範馬道 神室町の蜚蠊幼女(ヤマトゴスロリ) 作:贋海王
2.
雷鳴が轟いた。
豪雨は雷雲を伴い雷雨となっていた。
幾度となく夜空に稲妻が走る。
闇を割って出現した龍が、咆哮をあげている様な、輝きと轟音だった。
そして、暗澹たる“倉庫”の内で、當之真冬も
燃え尽きる前の閃光。
死を覚悟した超新星の爆発だった。
命を護る為、命を棄てて命を奪う。
──生命の輝きが真冬の戦闘力を燃やしているのだ。
若松の顔面を裂いた三本の釘、脹ら脛から伸びる彫刻刀を引き抜いた。
それぞれの金属は、赤く濡れていた。
若松の額から顎にかけて、真っ直ぐ下へと深い三本の溝が出来ていた。
鼻は完全に潰れ、縦に割れた口唇の隙間からは、歯が砕かれ失われた歯茎と、裂かれた舌が見える。
ゴボリと血が湧き上がり、垂れ下がっている。
後頭部から後頸部を裂かれた山村は俯せで倒れていた。釘は脳にまで達していただろう。
痙攣を繰り返しているが、意識は既に失われている。
ここまで僅か6ミリ秒の出来事だ。
未だ、誰も惨状に反応していない。
脳が行動の起こりを伝達する速度を遥かに上回る速度で真冬が攻撃した為だ。
悪樓すら、反応出来ていない。
真冬が次に仕掛けた相手は木村だ。
木村は、眼球を傷付けられたが、まだ痛みにすら気付いていないのだ。
顔面を押さえたり、そう言った行動にも出られていない。
その状況下、真冬は跳んだ。
彫刻刀を持った右手を振るう。
そしてポーチを持った木村の左手首を切った。
一気に静脈と動脈を裂いていた。
続けて、彫刻刀を突き上げ振り抜く様に鼻腔へと突っ込んだ。
刃先の金属部分までではなく、持ち手まで強引に突き立て、鼻腔を広げて割いた。
金属部分は中鼻甲介辺りまで達している。
真冬は、彫刻刀を離し、ポーチを奪い返したのだ。
0.3秒──
ここに来て漸く、彼らの思考が真冬の時間に追い付いた。
攻撃の手を止めて、ポーチ内を確認したからだろう。
左肩に下げ、右手に小さなケースを持つ。
嘉信は真冬の持ち物を確認していた筈だが、このケースには気付いていなかった。
何故なら、彼の目にはこれが何か理解できていなかったからだ。
大きさはマッチ箱より少し大きいくらいの、一見ゴミとしか思えない小さなケースだ。
それは、アラミド繊維を収納した物である。
激痛が、手首と鼻腔に突然発生した為に木村は絶叫する。
恥も外聞もかなぐり捨てた、そんな声である。
しかも、何故か目が見えないのだ。
激痛と共に尋常ではない恐怖心も孕んでいる。
その絶叫より速く真冬はアラミド繊維を射出──
絶叫より遅れて、悪樓が真冬へと突進した。
射出されたアラミド繊維は嘉信の右手に巻き付いた。
細いその繊維を、暗がりの中で視覚で認識する事は不可能だ。
しかも、嘉信の手には蜘蛛の糸が触れるより重さを感じさせないのである。
そして、悪樓は肩から真冬に衝突した。
体重218kgとの正面衝突である。
真冬と悪樓の彼我の距離は6mだった。
その距離を凡そ0.3秒で詰めたのだ。
初速にして時速は約70kmである。
──真冬の蜚蠊ダッシュ程では無いにせよ、恐ろしいスピードと言える。
この速度で移動してきた218kgとの正面衝突だ。
まるで交通事故であった。
真冬は弾き飛ばされ、コンクリートの壁にぶつかった、かのように見えた。
──その時だ。
嘉信の右手首が切断されていた。
切断面から血が噴き出した。
血の噴水──
凄まじい血臭が一気に充満した。
嘉信は、何が起きたか理解できていない。
アラミド繊維は再び収納される。
そして、真冬は壁にぶつかった訳ではなかった。
弾き飛ばされながらも宙で回転。
壁に直撃の瞬間、両膝を曲げ、足裏が壁に触れると両脚を伸ばし両足で壁を蹴り、衝撃を殺した。
一瞬、壁に立っていた。
そこから何事もなく、床に降り立ったのだ。
──壁に、朱い足跡が残っていた。
凄まじい速度で動いていたのだ、足裏の皮膚はズルリと剥けている。
それに加え、両足の親指と小指の骨が粉砕されているにも拘わらずに行ったのだ──恐ろしい芸当である。
「なにっ!?」
悪樓は驚愕していた。
真冬にショルダータックルを仕掛けた右肩に釘が三本突き刺さっていたからだ。
忌々しげに釘を引き抜き、投げ捨てた。
釘が床に落ちる音が響くより先に、真冬は動いた。
右手首を切断された嘉信へと、一瞬で距離を詰めた。
悪樓に釘を刺し、素手になっていた左手で、手首を切断された嘉信の右腕を捕った。
切断面からはまだ血が溢れている。
出血で意識を失うのも時間の問題だ。
このままでは、失血死も免れまい。
切断面に向けて、真冬は膝蹴りを放った。
真冬の膝が朱く染まる。
骨と肉が潰れる悍ましい音がした。
それが二度。
真冬が又もアラミド繊維を射出すると、釘が床に落ちる音が漸く響いた。
柔らかく、アラミド繊維は嘉信の首に纏わり付いた。
絡んだアラミド繊維は、見えないギロチンだ。
悪樓が踏み出し、右拳で真冬の脇腹を打ち抜いた。
真冬の身体が折れ曲がる。
意識を失う程の激痛が、脇腹を襲った。
しかし、真冬はアラミド繊維を嘉信の首に纏わり付かせた状態で、収納するスイッチを作動させた。
すると、どうなるか──
一瞬でアラミド繊維はケースに引っ張られる。
そう、アラミド繊維は、ギロチンとなる。
一切の躊躇無く、真冬は嘉信の首を切断した。
だが、身体は大きく曲がり、その状態で真冬は宙を舞った。
嘉信の首が地面に落ちる。
真冬の身体も地面に落ちた。
その真冬目掛けて、悪樓の右足が落ちて来た。
右足は真冬の腹を踏みつけた。
真冬の腹に巨大な悪樓の足がめり込んだ。
衝撃で、凄まじい轟音と共に、床にクレーターが発生した。
首が無い嘉信の胴体も崩れ落ちた。
真冬は陥没した床の上で、残りの男達を視線で追った。
悪樓には勝てない。
故に、彼に殺される前に、嘉信達を殺害するのが目的である。
悪樓の足裏に彫刻刀が刺されていた。
三角刀ではない。
丸刀だ。
踏みつけられる前に、真冬はポーチから新たな彫刻刀を取り出していた。
そして、その刃先を、降ってくる悪樓の足と自身の身体の間に潜り込ませ、上向きに立てたのだ。
直撃の瞬間持ち手を離す。
真冬の腹を踏みつけた悪樓の足裏に丸刀が突き刺さる。
踏みつけてきた悪樓の力を利用した。
こうすれば、確実に刺せるのだ。
だが、それは、真冬の腹にめり込んだのは、彼の足だけでないと言う事でもある。
彫刻刀の持ち手も真冬の腹を突いたのだ。
木製の持ち手は折れているが、踏みつけられた衝撃でそれは、真冬の腹に突き刺さっていた。
真冬は血を吐いた。
ダメージ自体は、真冬の方が大きいであろう。
しかし、不意の攻撃を喰らい、僅かながら悪樓に隙が生じた。
残るは二人、柳田と新谷だ。
近いのは柳田、少し離れて新谷が立ち尽くしている。
彼らは、半ば発狂し、もはや思考能力を失っていた。
嘉信が、突然、断頭されたのだから仕方無いだろう。
目を見開いたままの時が止まった表情で、嘉信の生首が転がっているのだ。
真冬は、刃先の形状が斜めとなっている彫刻刀を持った。
それと同時に立ち上がる。
片足で跳ね上がる様に立ち上がり、その切り出し刀をやや遠い新谷の眼球へと投擲した。
刃先の幅は凡そ9mm だ。
まず鋭利に尖った先端が、音もなく左黒目に襲いかかった。
そして、突き刺さり、刃先が黒目に潜り込んでいく。
真冬は、一足で新谷まで距離を詰めた。
右肘を切り出し刀の持ち手の
肘打ちと共に、左手の人差し指と中指を揃え、右目へと突き入れる。
二本の指での貫手だ。
玄武岩をも抉り鋼板をも穿つ真冬の爪は、ナイフを思わせる鋭利さを誇っている。
彫刻刀と二本の指はそれぞれ、脳にまで達していた。
指を下げる。
眼窩を砕き、体勢が下がった新谷の喉仏に膝蹴りを放った。
ぐちゃりと喉仏が鳴った。
そこから真冬の身体が回転し、彫刻刀へ遠心力が上乗せされた蹴りを叩き込むと、彫刻刀は後頭部を貫通し新谷の後ろへ飛んだ。
身体が回転した真冬だが、半回転の時点で悪樓が掴みかかってきたのを視覚で捉えていた。
掴み掛かりながら、悪樓は真冬の背なを見た。
小柄で細い真冬の背だった筈だが、今は異様な形状に膨れ上がっている。
背中だけではない。
明らかに真冬の肉が膨れ上がっているのだ。
真冬の背なで、幽鬼が哭いていた──
それは、遠く離れた場所で、範馬の鬼を解放した姉とのシンクロニシティ──
無意識的にも認識していなかった血の繋がり、それを先日感じたことで、真冬の遺伝子もまた、目覚めていた。
『仕切り直し、没ネタエピソード』は削除し、残骸置場に入れた方が良いですか?
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そのままで良い
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残骸置場行きが良い