犬を虐待したものを皆殺しにすると誓っていた。

 

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